10話 聖商?
復興の目途が立ち、後は地味に作業を続けていけば復興は僕達の手から離れ終了。それが終わったところで北の大陸に戻り、タイミングを見計らって女神様方をご招待しての御褒美タイム、なんてことを考えていたのだが……一人の老人の出現により、その目論見が崩れそうになっている。
「国、いえ、御領主様には報告し対処を願いました」
僕の言葉にお爺さんが苦々しい顔で答えてくれる。そうか、普通なら国ではなくその地の領主に相談するんだな。
僕は自分が庶民的な感覚を維持していると自負していたが、少しばかり世間とのズレが生じているのかもしれない。
……まあ、もともとこの世界とは違う世界の人間なので、最初からズレまくっている可能性も高いけど。
「つまり御領主様は動いてくれなかったと?」
領主が動いていたら、疲労困憊状態のお爺さんが僕のところに土下座しに来るわけがない。
「はい、元々、禁足地とされていた場所の近くで争いを起こしたのはあ奴等なのに、そのような妄言に付き合う暇はないなどと―――」
うわー。僕の質問が切っ掛けになったのか、弱弱しかったお爺さんの顔が般若に代わり、怒涛のように愚痴が噴出しはじめた。
禁足地って……言葉だけでヤバい場所だと伝わってくるのに、近くで戦争しちゃったのか。
流れ的に、古竜が眠る地を禁足地としていたのに、戦争ではっちゃけて古竜が目覚めかけているって感じか?
それで、そのことを報告したのに戦勝国側は信じなかった……もしくは信じていても対処ができる余裕がなく、戯言と片付けることにしたってところかな?
前者の方が正解な気がするな。後者だと余裕が無くても自分の命が掛かっている可能性があるのだから、偵察くらい出すだろう。
お爺さんが満足するまで話を聞いたところ、僕の予想は大体正解だった。領主……。
そんな感じで絶望して帰路についていたところ、僕達の噂を聞いて藁にも縋る思いでヨーテボリに来たらしい。
そして、ヨーテボリに到着したところで情報収集をしようと考えたらしいのだが、僕達は目立ちまくっているのであっさり情報が集まり、そのタイミングで僕が到着し上陸、ダッシュで土下座となったらしい。
お爺さんにとっては良いタイミングだったのだろうが、僕にとっては微妙なタイミングだった。
僕達が目的みたいなので出会いは避けられなかっただろうが、タイミングが良ければ公衆の面前で土下座される事態は避けられたと思う。
ちなみにお爺さんが聞いた噂は、ヨーテボリには聖女、聖獣、戦女神、そしてそれらを従える聖商が居る。
聖女と聖獣は無償で人々を癒し、沈んだ町に救いをもたらした。
戦女神達は武器を手に、襲い来る万の悪党を圧倒的な力で生かしたまま取り押さえた。
聖商は瓦礫となった町を憂い、私財を投じて復興の要となり、町に希望の火を灯した。
聖女と聖獣はおそらくというか間違いなくクラレッタさんとリムだろう。クラレッタさんが聖女という意見には全力で賛成できる。
リムが聖獣……リムが聖なる存在であることは確かだ。だってエンジェルだもん。でも、獣という部分が少し引っ掛かるのだが、スライムをなんと表現すれば良いのか僕も分からないので納得するしかない。
そして戦女神、これはジラソーレの面々とイネスとフェリシア、あと、もしかしたらドナテッラさんとメアさんも加わっているかもしれないが、戦女神という表現はピッタリだと思う。
ここまではいい。僕も否定する部分は見当たらず、賛同しかない。
賛同しかないのだが、最後の部分、聖商ってなんだ?
これ、信じたくはないが僕のことだよね?
僕はただ、困ってそうだったし商売の神様の依頼があったから、素材や物資を激安で提供しただけだし、建物とかも必要だし利益も集中していたから分散の為に公共事業的な仕事を……大筋では間違っていないのか?
