4話 ハイダウェイ号での生活とリムの勝利
朝か……毎朝の日課を済ませ、身支度を整え部屋をでる。うーん、昨晩は興奮しっぱなしだったから、何だか体が重い気がする。
でもジラソーレも一緒なんだし、気合を入れて楽しもう。食堂に行くと、ジラソーレの全員が既に集まっていた。
「みなさんおはようございます、遅くなってすみません」
「「「「「「おはようございます」」」」」」
ポヨンポヨンと近づいてくるリムとも挨拶を交わす。
「リム、おはよう、楽しかった?」
『おはよう、たのしかった』
「ドロテアさん、リムがお世話になりました。なにかご迷惑をお掛けしませんでしたか?」
「大丈夫ですよ、リムちゃんはとっても良い子でしたし、私も楽しかったです」
「そうですか、リムも楽しかったそうですし、ありがとうございます」
ドロテアさんとの1夜を、リムに詳しく聞きたかったけど、さすがに止めておこう。変態を通り過ぎてしまう。
朝食は昨晩言ったように、出来合いの物で済ます。今日のお昼はクラレッタさんが作ってくれるそうだ、楽しみだね。
「じゃあ、そろそろルト号に戻ります。準備は良いですか?」
「あっ、ちょっと待って、湯着を干したままなんだけど、このままで良いのかしら?」
「あーそうですね。乾いているのなら、そのままでも大丈夫ですが、湿っているのなら、送還した後は乾きませんから、ルト号で干した方が良いですね」
「ごめんなさい、ワタルさん。確認してくるから、少し時間を貰える?」
「はい、大丈夫ですよアレシアさん」
他のジラソーレメンバーも確認の為部屋に戻っていく。僕達のは乾いてたから、部屋に戻ってから干していれば大丈夫だと思うんだけど。
「お待たせ、乾いてたわ、ありがとう」
「では、行きましょうか」
ルト号に乗り換え出発して暫くすると、集団で魔物が襲ってきた。あれは……初めて見るけど何だろう? 人みたいな形してるけど……考えても分からないので、人魚でない事を願ってサロンに知らせにいく。
「初めて見る魔物が集団で襲って来ました、確認してもらっていいですか?」
「……これはマーマンですね。船を襲い人を食べる魔物です、個々の力はそこまで強くないですが、集団で襲ってくるので嫌われています」
「そうなんですか、アレシアさん、ありがとうございます。素材とか取れますか?」
「いえ、魔石ぐらいで、その魔石の価値も低いです」
「分かりました、人魚でなくて良かったです」
「人魚ですか? 人魚はあんなに醜悪な姿はしていませんよ」
「あはははは、そうですよね」
良かった、人魚じゃないんだ。それに醜悪な姿をしていないって事は、綺麗なお姉さんの可能性も有るって事だよね。
まだジュゴンとかマナティーのような哺乳類の可能性もあるけど。僕は綺麗なお姉さん人魚の楽園があると信じています。だってここは異世界なんだから。
「ワタルさん、ワタルさん、どうしたんですか?」
「えっ? あっ、すいませんアレシアさん、考え事をしていました。では、とりあえず減らせるだけ減らしましょうか」
結界に当たっては跳ね返されるマーマンを、ジラソーレのメンバーと、イネス、フェリシアがサクサクと片付けていく。
……僕の弓は弾かれました、弱い相手にすら通用しないとは、リムと一緒に経験値獲得の為の攻撃です、レベルはかなり上がったのに何で倒せないんだろう?
