17話 拡散希望
誰にも大きな怪我はなく、無事に古竜の討伐に成功した。死に際に古竜にディスられて、勝利の余韻は味わえなかったが、まあ、終わりよければすべて良しということにしようと思う。少し休憩した後、古竜の頭部を解体し、運べるように台車を作成してようやく山を下りることにする。
山から下りて、朝方お爺さんを送り届けた村に報告に向かう。
目的の村から少し離れた場所でいったん停車し、ハイダウェイ号から古竜の頭部を載せた台車を下ろし、レンジャー号と連結、再び村に向かって出発する。
「だだだ、大丈夫ですかね? 倒れそうになっていたりしませんか?」
走行速度を落として走ってはいるが、レンジャー号単独で走っていた時でもそれなりに車体は揺れていた。
その揺れが素人仕事の台車に襲い掛かるのかと思うと、運転中でも気になって仕方がない。バックミラーを確認するだけでは安心できず、何度も女性陣に質問してしまう。
「ご主人様、今のところ大丈夫よ。台車はしっかり確認しておくし、何かあったらすぐに伝えるからご主人様は運転に集中してちょうだい」
何度も聞き過ぎたのか、イネスに苦笑いで注意される。分かってはいるんだけど気になっちゃうんだよね。
とはいえあまり聞き過ぎるのも迷惑なのは理解しているので、なんとか我慢して運転に集中する。
お爺さんを送り届けた村に到着すると、なんだか凄いことになっていた。
門に武器や農具を手に集まっている男達。その背後には大荷物を抱えた女性や、荷車に積み込まれた子供達。
子供達は緊迫した雰囲気に怖くなったのか、結構な勢いでギャン泣きしてしまっている。もしかしなくても、古竜対策の避難準備をしていたのだろう。
無事に討伐は終わったが、今回の戦いは結構危ういところもあったので、この避難準備は正解だと思う。
早朝に訪れた時にレンジャー号を見せているので、それほど大騒ぎになることなく門から少し離れた場所に停車する。
あ、誰かが呼びに行ってくれたのか、お爺さんが凄い勢いで駆けてくる。気持ちは分からなくもないが、お爺さんと呼ばれる年齢なのだから、もう少し自分の体を労わってほしい。
「ワタル様! カヒュッ、ごごご無事で! こ、こりゅりゅりゅ、ぜはっ、カハッ、こ、りゅうは?」
下車すると、お爺さんが大声で話しかけてくる。
なんとか様付けを廃止して殿に敬称を変更してもらっていたのに、いつの間にか戻ってしまったようだ。まあ、しばらく会うこともないだろうし、このまま話を進めるか。
まずは、お爺さんの息切れを落ち着かせるところからだな。見ているだけで心臓に悪い。
「落ち着いてください。無事に古竜は討伐しましたよ。だからまずはゆっくり深呼吸をして、呼吸を落ち着かせてください」
凄まじい息切れに古竜討伐の安心と喜びが加わったらポックリ逝ってしまいそうなので、お爺さんの呼吸だけでも落ち着かせることにする。
「申し訳ありません、落ち着きました」
落ち着くまで結構な時間がかかったな。お爺さんを落ち着かせている間に、この村の村長さんもやってきたので古竜を討伐したことを説明し、もう大丈夫だと告げる……が、村長さんも村人達も半信半疑の様子。
まあ、女性陣はともかく、僕みたいな弱そうな人間が古竜を討伐したと言っても説得力はないよね。分かる。
「魔導車の後ろをご覧ください。結構刺激的なので、落ち着いて騒がないようにしてくださいね」
なので証拠を見せることにする。
「おお、さすが聖商様と戦女神様方です!」
お爺さんが感極まったかの如く叫ぶが、お爺さん以外はそれどころではない様子で、古竜の頭部を見て腰を抜かしたり、逆に喜び過ぎてハイになったりと大騒ぎになっている。
まあ、腰を抜かすのも仕方がないよね。
