13話 古竜の力
お爺さんの村に到着し、その後に色々と用事を済ませて古竜の元に向かう。古竜はお爺さんの話し通り土に埋もれていたが、話に聞いた時よりも大きく露出しており、古竜の姿がハッキリと認識できるようになっていた。いよいよ古竜との戦いが始まる。
ドキドキしながら女性陣が配置につくのを見守る。
古竜が眠る山肌を中心に左側にアレシアさんとフェリシア、右側にドロテアさんとマリーナさん、正面にカーラさんとイネス、そのカーラさん達の背後から少し離れたところに僕とイルマさんとクラレッタさん。
無論従魔組はそれぞれの主の傍に待機している。
古竜はすさまじく巨大なので、三方向に別れている前衛の距離はそれなりに離れている。
見た感じ露出している胴体だけでも電車一両よりも大きく感じるので、確実に二十メートル以上はありそうだ。
おそらくまだ埋まっているのであろう尻尾を加えると、三十メートルくらい、いや、見えている部分だけなので太さが分からないことを考えるともっとなのかもしれない。
さすが古竜、大きさを想像するだけで帰りたくなる。
三十メートルってもはや大型恐竜だよね。あ、どちらも竜なのか。ちょっと納得。
地の龍は東洋スタイルだったが、古竜は西洋スタイルに見えるので、形も恐竜と似ていなくもない。
「ワタル、そろそろ良いんじゃない?」
軽く現実逃避していると、イルマさんから開始を促されてしまった。見ると前衛の三チームからも視線が飛んできている。
……みんなワクワクした表情で戦いの開始を待ちわびている様子、やはり僕と冒険者達の思考回路はかけ離れている。これがプロとエンジョイ勢の違いか。
「船召喚」
諦めて小声でハイダウェイ号を召喚する。出現した魔法陣に僕達は飛び乗り、デッキ部分に移動する。同時にイルマさんとクラレッタさん、そしてリムとペントが古竜に向かって攻撃を放つ。
当然前衛組もその攻撃に合わせて古竜に攻撃を仕掛ける。
僕では詳しく分からないが、アレシアさんの魔力をまとった飛ぶ&爆発する斬撃、ドロテアさんの風をまとった槍の刺突、マリーナさんの強烈な弓の連撃、イルマさん回転する石の槍、クラレッタさんとリムの聖属性の光の槍、フェリシアの強烈な雷撃とペントの水のブレス。
様々な属性が入り乱れ爆発し強烈な光を放つ。
まばゆい光に目を細めながら僕が思ったのは、イルマさんって幻術と炎以外に土の魔術も使えたのかという、場違いな考えだった。
グギャーーン!
響き渡る咆哮。僕達が鳴らした強烈な目覚ましでついに古竜が目を覚ました。
さすが古竜ということなのか、その咆哮は絶対的な安全地帯で待機している僕の足をすくませる。
咆哮に含まれていたのは驚きと怒り。突然の攻撃に驚いたものの、古竜はいまだ弱気な悲鳴を上げるほど弱っていないのだろう。
僕が立ちすくんでいる間にも、女性陣は攻撃の手を緩めない。矢継ぎ早に術や遠距離攻撃が放たれ、その間に突撃していたイネスとカーラさんが強烈な物理攻撃を叩き込む。
イネスは炎特化なので物理攻撃だけだが、身体強化も高レベルなのですさまじい斬撃を叩き込む。そしてそれ以上のパワーファイターであるカーラさんの突撃。
轟音と衝撃が響き渡り、舞い上がる砂煙に向こう側から再び古竜の咆哮が聞こえる。
聞いただけで分かる。確実にマジ切れしている。
「攻撃継続! 手を緩めず攻め続けなさい!」
まだまだ古竜が元気だと判断したのか、アレシアさんの檄が飛ぶ。
