6話 嵐の海と4人の暴走
「ご主人様……ご主人様……」
「あっ、イネス、どうしたの?」
「うふふ、何を考えていたのかしら?」
「今回の航海の事を考えていたんだけど。それより何かあったの?」
「そろそろお昼なんだけど、揺れが酷いからご主人様に出来合いの物を出して貰いたいの」
「もうお昼なんだ、食堂で食事を出しますね」
「お願いね」
「皆さん揺れてますけど、船酔いは大丈夫ですか?」
「私は問題ありません、皆はどう?」
アレシアさんの問いかけに全員が大丈夫だと答えている。しかしリムも答えていたけど、スライムも船酔いになるのか?
それにしてもこの揺れなのに、誰も船酔いになってないなんて、レベルが上がると三半規管も鍛えられるとかあるかも、僕も最近船酔いになってないしな。
屋台の料理や宿、食堂等で多めに作って貰って、送還しておいた料理を取り出し並べる。
「では、食べましょうか。頂きます」
『「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」』
「お店のご飯より、ワタルさんや、クラレッタが作ったご飯の方が美味しい」
「ありがとうございます。カーラさん」
「ふふ、私の料理もワタルさんに教えて貰ってから上達したのかしら? ありがとう、カーラ」
「うん、クラレッタのご飯、とっても美味しくなった」
「ふふ、嬉しいわ」
昼食を済ませ、揺れる船内で雑談する。
「ワタルさん、この嵐は何時まで続くか分かりますか?」
「すいません、アレシアさん、僕も嵐に遭うのは初めてなんです」
「そうなんですか、でも沈む事が無いなら揺れを耐えるだけですね。それでワタルさん、私も嵐の中、操船してみたいのですが駄目ですか?」
うわ、イネスの要求を断った時、側に居たのに。諦めないで時間をおいて、味方が居る所で頼んできた。策士だな。
アレシアさんの言葉に、イネス、マリーナさんが、期待に目をキラキラさせて、僕を見ている。美人に見詰められて、思わず許可を出しそうになってしまった。
「アレシア、ワガママ言わないの」
「だって、ドロテア、面白そうなんだもん。ワタルさん、駄目?」
うわっ、アレシアさんのあざとい表情とか初めて見たな。そこまで操船したいのか。
「うーん、そんなに操船したいですか?」
「「「はい」」」
「はー、分かりました。船内で転んだりしたら怪我をするんですから、あまり無茶はしないでくださいね」
「「「はい」」」
「あっ、フェリシアも一緒に行って、無茶をしだしたら止めてね」
羨ましそうにしてたし、ある程度冷静だから、お目付け役にもなってくれるだろう。
「はい、分かりました」
うわっ、物凄い笑顔……不安になるな。
ルト号を召喚して、嬉々として乗り込む4人を見送る。周りを見渡すと苦笑いしている残りのメンバーがいる。
爆走して、ハイダウェイ号から離れて行くルト号を見送る……あれ? 僕は船の位置が分かるけど、あの4人ってこの船の位置が分かるの?
……暗くなるまでに戻って来なかったら、ハイダウェイ号の照明を全部点けておこう。ある程度離れても確認出来るだろう。
……ヤバいかも……まあ、迷子になったら、僕の方から迎えに行けば良いか、クルーザーを買うお金もあるんだし。何とかなるだろう。
しかし大き目のハイダウェイ号でこの揺れなのに、更に小さいルト号で爆走とか、どんだけ揺れてるんだろう。
「皆さん、僕は部屋に戻って休んでますね」
「はい」
『りむもいく』
「リムも、部屋に来るの?」
『うん』
「そっか、じゃあ行こうか」
リムが付いて来てくれるだけで、物凄く嬉しい。胸に飛び込んできたリムを抱えて部屋に戻る。
「リムは船がこんなに揺れていても、気持ち悪くなったりしてない?」
『りむへいき』
「そっかー、でも気持ち悪くなったりしたら直ぐに言うんだよ」
『うん』
リムは揺れが楽しいのかポヨンポヨンと跳ねている。沈まないって分かっていても怖いのは僕がヘタレ過ぎるのか? でも嵐は誰だって怖いと思うんだけどな。でも揺れに任せて転がったり跳ねたりしているリム……可愛い。
現実逃避したいが、窓の外には大波が結界にぶつかって弾け飛んでいる。これはもう諦めて暗くなるまで我慢するしかないか。嵐の事を忘れたふりをして、リムと遊ぶ事に集中する。
暫く遊んでいるとリムが『おやつほしい』っと言って来たのでリビングに向かう。
「皆さん、気分が悪くなってたりしてないのなら、おやつでも食べませんか?」
「「「「いただきます」」」」
「昨日がアイスだったので今日はプリンにしましょうか」
プリンで良いそうなので全員にプリンを配る。
「リム、美味しい?」
『おいしい。りむぷりんすき』
「良かったね、あと一つまではおかわりしてもいいから、欲しかったら言ってね」
『うん』
「ワタルさん、おかわりちょうだい」
「はい、カーラさん、今日はこれで最後ですからね」
「ん、わかった」
『おかわり』
「はい、リム、おかわりだよ。ドロテアさん、イルマさん、クラレッタさんは、おかわりいかがですか?」
「頂きます」
「うふふふふ、貰うわ、ありがとうワタルさん」
「私もお願いします」
