20話 ご愁傷様です
古竜の討伐に成功し、帰り道でもなんやかんやありつつも無事にヨーテボリに帰還した。帰り道にあった出来事も含めてドナテッラさんとメアさんに報告したら、ドナテッラさんが意味深な顔をして笑っていたので、たぶん僕達に都合の良い何かが起こるのだろう。
僕達がヨーテボリに帰還した翌日、冒険者ギルドの前の広場でトヨウミ商会の護衛部隊に守られながら古竜の頭部が展示された。
みな余裕がある訳ではないはずなのだが、大盛況で展示した日は一日中人が途切れなかったらしい。
まあ、僕は朝に古竜の頭部を運んでから、あとは不在時の仕事のフォローで忙しかったからその光景を見ることはできなかったのだが、トヨウミ商会の名はヨーテボリ中に響き渡ることになった。
今のヨーテボリはこの辺り一帯どころか、それなりに離れた場所からも出稼ぎや被災者が流入しているので、この人達が地元に戻る頃にはトヨウミ商会の名はこの国全域に響き渡ることになるらしい。
そして展示の翌朝には、冒険者ギルドを通じて古竜の頭部をエタニティ王国、今更国名を知ったのだが、ヨーテボリを所有する戦勝国のエタニティ王国に献上しに行ってもらった。
本来であれば代官を通した方がスムーズに進むらしいのだが、代官は色々とアレなので、冒険者ギルドのギルマスに頑張ってもらうことにした。
冒険者ギルドの職員とヨーテボリ所有の犯罪奴隷、その中でむさくるしくない腕利きを護衛に、ギルマスは古竜の頭部を披露しながらエタニティ王国の王都に向かっているはずだ。
ついでに古竜が目覚めかけているというお爺さんの訴えを無下にした領主のこともチクってもらうように手配している。
今まで出会った貴族を鑑みるに、エタニティ王国の上層部がどれだけ期待できるかは分からないが、古竜の大暴れなんて可能性を見過ごした領主にはそれなりのペナルティを与えてくれる……といいなー。
既に討伐されているから、普通にスルーされる気がしないでもない。でもまあ、現物の古竜の頭部を献上するのだから、報酬に関してはしっかり対応してくれるはずだ。
しなければエタニティ王国のメンツにも関わるらしいからね。その為にもギルマスが大々的に古竜討伐と頭部の献上を喧伝している意味もある。
ちなみに、古竜の頭部の素材、その中でも価値が高い牙の扱いに関しては少し悩んだ。
武器の素材としてもかなり価値がある物だから、こちらで確保するべきか、それとも丸のまま献上して価値を高めるか、地味に難しい選択だった。
最終的に歯抜けだとカッコ悪いということでそのまま献上することにした。
武器の素材に関してはね、古竜の爪は残るし、手に入れようと思えば地の龍の素材も手に入るから、古竜と言えども僕達の中ではどうしても必要というレベルではなかったからだ。
まあ、なんか秘薬の原料になるらしい目玉とか脳とかはしっかり確保してあるし、胴体も丸のまま残っているから、古竜の素材に困ることもないしね。
ヨーテボリに帰還して二十日、そんな手配をしつつ運搬作業も真面目に熟しつつ、穏やかな日常を過ごしていたのだが、ついにというか、ようやくというか、波乱の朝を迎えることとなった。
まあ、今日、某男爵様がヨーテボリに到着する予定なだけなんだけどね。
あの男爵様、十日と言っていたのに代官に先ぶれが来たのが十五日後で、二十日に到着しますという内容。
僕はもう来訪はないんじゃないかと油断していたから、かなり驚いた。就職したことがないから想像でしかないが、ビジネスだったら商談が破談になるんじゃないかと思うレベルの遅さだと思う。
でも、そう思っていたのは僕だけで、貴族を知るドナテッラさんやメアさん、アレシアさん達などは、まあ、こんな物だろうと受け入れていたので、久しぶりに世界観のギャップを強く感じることになった。
伝達方法やら移動手段が未熟だからそんなものかもしれないが、十日は遅いよね?
