11話 大聖堂と再びの神界
いよいよ大聖堂に向かって出発する。
クラレッタさんが珍しく先頭を歩いている。心なしか歩みがはやい……女性陣もクラレッタさんの気持ちが分かっているのか、優しく見守っている。
だんだんと大聖堂が近づいてくる。大きいな。広場の奥に石造りの巨大な建物が見える。近づいて見ると精緻な技巧が凝らされた美しい建物で、年月が経って風格も増した、特別な建物だと感じる。
巨大な扉を通り抜けると、吹き抜けの途轍もなく広い空間があり。ステンドグラスからキラキラした光が降り注ぎ、正面には7体の巨大な石像がある。
「す、すごいですね」
「え、ええ、圧倒されるわね」
アレシアさんの言った通り、巨大な空間、神聖な雰囲気にただただ圧倒される。
全員が暫くその場でボーとたたずんでいた。
「そ、そろそろお祈りしましょうか」
「ええ、そうね、行きましょう」
「あっ、クラレッタさん。あの祀られている神像は、どの神様なのでしょうか?」
「え? ええ。正面は創造神様です。左右の神像は光、闇、地、火、風、水の神様です。この大聖堂は何時建てられたのか不明なのですが、祀られている神像は、大聖堂が建てられた時に創造神様によって下げ渡された神像だと言われています」
「そ、そうなんですか。ありがとうございます、クラレッタさん」
これってどうなんだ? 正面の神像は、僕が会った創造神様の面影を残している物の、少年の姿だったはずの創造神様が、神像ではキリリと凛々しい青年の姿になっている。
……本当に創造神様が下げ渡した神像ならば、盛ったな。確実にこっちの方がカッコいいよねっとか言いながら、自分の神像を、自分好みに作りあげたに違いない。
神聖な雰囲気に圧倒されていた心が急速に冷めていく。なんか有名キャラクターの中の人を見てしまったような感覚だ。あっ、ステンドグラスがあるのなら、ガラス工房もあるよね。
お金が掛かっても、ガラスのコップとか食器が欲しい。工房見学とか出来たらいいな。
「ご主人様、行かないんですか?」
「え、ええ、直ぐに行きます」
考え事をしていたらジラソーレのメンバーが神像の前まで進んでいた。
急いで大聖堂の中を進み、神像の前に跪く。目を閉じて異世界に来て、船召喚のスキルに助けられてとても感謝している事、楽しく生活出来ている事を感謝と共に報告する。
「どう致しまして。航君、久しぶりだね」
「あっ、創造神様、お久しぶりです」
ここは神界だよね。下界にあまり干渉できないんじゃなかったのか? なにか問題を起こしちゃったのかも。
「あの、創造神様、僕、何か問題を起こしましたか?」
「ん? 別に問題なんか起こしてないけど、どうしたの?」
「いえ、あまり下界に干渉出来ないと仰っていたので、なにか問題を起こしてしまったのかと」
「ああ、そういう事ね、大丈夫だよ。あそこには僕自身が与えた僕の像があるからね。ある意味神域なんだよ。だから僕が干渉しても大丈夫なんだ」
「そうなんですか。それで何かご用はあるのですか?」
「特にないよ。大聖堂に来たから、なんとなく呼んでみただけ」
「あっ、そうなんですか」
何か問題を起こしたとか、行動がつまらなくて怒られるって事も無さそうだ。良かった。あっ聞きたい事があったんだ、聞いてみるか。
「うん」
「あの、聞きたい事があるんですが良いですか?」
「ん、何かな? 答えられる事は答えてあげるよ」
「ありがとうございます。船召喚で使ったお金はどうなってるんですか? 豪華客船を買ったら最低でも500白金貨が消えるんですけど」
「ああ、あのお金か、君が使ったお金は商売の神の所に集まるようになってるよ。僕達は下界に干渉しないけどね、稀に大災害なんかでコッソリ手を出す時に使うんじゃないかな? まともな教会に流したり、金属に戻して鉱山に埋めたりもあったと思うよ」
「そうなんですか、分かりました、ありがとうございます」
うーん、良いのかな? 適当な感じがするんだけど……まあ、商売の神様が関わっているのなら金融危機とかは起こらないだろうし大丈夫だと思おう。
「そういえば、大聖堂の神像と創造神様の姿が違いますけど、どうしてなんですか?」
「ん? ああ、それはね、そっちの方がカッコいいからだよ」
「それだけなんですか?」
「それだけって、何を言ってるの? 自分の世界を創造した神様なんだよ。カッコいい事は重要でしょ。もっさい無精ひげのおっさんが作った世界と、爽やか好青年が作った世界ならどっちに住みたい?」
「僕的には女神さまが作られた世界に住みたいですが。その2つなら爽やか好青年の作った世界ですね」
「そういう事だよ」
なんか納得できないけどそういう事なのかな? 話がすり替わってない?