目や舌、脳などは抉りだされてゴムボートで保管されているが、それでも巨大で迫力がある顔と牙は健在なので、かなり恐ろしい見た目をしている。
というか、目とかを抉り出される前の方がまだ怖くなかった気がする。
だって解体以前は文字通り死んだ目をしていたから、古竜の死を強く感じられたのに、その部分がなくなり空洞になったことで、怨霊というか蘇って今にも動き出しそうな雰囲気になってしまっている。
でもまあ、古竜の頭部を見てしまっては信じざるを得なかったようで、村は避難前の緊迫感からお祭り騒ぎにシフトチェンジした。
「ものすごい轟音が響き渡り、強烈な雷や火柱がここからでも確認できました。本当に皆さまがご無事で何よりでした。心の底から感謝申し上げます」
そんな明るい空気の中、お爺さんが僕達に真剣にお礼を述べる。
……戦闘現場からかなり離れているのだけど、音や振動がここまで届いていたのか。そういえば、ここからでも戦闘があった山は視認できるな。
フェリシアなんて落雷レベルの雷の魔術を使用していたし、障害物もなく視認できる程度の距離なら、臨場感あふれる戦闘音が伝わってきていたことだろう。
なるほど、避難準備が万全だったのが理解できた。そりゃあ逃げる準備はしっかり整えるよ。結果オーライだけど、まだ避難していないことを非難するべきだったかもね。
おそらく古竜が飛んで逃亡していたら、この村の人達は洒落にならないことになっていた可能性が高い。
まあ、この辺り一帯も戦で荒れたらしいから避難しようにも避難場所がなかったのかもしれないけど……。
「ワタル様でしたかな? 古竜の討伐、本当にありがとうございました。今宵は宴を設けますので、是非ともお疲れを癒してください」
お爺さんと話していると、この村の村長さんにもお礼を言われた。
見知らぬ村の宴か……興味がないわけではないが、急いでヨーテボリに戻らないといけないし、既に疲れているので宴に参加する元気はない。
チラッと女性陣を確認すると、みんなもそれほど乗り気ではない様子なので、ここは申し訳ないが断らせてもらおう。
酷いかもしれないが、村の御馳走よりも僕達が所持している食料の方が美味しいもんね。
「お誘いありがとうございます。ですが古竜の素材の鮮度や、ヨーテボリもまだ復興途中なので至急戻らなければなりません。私達はこれから出発するつもりです」
「なんと」
「ワタル様方はお忙しい中、私が無理を言って来ていただいたのだ。お引止めしてはならん」
驚く村長さんにお爺さんが説明してくれる。お爺さんもヨーテボリの現状と、僕達が引き継ぎに走り回っていたことを知っているから納得してフォローしてくれたようだ。
そもそも僕達をもてなす宴もおそらくギリギリの物資を吐き出すつもりだろう。
ただでさえ戦争で荒れた一帯。
この場で喜びを爆発させている村人も、お世辞にも健康とは言えず痩せ細っている。
そんな状況に山裾の村から避難民まで押し寄せてきてしまったのだ。余裕なんてあるはずもない。
それでも宴を催す決断をしたのは僕達に対する礼儀。怒らせると古竜を討伐した武力の矛先が村に向くことを恐れた一面もあるはずだ。
……村長さんの寿命、今回の出来事でかなり縮んでいそうだな。
そうだ、宴を辞退するお詫びとして、美味しく食べられる安い海の魔物を村人がお腹いっぱい食べられるくらい提供しておこう。
お礼をされる側の僕が提供するのは変な気がしないでもないが、まあ、この村も山裾の村も、今後、トヨウミ商会南の大陸支店のお得意様になる可能性が高いので、先行投資と言えなくもないよね。
そういえば古竜が討伐されたから禁足地は無効になるよね? ならこの村とお爺さんの村で活用できるのでは?
