11話 決定
いきなり老人に土下座をされ、実は自分達の噂が恥ずかしい形で急速に広まっていた事実を知ってしまう。その上で、お爺さんのお願いは古竜の討伐というとんでもない内容。まさしく踏んだり蹴ったりなはずなのだが、女性陣の大半はやる気満々……なんか逃げられそうにない気がする。
「古竜相手でもなんとかなりそうなことは分かりました。ですが、ドナテッラさんとメアさんまで乗り気なのはなぜですか?」
古竜相手でもなんとかなりそうというところで、お爺さんの顔が輝きまくってしまったが、それは後回しだ。
「古竜の素材が魅力的なのも確かですが、今回は名を売るという効果が大きいからですね」
うん? ドナテッラさんは僕達、特に僕が売名に興味がないどころか避けていること知っているはずだが、なんでそんな結論になるんだ?
「ワタル様。トヨウミ商会南の大陸支店は、文字通り南の大陸の支店です」
「ええ、その通りですが、それが何か関係が?」
メアさんが確認するように話しかけてくるが、さすがの僕もそれくらいは認識している。
「ヨーテボリの現在の武力で大抵の干渉は撥ねつけられますし、ワタル様を裏切ることはないでしょう。だからこそ、ヨーテボリは間違いなく復興を果たし、経済的に豊かになります。そうなったら、武力以外の絡め手で狙われることは間違いありません」
まあ、余所者が大きな顔をしているのを、気に食わないって人はどこにでもいるよね。
あ、なるほど。
「つまり、名声を利用して身を守る訳ですね。トヨウミ商会南の大陸支店に手を出せば、古竜を討伐した一団が出てくるぞ的な感じで……」
うちの支店の護衛部隊だけで、その辺りの有象無象どころか、それなりの軍隊を蹴散らせそうなレベル帯なのだが、その噂が広まっている訳でもなく、広まったとしても信じられるかどうかは別問題だ。
むしろ犯罪奴隷の一団が全員百五十オーバーという噂の方が都市伝説扱いされて信じられない気がする。
まあ、それでちょっかいを出して蹴散らされるのも自業自得なのだが、敵が少ない方が過ごしやすいのは間違いない。
「はい、古竜の討伐は素材という目に見えた証拠となりますし、よほど無謀なもの以外は手出しを控えることになるでしょう」
つまり、出る杭は打たれるが、突き抜けて出た杭は打ちづらいってやつだな。
普通なら避ける作戦だが、僕自身が南の大陸で目立っても北の大陸に戻れば関係ないというスタンスで、少し自重を取っ払っているから、ドナテッラさんも効率的な手段を選択した訳か。
ドナテッラさんとメアさんの思惑は理解できた。
ちょっと防衛力が過剰な気もしないでもないが、僕達が南の大陸に居ないことも多いので、過剰なくらいがちょうどいいのかもしれない。
そうなると、本当に古竜に勝てる、いや、勝てなくても無事に帰ってこられるかだな。
パリスの話を聞いて、イケそうな気がしていなくもないが、はっきりさせておきたい。
たとえどれだけメリットがあろうとも、大怪我、もしくはそれ以上の最悪なパターンが予想されるのであれば、過保護と言われようともお爺さんが絶望しようとも却下だ。
「アレシア、負けないことはできると言っていましたよね? その中に大怪我や誰かが死亡する可能性は含まれていますか?」
「え? 戦いなのだから当たり前じゃない」
凄くあっさりと怖い答えが返ってきた。
「アレシア、その言い方だとワタルが誤解します。ワタル、確かにその可能性は否定できません。ですが、それは日々の戦いも同じです。私達はそのリスクを踏まえたうえで、できる限り対策を考え、生き残ってきました」
アレシアさんの言葉に続いて、ドロテアさんが安心できるようなできないような言葉を続ける。
いや、アレシアさんの言葉よりかはマシだけど、最悪死ぬ可能性は否定できていないよね?