「わかりました」
「あっ、そういえば、航君、今ジラソーレの子達と一緒にいるでしょ。彼女達にとって困った事が起こるんだ。助けてあげたらいいと思うよ。そうすれば戦神達も船召喚の力を思い知るだろうしね」
「困る事ってなんですか? 危険な事なんですか?」
「ああ、そ「いけません、創造神様」れはね」
「失礼しました、初めまして航さん、光の神です。少しお時間を頂きますね」
「は、はい」
物凄い美人だな、輝く金髪に抜群のプロポーション、なんか出来る美人秘書って感じだ。でも今は、創造神様を引きずって、お説教している。
なんか、物凄く美人なのに、物凄く疲れているように見えるな。あっ、創造神様が正座させられた。本気の説教だ。
ジラソーレの事、物凄く気になるんだけど、聞いたらいけない事っぽいな。でも気になる。
神界に呼ばれて、放置されて、光の神様に正座させられて怒られている創造神様をみている……貴重な経験なのかもしれないな、何の役に立つのか疑問だけど。
「お待たせしました、突然でごめんなさいね」
「い、いえ、いつもお世話になっております。豊海 航と申します。よろしくお願いします」
「ふふ、緊張しなくても大丈夫ですよ。創造神様が話してはいけない事を話そうとしましたので、介入させて頂きました。航さんも気にはなるでしょうが、我慢してくださいね。
そしてその事に関わるのも、関わらないのも、あなたの自由です。創造神様に言われたので、助けてあげなければならないという事もありませんので、自分の意思で決定してくださいね」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
気になるけどやっぱり駄目なのか。
「あの、光の神様、少し話を聞いてしまったので、早々に南方都市に戻った方が良いのかな? 等と考えてしまってるのですが、問題になりますか? 今の場所を移動すればジラソーレの危険を避けられたりしませんか?」
「ふー、パレルモに留まろうと南方都市に戻ろうと変わりはありません。言えるのは此処までです」
「分かりました、図々しい質問に答えてくださって、ありがとうございます」
「いえ、ではまだ創造神様には言う事があるので、航さんは私がお戻ししますね」
そう言われて、自分の視界が光に包まれていく。最後に見た光景は、涙目で正座をさせられている創造神様だった。
神界から大聖堂に戻って来る。ジラソーレに何か忠告した方がいいのか? でも具体的な事は何も分からないんだよね。どうしたらいいんだろう?
とりあえずあの情報だけだとどうしようもないから様子見だな。あなた達、もう直ぐ困った事が起こるそうなので気を付けてください……ないな、何処の霊能力者だ。
とりあえずジラソーレの後に続いてお布施をして教会をでる。
「なんだか、身も心も浄化されるような場所でしたね。ワタルさんはどう思いました?」
「そうですね、神聖な雰囲気で、感動しました」
アレシアさんの質問にそう答えたが、正直、入った時は感動したが。盛られた神像、面倒事が確定した未来、なんか損した気分だ。
あっ、光の神様に会えたことは幸運だったと思う。まさに女神様だった。なんか苦労してそうだったけど。
クラレッタさんはここに残って大聖堂の神官さんと話すそうだ。僕達は商業ギルド、冒険者ギルドに行く事にした。大聖堂の感想を言い合いながら商業ギルドに行く。
商業ギルドに入り、受付カウンターで素早くキツネミミのお姉さんを確認、自然な感じでキツネミミのお姉さんのカウンターに向かう。
「こんにちは、ラティーナ王国から来たワタルと言います。聞きたい事があるんですが、いいですか?」
「はい、構いませんよ、どのようなご用件でしょうか?」
あれ? 自己紹介作戦、2連続失敗。この作戦もう駄目なのか? パレルモは自己紹介には、自己紹介で返す文化が無いのか?