「ふー数が多いと面倒ね」
「みなさんお疲れ様です、ありがとうございました」
あっさりとマーマンを殲滅して休憩していると、マリーナさんが話しかけて来た。
「ワタルさん、その弓だと海の魔物には通用しないと思うんだけど、どうして使っているの?」
「えっ? ……たしか、練習用に買って、そのまま何となく使っていました。もしかしなくてもこの弓は駄目ですか?」
「うん」
そっかー、そうだよね、初心者の訓練用弓矢だもんね。考えるまでも無く駄目だよね、レベルが上がろうが緩々の弓矢が強化される訳もないんだから、いつまで経っても倒せるわけ無いよね、納得です。
「えーっと、次の街で新しい弓矢を買おうと思います」
「そうした方がいいと思うわ」
「ありがとうございます」
「ワタルさん、私も見ていて思ったんですけど、リムちゃんは魔法で攻撃しないんですか?」
「あっ、クラレッタさん、リムが使えるのは浄化だけなんですよ。攻撃魔法はまだ使えないみたいです」
「そうなんですか? では、私がリムちゃんにいくつか魔法を見せて、使えるようになるのか試してみましょうか?」
「えっ、いいんですか? 助かりますがご迷惑になりませんか?」
「ふふふ、いいんですよ。私ばかりワタルさんに料理を教えて貰っていたので、少しぐらい恩返しさせてください」
「ありがとうございます」
「リム、クラレッタさんがリムに魔法を教えてくれるんだって、魔法覚えてみない?」
『まほう、りむやる』
「リムも覚えたいみたいです、よろしくお願いします」
「分かりました、リムちゃんよろしくね」
僕は操船に戻り、後方デッキではクラレッタさんが魔法をリムに教えてくれている。他はサロンに戻ったみたいだ、偶に笑い声が聞こえてくる。
暫くしてイネスとフェリシアが交代に来てくれたので、お昼の用意に戻るクラレッタさんとリムとサロンに戻る。
「クラレッタさん、リムは新しい魔法を覚えられそうですか?」
「ふふ、リムちゃんはもう2つも魔法覚えましたよ。ヒールとホーリーボールです、リムちゃん凄いですね、時間を見つけてまた教えますね」
「クラレッタさん、ありがとうございます。お手数ですがよろしくお願いします」
気になったのでホーリーボールの効果を聞いてみた所、魔物の瘴気を消し去るそうで威力は強くないが確実に魔物にダメージを与えるそうだ、次はホーリースピアを教えるらしい。
「リム、魔法覚えたんだね、凄いね、偉いね、後で見せてね」
『りむ、うれしい、くられったすき』
「クラレッタさん、リムがうれしい、好き、だそうです、ありがとうございました」
「ふふ、リムちゃん、私も嬉しいですよ」
ニコニコとリムを撫でるクラレッタさん神々しいです。
クラレッタさんの作った美味しい昼食を頂き、午後からは大量にプリンを作る事にした。
クラレッタさんとカーラさんがお手伝いしてくれるそうだ、沢山作って船に保管しておこう、リムは残りのジラソーレのメンバーとリバーシをしている。
魔物の襲撃を撃退しながら、沢山のプリンを作り上げ、ついでに夕食の準備をする。
ちなみに、リムのホーリーボールは、魔物にダメージを与えるけど、倒すまではいかなかった。でもプルプルしながら頑張って光の玉を飛ばすリムは、とてつもなく可愛かったです。
今日の夕食は手に入ったチーズでチーズチキンカツにした。鳥の胸肉を1センチ幅に切り塩胡椒をしてチーズを挟む、後は小麦粉、溶き卵、パン粉をつけてカラッと揚げれば完成だ。
間に大葉を挟むと美味しいんだけど買ってなかった、そもそも売ってるのかな?
「日が暮れて来ましたし、そろそろハイダウェイ号に移動しましょう」
「分かったわ」
ハイダウェイ号に移動して、食堂に集まり、夕食にする。
「これも美味しいわね、唐揚げも美味しいけどチーズチキンカツ? これも好き、カリッとした衣に中からとけたチーズが出て来て、とっても美味しいわ、ワタルさん」
「気に入ってくれたのなら良かったです、アレシアさん」
他の皆も気に入ってくれたみたいで、余分に作ったすべてのチーズチキンカツが無くなった。結構多めに作ったのに残らない。
残ったおかずを食糧庫船にストックしたいのに……次からはもっと多めに作るか? それでも残らなかったらどうしよう。
「ワタルさん、プリンが食べたい」
「はい、カーラさん分かってますよ、今持って来ますね。他の皆さんもプリン食べますか?」
「「「「「「「はい」」」」」」」