状況次第で一旦離れて様子見と打ち合わせをしていたのだが、確かに古竜の咆哮を聞くに手を緩めるのは悪手だろう。
女性陣の全力攻撃を食らって二度も攻撃的な咆哮を上げる余裕があるんだから、まだまだ元気に決まっている。
古竜が状況を把握して立ち直る前に、少しでもダメージを与えておくべきだ。まあ、僕は見ているだけなのだが。
突然砂煙の奥から業火が噴き出してきた。
おそらく古竜の火のブレスだろう。
その炎に接近していたイネスとカーラさんが呑み込まれる。僕は悲鳴を上げることすらできずに呆然とする。
まさか、と最悪の状況が脳裏を過ぎるが、次の瞬間、イネスとカーラさんが炎の中から飛び出してくる。
「クククク、クラレッタさん、かかか回復をををををを」
「心配ありませんよワタル。イネスの守りとフェリシアの結界はたいしたものですね。二人とも傷一つ負っていません」
クラレッタさんの言葉に慌てて二人を見ると、確かに元気一杯に古竜と向かい合っている。炎に飲み込まれた恐怖など微塵も感じていないようだ。
「ワタル、大丈夫ですか?」
「へ?」
「ああ、気が付いていないんですね。一応、心を落ち着ける魔術を掛けておきますね」
クラレッタさんの言葉と同時に体が優しい光に包まれた。うわ、クラレッタさんの言うとおりバクバクしていた心臓の鼓動が徐々に収まっていく。
鼓動と同時に僕の精神も落ち着いていき、自分の状況に気が付く。
なるほど、クラレッタさんが心配する訳だ。気が付かないうちに腰が抜けて、デッキに座り込んでいた。
「すみません、落ち着きました」
戦闘中であることを思いだして慌てて立ち上がり、戦いの場に目を向ける。
ちょうど砂煙が晴れるタイミングだったようで、光に反射した煌めく古竜の姿が現れる。
その相貌は怒りに煮えたぎっており、どう僕達を殺すか、それしか考えていないと分かりにくいはずの表情でも伝わってくる。
だが、まだ元気そうではあるが、こちら側の奇襲は確実に効果を発揮している。
その証拠に古竜の左側の羽は被膜に穴が開き根元部分から折れてだらりと垂れ下がっている。
この結果は予定通り、というか予測の中でも良い部類の結果だ。
最初に議論になったのは、奇襲でどこにダメージを集中させるか。
大ダメージを狙うのであれば、顔か首元。無論僕達もその部分は候補に挙げた。
ただ、中途半端なダメージしか与えられなかった場合、飛んで逃げられる可能性を考慮すると、最初に羽を狙って飛ぶ手段を奪うべきだとの結論に至った。
今の様子を見るに、どちらが正解だったか判断に悩む。
羽が折れるほどのダメージを与えられるのであれば、顔や首を狙ってもそれなりの成果を得られた気がする。
ただ、おそらく羽よりも頑丈である顔や首に攻撃を集中しても、討伐、もしくは行動不能レベルになるダメージを与えられたかと考えると、それも微妙だ。
まあ、逃げられないように、羽を壊したのが最善だったと納得するべきだな。
ん? なんか古竜のブレスが通過したあたりの地面がキラキラと……うわ、あれ、高熱で地面がガラス化しているのか?
そんな高温に耐えられるイネスの守りとフェリシアの結界は本当にすごいな。すごいって単語一つで表現できないレベルだが、すごい以外の言葉が思い浮かばないくらいすごい。
「殺す殺す殺す殺す! 誰に手を出したか思い知らせてやる!」
あ、やっぱり話せるんだな。でも、言葉が通じるだけで話は通用しなさそうだ。まあ、睡眠中にいきなり奇襲されたんだから、温厚な相手だってブチ切れ確定だよね。
ビシャン! ドカン!
