12話 商談と装備とラザニア
朝か、毎朝の日課を済ませ、身支度を整え食堂に行く。ジラソーレのメンバーと朝食を食べながら今日の予定の再確認をする。ちなみにクラレッタさんは別行動で大聖堂だそうだ。寂しい。
部屋に胡椒を出しておいて、商業ギルドで荷車を1台借りて来て積み込んで、チリアーコ商会に向かう。4白金貨50金貨で卸せるかな?
フィリッポさんは高値を付けたと言っていたから、少し値切られるかな。値段を聞かれたら最初は4白金貨60金貨で勝負しよう。
チリアーコ商会に到着し、掃除をしている従業員に話しかける。
「おはようございます、売りたい物があるんですが、お話を聞いてもらえますか?」
「おはようございます。よろしければ商品を教えて頂けますか?」
「はい、商品は胡椒になります」
「かしこまりました。番頭を呼んでまいりますので少々お待ちいただけますか?」
「はい」
従業員は少しだけ驚いた顔をした後、店内に案内してくれて、お茶を出してくれた。うーん、やっぱり胡椒って貴重なんだね。扱いが丁寧になった。少しすると従業員が年配の男性を連れて戻って来た。
「はじめまして。私、チリアーコ商会で番頭をしています、ライモンドと申します」
「はじめまして、突然の訪問、申し訳ありません。ラティーナ王国から参りました、ワタルと申します。よろしくお願いします」
「早速ですが、胡椒を卸して頂けるとの事ですが、確認させて頂いても宜しいですか?」
「はい、荷車に積んである荷物は、すべて胡椒ですのでご確認ください」
荷車の所に移動してライモンドさんが真剣に胡椒を確認している。なんか前にも見た事ある光景なんだよな、胡椒を全部捌くまで、あと何回もこんな光景をみるんだろうな。
「素晴らしい胡椒ですね全部卸して頂けますか?」
「はい、これと後荷車4台分の胡椒を卸す事が出来ます」
「この胡椒と同じ品質ですか?」
「はい、同じ所で仕入れた物ですから、品質に違いは無いと思います」
「素晴らしいですね」
部屋に戻って交渉を再開する。
「ワタルさん、荷車1台分の胡椒をお幾らで卸して頂けますか?」
「4白金貨60金貨で如何でしょうか?」
「ふむ、少しお高めではないですか?」
「そうでしょうか? ベルガモでは4白金貨50金貨の値が付きました。首都ならばもう少し値が上がると思うのですが」
「ふむ、確かに首都の方が高値が付くのは間違いないのですが、ベルガモからここまで安全な道で3日で着きます。荷車1台分で10金貨は上げすぎではありませんかな?」
3日で10金貨つまり約1千万円の値上げかー、確かにボってる気がするな。
「では、お幾らならば納得してくださいますか?」
「一級品の胡椒ですからね、高値を付ける価値は有りますが……4白金貨53金貨で如何でしょうか?」
「うーん、もう1枚金貨を上乗せして頂ければ私は満足できるのですが」
「分かりました、では4白金貨54金貨でお願いします」
「はい、ありがとうございます。あと4台分はどうされますか?」
「確認させて頂いて、一級品であればすべて卸して頂きたいですな」
「分かりました」
荷車と人手を借りて、荷車4台分の胡椒を運んでくる。ライモンドさんが一つ一つを丹念に調べている。
「ワタルさん、すべて一級品である事を確認しました。全部で22白金貨70金貨で構いませんか?」
「はい、お支払いは出来るだけ白金貨でお願いしたいです。足りない分はギルド口座に入金お願いします」
「かしこまりました。本日ご用意出来ますのは8白金貨です。残りはギルド口座に入金で構いませんか?」
「はい、お願いします。あとこの国のお勧めのワインを仕入れたいのですが、お願い出来ますか?」
「ワインですか? チリアーコ商会でも扱っておりますが、どのようなワインをお求めですか?」
「お勧めでお願いします、中級以上の人気の物で種類を多く、5金貨分お願いします」
「かしこまりました、相当な量になりますが、いかがなさいますか?」
「でしたらソレーヌの宿屋まで運んでもらえますか?」
「かしこまりました」
うーん、なんか今回は商談っぽい事が出来た気がするな。まあ掌で転がされていた可能性の方が高そうだけど、金貨20枚儲けが増えたのなら、やらないよりマシだったんだろう。
商談にかなり有利な胡椒という商品を持ってるのに、このドキドキ感……普通に商売してる人達はもっと厳しく、もっと熾烈に交渉してるんだろうな……
