8話 増加する犯罪奴隷
宴会のホスト役をしっかり熟そうと思っていたのだが、久しぶりのもつ鍋に魅了されてしまい、結局ホスト役を放り投げてもつ鍋に夢中になってしまった。ただ、北は北海道から南の沖縄まで味噌と脂の相性が証明されていたことに気づけたことは地味に嬉しかった。
博多屋台船で宴会を開いて十日、相変わらず魔物の運搬と外海での魔物の確保を繰り返す、ヨーテボリに来る前と比べたら忙しい日常を過ごしている。
ちなみに、まだ寄せ鍋とふぐ鍋は披露していない。
出し惜しみしている訳ではないのだが、みんな殊の外もつ鍋を気に入ってくれて、屋台船を召喚するともつ鍋で満足してしまっている状況だからだ。
まあ、味という面だけで満足している訳ではなく、フェリシアとクラレッタさんが内臓の処理を学びたいという気持ちを女性陣が汲んでのことと、もつ鍋を食べた翌朝の肌の調子がすこぶる良いことに気が付いた女性陣が、もつ鍋に凄まじい好印象を抱いていることが要因の大半を占めている。
僕も女性陣に言われて思いだしたのだが、もつ鍋、というかホルモン系統にはコラーゲンが豊富に含まれていて、そういう面では非常に女性に嬉しい食材だとテレビで見た覚えがある。
そのことを女性陣に伝えると、納得と同時にもつ鍋が定期メニューに組み込まれることになった。
僕はお肌の違いにまったく気が付かなかったのだが、女性陣には明らかに違いが分かったらしい。この辺りの自分の鈍さをどうにかしないと、イケてるメンズになれそうにないのだが……難しい。
世の男性のどの程度が自分の肌の調子や女性の肌の調子を見抜けるのだろうか?
あと、もつ鍋は脂も摂取するが野菜もタップリ摂取できる、割とヘルシー? な料理なのだが、それでもカロリーはそれなりにある。
ふつうならお肌の調子と太るリスクを天秤にかけて悩むものなのだろうが、うちの女性陣は太るリスクについてはほとんど気にしていない。
おそらくだが、うちの女性陣は普段から体をしっかり動かしているし、レベルなどの肉体強度の関係で代謝もバケモノレベルだからだろう。
そんなこんなでこの十日の間に、最初も含めて四回ももつ鍋を食べている。二日から三日に一回のペースで食べている。
僕ももつ鍋は大好きなのだが、さすがに少し飽きてきている。
〆の料理もチャンポン麺だけではなく雑炊にもしたしラーメンでも食べた。僕としては他にも食べたい料理が沢山あるので、もつ鍋は十日に一度程度が丁度いいと思う。
まあ、もつ鍋の時に、天ぷらやすき焼きのテーブルを利用しているから、苦痛と言うほどではないのだけどね。
そんな想定とは少し違う日常を過ごしているのだが、復興の方は順調に進み、更に良いのか悪いのか判断に悩む事も増えている。
きっかけは犯罪奴隷となった五千人の盗賊達。
トヨウミ商会の南の大陸支店で確保した人達も合わせてのことだが、彼等は予定通り強制労働に加わっている。
そして、その中で質が悪い盗賊達は冒険者ギルドに預けられ過酷な現場で作業している。
それはまだいい。人権やらなんやらの問題がある気もするが、この世界はそういうルールで動いているし、僕だってイネスとフェリシアという奴隷を所有しているのだから人権だのと偉そうなことを言える立場にない。
言える立場にはないのだが、それはどうなんだ? という現象が起きており、僕だけではなくヨーテボリ上層部でも悩みの種になっている。
冒険者ギルドに配置された犯罪奴隷は冒険者達のフォローに回されるはずだった。戦乱で荒れた影響で外の危険度が増しているから、荷物持ちが増えるだけでも楽になるはずだった。
だが、そのフォローに回す前に、盗賊の情報収集は当然行われる。普段の時でも盗賊は捕まえられたら尋問を受けるのだからこれまでとあまり変わらないと冒険者ギルド側も思っていた。
盗賊から得られる情報など知れたもので、その盗賊が犯してきた罪や、隠れ家や活動範囲、他の盗賊との付き合い等々、治安の維持には結びつくが、それほど大きな効果を発揮するような情報は極稀だからだ。
他の盗賊との付き合いのような情報なら役に立ちそうだが、盗賊が捕らえられたことを知った付き合いのある盗賊は用心で拠点を移すらしいので、よっぽどスムーズに事を運ばないと成果に結びつかないのだそうだ。
だが、今回は事情が違った。
五千人規模に膨れ上がった盗賊団は、核となる集団以外にも中規模、小規模、個人の集団が寄り集まって結成された盗賊団。しかもできてからそれほど時間も経過していない。
復興を始めたヨーテボリを狙うために巨大化した集団だから当然だが、その結果、新鮮でありながら様々な盗賊の情報を多角的に集められて精密な分析が可能となった。
そのおかげで、ヨーテボリ周辺どころか、それ以上の範囲までの情報、今回の襲撃に参加しなかった集団の情報や、盗賊が拠点にしやすい場所、獲物を狙いやすい場所、危険な魔物が存在する場所、等々、丸裸と言えるほどに集まったそうだ。