そして、僕がそんな疑問を抱えながら運搬業務に精を出している間も、ドナテッラさん達は某男爵に関しての情報収集を進めていた。
つまり、某男爵は既に詰んでいる状況だったりする。
某男爵……もう名前も調べがついているからいいか。某男爵の家名はスキダドゥル、つまりスキダドゥル男爵は本家であるスキダドゥル伯爵家の三男であり初対面の印象通りの貴族のボンボンなのだそうだ。
彼は本家の庇護にあるぼんくら貴族で、本家からつけられた家臣が可もなく不可もなくと言った様子で自分の領地を運営しているらしい。
そもそも、彼は本来男爵の爵位を得ることができずに、伯爵家でのんびりとした飼い殺しのような人生を送るはずだったのだが、今回の戦争で戦勝国となったことで本家が加増、そのおこぼれに与って男爵位を得た幸運な人物なのだそうだ。
……僕も人のことは言えないが、上位者から授けられた力でのほほんと人生を渡っている道楽者って感じだろう。
そして、その道楽者が今回ミスを犯した。
道楽者本人はどうでもいい存在らしいのだが、その本家は違う。今回の戦争で加増される活躍をした有力な貴族であり発言権もある。
つまり、ノコノコとやってきた男爵様を型に嵌めて、その上の伯爵様にコネを得ようという計画が立案され、後は実行を待つだけとなっている。
まあ、型に嵌めるといっても、この地の権力を求めている訳ではないので流通への協力と伯爵領へのコネの融通程度でおさめるとドナテッラさんとメアさんは話していた。
そして、男爵をきっちり型に嵌めたのを見届けて、僕達は北の大陸に帰還することになっている。
いまだに助けを求める人は多いのだが、犯罪奴隷集団の活躍で治安の回復と流通がある程度回復し、自然の恵みも魔物素材も確保できるようになった。
傷病者もいまだに流入してくるが、こちらもよほどの重傷者でないかぎりクラレッタさんとリムに頼らずに治療できる環境と物資も整った。
二十日の間に倉庫街に建設された簡易倉庫に北の大陸から持ってきた物資も運び込み、警備もトヨウミ商会の護衛部隊が配置されているのでなんとかなる状況だ。
まだまだ手伝える部分もあるのだが、手伝いは復興が終わるまでなくならないのでこの辺りで切り上げようとの結論に達した。
国からの古竜の頭部の対価に関しては、北の大陸に戻らないといけないのでメアさんを代理にとギルマスに伝言を頼んでいる。
メアさんは南の大陸支店の支店長に就任し、南の大陸の僕の全権代理という書類を渡してあるので、メアさんに何かあったら僕に喧嘩を売ることになるし、別の書類にそのこともしっかり記載してメアさんに預けている。
古竜討伐の名声がメアさんとトヨウミ商会南の大陸支店を守ることにも繋がるはずだ。
まあ、メアさん自身もそうだが、幹部達と犯罪奴隷の護衛部隊も相当な強者になっているので、僕達の名声が無くても大抵の相手から身を守ることはできそうだが、保険は多い方が安心だよね。
「スキダドゥル男爵が城門に到着されました。宿に向かわずそのままこちらに向かわれるそうです」
交渉後の行動を考えていると、スキダドゥル男爵の到着が知らされた。
一応ヨーテボリの中でもマシな宿屋を抑えているのだが、休むことなくこの場に来るようだ。
もしかしなくてもうちの女性陣との再会にワクワクしまくっていたりするのかな?
でも、一応、僕と問題の女性陣は隣の部屋に控えているから再会は無理だよ。何故なら美女が目の前にいると、男爵が興奮して話し合いが予定通り進まない可能性があるからだ。
この部屋はファンタジーでよくある隠し部屋で、隣の部屋の様子が把握できる仕組みになっている。
お宝が目前にあると、なかなか諦めきれないからね。同じ理由でイネスとフェリシア、リムとペントも当たり前だが僕と一緒に隣の部屋で待機中だ。リムもペントもレアなので男爵が食指を動かさないとも限らない。
ドナテッラさんとメアさんも言うに及ばす、美女なので隣の部屋で待機だ。
つまり、代官と商業ギルドのギルマスという何の潤いもないメンツでの話し合いとなる。
ドナテッラさんとメアさんが想定問答集的な資料を作り事前に代官にも勉強してもらったので、交渉に関してはなんとかなると信じている。
「いやー、ヨーテボリの被害は相当なものだと聞いていましたが、復興は順調なようですな。さすがホッグワッシュ子爵ですな。しかしどうして会談の場所が代官屋敷ではなく冒険者ギルドなので?」
入ってきたとたん、挨拶もそこそこに自分の言いたいことを言う男爵。やはり自分本位の空気が読めないタイプだ。
代官の頬が引きつっているぞ。
「それは申し訳ない。見た通りヨーテボリは復興中でしてな、代官屋敷は治療院として提供しておるのですよ。まあ、貴族として当然の責務ですな」
貸し出しではなく僕達が奪ったのだが、まあ、ここは突っ込む場面じゃないよね。一応、今は代官も味方だ。
この時点で想定問答集の挨拶パートと前半パートが大幅カットされていて、少し不安を覚える。
「ほう? それは奇特なことですな」
子爵と男爵。爵位では子爵の方が上なのだが、対等の立場で会話が進んでいく。これは後ろ盾の違いらしい。
スキダドゥル男爵の父親は伯爵で、しかもエタニティ王国でも力がある派閥に属している。
反面、代官である子爵は、後日挿げ替えることが前提でヨーテボリに派遣されていることから分かるように弱小派閥の人間である。
貴族社会は爵位の上下だけで決まらないところが面倒だよね。
最初の挨拶が終わり代官が男爵に席を勧め、お茶が運ばれてくる。これからが本格的な話し合い……と言う名の男爵を型に嵌める時間だ。
「して男爵、なにやら私が雇っている商人と冒険者達について話があるとのことでしたが?」
代官が少しイキイキしている。代官も男爵を嵌めるのが楽しみなのかもしれない。
「そうなのです。あの者達は冒険者にしておくのはもったいないと思いましてな、召し上げることにしたのですが、子爵と契約中とのことなので、私自ら話を通しに来たのですよ」
ズバリと切り込む男爵。この男爵様の辞書には遠慮とか配慮とか我慢とか、色々と沢山の文字が抜けている気がする。
まあ、だからこそ、型に嵌めやすいのだろう。ご愁傷様です。
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