14話 クレバーな古竜
ついに始まった古竜との戦い。奇襲攻撃が上手に決まり、古竜の片方の羽を叩き折ることに成功した。成功したのだが、羽以外はピンピンしており、激しい戦いが繰り広げられる。こちらの攻撃は古竜の顔面にたいしたダメージを与えることができす、古竜の切り札的な熱線の攻撃はハイダウェイ号には通用しない。
「バカな。俺様のブレスを防いだだと。そんなことがある訳がない」
ブレスがかき消されたのがショックなのか、集中攻撃を受けながらもこちらを凝視する古竜。
あと、一人称が俺様なのだが、凄くテンプレートな暴君と確定してもいいのだろうか? 某猫型ロボットに登場する暴君のガキ大将も、偶に良い子になるから確定は微妙かな?
意地になって再び熱線のブレスを放つかと思ったが、突如走り出しハイダウェイ号にぶつかり弾き飛ばされる古竜。
なんだ今の行動。
視線が狂気に染まりながらもゾッとするほど冷たかった。そして自分がはじき返されることすら織り込み済みのような表情……。
「なるほど、ユニークスキルの類か。推測するに絶対防御系統か? ならば俺様の攻撃が弾かれるのも無理はない。だが、それほどの防御力、維持するにはそれなりの力が必要であろう。その力、いつまで持つか試してやろう」
え? この火竜、脳筋じゃなかったの。冷静に状況を分析して、半分くらいは正解しているのだけど……あれ? そういえば以前にも似たようなことが……強者は自分なら結界を打ち破れると思って攻撃を続けるのもテンプレートなのかな?
自慢の結界を打ち破ってやるから、恐怖に震えろ、的な思考回路なのかも。たしかに船召喚の結界が破られたら僕は粗相をするレベルで震えると思う。
ただ、残念なことに予想は半分は外れている。まあ、それを愚かと断定するのは違うだろう。
だってどんなに頭脳明晰な存在でも、僕が異世界人で、創造神様から直接チート中のチートなスキルを授かっているなんて想像できるわけがない。
僕がそんなことを考えている間も、女性陣の攻撃を受けつつハイダウェイ号に攻撃を続ける古竜。
しかも女性陣の攻撃を固い部分で受けているのか、それとも戦闘態勢に移行したことで防御力が上がったのか、こちら側の攻撃がほとんど通っていない。
戦いは膠着状態に陥った。
チクチクと攻撃を繰り返すが、それほど大きなダメージを与えられない僕達。
僕達というか、船の結界の能力の限界を早めるために攻撃を繰り返す古竜。
古竜の想像通りであれば、僕達はかなり追い込まれた状況なのだが、古竜にとって残念なことに船召喚はチートなので限界が存在しない。
この間違いは僕達にかなりの有利を運んでくれる可能性が高い。
「キリがないわね。みんな、足なら少し攻撃が通るから削るわよ!」
アレシアさんが古竜の顔を狙うのを止めた。
どうやら意識が集中している場所は固いと判断したようだ。そしてその言葉通り、アレシアさんの攻撃が古竜の足の鱗を少し切りさいていた。
戦闘状態に移行して固くなったというよりか、何かしらの技術で顔への攻撃を防いでいたようだ。
それでも少ししか攻撃が通らないのは古竜がそれだけ凄いということだろう。五千の人間相手に楽勝だったのにね。本当にこの世界の強者は突き抜けすぎている。
「ふん、小癪な攻撃など物の数ではないわ。このふざけた結界を打ち破ってからゆっくり痛めつけて食らってやる」
先に乗船拒否を破るというのであれば、女性陣が苦しめられる事態は訪れないだろう。