そして、その集まった情報を基に作成された、盗賊団&魔物壊滅計画。
これが大戦果を挙げる。
うちの女性陣は同行していないが、女性陣が鍛えたトヨウミ商会南の大陸支店の護衛部隊も参加したので、圧倒的かつスムーズに盗賊や魔物を駆逐し捕えていく。
結果、大量の魔物素材と、更に二千人規模で犯罪奴隷を確保することになる。
そして、この二千人の犯罪奴隷から情報収集すれば更なる戦果が得られるだろうと予想されている。
広範囲で盗賊と魔物が減少し治安が回復、労働力となる犯罪奴隷と売り物になる魔物素材の確保で、万々歳と言いたいところなのだが、ただでさえ人が集まり住居などの建物が足りないヨーテボリに更に二千人の追加。
上層部はてんやわんやなありさまだ。
普通の企業ならここで一旦事業の拡大をストップし、内部を固めることに時間を使えるのだが、盗賊団や魔物の情報は鮮度が命、治安回復のチャンスを逃す訳にはいかないので、得た情報で今日も討伐隊が出撃している。
つまり、失敗しなければまた人員が増えることになる。
ある意味では便利な労働力が増えるので、全てが悪いという訳ではないのだが、ヨーテボリの町がパンクしてしまいそうな恐ろしさを感じる。
今で七千人、このペースだといずれは一万人を超えてきそうだ。
一万人全てが戦闘ができるとは限らないが、それでも一つの町で維持するには巨大すぎる戦力だ。
ただ、一万もの戦力があれば国にいちゃもんをつけられても、なんとかなりそうなところが少し心強くもある。
あ、でもこの運搬の後、仮店舗や倉庫建設地の視察をする予定だし、そこでギルドに寄って増えた人員をどう活用するのか聞いておこうかな?
うっかり放置しておいたら、後々とんでもない事件が起こりそうで怖い。代官はがんじがらめにされているが、ギルマスはギルマスで反乱を仄めかしたり気軽に命を投げ出す覚悟をしたりと若干危険な思考回路を持っているからね。
***
「ん? ああ、確かにこれからも人数が増えそうだし、ワタル殿が心配になるのも無理はないですな」
視察と言っても顔を出して現場の確認だけの簡単なお仕事だったので、あっさりと終わった。
まあ、ドナテッラさんとメアさんという優秀な二人が現場を仕切っているのだから、手抜かりがある訳もないよね。
ただ、トヨウミ商会南の大陸支店の仮店舗は大盛況で、持ってきた物資が店舗が完成する前に枯渇しそうな怖さも感じる。
さすがに物資が足りなくてもう一度北の大陸まで仕入れに行くのは嫌だな。
ちなみに病院の視察はしていない。
クラレッタさんの話では少しは落ち着いてきたそうだが、それでもまだまだ患者さんは多いらしい。
そして、僕が病院に行かない理由は、僕がクラレッタさんの雇い主であり、スライムでありながら患者を次々と癒していく優秀過ぎるリムの主であると広まったからだ。
なんかめちゃくちゃ感謝されているらしい。
褒められるのは嫌いではないのだが、メアさんレベルの感謝を告げられるのはちょっと重いので、病院には近づかないことにしている。
過ぎたるは猶及ばざるが如し、なんて言葉もあるが、本当にその通りだと思う。
おっと、思考が変なところに飛んで、ギルマスに変な顔をさせてしまった。
「はい、人数が多いことは心強くもありますが、国に色々と疑われることもあり得るかと思いまして」
国からしたら、お前ら、反乱の準備していない? という疑いは当然持つと思う。今の状態でさえ、代官が報告すれば干渉してくるだろう。
「それは当然の懸念ですな。しかし本国はいまだに足元を固めるのが精一杯の様子、こちらが落ち着いたら犯罪奴隷達はある程度散らす予定ですので、強い疑いを掛けられるのは避けられるかと」
「散らす?」
どういう意味だろう? さすがに分散させて処分なんてことはしないよね?
「ヨーテボリの復興が第一なのは変わりませんが、周辺の村もヨーテボリにとって重要な存在ですからな、こちらが落ち着いたら犯罪奴隷を分散させて村の復興に当たらせる予定です」
ああ、そういうことか。ヨーテボリに集まってきている人達も村に戻る選択肢が増えるし、ヨーテボリに滞在する人数が減れば国の疑いも弱まるってことだな。
普通の状態ならそんな単純な偽装では騙せないだろうが、あんな代官を派遣してくるくらい国が混乱状態なのであれば、なんとかなりそうだよね。
「そういうことでしたら安心しました」
分散させても最低限の人数はヨーテボリに残すはずだし、なにか危険が迫った時はヨーテボリ所属の犯罪奴隷なので集めることも簡単にできる。
偽装もできて周辺の復興にも役に立つ。このギルマス、武骨な外見をしているのに意外と策士なのかもしれない。
僕が考えなさ過ぎなだけかな?
でもまあ安心できたし、周辺の村が復興していくなら、その分商売網も復活するということになるから、万々歳だ。
あとは地道にやるべきことを熟していけば、何事もなく北の大陸に帰れそうだ。
読んでいただきありがとうございます。




