7話 ベルガモの港町と商業ギルド
嵐が通り過ぎてから9日、嵐の影響で予定より2日程遅れたが、パレルモの東の港町ベルガモが見えてきた。
「皆さん、これからの予定を話し合いたいのですが、いいですか?」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
「では、まず僕の考えは、港町で数日時間を頂いて。パレルモの首都、バルレッタに向かう手配と、胡椒を大きなお店に売りに行きたいと思っています。ジラソーレの皆さんは何か予定、目的はありますか?」
「私達はベルガモでは特に予定がないから、ワタルさんに合わせるわ。もちろん護衛もするわよ。それでバルレッタに向かう馬車は乗り合い馬車で行くのかしら?」
「馬車の事は考えてませんでした。乗合馬車でもいいのですが、船召喚が使い辛いですから、馬車を借りられるのなら借りた方が良いでしょうか?」
「そうね、乗り合い馬車より、馬車を借りた方がワタルさんの場合は便利そうね。私達は御者も出来るから馬車が借りられるのなら大丈夫よ」
「ありがとうございます、馬車を借りる方向で考えたいと思います。その時はお願いします」
「分かったわ」
「ご主人様、船は港に泊めたままで行くんですか?」
「ん? ああ、そうですね。バルレッタに出発する前に出航して、送還してから街の外で合流しましょうか。ずっとこの街に停泊させているのも無駄ですからね」
「分かりました」
「あっ、宿はどうしましょう? この船にそのまま泊まるか、はじめての街ですから宿に泊まりますか?」
「そうね、どうしましょう? この船でも十分過ぎるけど、久しぶりに陸地に泊まるのも捨てがたいわね」
相談の末、宿に泊まって、偶にこの船でシャワーを使い、ご飯を食べる事に決まった。シャワーは女性陣全員が、食事はカーラさんとクラレッタさんの要求で決定された。
「リムはどうしたらいいですか? 南の大陸では、治安が悪いので鞄に隠れていてもらったんですが」
「狙われる可能性はゼロではないけど、治安の良い国だそうだし、私達も居るから普段通りでいいんじゃない?」
「分かりました、もしもの時はよろしくお願いします」
「ええ、大抵のことは私達で対処出来るわ」
「ありがとうございます、ベルガモに出発しますね。見えているので直ぐに着きますから、準備をしておいてください」
それぞれ、荷物を纏め下船の準備をする。
取り合えず、ジラソーレとの船旅も一区切りついたな……素晴らしい光景は沢山見れたんだけど。ラッキースケベが一度も無かった。
6人もの巨乳美人と20日近く一緒だったのにね……
港に入り停泊料金1日2銀貨、取り合えず3日分の6銀貨を払う。高い。同じ大陸なのに何でラティーナ王国の南方都市と値段がこんなに違うのか聞いたら、商売に来た船と、本拠地登録している船は値段が違うそうだ。
南方都市でも商売で行ったなら、2銀貨位取られるそうだ。僕は南方都市で商業ギルドに登録したし、生活していたので本拠地登録もされていたんだろう。知らなかったけど。
高い理由は納得出来た。沢山船が来るので、値段を高く設定しないと港がパンク状態になるそうだ……今更だけど納得だね、南の大陸でもそうだったのかも。
「ふふ、久しぶりの陸地ね。やっぱり海の上では緊張していたのかしら? なんだか、ホっとするわ」
「あら? アレシアは、だいぶリラックスしていたように見えたわよ?」
「そうだったかしら? まあいいじゃないイルマ、そんな気持ちになったんだもの」
「うふふ、そうね」
「アレシアさん、これから商業ギルドに行きますけど、皆さんはどうしますか?」
「そうね、同じ所に宿を取った方が便利でしょうし、一緒に行くわ。その後に冒険者ギルドにも付き合ってね」
「はい、分かりました」
入港の時に聞いておいた商業ギルドに向かう。でも反射的に冒険者ギルドに一緒に行くって返事しちゃった……失敗したかも。
道を歩いている現在でさえ、目立っている。物凄い美女が8人と、その中に、頭にスライムを乗せている冴えない男が1人。
こんな状態で冒険者ギルドに行ったら、絶対に絡まれる気がする。絶対に一人になっちゃ駄目だな。
商業ギルドに入り、受付カウンターに向かう。みんな美人だが、どうしてもキツネミミのお姉さんの、カウンターに並んでしまう。
やっぱり僕はキツネミミが好きなんだな。でも今までに行った事の有る、ギルドのカウンターには、必ずキツネミミのお姉さんが居たような気がする。みんなキツネミミが好きなのかな?