手入れもほとんどされていない自然のままの山だが、それなりに利用価値はあるだろう。僕達が戦闘した跡なんか木々が焼き払われてマグマになった地面は冷えて固まっているが、利用できなくもないはず。
というか、アレシアさん達が解体している間に、念のための消火作業で水を撒いたら結構溜まっていたので水場としても利用できるかもしれない。
そのことを二人の村長さんに伝えると、周囲で話を聞いていた村人ともども大喜びしている。この様子なら問題なく活用してくれそうだな。
山裾の村とは古竜討伐の報酬として、木材やら山の幸やらで優遇してくれる契約になっている。
この契約も山裾の村を守る一助になるとドナテッラさんが言っていたし交易は続くはず。そうなると山裾の村に近く移民を受け入れるほど交流が親密なこの村も商売相手になる可能性が高い。
二つの村で揉めないように、しっかりと譲り合いながら活用するように言い含めておこう。その為にも宴会用の食料を提供するのは悪いことではないはずだ。
よし、理論武装完了。まあ、だれも反対しないだろうから自分の気持ちを整理するためだけの理論武装だけどね。
あと、一瞬古竜のお肉も提供するべきかと考えたが、さすがにそれはやりすぎな気がするので言うのは止めておこう。さて、海の魔物を提供して出発だ。
***
なんで外で食べるカップ麺ってこんなに美味しいのだろう?
海の魔物をお爺さん達に提供し、ドナテッラさんのミッションの為に古竜の頭部を披露しながら帰路についた。
もう、もの凄い反応で、旅人や行商人、そして商隊を追い越す度、すれ違う度に悲鳴や驚愕の声が上がる。
こちらも見せびらかすためにゆっくりと進んでいるので、中には追いかけてきて、どういうことかと質問され、そこでうちの美女集団が盛りに盛った古竜討伐話を吹聴する。
まるでサーガで語られるような話に、話を聞いた人達も大興奮。中には吟遊詩人らしき人も居たので、この話はかなりの速度で広まりそうだ。
ついでに山裾の村を見捨てた領主の話をチクった上で、古竜を討伐した僕達が山裾の村と契約を交わしたことも吹聴したので、領主側が山裾の村に無茶を言う可能性は下がっていると思う。
古竜討伐と共に領主の失策も拡散されるはずなので、かなり痛い目を見るのではないだろうか? 王侯貴族なんて足の引っ張り合いだから、国家規模で失策が広まったら対処が大変だろう。
それにしても、危険な状況でも結構人通りが多い。僕達のことを知っている人も居たから、ヨーテボリの復興が影響しているのであれば、商売の神様の依頼がしっかり果たせているということになる。
まあ、ここまで目立つことになるとは、僕も思っていなかったけどね。これがホームの北の大陸での出来事だったら、真剣に南の大陸か西の大陸への移住を検討しただろう。
日があるうちはそのような感じで進み、日が暮れると竜の頭部をハイダウェイ号に収納し、そこから速度を上げる。
日が暮れて二時間程度走り、後続から追いつかれることはないと確信してから野営に入る。野営の時くらいのんびりしたいので、後続との距離を広げるのは必須だった。
焚火を起こし、さあ夕食だ! となるのだが、僕は寝ていないし、女性陣も戦いや話の拡散のために疲れている。
なのでキャンプ飯で僕の好感度アップは断念し、食糧庫代わりのゴムボートを召喚し、それぞれに好きな物を食べてもらうことにした。
そんな中で僕が選んだのは王道のカップ麺の醤油味。疲れているのでカップうどんと迷ったが、今回は醤油ラーメンとおにぎりの気分だったからだ。
焦れるように僕のベストである二分半を待ち、掻き混ぜて一啜りすると、そのジャンクな旨さが体中に染みわたる。最高だ。
古竜討伐後の晩餐としては侘しいかもしれないが、心に染み入るこの味は、たぶんだけれど三ツ星レストランを上回っている……と思う。
読んでいただきありがとうございます。