……まあ噂なんてそんなものだよな。尾びれどころか背びれや胸びれが付くのが普通のことだ。ただ、その噂を知らずに過ごしたかった。
そしてそんな粉飾決算ばりに盛られた噂を聞いて、お爺さんは僕達に助けを求めにきたと……訴えて勝ちたいレベルの二次被害だな。どこに訴えたらいいのかすら分からないけど……。
「それで、古竜というのはどういった竜なんですか?」
怒りを思う存分吐き出して、若干放心気味のお爺さんにアレシアさんがキラキラした瞳で質問する。
たしかに気になるよね。地竜の森でも古竜を倒したことがあるけど、禁足地に指定ってところに違和感がある。
地竜の森も危険地帯だけど禁足地に指定されていなかったはずだ。
「んあ? ああ、言い伝えでは火古竜だと言われております。その昔、周辺一帯を焼き尽くし眠りについた、決して刺激するべからず、としか伝わっておらず、村でも半信半疑であったのですが……」
ああ、お爺さんの村でも言い伝えが半信半疑になるほど昔の話なのか。
で、被害の桁も僕が想像していたよりも一桁上だな。地竜と火竜だと火竜の方が被害が大きいのかな?
もしくは古竜もピンキリで長生きしている方が強い、なんてこともありそうだ。
「それが半信半疑ではなかったと?」
「はい。戦が終わってしばらくして山肌が少し崩れ、遠目でもキラキラと光を反射するのが確認できました。もしかしたら宝石ではないかと確認に行ったところ、竜の鱗でした」
竜の鱗か。地竜も結構綺麗だったが宝石と間違えるほどではなかったな。でも、龍の鱗は確かに宝石みたいだったな。
古竜って言うし、もしかしたら竜は時が経つほどに鱗の質が上がったりするのかもしれない。
僕のイメージでは年を経るごとに苔むすではないが、細かい傷がついて歴戦の強者的な感じになるのでちょっと予想外だ。
あと、禁足地なんだから確認しに行ったら駄目なのでは?
……まあ、宝石が露出したら確認せずにはいられないか。そのおかげで古竜の発見に繋がったのだから、ある意味結果オーライだしね。
「え? まだ埋まったままなの?」
「はい、余計な刺激を与えて目覚めさせるわけにもいかず、村人を避難させて様子を見ておるのですが、徐々に振動が大きくなっており、いずれ目覚めるのではないかと恐怖しております」
古竜というぐらいだから相当大きいんだろうな。そして言い伝えが半信半疑になるほど長く眠っていたのであれば、目覚めるのに時間がかかるのも無理ないかもしれない。
特に竜なんて食物連鎖の頂点に君臨する存在だから、野生動物のように神経過敏な必要がないもんな。
寝たいときに寝て起きたいときに起きる、そんな羨ましい精神を兼ね備えていそうだ。
そしてそんな古竜が土に埋まるほど安眠していた傍で人が戦争して、目が覚めかけていると。
寝起き爽やか系な古竜なら被害は出ない気がするが、大暴れして眠りにつくようなタイプの古竜、しかも火の系統が周囲の雑音で目が覚める……寝起きスッキリ爽やかに期待するのは無理があるだろう。
賭けだったら寝起き即激怒に人気が集中し過ぎて、オッズが一倍の元返しになりそうなレベルだ。
「……誰か眠りの魔術とか使えませんか?」
もう一度眠ってもらって、更に土でしっかり埋め戻せばしばらくは安心なのでは?