全員分のプリンを持ってきて配る。みんなニコニコしている、やっぱりプリンは凄いね。リムも普段より大きくプルプルしながら食べている気がするな。
「リム、プリンは好き?」
『りむ、ぷりんすき』
リムと話しているとツンツンとつつかれた、振り返るとカーラさんが期待した目で僕を見ている。可愛い。
「プリンのおかわりですね、今日はこれで最後ですよ」
「残念、明日もプリン食べられる?」
「いいですけど、そんなに連続してプリンを食べると飽きますよ?」
「だいじょうぶ」
おかわりのプリンを出して、他の欲しい人達にも配っていく……結局全員に配った。プリン大人気。食事も終わり、リビングに集まり紅茶を飲む。ふー、落ち着くな。
「ねえ、ワタルさん。部屋にあるトイレは、分かったんだけど、シャワーはどう使うの?」
「ああ、そうでしたね。シャワーは上からお湯が降って来て体を洗う事が出来ます。使ってみますか?」
混浴を狙う為にシャワーの説明は少なめに流したんだけど、気付かれてしまった。今日はお風呂は無理そうだな。
「面白そうね、お願い出来る?」
興味を持たれてしまった……
「はい、では説明しますね」
ジラソーレは全員シャワーを使ってみるそうだ。無念……。まあシャワーの方が湯着も着なくていいし、体は洗いやすいよね。
湯船につかるのは気持ち良いんだし、チャンスが無くなるなんて事も無いだろうから良いか。
「うーん、僕は今日もお風呂が良いんだけど、2人はいい?」
「ええ、いいわよ」
「はい、大丈夫です」
湯着に着替え、リムと戯れながらのんびりお湯に浸かる。でもしっかり体を洗う為に、お風呂だけでなくシャワーも浴びた方がいいな。
ゆっくりお風呂を堪能して部屋に戻る。寝間着に着替えてリビングに行くと、ジラソーレが揃っていた。
なんかいい匂いがする、これだけの美人が6人もいれば、いい匂いになるのか? シャンプーとかリンス、ボディーソープが手に入ったらどうなる事か?
「皆さん冷たい飲み物はどうですか?」
「お願いします」
全員にジュースを配り、ソファーに座る。
「ふー、美味しいわ。ワタルさん、シャワーも気持ちがいいわね。ゆっくり出来るのはお風呂なんだけど、直ぐにサッパリできるシャワーも好きだわ」
「そうですね、アレシアさんの言う通り、体を洗うだけなら、シャワーでも十分ですね。お風呂はゆっくり体を温められて疲れも取れるんですが、時間が掛かりますし」
ちょっとだけでもお風呂の良い所を混ぜておこう。
「そういえば、島でもお風呂にゆっくり入った後は、疲れも取れた気がしたわね。グッスリ眠れたし」
「お風呂にはそんな効果もあるみたいですね。まあその日の気分で使い分けてください」
「ありがとう。こんなに快適な船旅になるなんて思わなかったわ。本当に護衛だけでいいの? ここ一流の宿屋より快適なのだけど」
「はは、まあ大丈夫です。前にも言った通り、お金を貰うと気を使いますし、気楽な方がありがたいので」
「ふふ、分かったわ。でも陸なら力になれると思うから、要望があったら言ってね」
「ありがとうございます。その時はお願いしますね」
ふー要望とか言われて、直ぐにHな事が頭によぎるから僕は駄目なんだろうな。なんというかこう、余裕のある人間になりたい。
僕達とジラソーレでリバーシ、ジェンガで遊ぶ。相変わらず素晴らしい光景だ。リムがポヨンポヨンと飛びついて来て意思を伝えて来る。
『りむ、つよい』
「ん? 何が強いの」
『りばーし』
リバーシ? 対戦をしているテーブルを見ると、イネスが固まっている。
「もしかして、イネスに勝ったの?」
『うん、りむ、つよい』
「おおー、凄いね、最初は全然勝てなかったのに、強くなったね」
『うれしい』
「そっかー頑張ったんだね。えらいねー」
リムを撫で繰り回しながら褒めまくる。上手になってたからいずれは勝てるかなって思ってたんだけど、想像以上に早かったな。
ドロテアさんとかイルマさんは、リムにわざと負けてくれたりしてたけど、イネスは全力だったからな。本気でやって本気で負けたからショックが大きそうだ。
フェリシアが慰めてるけど、顔がこわばってる。フェリシアもリムと本気で勝負してるから、負ける可能性を考えてるんだろうな。なんか面白い。
ジェンガとリバーシ……他にも何か考えるか。僕としてはツイスターとか作りたいんだけど、目的が露骨すぎる気もする。まあ南方都市に戻ったら考えてみよう。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。