「食料品を扱う評判の良い商会を教えて頂きたいのと、この国の特産品を教えて頂きたいです」
「かしこまりました。食料品でしたら、チリアーコ商会が評判がいいですね、代々続く商会ですが、堅実な商売をされて、地元の信頼の厚い商会です。特産品はワインとトマトですね、特にワインは他国でも人気のある商品です」
「分かりました、ありがとうございます。チリアーコ商会への地図を頂けますか?」
「かしこまりました、少々お待ちください」
チリアーコ商会への地図を貰い、今度は冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドでは、ジラソーレの滞在報告と、スライムについての情報収集をしているので、注目されないように売店で商品を見ながら時間を潰した。
うーん、ワインかー、二十歳になってお酒を飲むようにはなったんだけど……味とかよく分かんないんだよね。みんなで騒いで飲むのが楽しかっただけだし、高いお酒とか飲んだこと自体無い。
チリアーコ商会で商談が上手くいったら、美味しいワインを幾つか紹介してもらって仕入れて帰ろう。でも、男にはワインで良いんだけど、カミーユさんにもワインでいいのか悩むな。
あっ、そうだ、プリンとアイスも渡そう、約束通りに褒めてもらうんだ……
「ワタルさん、終わりましたよ、どうかしましたか?」
「あっ、いえ、何でもありません、行きましょうか」
いかん、うっかり注目を集めてしまった。アレシアさんに話しかけられた事で、関係者だとバレてしまった。刺すような冒険者からの視線が痛い。
冒険者ギルドを出て、時間がまだあるので、昼食を兼ねて市場を回る事にした。
「スライムの情報は集まりましたか?」
「ええ、でも確実な情報ではないわ、夜にゆっくり話すわね」
「分かりました」
市場を巡りながら、屋台で気になった物を買い込む。トマトが特産品なだけにトマトスープやミートソース、ケチャップまであったので、大量買いしておいた。
なぜかリムは、カーラさんの頭の上に陣取り、カーラさんが食べる物を僕におねだりする。可愛いからいいんだけど。大量の食べ物が何処に消えているのかが気になる。
一通り屋台を巡りお腹も満腹になったので、今日はもう宿でのんびりする事になった。部屋に戻り、雑談しながらリムと遊ぶ。日が暮れる前にクラレッタさんが戻って来たそうなので、みんなで夕食を取る。
クラレッタさんが大興奮で大聖堂の素晴らしさを説明している。あんなクラレッタさん初めて見るな。弾むお胸が気になって、話に集中できないけど。
食事を終えて、ジラソーレのメンバーの部屋に集まり冒険者ギルドの情報を整理する。
「集まった情報をまとめても、あやふやな情報だけね。魔法を使えるスライムは、自然の力が強い所に居るらしいの、火なら火山、風なら強い風が吹く草原とかに居る事があるらしいわ」
「問題なのは、私達も色んな場所で冒険したんだけど、魔法が使えるスライムってリムちゃん以外に会った事が無いのよね、難しいわ」
「そうなんですか」
「ドロテアも、マリーナも、テイムするならスライムが良いって言うし、大変よ」
「あはははは、なんかすみません」
「ふふ、そうね、ワタルさんのスライム好きがドロテアとマリーナに影響を与えたのは間違いないわね。でもまあ、リムちゃんは可愛いし、しょうがないわね」
「ありがとうございます」
リムが僕の頭の上で可愛いと言われて、喜んでポヨポヨしている。
「それで、火山はこの周辺には無いけど。強い風が吹く洞窟がここから2日程の所にあるらしいわ。スライムもいるみたいだし、ワタルさんの商談が終わったら探しに行ってみる?」
アレシアさんの提案にみんな賛成している。そこまで遠くないから問題は無いだろう。
服を軽く引っ張られた、カーラさんか。
「カーラさんどうしました?」
「デザートが食べたい。あとワタルさんも一緒に行こう」
「デザートは構いませんが、行くって洞窟にですか?」
「そう」
取り合えず全員にプリンかアイスを配る。
「僕が行っても足手まといになるだけですよ?」
「へいき、みんなで守る」
「そうね、一緒に来てもらえると、食事や寝床の面でとても助かるわね」
「あーそういうことですか、商談がどうなるのか分からないですから、それが終わってから決めますね」
「分かったわ、明日はどうするのかしら?」
「取り合えず、明日はチリアーコ商会に行って、商談。その後、装備の買い替え予定です」
「なら、その後に考えてね。来てくれるなら、カーラが言ったように全力で守るから」
「分かりました」
話し合いが終わり、部屋に戻って体を拭いてイチャイチャして眠りにつく。お休みなさい。
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読んで頂いてありがとうございます。