19話 ハイダウェイとジャグジー
朝だ。今日は日課の前から目がパッチリだ。でも日課はきちんと済ませて、朝食の為にサロンに向かう。
「ご主人様、そんなに新しい船が楽しみなの?」
「分かる?」
「ええ、朝なのに、動きに切れがあるわ」
朝から張り切ってるのが分かるらしい。冷静に考えると恥ずかしいな、落ち着こう。
「はは、恥ずかしいけど楽しみなんだ。早く朝食を食べて外海に出ようか」
「「はい」」
サクッと朝食を済ませて、南方都市を出航する。
……ここまで離れたら船は来ないよね。さっそく召喚しよう。
「じゃあ、みんな、船召喚するよ」
僕がウザい位に凄い凄いとアピールしたからか、イネスとフェリシアもワクワクしているみたいだし、リムも頭の上でポヨンポンしている。
でも度肝を抜けると思う。まあ僕が凄いんじゃなくて船が凄いんだから、威張れる事じゃないんだけど。召喚するのは僕なんだから、少しは自慢しても良いよね。
「OR〇OS召喚」
僕の声と同時に、今までに無い大きな光の魔法陣が海面に浮かび上がる。
魔法陣から出て来た船に声を失う。
……画面で見てたから知ってはいたんだけど、これを船って呼んで良いのかな? 水面に浮いてれば、船って考えなら良いのか?
全長約37メートル。全幅約28メートルの大きな、何と言ったらいいのか未来的なデザインの船……建物? が召喚された。
「凄い……凄いわご主人様」
イネスの声で、現実に引き戻される。彼女を見ると、満面の笑顔で抱きしめられた。
「ご主人様、どんな船なのか楽しみにしていたんだけど、想像以上よ。こんな船があるなんて思いもしなかったわ。楽しいわ、ご主人様の奴隷になれてとっても楽しいわ」
ぎゅっと抱きしめられて、熱烈なチュー……この船、買って良かった。まあ、物で気を引くのはどうなのかとも思うが、奴隷契約の時点で豪華客船で釣ってるんだし、今更だよね。物だろうと何だろうと、気にせず楽しく暮らそう。
「あら、リムちゃんごめんね。驚かせちゃったわね」
イネスが離れると、リムがイネスの頭の上でポヨンポヨン飛び跳ねている。まあ、突然だったしリムも驚くよね。
「リム、こっちにおいで」
ポヨンと飛び付いて来たリムを抱きかかえ、モニュモニュする。
「ビックリしたね。イネスも謝ってるから許してあげてね?」
『……? ……たのしい、すごい』
「あー、リムは怒っていたんじゃなくて、一緒に喜んでたんだね。イネス、リムは一緒にはしゃいでただけで怒ってなかったよ」
「ああ、そうだったのね。良かったわ、リムちゃんおいで」
イネスに飛び付き、戯れる姿を堪能する。良いよね、美女とスライム。
「あの、ご主人様、凄い船ですね」
「ありがとう、フェリシア、なんだか恥ずかしそうだけどどうしたの?」
「いえ、なんだか、タイミングを逃した感じがして、今感想を言うのはどうなのかと思いまして」
あー、イネスとリムが騒いだ後に、普通に感想を言うのは、確かに少し恥ずかしいかもしれない。
「気にしなくて良いよ。驚いてもらえて嬉しいし、取り合えずOR〇OSの周りを1周して、中に入ろうか」
「「はい」」
ぐるっと船を1周する。船体は白だが、床は板張りで、1階部分は白い柱以外はガラス張りだ。2階部分はほぼ全面が木製のデッキになっていて半ドーム型の屋根が付いている。嵐の時とかどうするんだろう?
