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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
二十六章
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5話 大和魂的な……

 三女神様方との最高に楽しくなるであろう一週間のハッピータイムが幕を開けた。到着して少し部屋で休んでもらい、お昼の時間。僕は初手から切り札を切ることにする。そう、うちの女性陣にすらまだ披露していない〝ふぐ料理〟だ。まあ、その結果、美食神様が感動で涙をこぼすという異常事態に陥り、僕は始まる前から不安でしょうがないのだが……。




「あの、美食神様、大丈夫ですか?」


 おそらくだが悪い感情で流した涙ではないので大丈夫だとは思うが、神様が涙を流すという異常事態に……ん? 


 創造神様が捕まって泣き喚いたり、創造神様の暴虐に泣かされたりしている神々を見たことが何度もある気がするな。


 僕の動揺は神様を涙を泣かせたことではなく、美女である美食神様の涙を見たからだろう。だって、創造神様が泣いても、ざまぁとしか思わないし、男の神様が創造神様に泣かされているのも見ても、ああ可哀想だな、くらいしか思わないもん。


「ええ、大丈夫よ航。人の美食に対する探究心に感動してしまっただけだから。神である私が最初から食べようとすら思わない生物を、犠牲を伴いながらも研究し、一流の食材にまで高めた努力と探究心は敬意に値するわ」


 おお、食に関してはクレイジー扱いされることが多い日本人だが、異世界の神様に敬意を表されちゃったぞ。


 そうだよな、冗談で命を掛けられないし、飢餓とかやむに已まれぬ事情があったから毒があると分かっているふぐを食べざるを得ない状況も多々あったはず。


 だからこそ、日本人は犠牲を伴いつつ研究し、ふぐを美味しい食材にまで昇華させた。


 そういうことにしておこう。それが一番誰も傷つかない。


 なんかうっすらとした記憶の片隅に、鉄砲と呼ばれて当たると死ぬのに度胸試しに食べていたとか、他にも食べる物があって、上から禁止されているにも関わらず食べて死んじゃった人が結構いたとか聞いた記憶があるのだが、たぶん勘違いだ。


 日本人は真面目で勤勉な種族なはずだから、そんなことがある訳ないよね。


 大和魂的なあれこれで頑張った。それでいい。


「美食神様にそこまで思って頂けるなんて、僕の故郷の先達の方々も光栄に思っていることでしょう。ありがとうございます」


「感謝したいのはこちらの方よ。航、虎ふぐ料理、心から楽しませていただくわ。あ、スタッフ任命を解除してくれる。最初は何も知らず、ありのままの料理を楽しみたいの。名残惜しいけどね」


「分かりました」


「あぁ」


 美食神様のスタッフ任命を解除すると、美食神様が小さく色っぽい吐息を漏らす。強烈に色っぽいのだが、美食神様は単純に消えていくふぐ料理の知識を惜しんでのことなんだよな。


 罪深い人、いや、女神様だ。


「美食神がそこまで反応するなんて凄い料理なのですね」


「そのようですね。とても楽しみです」


 美食神様の反応を見て光の神様と森の女神様の料理に対する期待値がグンッと上がってしまったようだ。


 大丈夫かな? ハードルが高くなりすぎて期待外れとか思われるの、嫌なんだけど?


 ……まあ、虎ふぐ料理のポテンシャルを信じることにしよう。僕はあまりふぐ料理を食べたことがないのだが、その数少ない機会で、大人に近づくほどふぐの味が理解できるようになり、なるほどと納得できるようになった。


 美食神様は当然として、光の神様も森の女神様も長い時を重ねた神様だ。虎ふぐのポテンシャルを理解してくれるはずだ。


「サポラビ、お願い」


 自分を奮い立たせて、サポラビに開始の合図を告げる。


 まずサポラビが運んできたのは小鉢。


「これは虎ふぐの皮を湯引きした物です。あっさりとした味わいですが、コラーゲンが豊富でコリコリとした食感が楽しい先付ですね」


 僕もまだ食べていないが、コース料理を説明するために予習はバッチリだ。本来であれば味もバッチリ予習しておくべきなのだが、せっかくの虎ふぐ料理を一人で食べるのは悲しかったので、そこは我慢することにした。


