8話 初商談と思った以上の高値
「んちゅ、ご主人様、起きて。ジラソーレの方達と朝食の時間よ」
「ん……ああ、ありがとう、イネス」
「ちゅ、おはようございます」
「フェリシア、おはよう」
ふぁー、そうだった、朝食の約束をしてたな。身支度を整えて食堂に行くと、ジラソーレのメンバーがもう集まっていた。
「みなさん、おはようございます」
「「「「「「おはようございます」」」」」」
今日の予定を簡単に確認しながら朝食を取る。最近のリムは自分の食事が終わると、僕達やジラソーレから、少しずつ食事を分けて貰う為に、テーブルの上を行ったり来たりするようになった。可愛い。
ジラソーレのメンバーには申し訳ないが、もっちもっち移動して、食事を分けて貰ってプルプル喜んでいるリムがとても可愛い。
食べるのが大好きなカーラさんも、リムの為に食事を少し残して、リムに分け与えてくれる。カーラさん、その優しさ、感動を覚えるぐらいに嬉しいです。
ジラソーレのメンバーでも、ドロテアさん、マリーナさんはスライム好き仲間なので分かる。だけどアレシアさん、イルマさん、カーラさん、クラレッタさん、全員が優しく微笑みながら、リムにご飯を分け与えてくれる光景は、食堂の他のお客さん達も釘付けにするぐらい良い光景だった。
ちなみにご飯が足りないのなら、おかわりを注文するよ、っと言ったら『いらない』っと言われた。どうやらみんなの所を回ってご飯を分けて貰うのが楽しいらしい。
朝食を済ませて、商業ギルドで荷車を借りて、船に向かう。船の中で胡椒船を召喚して、とりあえず1艘分を荷車に積み込む。
「ワタルさんって、結構慎重なのね。もっと適当なイメージを持っていたわ」
「はは、アレシアさん、慎重ではなくて臆病なんですよ。だから無駄かもしれないこんな手間も、スキルがバレた時の面倒事を想像すると、怖いので一応やっておこうと思うんです」
「なるほどね、そこまでして隠す秘密を話してくれたのね。信頼してもらえて嬉しいわ」
思ってもみない所で好感度が上がった気がするな。ジラソーレのメンバーが、全員凄い巨乳美女だから、欲望に負けて話した事は、墓場まで持って行こう。
「い、いえ。アレシアさん達にはお世話になってますし、何度もお仕事をご一緒しましたからね。信頼出来る方達だと分かっていたので、問題ありませんよ」
「ふふ、ありがとう、嬉しいわ」
「では、フィリッポ商会に向かいますね」
「ええ」
地図に従い、荷車を引きながらフィリッポ商会に到着する。……今更だけど緊張する。アポも取らないで、早朝から訪問ってありなのか? 躊躇っていると店から出て来た中年の男性が、声を掛けてきた。
「おはようございます。当商会に何か御用ですか?」
「あっ、おはようございます。私はラティーナ王国から来ました、ワタルと申します。こちらの商会が、食料品を扱われているとお聞きしましたので、商品を見て頂けたらと思い、やってまいりました。お時間を頂けますか?」
「おお、それは嬉しいですな。是非とも拝見したい。ここではなんですので店内にどうぞ」
なんか上手い事いったのか? 焦って喋ってる間に、店内に案内してもらえるようになったけど……
荷車を店内に置かせてもらい、胡椒を一袋だけもって、後に続く。部屋に通されて、お茶が出される。きちんとした応対をされて、逆に緊張が増す。
「申し遅れました。この商会の商会長のフィリッポと申します。どうぞお見知り置きください」
おうふ、商会長なのね。Fランク商人にそんな丁寧な態度取らないで欲しい、帰りたくなってくる。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します」
「早速ですが、商品の方を拝見しても宜しいですかな?」
「は、はい、こちらになります」
胡椒の袋を商会長の前に置く。
「これは……胡椒ですか、希少な物を、味を見させて頂いても宜しいですかな?」
「はい、お確かめください」
「失礼します。ほう、これは素晴らしい。ふくよかな香りに、嫌みの無い辛味、実に良い胡椒ですな」
「ありがとうございます」
「持ってこられた、荷車の荷物すべてが胡椒ですか?」
「はい、すべて胡椒です。味を確かめてくださっても結構ですので、ご確認ください」
「では、失礼します」
荷車の前に場所を移し、フィリッポさんが袋を一つ一つを真剣に確認する。なんかテストを目の前で採点されているような……緊張する。
