3話 兎狩りと今後の展望
朝か……周りを見渡すと誰もいない……寝すぎたかな? 大部屋で雑魚寝、普段ならなかなか眠れそうにない環境なのに、熟睡してしまった。
異世界に突然迷い込んで、初日を何とか乗り切った。これからどうするのか、きちんと予定をたてないとな。駄目だ、お腹すいて考えがまとまらない。よく考えたら丸一日何も食べていない。ご飯にいこう。
「おはようございます」
宿の女将さんに挨拶すると「もう昼だよ」っと返ってきた。やっぱり寝すぎたらしい。井戸で顔を洗い口をゆすぐ、歯ブラシもほしいな。
「女将さん、トイレに行きたいんですが……」
「あー、そこにあるよ」
「ありがとうございます」
和式のポットンスタイルか、苦手だな。拭くものはこの葉っぱか、苦手だ。気を取り直して頑張るか。
大通りを通りながら、目についた屋台で角兎の串焼き2本とパンを買う。3銅貨だ。なんとなくだが1銅貨100円位かな?
異世界最初の食事、角兎の串焼きはボリュームがあっておいしいが、塩味のみなのがちょっと残念だ。香辛料は高いのかもしれない。あとパンが固い。
今日の予定は最低限必要な道具を購入して、一晩泊まれるぐらいのお金を稼ぐ。稼いだら早めに切り上げて夜はゆっくり今後の計画を立てよう。
泊まる場所が確定しているだけでこんなに気持ちが楽になるなんて、日本にいた頃は考えたこともなかった。帰る場所って大切だよね、雑魚寝だけど。
大通りを歩くと道具屋を発見、必要な物を考えながら店員さんに声をかける。
「すいません、獲物を入れる為の袋、解体ナイフ、水筒、歯ブラシ、歯磨き粉、タオル、それらを入れる鞄が欲しいのですが、資金がないので一番安いので22銅貨に収まりますか?」
「22銅貨かい? ちょっと厳しいかもね。とりあえず安いの並べていくから何を買うか選ぶといいよ」
「袋、5銅貨、解体ナイフ、7銅貨、水筒、5銅貨、歯ブラシ、2銅貨、歯磨き粉(塩)1銅貨、タオル5銅貨って所だね」
「うーん、全部で25銅貨……タオルを諦めます。残りを20銅貨でお願いします」
「あいよ」
「あと、この荷物を入れれる袋って2銅貨でないですか?」
「ん? この袋なら2銅貨でいいよ」
「それもお願いします」
残高0……今夜の宿代と夕食代で15銅貨は必要だ。最低5銅貨の角兎を3羽は狩らないといけない。
角兎がよく出るのは西方都市の南門から出て、南西方向の森の手前だったはずだ。さっそく行くか。あっ、先に宿屋で水筒に水をくもう。
西方都市の南門を出る時は、ギルドカード見せるだけですぐに通れたので、そのまま南西に歩いていく。
30分ほど歩くと森が見えた……ここら辺でいいのかな?