本当に、船と言うよりデザイナーが建てた一軒家……うーん、宇宙船? 何となく未来っぽい建物に見える。ゴムボートも止められているな、ちょっとした移動はゴムボートを使うのか。
この船を何艘も買えば、ゴムボートで行き来する小さな海上都市が出来そうだよね。
後方デッキにルト号を泊めて、乗り移る。大きなソファーが2脚に1人用ソファー4脚、2台のテーブル設置がされている。なんか後方デッキがルト号より広く感じるな。
「凄いね」
「ええ」
「はい」
ガラス越しに見える内部も気になるけど、横の通路を通り、前方デッキに向かう。
ん? 外にもシャワーが2つあるんだ……マリンスポーツの後に体を洗うんだね。異世界でマリンスポーツって出来るのか? 命がけになりそうだな。
前方デッキにはビーチチェアが4脚おかれたスペースがあり、2階部分に上がる、貴族の家や、宝塚で使われていそうな両サイドに別れた階段がある。
左側の階段を上ると、お目当てのジャグジーがある。
「ご主人様。大きなお風呂がありますね」
「うん、これがこの船を買った理由の大部分なんだ。ただのお風呂じゃないから期待しててね。全部見て回ったらみんなで入ろう」
「はい」
「じゃあ、お湯を張っておくね」
フェリシア、ジャグジーに興味津々でじっと見ている。フェリシアってお風呂が大好きだよね。ジャグジーに入ったらどんな反応をするのか楽しみだ。
ジャグジーの横には広いソファーベッド? がある。右側の階段を上った先にも大きなソファーベッドとL字ソファーがある。
……この船ソファーが多すぎる気がする。何処に行ってもソファーがあるよ。ポイントポイントにはソファーが設置されいる。
奥に進むと、半ドーム型の屋根の下にはL字のキッチン? カウンターがあり、丸椅子が設置されている。
その奥には……15人位は軽く座れるソファーが設置されている……ここでパーティーでもするのかな? もうソファーの事には触れないようにしよう。
「だいたい外は見て回ったし、船偽装をするね」
「「はい」」
サンデッキ部分を変えるのは勿体ないよね。外から見える部分だけ中型の木造船のイメージに変更……なんか不格好な気がするけど、やらないよりマシだよね。完全に木造船になるイメージも考えておこう。
2階を見て回ったので、1階の内部を確認する。広いスペースがあり、両サイドに3つずつ扉が付いている。奥に進むと、テーブルの置かれたスペースとバーカウンターがある。
6つの部屋にはそれぞれ大きなベッドと机、シャワーにトイレも付いている。ベッドも大きいし、2人で1部屋にすれば。僕達とジラソーレでも十分だよね。
1階から、下に……地下? 水面下? に下りると。大きな部屋に……これは触れるしか無いよね。段々畑みたいになっている大きなソファーがある。
大きなテレビもあるし、ここでみんなで集まって映画鑑賞でもするのかな? 映画が観られるかもと期待したんだけど駄目だった。フェリーでDVDが借りれたら、ここで鑑賞会もいいかもね。
「大雑把だけどだいたい見て回ったね。どうだった?」
「うふふ、凄いわ、部屋も家具も上品だし、トイレにお風呂、広い生活空間。ルト号でも凄いと思ったのに、ここはもう立派なお屋敷ね」
「本当ですね。海の上だと忘れてしまいそうです」
『りむ、たのしい』
みんな気に入ってくれたみたいだ。僕もこんな所で生活出来るのかと思うと、テンションがあがちゃうよね。さて、次はいよいよメインのジャグジーだ。
「じゃあ、次はメインのお風呂だよ」
「「はい」」
ジャグジーに向かい、服を脱ぐ……なんかルト号と違って、船って感じがしないで一軒家の庭先で全裸になっているような感覚がする……微妙に恥ずかしい。
ざっとお湯で体を洗い、お湯につかる。