おやつを食べながら、雑談する。
「しかし結構揺れてるんですが、皆さん船酔いにならないんですね」
「ええ、私達の故郷も貿易都市ですから、護衛依頼で船には乗ってたんですよ。島の依頼でも小舟に乗ってますしね」
「ああ、そう言えばそうですね。一緒に島に行ってたのに忘れてました。それに冒険者には船の護衛依頼もありましたね。港町なら冒険者は船に乗る機会が結構あるんですね」
「そうですね。漁にでる船の護衛が殆どですが、天候が急に変われば、大陸沿いでも船の揺れは酷いですから、最初は私達も苦労しました」
僕の船以外にも船はあるんだし、乗る機会はあるよね。僕は考えが足りないな。雑談をしながら嵐が通り過ぎるのを待つ。
「ワタルさん、リバーシのお相手をお願い出来ますか?」
「ええ、構いませんよ」
「ふふ、今度こそ勝たせてもらいますね」
「まだまだ、負けるつもりはありませんよ。ドロテアさんはイルマさんに勝てるようになったんですか?」
「ええ、偶にですけどね。だいぶ上達したので、ワタルさんにも勝つ可能性はあります」
みんなドンドン強くなるよね、一番強いのはイルマさんだったんだけど、ドロテアさん、勝てるようになったのか。なんか直ぐに追い抜かれる気がするな。
揺れる船内でも何とか楽しく過ごし夕食の為に食堂に向かう。
「……アレシア達戻って来ませんね。大丈夫でしょうか?」
何となく船の場所は分かるけど、蛇行しながら、操船してるし問題は無いと思う。夜中まで戻って来なかったら、迷子になってると考えて迎えに行こう。
「何となく、船の位置は分かるんですが、動き回っているので大丈夫だと思います。夜中まで戻って来なかったら迎えに行きましょう。一応目印になる様に全体の照明は点けますから、帰っては来れると思うのですが」
「すみません、ワタルさん。ご迷惑お掛けします」
「いえいえ、許可を出したのは僕ですし、イネス、フェリシアも居ます。ドロテアさんが謝る必要はありませんよ」
「言い出したのはアレシアですから……許可を貰ってもこんなに遅くまで遊んでいるのは問題です。しっかり叱っておきます」
「あはははは、まあ、門限を決めてなかったので、お手柔らかにお願いします」
結局、戻って来たのは、僕達が夕食とシャワーを済ませて、リビングでのんびりしている時だった。乗船許可を出すと、さすがに疲れたのか、頼りない足取りでフラフラとハイダウェイ号に移って来た。
疲れているが満足げな笑顔で「おなかすいた」と言った、アレシアさんの声は枯れてしまっていた。
「うわっ、みんな声がガラガラになってるじゃないですか……クラレッタさん、声枯れってヒールで治るんですか?」
……操船をしていたはずなのに何を如何したらあんなに声がガラガラになるんだろう。
「えっ? さあ、どうでしょう? 試してみますか?」
「うーん、どうしましょうか?」
「止めておきましょう、はしゃぎ過ぎた罰です。しかし、アレシアならともかく、マリーナまで声が枯れる程はしゃぐなんて、そんなに楽しかったの?」
「ちょっと、ドロテア、私はともかくってどういう事よ」
「そのままの意味よ。私はマリーナの、そんな姿を初めて見たわ。良かったわね」
「恥ずかしい……でも楽しかった」
「なんか、私とマリーナの扱いがずいぶん違う気がする」
「気のせいよ」
ジラソーレのメンバーって、みんな仲が良いよね。
「ご主人様、お腹が空いちゃったわ」
「私も空きました」
「はあ、イネスとフェリシアも大丈夫なの?」
「うふふ、大丈夫よ」
「大丈夫です」
「それならいいんだけど、あまり無茶しないようにね」
「「はい」」
うーん、フェリシアまであんなになるなんて、指示の仕方が悪かったか? 無茶したら止めるように言ったはずだけど……元々嵐の海に出て行く事自体が無茶だったね。それ以上の無茶をしたら止めるとなると、何をしたら止めれば良いのか僕にも分かんないな。
サロンのテーブルに食事を並べると、よっぽどお腹が空いていたのか、4人はむさぼる様に食べ始めた。
彼女達はレベルも上がって肉体も強化されてるんだから、当然、喉も強化されてるはずなんだけど……強化された喉が枯れるなんて、どんだけはしゃいだのか、それはお腹も空くよね。
食事を済ませ、シャワーから出て来た2人にどんな行動をしていたのか質問する。
「イネス、フェリシア、ルト号でどうしてたの?」
「操船してただけなんだけど、大きな波が来たりして楽しくなっちゃったの、ごめんなさいねご主人様」
「ご主人様、申し訳ありません。はしゃぎ過ぎてしまいました」
うーん、2人とも相当楽しかったみたいだし……嵐の海を爆走するのが楽しいって気持ちは全く理解出来ないけど、ストレス発散になったのなら良かったのかも。ああ、どうやって戻って来たのか聞いておこう。
「2人とも、嵐の中走り回って迷わなかったの? 出航してから気が付いたんだけど、よく迷わず帰って来れたね」
「はい、誰か一人は、ハイダウェイ号の位置を確認していましたし、暗くなったら明かりが点いたので、迷いませんでした」
楽しくはしゃいでいても、位置確認はきちんとしていたのか。さすが冒険者と狩人って事なのかな?