着いて早々に茂みが揺れて角兎が現れる。すぐに船召喚、手漕ぎボートの……面倒くさい、ボートでいいか。ボートの上に陣取り結界に体当たりしている角兎にオールを叩き込む。
簡単だ、ズルしている気になるが、余裕もないのでひたすら狩ろう。あっ、安物だけど解体ナイフも買ったし、しっかりと血抜きしないとな。
歩き回る→茂みが揺れる→船召喚→角兎をオールで叩く→血抜きを繰り返す、簡単なお仕事です。
それから2時間……角兎がえーっと9羽か。繁殖地だけあって短時間で昨日より多く狩れた。1度だけ複数で襲ってきたが、乗船拒否のおかげで一羽ずつ問題なく倒す事ができた。いい感じだし、今日は予定通り、早めに戻って今後の計画を立てよう。
ギルドに戻り買い取りカウンターに向かう。
「角兎9羽、お願いします」
「あいよ、血抜きはきちんとされてるね。傷も小さく綺麗だ1羽8銅貨、全部で72銅貨で引き取るけどどうする?」
おー、買い取り価格が1羽1銅貨アップ。解体ナイフ、いい仕事してますね。
「はい、それでお願いします」
昼間、買えなかったタオルを買って宿に戻ろう。
「お帰り。今日も宿泊するかい?」
「はい今日もお願いします。あと、今日は夕食も頼みます」
「全部で15銅貨だね。夕食は6の鐘から8の鐘の間ならいつでもいいよ」
「鐘ですか?」
「おやっ、西方都市では朝8時から夜8時まで、2時間毎に鐘を鳴らすんだよ。気がつかなかったかい?」
「気がつかなかったです。昨晩は熟睡してましたから。これ15銅貨です」
「毎度、この板を食堂で渡すと食事が出てくるからね」
大部屋に戻るとまだ早い時間だからか、部屋には2人しかいない。カドゲット! この広い部屋の僅か4つしかないカド部分をゲットできた事に微妙にテンションが上がる。
さあ気合を入れて今後の計画を立てよう。……どうしよう? やるべき事、気になる事をあげていくか。
借金1銀貨の返済
冒険者ギルドの冊子を読む
ギルドで色々質問する
スキル船召喚の購買画面の確認
スキル船召喚、外で色々試してみる
新しい下着と服が欲しい
図書館があれば、この国や周りの国を調べる
人種を調べる
貨幣の価値を調べる
井戸で水浴び
個室の宿に泊まれるように調べる
うーん、こんな物かな? できる事はさっさとやってしまおう。まずできる事は冊子だな。薄いし素早く読んでしまおう。
うーん、要約すると
・冒険者ギルドは国に所属しない
・戦争に参加しない、(個人で戦争依頼を受ける事は可能)
・F、E、D、C、B、A、S、SS、SSS、のランクに分けられている
・自分のランクの一つ上までの依頼が受けられる
・依頼を消化していけばCランクまでは上がるがB以上に上がるには試験がある
・Cランク以上には緊急時には強制依頼がある
・高ランクには指名依頼がある
・一定期間依頼を受けないとギルドカードが失効する、
・Fは1ヶ月、Eは3ヶ月、Dは6ヶ月、Cは1年依頼を受けないとギルドカードが失効する
だいたいテンプレ通りの組織だよね。でもどうしよう? 戦闘とか得意じゃないし無理してランク上げたいとも思わないんだよな。強制依頼がないDランクぐらいまで、上げられれば十分だな。
次は船召喚の購買画面か……ちょっと楽しみだ。ステイタスを開いて、おっ、またレベルが上がってる! レベル3になった。やっぱり体力が20上がって、運以外は全部2上がってる。このままいくのかな? まあいいや、購買画面を確認しよう。
ゴムボート 50銅貨~
スワンボート 30銀貨~
モーターボート 40銀貨~
漁船 4金貨~
クルーザー 20金貨~
フェリー・貨物船 100白金貨~
豪華客船 500白金貨~
これが買えるの? 途中から頭がおかしい値段が見える……白金貨? それっておいくらなんですか? 銅貨=100円 銀貨=1万円までは間違いないと思う。漁船が4金貨って事はおそらく金貨=100万円、なら白金貨=1億円?
銅貨=100円
銀貨=1万円
金貨=100万円
白金貨=1億円
でおそらく間違いない。となると……。
ゴムボート 50銅貨~ 5千円~
スワンボート 30銀貨~ 30万円~
モーターボート 40銀貨~ 40万円~
漁船 4金貨~ 400万円~
クルーザー 20金貨~ 2000万円~
フェリー・貨物船 100白金貨~ 100億円~
豪華客船 500白金貨~ 500億円~
500億稼げば豪華客船が買えるのかー、現実感がまったくないな。1銀貨=1万円の借金を返すのが目標な現在、豪華客船……どうしたら到達できるのか?