チリアーコ商会を出て荷車返却の為に商業ギルドに向かう。荷車を返却して、ついでに30白金貨を下ろせるように頼む。明日には下ろせるそうだ、なんか順調だな。
「次は装備の買い替えですね……誰かお店知ってますか?」
「ふふ、大丈夫よ。冒険者ギルドで評判の良い武器屋と防具屋は聞いておいたわ」
「助かります、アレシアさん」
アレシアさんの案内で、まずは武器屋に入る。
並べてある弓を一つ一つ手に取って引いてみる……なんか楽に引けるな。
「ワタルさん、気に入ったのはありましたか?」
「あっ、マリーナさん、どれも軽く感じるんですよね。どんな感じの弓を探せば良いのか、困ります」
「? ワタルさん、レベルは幾つなの?」
「レベルですか? この前見た時は182でした」
「それなら、ここには無いと思う。店主に聞いてみる」
マリーナさんが少し驚いた顔をしていた。意外と高レベルで驚いたんだろう。海に居る間はパワーレベリング状態だからレベルだけは上がってるんだよな……まだ角兎とゴブリンしか直接倒したこと無いけど。
マリーナさんに連れられて、店主の所に行く。
「店主、強い弓を出して欲しい」
「ん? 悪いが、この店には、あんたが持ってる弓より良い物はないぞ?」
「私じゃなくて、彼の弓」
「ん? こいつのか? 初心者用の弓を使ってたんなら、次はあそこに並べた奴を使わせろよ。初心者にあれ以上の弓は無駄だぞ?」
「あーすいません、あそこに並んでいる物は軽く感じたので、もう少し強いのをお願いします」
「うーん、あそこにも強めの弓は置いてあったんだがな、まあいい、ちょっと待ってろ」
言いたい事は分かる、初心者セットを装備した、冴えない男にそんな力がある様に見えないんだろう。
弓を幾つか持って店主が戻って来た、とりあえずこれを引いてみろ。順番に弓を引かされた……
「ん? これが丁度いいかな?」
「こいつ初心者じゃないのか? 命のやり取りを潜り抜けてきた様には見えねえんだが、高レベルなのか? よく分からん奴だな」
ほぼ正解です、ほぼ初心者の、命のやり取りをしたことが無い、高レベルです。
いくつか弓を試させてもらい気に入った物を選ぶ。12金貨、高いな。イネスとフェリシアも剣と弓、小杖を新しくした。全部で58金貨……5千8百万円だよ怖い。
その後は防具屋に向かい、防具を選ぶ。正直よくわからない間に僕の防具が決まった、女性陣がサクサクと魔物の革で出来た革鎧に決定して。イネスとフェリシアの革鎧を楽しそうに選んでいる。
僕の3倍位の時間を掛けてイネスとフェリシアの防具を買った……なんか納得がいかないな。
武器屋と防具屋で1白金貨13金貨掛かった。日本円で1億1千3百万だ……吐きそうだな、有り得ない金額に一般人の魂が拒否反応を起こしている。
「みんな、装備を更新して凄腕の冒険者に見えるわ」
「アレシアさん、僕は商人なんですが」
「ワタルさん、マリーナに聞いたわ。凄い高レベルじゃない、冒険者も再開したら?」
「レベルが上がっても戦いは苦手なままなんですよ。レベルもイネスとフェリシアのおこぼれで上がっただけですから」
「実戦経験が少ないのは危険だけど、レベルが高いのはかなりのアドバンテージよ。実戦経験はこれから慎重に経験していけば良いんだし。海での生活で私達もレベルが上がったんだもの。これからもレベルは上がるでしょ」
「うーん、性格的に向いてなさそうなんですよね。無理せず訓練と、実戦の機会があればその時に少しずつ経験を積みます」
「そう? もったいない気がするけど……ワタルさんの場合、無理して戦う必要も無いのよね」
「まあ、護衛の2人にリムも居ますし、機会があれば頑張ります」
「ふふ、そうね、無理して戦うワタルさんも想像できないし、それで良いのかもね」
ふー、なんか、情けない男と思われてそうだけど……戦闘頑張りますとか言ったら「手伝うわ」とか言って、とんでもない所に連れて行かれそうだし、これで良かったと考えよう。
装備も購入したので、とりあえず、屋台で買い食いしながら宿に戻る。みんなは部屋に戻って休憩するそうだ。時間も昼過ぎで食堂も空いているので、僕はチーズの布教を試そうと思う。
「女将さん、この宿のコックさんに会いたいんですが、いらっしゃいますか?」
「ええ、いますよ。少々お待ちください」
「あなたーお客さんが会いたいんだってー」と声が聞こえる……宿の女将さんは、コックさんと結婚するのが決まりなのか? 殆どの宿が女将さんの旦那さんはコックさんな気がする。