創造神様の御墨付きもあるし、神様達の攻撃すら楽勝で防ぐ結界だからな。
「なぜだ、なぜ力が尽きぬ!」
どうだ、そろそろ限界か? 耐えろよ人間、この結界が破れたら、お前達は地獄だぞ? とサディスティックな表情……古竜の表情は分からないが、サディスティックな声色で愉悦に浸りつつ結界を攻撃していた古竜の顔がついに歪んだ。
力が尽きないのは仕様だからです。
全力を結界破壊に注いでいた古竜、その間にチクチク攻撃を繰り返した女性陣のお陰で、右後ろ脚は骨まで見えるほど傷つき、左後ろ足もそれなりに重傷と言える状況になっている。
竜の血って、色々と活用できそうだが、もったいないことに垂れ流しで地面を赤く染めている。
勝利が決まった訳ではないが、もしこのまま僕達が勝利することになったら、勝因は古竜の高いプライドだな。
「くっ、仕方がないか」
いきなり古竜が向きを変え、足元の女性陣に攻撃を放つ。だが、うちの女性陣は歴戦の強者。
古竜の攻撃に反応して散開する。
この古竜、傲慢ではあるが頭も良く、それでいてクレバーだ。普通に戦ったら勝つことはできなかったかもしれない。
ただ、今回は相手が悪かったと言うしかない。
既に古竜はチートな乗船拒否に固執し、無駄な攻撃を繰り返して疲労している。その上片方の羽は折られ、両後ろ足はズタボロ、この状態でも勝ちを諦めていない精神力は称賛に価する。
だが、頑張られてはこちらが辛いので、そろそろ諦めてほしい。もう二時間近く戦っているんですよ?
まあ、命が掛かっているので、いくら時間がかかろうとも諦めないのは理解しているけどね。
幸いなことにこちらは乗船拒否があるので、戦いの合間に前衛の女性陣が交代でハイダウェイ号に戻り休憩しているから体力は問題ないが、集中力が少し心配だ。
乗船拒否を破ることを諦めた古竜は、前衛の女性陣に向かい強烈な炎を吐き出す。
強烈ではあるが、熱線ではなく普通の炎、もはや熱線すら吐けないほど疲労したのか?
「……不味いわ。ワタル、ペントに地面に向かって水を撒かせて。早く?」
「え? あ、ペント、地面に水を、急いで!」
アレシアさんの言葉が一瞬理解できなかったが、途中で意味が分かり慌ててペントに指示を出す。
古竜がいつまでたっても地面に炎を吐くのを止めず、狂ったかと思ったが、地面が赤く灼熱し溶けだした。
古竜は地面を熱して土をマグマ状に変化させて、前衛の女性陣達の戦えるフィールドを狭めるつもりだ。
なんてことを考えるんだ。
ペントが僕の指示に従って地面に水のブレスを放つが、文字通り焼け石に水の状態で水が地面に届く前に完全に蒸発してしまい水蒸気爆発すら起こらない。
さすがにこのままではまずい。どうする? どうすれば……この状況をひっくり返せる? あ、女性陣が避難できるように船を、駄目だ、それでは古竜に逃げられる。
あの古竜は死ぬくらいなら逃げる選択ができるクレバーな古竜だ。そして残酷な性格を考えるに、逃がしたら暴虐の限りを尽くすだろう。
しかも、クレバーな性格でもあるから、僕達が近づいても勝てる確信を得るまでは逃げを打つだろう。ここで討伐しないととんでもない被害が出る。
陸上に豪華客船を召喚して質量攻撃か?
質量攻撃は強力だが、前衛の女性陣の避難が必要だし大質量とはいえ頑丈で動ける古竜ならば逃げられる可能性が高い。そして逃げに回られたら厄介だ。
最悪豪華客船爆弾を視野に入れるが、できれば他の解決方法を……そうだ!
たしか特殊船の一覧に……あった、購入!