ゴムボート50銅貨~これは早めに買うべきかな? 底が平なのが素晴らしい。手漕ぎボートは地面の上だと斜めになって大変なんだよね。
問題は2人乗りの手頃な値段のゴムボートを買うか。4人乗りの9銀貨クラスの大型ゴムボートを買うかだ。
手頃なゴムボートはすぐに手に入るし底が平。でも手漕ぎボート位の大きさしかなくて狭い……。
4人乗りのゴムボートは買うのが暫く先になりそうだが、縦・横が広がり余裕がもてる。現在、一緒に乗る相手すらいないのに4人乗りとか虚しいだけな気もする。
結論、借金返したあとに、1銀貨ぐらいの少しよさげなゴムボートを買おう。
次はスワンボート……いらないな。
モーターボート……いずれモーターつきの船はほしいが。まだ船を水面に浮かべた事すらないので保留。
購入画面を見て思ったが、軍船とか売ってないんだ。兵器とか積んでるのは駄目なのか?
豪華客船、どんな船なんだろう。とりあえず、この一番高いやつ……部屋が2700室、プールにテニスコート、カジノ、スケートリンク、映画館、沢山のレストラン、等々……資料が多すぎて、なにを見たらいいのか分かんないや。
仮にこの豪華客船が買えたとしたら、お店とかどうなってるんだろう? 店員とか商品とか……映画館もちゃんと上映できるのか? 色々気になるな。
寝っ転がって色々と考える。そういえばメッセージをくれた人って誰なんだろう? スキルをつけましたって書いてたし、もしかして神様なのかも。異世界だってあるんだし、神様だっていてもおかしくないよね。
カラーン、カラーン、カラーン
ん? 今のが鐘の音っぽいな。結構大きな音で、今のが6の鐘だから食事ができる。お腹が空いたからさっそく食堂にいこう。
「この板はここで渡せばいいですか?」
「おう、初めてか? メニューは1種類しかねえから、板を渡したらそこで食事を受け取りな。食べ終わったらあそこに持っていってくれ」
「はい」
食事を受け取って席に着く。大き目のパンが2つに、大きな野菜が沢山入ったシチューか。パンが固いが……シチューにつけて食べればなんとかなる。シチューは野菜がたっぷりで食べごたえはあるし、肉は角兎かな?
おいしいけれど単調な味で、どこか物足りない。でも、駆け出し冒険者の為の宿だし、量も沢山で結構頑張ってくれてるようにも思える。
「ご馳走様でした」
食器を返却したし、次は……風呂に入りたいなー。
女将さんを見つけたので聞いてみる。
「女将さん、お風呂に入れる場所ってありますか?」
「あははは、そんなもん入るのはお貴族様か大金持ちぐらいさ。あんたいいところの出なのかい?」
「いえいえ、田舎者でして、都会の人達はお風呂に入るって思ってたんですよ」
「なんだいそうなのかい、この宿では水浴びが精一杯さね。個室の宿屋なら頼めばお湯を運んでもらえるよ、頑張んな!」
「個室の宿ですか? いくらぐらいで泊まれるんですか?」
「ピンキリだけど、だいたい1泊30銅貨ってとこかね? 綺麗な宿だと40~50銅貨ってところもあるね」
「そうなんですか、ありがとうございます。まずは30銅貨の宿を目指してみます」
「あはは、頑張んな。でも無理はするんじゃないよ。ここは駆け出しの為の宿だがね、無理して帰ってこれない新人ってのも結構いるんだよ。あせらず頑張りな」
「はい、あせらず頑張ります」
やっぱり冒険者って命がけの仕事なんだな。……確実に向いていないんだけど、今はひとまず冒険者で頑張らないといけないんだ、慎重にいこう。
井戸で濡らしたタオルで体を拭いて、歯を磨いて部屋に戻る。まだ19時くらいかな? 今日分かった事をまとめて、明日の計画をたてるか。
借金1銀貨の返済
○冒険者ギルドの冊子を読む
ギルドで色々質問する
○スキル船召喚の購買画面の確認
スキル船召喚、外で色々試してみる
新しい下着と服が欲しい
人種を調べる
○貨幣の価値を調べる
○井戸で水浴び
○個室の宿に泊まれるように調べる
明日は朝から外に出てから船召喚を試して、多めに角兎を狩るか。明日で借金を返したいし、せめて替えの下着もほしい。つらつら考えながら眠りに落ちる……お休みなさい。
借金1銀貨 残高52銅貨
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。