「お待たせいたしました。ジーノと申します、どういった御用でしょうか?」
すらりとしたカッコいいお兄さんが出て来た……なんかやる気が急速に萎んでいく。いや、リア充に嫉妬するほど、今の僕は悪い状況ではないはずだ。切り替えよう。
「いくつか、料理について聞きたい事があるのと。話を聞いて興味が湧いたら、その料理を作って欲しいんです」
「興味深いですね、ぜひお聞かせください」
チーズとついでにミルクも布教しておいた。この国でもチーズは保存食、携帯食で、野営時等にあぶって食べる位だそうだ。
食べてみないと分からないと、チーズとミルクを提供して。ピザトースト、カルボナーラを作ってもらい試食してもらう。
「驚きました……こんなに簡単な料理なのに、これだけの味になるなんて……ピザトーストでしたか? パンにトマトソースを塗ってチーズをのせて焼くだけでこの味ですか」
「簡単ですが美味しいですよね。それで作って頂きたい物があるんですが、お願い出来ますか?」
ミートソースはあったので、ホワイトソースの作り方を教えて。ラザニアのレシピを渡して丸投げした。ラザニアは手間がかかりそうなので作った事がない、上手に説明できないのでしょうがないよね。
でもチーズを広める為の料理を考えていたら、どうしてもラザニアが食べたくなってしまった。プロに期待だ。上手く出来たら夕食に出してくれるそうだ。
いまから試行錯誤してみるそうなので部屋に戻った……夕食にラザニア、出て来るかな? チリアーコ商会からワインが届いたので部屋に運んで送還する。
「イネス、フェリシア、取り合えず胡椒の商談は終わったし、装備も買ったので、洞窟にスライムを探しに行くの付いて行ってみる?」
「うふふ、ご主人様はどうしたいの?」
「うーん、スライムには会いたいけど、行き先が洞窟なのが気になるんだよね。気持ち悪い魔物が出て来そうな気がするんだよね」
「虫の魔物とかが出ますね。でもご主人様はジラソーレの皆さんのお願いを断れるんですか?」
「フェリシアの言う通りね」
「そうなんだよね、一緒に行ってって言われたら、行きますって答える気がするね。イネス、フェリシアは洞窟でも平気?」
「ご主人様、私は元冒険者よ、慣れているわ」
「私は森にも洞窟は有りましたし、ゴブリン等の駆除の為に中に入っていたので平気です」
「そうなんだ。なら、新しくなった装備を試しに行こうか」
「「はい」」
夕食の時間になったので、食堂に向かう。ラザニアが出来てるといいな。ジラソーレと席に着き、ジーノさんに伝えてもらう。
暫くするとジーノさん自らがラザニアを持って出て来た。ラザニアの入った大きなお皿をテーブルに置き目の前で切り分けてくれるようだ。
断面は何層にもミートソースとホワイトソース、パスタが重ねられ、上から垂れて来るトロトロのチーズがもはや視覚の暴力だ。
僕達もジラソーレのメンバー達も、切り分けられるラザニアに釘付けだ。一つ一つを女性陣の前に取り分け配膳される。
『「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」』
全員がラザニアに夢中だ。トロっとしたチーズにカリッとしたパン粉の歯ごたえ、濃厚なミートソースとホワイトソースがパスタに絡まる……美味しい。
「ワタルさん、どうですか?」
「ジーノさん、とっても美味しいです。昼間レシピを渡したのに、夜にこの完成度で出て来るなんて驚きです」
「私も試作品を食べた時はこの料理の美味しさに驚きました。妻や従業員達にも大好評でしたし、これからも研究したいと思います」
「ホワイトソースもチーズも色々な美味しい料理が作れます。色々試してくださいね」
「はい、ありがとうございます」
話している間に、女性陣とリムはおかわりに取り掛かっていた。急いで自分のラザニアを食べて、なんとかおかわりを確保する。
食事が終わってジラソーレの部屋に集まる。途中、ジーノさんが他のお客さんに、あの料理を出すように迫られて困っているのを見て、イケメンざまあっと思ったのは内緒だ。
資金 手持ち 7金貨 53銀貨 76銅貨 ギルド口座 63白金貨 70金貨 貯金船 73白金貨 胡椒船 485艘
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