「お待たせいたしました、本日はどのようなご用件ですか?」
「はい、私はラティーナ王国から来ましたワタルと言います。この街で食料品を扱っていて、評判の良いお店があれば、ご紹介頂きたいのと、良い宿を教えて頂けますか?」
「かしこまりました。フィリッポ商会が中規模ではありますが、誠実な商売をなさっていて評判が良いです、地図をご用意致しますね。宿は、失礼ですがご予算をお教え願えますか?」
あれ? 自己紹介をしたのに、名前が返ってこなかった……自己紹介作戦初失敗だ、地味にショックだな。
ジラソーレのメンバーに、どの程度のランクがいいのか尋ねると、任せるとの返答をもらった。
「あまり高すぎるのは困りますが、中級以上で、安全で料理の美味しい宿をお願いします」
「かしこまりました。でしたらセリスの宿屋が良いと思われます。こちらはフィリッポ商会とセリスの宿屋の地図です。他にご用はおありでしょうか?」
「あっ、近々バルレッタに行こうと思ってるので、馬車を借りたいです。どこで借りれますか?」
「バルレッタでしたら、定期的に乗り合い馬車が出ています。お値段もお手頃なのですが、馬車を借りられますか?」
「はい、人数も、荷物も多いので馬車を借りた方がいいと思っています」
「かしこまりました。馬車は商業ギルドでもお貸しできます。費用は1日3銀貨と保証金が2金貨必要になります。保証金は馬車の返却と共にお返しいたします」
「馬車は何処の商業ギルドでも返却可能ですので、バルレッタでの返却でも大丈夫です」
「2台借りる事も可能ですか? あと出発時期が未定なのですが、いつまでに申し込めばいいですか?」
「2台お貸しする事は可能です。申し込みは、馬車が出払っていなければ、当日でも受け付けておりますが、前日に確認される方がよろしいかと思われます。他に何かご用件はおありでしょうか?」
「いえ、ありがとうございました」
何か扱いが今までの商業ギルドと違う気がするな。なんでだろう? この国では普通なのか? あっ、もしかして、これがFランクの通常の扱いなのかも。
今までは特別な島に行けたし、南方大陸では大量購入と貴重なスパイダーシルクとか持って行ったから、扱いが良かったのかも。でも今回はFランクのギルドカードだけだもん、扱いに差が出るのは当然かもね。
振り返ると、商業ギルドでも女性陣は注目の的だった。早く出よう。商業ギルドを出て、冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドに入ると、女性陣に注目が集まる。気配を消すんだ。おっ? みんな女性陣に釘付けで僕なんか気にも留めてない、良かったー。
ジラソーレのメンバーは、注目されている事も気にせず、カウンターに向かう。僕はなるべく気配を消してこっそりとついて行った。
カウンターで、ジラソーレのメンバーが何か話している間も、視線が通らない位置で待機する。話が終わって冒険者ギルドの出口に向かう。おお、今回は平和に帰れそうだ。
あっ、ガラの悪い冒険者5人が出口の前に陣取ってる。テンプレの匂いがプンプンする、お願いだから勘違いであって欲しい。
「よう、ねーちゃん達、見ない顔だな、この街ははじめてか? 俺達が割のいい仕事、紹介してやるからよ。一緒に依頼受けようぜ」
「いや、私達は予定が決まっているからな。また別の機会に頼む」
おお、アレシアさん、カッコいい。いつもより3割増しぐらいキリッてしてる。冒険者モードなのかな?
「ああ、そんな予定放っとけよ、Cランクパーティーの俺達が誘ってやってんだぞ、黙ってついて来いよ」
完全にテンプレだったな、絡まれてるのは僕じゃなくて、ジラソーレのメンバーだけど……どうなるんだろう。
「面倒だな、これを見ろ」
あっ、アレシアさんがギルドカードを見せた、ガラの悪い男達の顔色がドンドン悪くなってるな。それはそうだよねジラソーレってAランクパーティーだもんね。
「し、失礼しました」
ガラの悪い男達が走って逃げて行った……副将軍様の印籠みたいだな。女性陣には注目が集まったけど、僕に殺気は飛んでこなかったし。誰にも気が付かれてないかも。平和に冒険者ギルドを出れた。
「うふふ、ワタルさんがカッコよく追い払ってくれると思っていたのに残念だわ」
「イルマさん、いきなり無茶な事を言わないでくださいよ。あんな強そうな人達に殴られたら、死んじゃいます」
「そうかしら? でも女性が絡まれてるのに、気配を消して傍観しているのは駄目よ」
「えー、僕が彼女達に手を出すなっとか言って、彼らの前に立ち塞がるんですか? ……殴られて皆さんに助けてもらう、更に情けない未来しか見えませんよ」
「うふふ、そうなったら優しく看病してあげたのに、残念だわ」
「……次から頑張ります」
イルマさんに優しく看病してもらえるのなら、1発殴られるぐらいなら耐えられる気がする。結界もあるし。