「私は無理ね。そもそも幻術系だから惑わせることはできても眠らせることはできないわ。それに、古竜に魔術を通せる人なんて滅多にいないわよ?」
無理か。幻術系ならワンチャンあるかと思ってイルマさんに視線を向けたが、あっさり否定されてしまった。
「そうですか、古竜に魔術の効果を発揮させる時点で難しいんですね」
女性陣が僕の言葉に頷くが、顔に、え? 知らなかったの? と書いてある。知りませんでした。
いや、ファンタジー的な設定でそういうパターンがあるのは無論知っているが、シーサーペントとか文字通りボコボコにしているし、正直、地の龍の悲哀を間近で確認していたから、竜に関する印象が下方修正されていた。
だって龍だよ。
この世界ではそれぞれの属性に一匹しかいないとか噂されている、超絶レアで最強と目されている龍が、ただの中間管理職で精神をズタボロにされて退職を願って引き籠っていたんだ。
ランク的に地の龍の圧倒的に下位であろう竜、その竜に対する印象が下方修正されるのも仕方がないはずだ。
そんな状況でも竜や古竜を恐ろしい相手だと認識し、国で対処するべき案件だと判断した僕の状況判断能力を褒めてほしいくらいだ。
「では、露出した部分を埋め戻すのは……」
「もう目覚めかけているのだから、すぐに振動で崩れちゃうと思うわ」
アレシアさんの無情な否定。
僕だったら冬の寒い朝に、もう一度布団が被せられたら余裕で睡魔に負けるんだけどな。
女性陣の視線が僕に集中する。
そしてその視線の大半が、凄くワクワクしている。古竜討伐、行っちゃう? という期待した視線だ。
一部例外は困った顔のクラレッタさん。興味なさげなカーラさん。僕の意思に従います的なフェリシアくらいで、ドナテッラさんやメアさんまで期待した表情だ。
「えーっと、そもそもなんですが、無理なく古竜に勝てるんですか? あと、ドナテッラさんとメアさんまでなぜやる気満々なんですか? 二人は戦いに加わりませんよね?」
大怪我をせずに勝てるかどうかが一番の問題だ。
僕達のチート具合を考えると勝てないとは思わないが、陸地での戦闘は僕のチートを万全に活かすことができないのも確か。
大怪我をせずに勝てないのであれば村の人達には申し訳ないが、ヨーテボリに移住してもらって難を逃れてもらいたい。見捨てるのはさすがに寝覚めが悪すぎて無理だ。
そしてドナテッラさんとメアさん、二人はレベルが上がったとはいえ戦いは素人なのだからレベルに任せて無茶を考えないでほしい。
「古竜にも強い弱いがあるから断言はできないけれど、最悪でも負けることはないと思うわ」
「なぜそう言い切れるのですか?」
やはり古竜にもピンキリがあるらしい。ピンかキリか分からないのに、どうしてそう判断できるか疑問だ。
「パリスが竜に勝ち、古竜と引き分けたことがあるからね。私達は技術的にはパリスに追いついていないのだけれど、レベルに関しては並んだか上回っていると思うわ。少なくとも古竜と戦った時のパリスと比べたらの話だけど」
僕の質問にアレシアさんが根拠を話してくれる。
僕から見たら神業的な技術を持つアレシアさん達でも、パリスには技術的に追いついていないと判断しているのか。
イケメンで一見人当たりが良さそうでありながら、実は戦闘狂というあのパリス、Sランクは伊達じゃないんだな。
あ、戦闘狂だから技術も狂ったレベルなのか。地味に納得できる。
つまり技術的には及ばないが、レベル的には並んだか追い抜いたレベル帯の戦闘経験豊富なAランク冒険者が六人、それにイネスとフェリシアが加わる。
そしてこの場では言及しなかったが、船召喚の防御力も計算に入れているだろう。
古竜の実力がかなり上振れしていたとしても、負けることはないと判断するのは分からないでもないな。
うーん、村人を避難させて更にヨーテボリの人口密度を上げるのもどうかと思うし、勝てそうなら挑戦するべきなのか?
正直、怖いのだが……決断はドナテッラさんとメアさんの話を聞いてからにするか。なんか討伐が確定になりそうな気がするけど……。
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