「そうだったんだ。まあ無事に帰って来れて良かったよ。そろそろ寝ようか」
「「はい」」
……………
「んちゅ、おはようございます、ご主人様」
「ちゅ、おはようございます、ご主人様」
「イネス、フェリシア、おはよう。まだ声が枯れてるね、後でリムに頼んでヒールして貰おうか」
「「ありがとうございます」」
朝食を食べに食堂に向かう。ん? 揺れが小さいな、嵐を抜けたのか? ジラソーレのメンバーに挨拶をして外に出てみる。
おー、晴天だな、嵐を抜けたんだ。……うーん、嵐に遭ったら、ラノベとかだと島が見つかったり、不思議な出来事に遭遇したりするんだけど……何にもなかったな。
ちょっと船を操船するのが好きな4人が暴走したぐらいか。まあ、刺激が強すぎるのも苦手だし幽霊船とか出なくて良かったと考えよう。
食堂に戻り、朝食を済ませて、リムにヒールを頼んでみる。
「リム、イネスとフェリシアの喉にヒールを掛けてくれる?」
『ひーる? りむできる』
「うん、お願いね」
リムのプルプルが大きくなり、体の光が強くなる。そしてイネスの喉に光が降り注ぐ。
「イネス、どう?」
「あー、あー、良くなったわ。ご主人様。リムちゃん、ありがとう」
「おー、リム、凄いね、フェリシアにもできる?」
『できる』
フェリシアの喉にもリムのヒールが掛けられる。
「あー、ご主人様、治りました。リムちゃん、ありがとうございます」
『りむ、できた。えらい?』
「とっても偉いよ。リムの御蔭でイネスとフェリシアの痛いところが治ったんだよ」
3人でリムを褒めて撫でくりまわす。リムは得意げにプルプルしている、可愛い。
「ワタルさん、私達もお願い出来る?」
ガラガラ声に振り返ると、アレシアさんとマリーナさんが並んでいる。
「えーっと、どうなんでしょう? イネスとフェリシアは、僕の判断で大丈夫なんですが。アレシアさんとマリーナさんに、僕の判断で掛けていいんですかね?」
「えっ? 何か問題があるのかしら?」
「いえ、ヒールならクラレッタさんに頼めばいいのに、わざわざ僕に頼んでくる事が不思議だな? と思いまして」
「……な、なにも問題ないわよ」
「いや、そんな、あからさまに不味いって顔されたら、問題があるとしか思えませんよ」
「そ、そんなことないわよ」
「そんなことありますよ、ねえアレシア」
「ドロテア、違うのよ?」
「何が違うの? アレシア、マリーナ、はしゃぎ過ぎた罰なんだから勝手に治したら駄目でしょ」
「うう、イネスとフェリシアも治してもらったんだから、私達もいいでしょ?」
おうふ、イネスとフェリシアって呼び捨てになってる。嵐が4人の仲を深めたのか? 僕も行ってたら、もっと仲良くなれたのかも。勿体なかったね。まあ、僕が一緒に行ってたら、早めに終了してただろうから、仲良くなれてないかもな。
「はあ、こっそり治そうとしたから駄目です。もう少し反省しなさい。リムちゃん、私と遊びましょうね」
あっ、リムが連れ去られた……
「それでは、そろそろルト号に移動しますから準備してください」
恨めしそうな顔のアレシアさんとマリーナさんから逃れるように、準備をする為に部屋に戻る。
嵐で1日遅れたけど、再びパレルモに向かい出発する。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