「すべての胡椒が一級品です。ワタルさんは素晴らしい目をお持ちのようですな。鮮度の悪い胡椒でも貴重品なのですが、これ程の量を、すべて一級品でそろえるなど、フィリッポ商会に来てくださって、ありがとうございます」
素晴らしい目とか持ってないんです。ただ産地からチートで時間を止めて運んできただけなんです。心が痛くなるので、それ以上褒めないでください。
「いえ、ご満足頂けた様で大変嬉しいです」
応接室に戻り商談を再開する。
「さて、値段の相談をさせて頂きたいのですが、この荷車の全てを卸して頂けると考えて構いませんか?」
「はい」
「では、いか程で卸して頂けますかな?」
えっ、僕が値段を言うの? 一級品とか今聞いて知ったばかりなのに? 幾らぐらい上乗せすればいいの? 分かんないよ……もう、あれだ、ぶっちゃけよう。僕には商談とか無理だ、値段を付けて貰って、それが3白金貨60金貨以上だったら卸そう。
「その事で、ご相談があるのですが。私は商談の経験が無く、この胡椒もある程度の値段の目安しか持っておりません。フィリッポ商会長に値段を付けて頂いて、その値段が私の目安より上なら卸します。如何ですか?」
「ふむ、一発勝負という事ですか? 私は構いませんが。ワタルさん、商談は商人の腕の見せ所、弱みを見せるのは良くありませんよ」
商業ギルドカードを持っているだけで、商人の勉強なんて、したこと無いんです。冒険者よりは商人の方がマシかなって思っただけなんです。ごめんなさい。
「ありがとうございます。肝に銘じておきます」
「とは言え、貴重な胡椒で、その上一級品ですからね。確実に手に入れる為に、私も高値を付けなければなりません。交渉に慣れていないのならば、良い方法ですな」
「ありがとうございます」
フィリッポさんが真剣な顔して考えている。
「ワタルさん、お聞きしたいのですが、胡椒はここにある物で全部ですか?」
「いえ、首都でも胡椒を卸そうと思っていますから、まだ胡椒を持ってます」
「そうですか、ちなみに追加で当商会に胡椒を卸して頂く事は可能ですか?」
胡椒は沢山あるんだから卸す事は出来るが、目立つのを避ける為に売り歩いてるんだから、大量に卸しては意味が無い。でも1商会に荷車1台分だと、495回も商談をしないといけない……それは面倒だな。
あと荷車、3台分ぐらいなら問題無いのか? いや、もう1台分増やして、全部で5台分ぐらい言ってみるか。王都でも5台分卸すと言っておけば、半分手に入れたと思って納得してくれそうだし。
「そうですね、首都でも商売をしてみたいので……追加で荷車4台分の胡椒なら構いませんが」
「それ程の量の胡椒をお持ちでしたか、品質の方は先ほど見せて頂いた物と変わらないのですか?」
「ええ、まったく一緒とは言えませんが、変わらない品質だと思います」
「そうですか、わかりました。荷車1台分の胡椒で4白金貨50金貨で如何でしょう? この値段でよろしければ、残り4台分の胡椒も確認の後、卸して頂きたいのですが」
おうふ、強気で4白金貨位いけるか? と思ってたけど、更に50金貨増えちゃったよ。
「はい、それで構いません、ありがとうございます」
「では、残りの4台分の胡椒も確認させて頂けますか?」
「分かりました。船に戻って運んで来ますので、荷車を3台お貸し願えますか?」
運んできた胡椒を下ろし、女性陣とフィリッポさんが出してくれた従業員3人と、荷車を引いて船に戻る。胡椒船を召喚して、荷車4台分の胡椒を積み込んでフィリッポ商会に戻る。
フィリッポさんが真剣に胡椒を確認しているのを眺めながら、代金の事を考える。フィリッポさんに払えるだけ白金貨で払ってもらって、残りは商業ギルドに入れて貰えばいいよね。出来るだけ白金貨が現物で欲しいし。
ついでに此処の商業ギルドでも30白金貨下ろしておこう。街ごとに白金貨を下ろして行けば、そんなに目立たず、白金貨が集められそうだ。
「ワタルさん、確認が終わりました。すべて一級品で間違いないですね。22白金貨50金貨、お支払方法はどうなさいます?」
「私としては、無理のない範囲で現金で頂いて。残りをギルドカードに入金して頂けると助かります」
「分かりました。本日ご用意出来る現金は10白金貨が限界です。残りの12白金貨50金貨はギルド口座に入金で構いませんか?」
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」
10白金貨もあるのか……10億って普通に店に置いてあるのか?