船購入画面を開き白金貨を枚数も数えずにぶち込んで、特殊船から目的の船を購入する。
「船召喚!」
ハイダウェイ号の前に購入した船を召喚する。良かった、美味い具合にこちらに向かって倒れ込んでハイダウェイ号が支えになってくれた。
反対に倒れ込んで船が横倒しになったら再召喚だったから、余計な手間が減ってありがたい。
「ペントは水のブレスを続けて、クラレッタとリムはアレシア達のフォローを。イルマはついて来てください」
とりあえず仲間全員に乗船許可を出してイルマさんを引き連れ、購入した船に乗り込むと同時にスタッフ任命をする。
「ワタル、私が上を担当するわ」
「お願いします」
スタッフ任命で知識が流れ込んできたイルマさんが状況を素早く理解して行動を起こしてくれる。
僕は給水ポンプを引っ張り出して無理矢理ハイダウェイ号のジェットバスにぶち込む。ジェットバスでは給水量が心配なので、ジェットバス側の出水をマックスに。
イルマさんが機械を操作すると、船に設置されている塔から大量の水が放水される。
僕も放水船に戻り同じく装置を操作し、船前方の放水口から放水を開始する。
港の火災やタンカー火災など水辺の火災に対応する船だ。博多屋台船を購入する時に特殊船をしっかり確認しておいて良かった。
ペントの水のブレスと放水船からの二本の放水でついに古竜のブレスの熱量を上回ったのか、大量の水蒸気が立ち昇り始める。
心配だったのは水の供給だが、今のところジェットバス側も頑張ってくれているようだ。さすがチートな船召喚だな。
ん? 焦って気が付かなかったが、別に給水ポンプを活用しなくても、放水はなんとかなったようだ。
普通なら給水ポンプは必須だが、よく考えたら船召喚の船の水は、水道もプールもなにもかも、別に補給しなくても水で満たされるもんな。盲点だった。
給水の心配が薄れたことで、気兼ねなく放水をバラ撒く。
「ワタル、船を購入したのね」
「あ、アレシア、みんなも、戻ってきたんですね」
放水をバラ撒いていると、背後から声を掛けられる。振り向くと船の外に出ていた仲間が全員揃っていた。
「熱すぎて外には居られないわ」
アレシアさんの言葉で外を見ると、水蒸気が広がり一面霧に包まれたようになっていた。
あの霧っぽいのって全部マグマに熱せられて噴きあがった水蒸気だから、当然高熱だよね。火災に対応するための放水船だが、さすがにマグマにまでは完璧に対応できないようだ。まあ、当たり前か。
船召喚で強化されたからこそ、水蒸気が上がるくらいに対応できた可能性すらあるよね。
そうなると、イネスの守りとフェリシアの結界が無ければ息をすることすら厳しい状態だったかもしれない。
「お疲れさまです。しばらく放水を続ければおそらく冷えると思うので、それまで休憩していてください」
古竜もさすがにこれ以上熱量を上げられないみたいだし、均衡がこちらに傾いたのであれば時間の問題だろう。
「あっ、でも、古竜の姿が見えませんよね? 逃げられませんか?」
今のところ古竜が吐き出すブレスで居場所は確認できるが、ブレスを吐くのを止めたら姿を見失う可能性がある。
「気配は捉えているから、逃走の心配はない」
マリーナさんが断言してくれる。僕が思いつくような危険を本職のマリーナさんが見逃すわけがないか。
しばらく放水が続き、ついに古竜がブレスを吐くのを止めたのか炎が見えなくなる。
ようやくか。女性陣も臨戦態勢に移行する。これまでも霧の中に魔術や攻撃を打ち込んではいたが、ここから最後の詰めって感じかな?
まだ外は熱いだろうし、しばらく放水は続けよう。それにしても仕方がないこととはいえ、使いどころに困りそうな船を買っちゃったな。他で何か使う機会はあるのだろうか?
古竜の姿が見えた。さすがに息切れしたのか、分かりにくい竜の表情から疲労が伝わってくる。
「不味い。古竜の足の傷が塞がっている。おそらく自分で焼いた」
マリーナさんがとんでもないことを言いだす。え? もういっぱいいっぱいなんですけど、まだ粘るの?
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