「へー、皮だけを食べるなんて面白いわね。では、頂くわね」


 僕の説明が終わると、待ちきれないとばかりに美食神様が箸で虎ふぐの皮の湯引きを掴む。


 女神様方はフェリーのグルメや豪華客船の日本料理も楽しんでいるので、お箸の扱いもバッチリだ。


「んふ、このコリコリとした食感、面白いわね。そしてこのポン酢の味も秀逸ね。ただのポン酢ではなく出汁を絡めてたんぱくな味わいの虎ふぐの皮の味を生かしているわ。そして、たんぱくだけど、皮の味もそれだけじゃない。あっさりとしながらも深みがある……これがコラーゲンの味なのかしら?」


 美食神様が食レポをしてくれた。


 これって実は凄く贅沢なことだよね。


 美食神様の食レポを聞いて、僕や光の神様、森の女神様も小鉢に箸をつける。


 ……うん、あっさりとした味わいと美味しいポン酢の風味を感じる。たしかに皮のコリコリとした食感も楽しい。


 だが、美食神様の言う、味の深みはサッパリ理解できない。そもそも、コラーゲンって味があるの?


「あら、本当に美味しいですね」


「ええ、奥深い味わいが体に染みわたるようです」


 ……光の神様、森の女神様には理解できるようだ。


 ……僕はサッパリ分からないが、みんな分かっている様子なので、僕も分かったふりをして頷いておこう。 


「まあ、まるで大輪の花ね。素晴らしい技術だわ。お刺身をこれほど薄く切るということは、弾力と旨味が強い魚なのかしら?」


 フェリーや豪華客船で体験するまではお刺身を食べたことが無かったはずの美食神様が、運ばれてきた虎ふぐのお刺身を見て、食べていないのにレポートを始める。


 しかもたぶん間違っていない。


 たしか料理漫画でも似たようなことを言っていた気がする。


 と、言う訳で―――。


「―――その通りです美食神様、虎ふぐのお刺身は――――――」 


 僕も負けていられないので、漫画知識をそれらしく説明する。知ったかぶりは恥ずかしい行為だと思うのだが、正直、とても気持ちがいい。


 美食神様は特にだが、光の神様も森の女神様も頷きながら真剣に聞いてくれるものだから、舌に油を差したかのごとく滑らかに滑りまくる。


「おっと、失礼しました。頂きましょうか」


 でも話し続けると嫌われてしまうので、断腸の思いで話を止めて食事を再開する。


「まずは何もつけずに頂いてみましょうか」


 美食神様が、ふぐ刺しに醤油どころか塩さえ付けずにふぐ刺しを口に入れる。美食神様、僕が散々虎ふぐを推したからか、いつも以上に真剣だ。


 食事を楽しんでもらいたかったので、なんだか申し訳なく感じる。


「ああ、この弾力、そして噛みしめると奥から顔を出す仄かでありながら強い旨み。たしかにこの魚は素晴らしいわね。これほど繊細でありながら旨味の強い魚は他に思い当たらないわ。奇跡的なバランスね」


 奇跡が飛び出しました。


「なるほど、毒があると知りながら、研究を続ける価値があると判断するのも理解できるわ。私も―――」


 奇跡の後にまだ続きがあるだと!


 それはさすがの僕も予想外だ。美食神様のお話も聞きたいが、ふぐ刺しが気になるので、光の神様と森の女神様と顔を見合わせ頷きあってふぐ刺しに手を伸ばす。


 もちろん、僕は素材の味だけを確認しても理解できないので、ポン酢にネギと紅葉卸でいただく。


 ポン酢にも拘っているので、最初は上品で旨い調味料とネギと紅葉卸の味が口の中に広がり、弾力がある虎ふぐの刺身を噛みしめると、美食神様の言う仄かでありながら強い旨みが顔を出す。


 僕はこの旨味を子供の頃は感じ取れなかった、いや、感じ取れても理解できなかったのだろう。


 だが、最近は上品な料理を食べる機会が増えたからか、ある程度旨味が理解できるようになった。舌が磨かれたのかな?