そんなブチ切れな古竜の顔面に雷撃が降り注ぐ。フェリシア……凄いな、あの状況で躊躇わずに攻撃できるんだ。
フェリシアの攻撃に触発されたのか、女性陣の攻撃が古竜の顔面に集中する。リムもペントも同じくだ。
ブチ切れた古竜から再び業火がまき散らされるが、今度は全員が回避に成功する。
「ふわっ」
業火は目くらましだったらしく、炎の中から古竜が飛び出し、右手を大きくカーラさんに向けて叩きつける。
それを盾で受け止めるカーラさんだが、体重差か、耐えきれずに弾き飛ばされる。
悲鳴を上げそうになるが、二度目なので気合で耐えてカーラさんの様子を確認する。
祈るように向けた視線の先では、少しふらつきながらも立っているカーラさんの姿が。クラレッタさんに視線を向けるが、回復を施す様子はない。
あの程度はカーラさん達にとって、回復するまでもないダメージなのだろう。僕が腰を抜かして地面にへたり込んでいた時は回復魔術的な術を掛けてくれたから、それよりも軽傷ということになるのかな?
いやね、古竜の右手が叩きつけられた地面がね、カーラさんが一瞬均衡させて威力が弱まっているはずなのにね、陥没して放射状に亀裂が走っているんだよね……女性にこういう表現は好みではないのだが、古竜も女性陣もバケモノ過ぎませんか?
そんな僕の思考の合間も古竜は動きを止めることなくカーラさんに向かって突撃するが、その横っ面に強烈な槍が叩き込まれる。ドロテアさんの攻撃だ。
ブチ切れ状態で周囲の警戒が疎かになっていたのか、古竜がつんのめるように転がる。
そのチャンスを逃す女性陣ではなく、再び集中攻撃が古竜に降り注ぐ。既に片方の羽を潰したからか、今度は顔面に攻撃を集中しているようだ。
うん、最初は某狩りゲーを想像していたのだが、これはアレだ、狩りゲーというよりももっとファンタジーな勇者物語系統の戦いだな。攻撃が派手すぎる。
「うっとうしい!」
古竜が地面を踏ん張るような体勢を取り、激しい攻撃を受けながら口を大きく開く。
チャンスだ。このタイミングで口の中に攻撃を、と漫画のようなことを考えていると、強烈なブレスがハイダウェイ号に直撃してかき消える。
「あ、あせったー」
今までの業火とは明らかに違うブレス。
おそらくまき散らしていた炎を凝縮して熱線みたいにしたのだと思うが、創造神様のドラゴンブレスにも楽勝で耐えるというお墨付きがある船召喚の乗船拒否が、見事にドラゴンブレスを拒否してくれた。
うっとうしいって言っていたし、ハイダウェイ号からのイルマさん、クラレッタさん、リム、ペントの遠距離攻撃にイラついて反撃してきたのだろう。
怖かったがあの攻撃を最初にハイダウェイ号に向けてくれたのはラッキーだった。業火でも異常な威力だったが、あの熱線は範囲が狭まる分威力は一桁上がっていたように思える。
アレを初見で受けたら前衛の女性陣もただでは済まなかった可能性がある。ただ、一度その攻撃を見たなら、次からはどうにかできるはずだ。
女性陣は勇敢だが無謀ではないので、無理だと思ったらこちらに避難してくるはずだしね。
古竜にとって切り札的な攻撃だったのか、熱線がかき消された跡を呆然と見つめる古竜。
そこに再び女性陣の攻撃が叩き込まれる。
このまま順調に討伐が成功すれば嬉しいのだが、たぶん無理なんだろうな。
だって、あれだけ攻撃を受けたのに、古竜の顔は多少輝きを失った程度。大きなダメージを受けた様子はない。
最初に羽を狙ったのは大正解だったな。この状況で空まで飛ばれたら、負けないまでも討伐は絶望的だったはずだ。
明けましておめでとうございます。
今年も更新を頑張りますので、お付き合いいただけましたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
読んでいただきありがとうございます。