殺し合いだからそんなの当然だろと言われればそれまでなのだが、あの盗賊集団退治ほどの安全マージンとは言わなくても、その半分くらいの安全マージンは欲しいところだ。
ん? あの戦いの半分の安全マージン? それって古竜相手に楽勝ってことになるな。さすがに欲張り過ぎか?
でも、お爺さんには申し訳ないが古竜との戦いは却下だな。無理してアレシアさん達を危険に晒すくらいなら、お爺さんの村を移動させる方がマシだ。
住み慣れた場所を離れさせる非情な対策だけど僕の優先順位はあくまで仲間達が一番。僕は聖人君子ではないから、自分の利益を最優先にさせてもらう。
「それに今回の場合はかなり勝率が高いし、心配はいらないわ」
「あれ? 相手の強さが分からないし、断言は難しい感じだったのでは?」
「相手が火竜だというのが大きいの。うちには火のスペシャリスト、イルマとイネスが居るでしょ? 二人の攻撃は火竜に効果が薄いけれど、逆に言えば向こうの攻撃の対策も可能なの」
ドロテアさんの戦略の中に既にイネスが組み込まれているが、まあ、戦いになったら参加するよね。イネスも凄くワクワクしているもん。
「そこに私達の実力とフェリシアの結界とワタルの船が加われば、怪我をする方が難しいわ。勝てない可能性は、私達の攻撃が通用しないか、もしくは通用しても大ダメージを与えられない場合ね。火竜もバカではないから逃げることすら考えられるわ」
……あー、なんとなく納得できた。某有名狩猟ゲームに近い想定なのか。
勝ち目はあるし実際に勝てる実力はあるけど、削りきれるかが問題みたいな。
初挑戦だと予想よりも相手が固くて、バーギリギリで相手の逃亡なんてザラだったもんな。分かる。
ゲームと同じにしてはいけないのだろうが、イメージはできた。
……ゲームのたとえで命がかかる実践に納得するのはどうかと思うが、僕もいける気がしてきたので今回は挑戦してみることにしよう。
船召喚の防御力に関しては創造神様のお墨付きだし、神様の攻撃すら弾いたのだから相手が古竜だろうが龍だろうが……ん?
お爺さん達の勘違いで竜が龍なんて落ちは……まあ、それならそれで都合が良いか。龍が相手ならたぶん話し合いで決着をつけることができるはずだもんね。
「万全の準備を整えるということであれば、挑戦してみましょうか」
「やったわ! お爺さん、さっそくだけど情報を色々と聞かせてちょうだい」
女性陣のテンションが急上昇した。古竜との戦いという危険度マックスなイベントなのに女性陣の顔が明るい。冒険者って、やっぱりアレなんだな。
まあ、ドナテッラさんとメアさんは冒険者じゃないんだけど……。
「アレシア、お爺さんには休息が必要です。情報収集は明日からにしましょう」
「あ、そうだったわね。ごめんなさいお爺さん」
「いや、一刻も早く対策をお願いしたいのです。休息は後回しで構いません。是非とも話をさせていただきたい」
覚悟がガンギマリお爺さんの様子にクラレッタさんも渋々と頷いた。まあ、一日遅れて、その間に古竜が動き出したら悲惨だもんね。
***
「まさかこの歳になって魔導車に乗ることができるなんて……もういつ死んでも……」
レンジャー号で走る車内にお爺さんの感嘆の声が響き渡る。お爺さんの年齢と体調だと洒落にならないので止めてほしい。
お爺さん土下座事件から二日、ついに僕達は古竜討伐に出発した。
二日という短期間の出発だが、お爺さんはかなり焦れている様子だった。でも、さすがに僕達も色々と忙しいので翌日の出発は無理だった。
クラレッタさんとリムが病院を離れるフォロー、解体用の魔物の運搬の増量、仮店舗での販売商品の補充など、かなりの激務を超えての二日での出発なのだから頑張った方だと思う。