「ふー、お風呂が広いと更に気持ちが良いね。天気も良くて景色が綺麗だし最高だね」
「ご主人様、胸を見ながら景色の話をされても、その、困るのですが」
「え、ああ、ごめんなさい」
だって、褐色のプルンプルンとピンクの突起が、目の前にあったらね、見ちゃうよね。
「ご主人様、沢山金属の穴が付いてるけどこれは何なの?」
「ああ、これがこのお風呂の凄い所なんだ、ちょっと待ってね」
ボタン操作も出来るんだけど念じた方がはやい。
「きゃ」
「んっ」
浴槽の全面に取り付けられた穴から、勢いよく細かな泡が出て来る。湯船の底からも泡が出て来て、体全体に刺激が与えられる。
んー……透明なお湯なら、よく見えたんだけど、噴出される泡でよく見えなくなった……でもプカリと浮かんだ物はプルンプルンで最高だな。
あっ、同じくプルンプルンのリムが波乗りしている。
「リム、大丈夫?」
『だいじょうぶ』
楽しそうな意思も伝わって来るし大丈夫か。プカリプカリとお風呂の中を移動している。
「気持ちがいいでしょ?」
「はい、最初は驚きましたが、温かいお湯と細かな泡がとても気持ちが良いです」
「ええ、とっても気持ちが良いし。ご主人様が欲しがるのも分かるわ」
2人ともゆったりお風呂に浸かり、目を瞑って全身の力を抜いている。僕も全身の力を抜いてリラックスする。
暫くのんびりした後、水流を起こしてみると、リムが大興奮。グルグルお風呂の中を回っている。偶にお胸の間に入って休憩するリムが、可愛い。そして眼福です。
「ふう、そう言えばこの船の名前、何にしよう?」
「名前……そう言えばこれって船なのよね」
「そうですね。船って事を忘れてしまいそうですが、船なんですよね」
みんなで考えてみるが、中々良い名前が思いつかない。オルソスだから、オル号かソス号はどうだろうと提案したが却下された……何かないか? プカリと流れて来たリムをムニュムニュしながら考える。
これから船を買ったら毎回名前を考えるのか? キツイな、何かシリーズで……車の名前を船に付けるのは無いよね。動物の名前は……無いな。
うーん、分からん単純にいこう。隠れ家みたいなもんなんだから英語にしてハイダウェイにしよう。
「決まりました。ハイダウェイ号にします」
「響きは悪くないと思うわ。どんな意味があるの?」
「隠れ家って意味だね。ピッタリでしょ?」
「ふふ、そうね。隠れ家……ピッタリだと思うわ」
「はい、ご主人様が召喚しないと出てこない船なんですから、良いと思います」
「やっと、名前が決まった。後はのんびりしよう」
「「はい」」
難問を乗り越えお風呂を楽しむ。お湯を光らせるライトもあるんだけど、これは夜のお楽しみだね。偶に、ジャグジーの隣にあるソファーで休み、イチャイチャしたりと。夕方までお風呂を堪能する。
冷たいジュースも美味しいけど、冷たいビールが飲みたいな。フェリーがますます欲しくなるよ。
「ご主人様、これがあるから、あの服を作ったんですね」
「ええ、さすがにジラソーレの皆さんは全裸で入ってはくれないし。僕達が全裸で入っていたら気まずいからね。あの服を着ていれば皆が楽しめるでしょ?」
「そうね、楽しそうだけど、私達を見るようにあの人達を見たら、嫌われちゃうわよ」
「……何とか我慢します。もし、露骨になってたら教えてください」
一緒に入る方法ばかり考えてたけど、入った後の事を考えてなかった……気を付けないと、そんな理由で嫌われたら立ち直れないよ。
「分かったわ」
「分かりました」
ふやける程お湯に浸かり、ちょっと贅沢にサンデッキで海鮮バーベキューを楽しむ。醤油が欲しい。
美味しいご飯を食べて新しい部屋で、たっぷりイチャイチャして眠りにつく。お休みなさい。
朝か、ん? ここは? 「んちゅ」ボーっとしてると、朝の日課が始まった。