「ご主人様、イルマさんに惑わされては駄目です。頑張ってもヒールで回復して終わりです」
えっ? そんな事ないよね? イルマさんを見てみると……妖艶に微笑んでるだけだ……何も分からないが、危険な香りがプンプンする。弄ばれる未来が見える。
……イルマさんに弄ばれる、言葉にしたら凄く興奮するな。まあ冷静になると、いい事なんて1つも無くて。ただただ酷い目にあうだけの可能性が高いな。
「ご主人様?」
「ありがとう、フェリシア。僕はやっぱり隠れているね」
「ええ、正しいとは思いますが、宣言されるのもどうかと思いますよ?」
「そう?」
「はい」
それもそうだな、前までは見栄をはって、少しでも良いところを見せようと思って頑張ってたけど。最近本性を見破られてきたから、隠さなくなったもんな。
わざわざ情けない事を宣伝する必要も無いんだし、もう少し気を引き締めて、カッコ悪い所は隠すようにしよう。
「まあ、何事も無かったんですし、もう宿に向かいましょうか」
地図に従いセリスの宿屋に着く。
「すいません、9人と従魔のスライムなんですが泊まれますか?」
「いらっしゃいませ。1人部屋と2人部屋と4人部屋がありますが、部屋割りはどのようになさいますか?」
「僕達3人は4人部屋でお願いします」
「私達は4人部屋を2部屋お願いするわ」
「かしこまりました、何泊なさいますか?」
「とりあえず3泊でお願いします」
「かしこまりました。4人部屋は1泊4銀貨になりますので、3泊で12銀貨、全部で36銀貨になります」
「ワタルさんここは私達が払うわね」
「えっ、護衛をしてもらうんですから僕が払いますよ」
「でも私達が頼んで連れて来て貰ったんですもの、宿代ぐらいは払わせて欲しいわ」
「えー、でも守られていてその上、宿代まで出して貰うのは情けなさすぎますよ」
結局どちらも譲らず、それぞれを自分達の分は自分達で支払う事が決まった。部屋に落ち着き夕食までのんびりする。
うーん、今日はもう休むとして。明日はフィリッポ商会に行って、胡椒を卸せるのか交渉して販売かな? どの位の量を、どの位の値段で卸せばいいのかな?
商業ギルドでは、ゴムボート1艘分を3白金貨60金貨で買い取ってくれたんだよね。でもカミーユさんは店に持ち込んだ方が、高値で買い取ってくれるって言ってたし。
ここまでの輸送費も加えるべきなんだろうが……よく分かんない。商売なんかした事ないし。輸送費と高値になる分を加えて、4白金貨位に設定してみるか……40金貨はボッタクリかな?
「イネス、フェリシア、輸送費とか、商業ギルドに卸すより、商会に卸す方が、どの位高くなるのかとか知ってるかな?」
「私は冒険者の時に、商人の護衛をした事があるだけで、詳しい事は何も分からないわ。フェリシアは知ってる?」
「私は奴隷になる時に初めて村を出ましたから……想像も出来ません」
「うーん、やっぱり出たとこ勝負か、胡椒は売りやすい商品らしいし、頑張ればなんとかなるよね?」
まあ、初挑戦だし何とか3白金貨60金貨を超える値段で卸せるように頑張ろう。
暫く雑談したり、リムと遊んだりして時間を潰し、ジラソーレと合流して夕食を取る。うーん、正直、美味しいんだけど、南方都市と似たような料理で驚きが無い。
船で移動しているから、着くのは港町ばかりだよね。これからも名物は新鮮な魚介類って、お店での食事が多くなりそうだな。
魚介類は好きなんだけど、同じようなメニューだと飽きが来る。伊勢海老みたいなのとか食べたいな……そうだ南方都市で大きな蟹の魔物に挑戦したかったんだった、忘れてたよ。
どんな味なんだろう、ジラソーレなら知ってそうだな。聞いてみよう。
「みなさん、南方都市で大きな蟹の魔物が出るって話を思い出したんですが、食べた事がありますか?」
「大きな蟹? ああ、ビッグクラブね、もちろんあるわよ。身がプリプリで美味しいわよ。でも急にどうしたの?」
「そうなんですか、アレシアさん、ありがとうございます。南方都市で強くなったら挑戦して、食べてみたいって思っていたんですが。忘れていて、今思い出したんです」
「そうなの、だったら南方都市に戻ったらご馳走してあげるわ。私達なら簡単に討伐できるし」
「本当ですか? 図々しいですが、お願いします」
「ふふ、分かったわ」
「ワタルさん、ビッグクラブで美味しいお料理は作れる?」
「うーん、ビッグクラブを食べた事が無いので何とも言えませんが……茹でる、焼く以外だと……蟹クリームコロッケなら作れますかね? そういえばコロッケを作ってなかったですね、今度ご馳走しますね、カーラさん」
「うん、たのしみ」
明日の予定を簡単に決めて、部屋に戻って休むことにした。
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読んで頂いてありがとうございます。