 子供の頃に鍛えないと味覚の発達は難しいと聞いたことがあるが、慣れと経験である程度フォローできるのかもしれないな。


「航さん、美味しいですね」


「はい、とても美味しいです」


「私もこのお魚、大好きです」


 黙々と虎ふぐのお刺身に集中する美食神様をしり目に、僕達は穏やかに食事を続ける。こういうのでいいんだよ。僕にグルメ漫画スタイルは似合わない、というか、無理だ、圧倒的に美食に対するスキルが足りない。


 美食パートは美食神様にお任せすることにしよう。


 さて、ふぐ刺しの次は楽しみにしていた虎ふぐの唐揚げ、漫画で見てから食べてみたくて楽しみにしていたんだよね……ん?


「サポラビ、どうしたの?」


 サポラビがメニューを差し出し、トントンと指で叩く。虎ふぐのヒレ酒?


 そういえばお酒を呑んでいなかったな。虎ふぐに夢中ですっかり忘れていた。


「教えてくれてありがとう。とりあえず全員分、お願い」


 虎ふぐのヒレ酒。僕が最後にふぐ料理を食べた時は二十歳前だったから、こちらも当然未経験だ。


 ただ、大人達が大喜びをしていたのも覚えているので、当然、物凄く興味がある。


 同時にヒレを焼いてお酒に浸けただけなのに、何が変わるの? あと、火をつける意味も分からないという疑問もある。


 ふぐのヒレ酒は僕にとってそんな不思議な存在だ。


 それがすぐ手に届くところにあるのだから、呑まない選択肢はないよね。


 サポラビが小さなオボンで虎ふぐのヒレ酒を運んでくる。普通のお酒と違い色々とやることがあるので道具もそれなりに必要になるようだ。


 ……え? 自分でやるの? 僕、ふぐのヒレ酒の作りからなんて知らないよ?


「あら、お酒の香り」


 うわ、黙々と虎ふぐのお刺身と向き合っていた美食神様が復活した。困った、手順があやふやで戸惑っている姿は見せたくないんだけどな。


 最初は誰かと一緒が良いなんて思わず、コースを食べてしっかり予習しておくべきだったか。


 後悔しつつ、お盆に手を伸ばすと、ウサギの手に遮られる。


「え? サポラビがやってくれるの?」


 コクリと頷くサポラビ。


 もしかしたら僕の不安を見抜いて? 意識を解放するのは怖いのだが、今この時ばかりは感謝したい。


「うん、じゃあお任せしようかな。まずは美食神様のをお願い」


 お酒なのに色々と道具が用意されており、美食神様の興味もマックスなので、一番はお譲りすることにしよう。


 美人に見つめられるのは嬉しいけど、凝視されながらお酒の感想を待ち構えられるのは困るからね。


ふぐだけで長くなり過ぎました。申し訳ありません。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
そこまで美味いかなぁ 確かにヒレ酒を初めて飲んだ時は衝撃的だったし唐揚げも絶妙に揚げてたから美味かったけど刺身はなぁ…… 刺身の時は単に調理人の腕が悪かったのか? 皿の模様見えなかったしガムとタイヤの…
フグ食は縄文時代からあったようで、死ぬかもと知ってて食ってたフシが見受けられるらしい。 ちなみに、縄文時代は案外食料豊富であり、飢餓のために仕方なくではなく、美食のために食べてたんじゃないかとさえ…
フグは食いたし命は惜しし、だから死なないように祈りながらフグ食うね…… 控えめに言って異常者だけど自分が同じ環境ならやりかねんなともおもうんだよなぁ……
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