ここは、ああ、ハイダウェイ号か。
「2人とも、おはよう」
「「おはようございます」」
朝食を食べ終わる……約束の時間までまだまだあるな。
「2人とも、まだ時間もあるし、朝風呂に入って南方都市に戻らない?」
「良いわね。入りましょうか」
「はい」
『りむも』
船にお風呂が付いてると、念じるだけできれいになって、念じるだけでお湯が張れる。便利だよね。
朝からジャグジー、両隣に美女とリム……どっかのエロ雑誌にありそうな構図だな、リムはいないだろうけど。でも物凄く楽しい。
「ふー、気持ち良かった。朝風呂は良いよね」
「はい、これからは、ご主人様が念じればお風呂に入れるんですよね」
「うん、便利だよね」
でもルト号の狭いシャワールームに3人で入るのも好きだったんだけど……まあ、ハイダウェイ号が毎回使えるわけじゃないし機会は幾らでもあるか。
「じゃあ、そろそろ、南方都市に戻るね」
「「はい」」
「あっ……クラーケンがへばり付いてるね……イネス、フェリシア、お願い」
「「はい」」
あっさり2人がクラーケンを討伐して、ルト号を召喚して乗り込み、ハイダウェイ号を送還する。
問題無く南方都市に到着して、海猫の宿屋に向かう。
「皆さん、おはようございます」
宿の前で待っていてくれたジラソーレに挨拶をする……部屋で待っていて欲しかったよ。ジラソーレを見るために人が集まってる。その中で声を掛けるの目立ちすぎて怖いよ。声を掛けただけで殺気がビンビンだ。
「食料の買い出しは全員で行くんですか?」
「いえ、買い出しにはクラレッタとカーラが一緒にいくわ、私達は他の消耗品や雑貨を買って来るわね」
「分かりました、では行きましょうか。クラレッタさん、カーラさん」
「「はい」」
ジラソーレの他のメンバーと別れ、クラレッタさんとカーラさんと食料の買い出しに向かう。
「ねえ、ねえ、ワタルさん」
「何ですか? カーラさん」
「とっておきが作れる材料は手に入ったの?」
「ええ、一昨日しっかり買って来ましたよ。航海中に作りますので楽しみにしていてくださいね」
「うん、楽しみ」
うーん長身のクマミミ巨乳美人が食いしん坊キャラ……可愛ければ良いよね?
「ふふ、カーラは一昨日からずっと楽しみにしてますから。ワタルさん頑張ってあげてくださいね」
「そうですか。頑張らないといけませんね」
雑談をしながら食材の買い出しを続ける。20日間10人分は結構な量になる。肉を各種と鳥ガラ、野菜にパン、卵に塩、砂糖、大量に買い込んでいく。
「ワタルさん、いくら船だと言っても、こんなに買って大丈夫ですか? お肉類は腐るまでに食べきれませんよ?」
「大丈夫ですよクラレッタさん、でも持ちきれなくなりましたね。荷車を借りましょうか」
「うーん、ワタルさんが言うのなら信じたいですが、大丈夫な方法が想像出来ないので不安です」
「大丈夫ですよ、後で皆で集まったら船まで案内しますから、その時に分かります。クラレッタさん、カーラさん、イネス、フェリシア、リム、食べたい物があったら買っていきますので、言ってくださいね」
『「「「「はーい」」」」』
美人4人とお買い物、異世界に落ちて来て良かった。でもなーイネスとフェリシアと一緒の時も嫉妬の視線は受けてたんだけど。
クラレッタさんとカーラさんはファンがいるからか、嫉妬どころか殺気が飛んでくるのが困る。まあ、僕が荷車を引き出したあたりから、何だ荷物持ちかよって目で見られるようになったけどね。安心だけどなんかムカつく。
考え事をしながら買い物を続けていると、目の前に立ちふさがる男が1人……殺気がビンビンだね……
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。