「すみません、お聞きしても良いですか?」
「なんですか?」
「10白金貨は大金ですよね。直ぐに用意出来る物なのですか?」
「だいたいの商店にはある程度の現金は用意してありますよ。加入しているとはいえ、商業ギルドに知られたくない資金の流れ、付き合いなど、どの商会も持っていますからね」
えっ? いま、なんか怖い話をされてない?
「え、えっと、それは、ほのかに後ろ暗い感じの話ですか?」
「いえいえ、後ろ暗い事はありません。特別に優遇しているお客様、知られたくない貴重な仕入れのルート、現金での取引は意外と多いんですよ」
「そ、そうなんですか、勉強になりました。ではそろそろ失礼します。本日はありがとうございました」
「いえいえ、また良い商品がありましたら、どうぞ当商会をよろしくお願いします」
「はい、その時はよろしくお願いします」
後ろ暗い事じゃないって言ってるけどなんか怖いな。
商談を済ませ店を後にする。荷車を返却ついでに30白金貨下ろせるように頼もう。
「ワタルさんってお金持ちね。羨ましいわ」
「何を言ってるんですか、イルマさんも相当稼いでいますよね? あの島のジラソーレの皆さんの稼ぎ。想像しただけで羨ましかったんですよ?」
「そうだったかしら?」
「二人とも、路上で話す内容じゃないですよ」
「確かにそうですね、ありがとうございます、ドロテアさん」
「いいんですよ、イルマが原因ですし」
僕とドロテアさんがイルマさんを見るが、妖艶な微笑みのまま表情が変わらない。あっ、ドロテアさんがため息をついて諦めた。イルマさんハートも強いな。
商業ギルドに着いて荷車を返却して中に入る。キツネミミのお姉さんが居なかったので、ネコミミのお姉さんの所に並ぶ。
ちょっとホッとしたな、キツネミミのお姉さんに、事務的に手続きされると、なんかへこむし。
「こんにちは、お金を下ろしたいのですが、30白金貨だとどの位で下ろせますか?」
「少々お待ち下さい、確認してまいります」
「お願いします」
「……お待たせいたしました30白金貨でしたら、直ぐにご用意できますが、どうなさいますか?」
「え? あっ、はい、お願いします。ですが他の商業ギルドでは数日時間がかかったのですが。ここでは即日で下ろせるんですね」
「普段は此方でも数日お時間を頂いております。先日大きな取引がまとまりましたので。現金に余裕が有るタイミングでのお引き出しとなりましたので、直ぐにご用意出来ました」
うーん、このお姉さんも、語尾に「にゃ」が付かないな……この異世界では語尾に「にゃ」は幻なのか?
「そうだったんですか、ありがとうございます」
「ふう、数日時間がかかると思っていたのですが。ベルガモでやりたい事が、今日で全部終わってしまいました。どうしましょうか?」
「そうね、今日は出発出来ないんだし、観光して夜に考えましょうか」
「分かりました、それなら自由行動にしますか?」
「うーん、ワタルさんが大金を持ってるのが気になるわ。一度船に戻ってから自由行動がいいんじゃないかしら?」
「ああ、そうですね。助かりますアレシアさん」
資金 手持ち26金貨78銀貨32銅貨 ギルド口座49白金貨0金貨 貯金船66白金貨 胡椒船490艘
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