特に病院はね、村を助けるためにヨーテボリの人達を見殺しなんてことになったら本末転倒だから疎かにできなかった。
かなり頑張ったが、それでもかなり厳しいスケジュールになった。
しかも、ドナテッラさんがどうせならと、派手な作戦を思いついてしまったから、その準備にも時間がかかってしまい、なおさら厳しかった。
まあ、詳しく話を聞いてみると、お爺さんのスケジュールの方が殺人的だったのだけどね。
お爺さんのスケジュール。
山裾の村から自分が住んでいる領地の領都に向かう。五日かかるところを二日で走破。
無慈悲にあしらわれ絶望のなか、ヨーテボリの僕達の噂を聞き、七日かかるところを三日で走破。ほとんど眠らず乗れる時には馬車に乗り、馬車が運航していない時は歩いて進み、偶に野宿で僅かな仮眠をとる、そんなことを繰り返しながらヨーテボリに到着。
衰弱するのも当然な無茶をしていた。
情報提供した後、安心して気絶したように眠りについたのも当然だと思う。というか、眠りについたのではなく気絶したんだと思う。
そんなお爺さんがいつ死んでもなんて呟いたら洒落にならない。というか、お爺さんが巻き込んだのだから古竜討伐の結果くらいはしっかり確認してほしい。
古竜討伐のお祝いとお爺さんのお葬式を同時にするのは嫌だぞ。
まあ、そんな状況でも、ドナテッラさんとメアさんに報酬に関して詰められて、お爺さんは更に死にかけていたけど……さすがに古竜討伐に無報酬はあり得ないというのが二人の意見だ。
ただ、二人も鬼ではない、というか商売が絡んでいても世間とのバランスをしっかり考えてくれる人間性なので、報酬で村がカツカツになって餓えるような報酬は要求していなかった。
お爺さんの村は山裾にある林業を中心とした村なので、物資不足なトヨウミ商会南の大陸支店とヨーテボリにもメリットがある商談ができたようだ。
ドナテッラさんとメアさんの計画では、鍛えられた南の大陸支店の護衛部隊を核として、ヨーテボリの犯罪奴隷を借り受け、お爺さんの村を流通網に組み込む事。
他領と繋がることになるが、領主側が無視をした古竜の討伐の貸しと、それを成した実行力を背景に押し通すつもりのようだ。
僕は他領と繋がり目立つことに懸念を抱いたのだが、古竜を討伐する時点で目立たない訳がないという返答に納得しかなかった。
そしてお爺さんはこちら側の提案を全て受け入れ、村の木材の流通をすべて南の大陸支店に任せてくれると決断した。
白紙の小切手を相手に手渡すようなものなのでお爺さんの決断に心配になるが、そこはドナテッラさんとメアさん、ちゃんと商売の神様の契約を介して契約し、お爺さんの村の負担にならないように考えていた。
ちなみにお爺さんの独断でそんな契約を結んで大丈夫なのかと疑問を抱いたが、お爺さん、村長だった。村を守るために老いた体に鞭を打って行動していたらしい。
そんなお爺さんの心意気に応えるため、そして寿命に間に合わせるためにレンジャー号のアクセルを踏み込む。
お爺さんの村は領都を越えた反対側なので、普通の移動だと単純計算で十二日かかることになる。
だが、陸専用ではないとはいえレンジャー号は車だ。徒歩と馬車の併用で十二日なら、一日走れば到着できると思う。
まあ、舗装もされていない悪路を夜通し運転するとなると今からげんなりするが、早く行って早く討伐して早く帰ってこないとヨーテボリの動き始めた経済が止まってしまうから頑張るしかないだろう。
そうか、帰りも夜通し走るのか……僕の場合古竜討伐よりも運転の方が厳しいかもしれない。しかも帰りは他にもミッションがあるからな。
読んでいただきありがとうございます。




