18話 ミルクとチーズとピザ
シエーナ村に着いた。ジラソーレと別れた後ルト号に乗って1時間、あっさり、シエーナ村に到着した。
長閑な農村で、牧畜が盛んなのか、木の柵の中には家畜がのんびり寝転がっている。あんな木の柵で魔物が来たら耐えられるのか?
村の門番にギルドカードを提示し、ミルクの事を聞くと、村長に相談するように言われた。案内もしてくれるそうだ。門番が案内で門を離れても良いのか?
「村長ー、お客さんだ、商人さんだぞ!!」
「分かったから大きい声をだすな。初めまして、シエーナ村の村長のコンサルボと申します」
「初めまして、商人のワタルと申します。ミルクを入手したくてお伺いしたのですが、分けて貰う事は可能ですか?」
「ミルクですか? お譲りする事は可能ですが、チーズを作れるほどの分量だと時間が掛かりますよ」
「この2樽に詰めて欲しいのですが、どの位の費用と時間が掛かりますか?」
「この位なら直ぐに終わりますな、値段は、1樽50銅貨でいかがですかな?」
「ええ、お願いします。1銀貨です、他にも新鮮な卵と、チーズも分けて頂きたいのですが」
「チーズと卵ですな、持って来させましょう、どの位必要ですかな?」
「そうですね、チーズは大きな塊を2つと、卵は新鮮な物であれば、余裕が有る分をすべて頂きたいです」
産地の新鮮な卵なら安心感が増すよね? 卵の味は少し時間が経った方が美味しいってテレビで見た気がするけど……時間が経つとこの世界だと怖い。
「ある程度は、南方都市に卸してしまいましたので、卵は……50個で構いませんかな? チーズと卵で6銀貨40銅貨になりますが」
「はい、お願いします」
「では、準備させます。船までお運びしましょうか?」
「ありがとうございます。船の手前に運んで頂ければ助かります」
「分かりました、それでですな、ミルクを購入される方は初めてなので、何にお使いになるのか聞いても良いですかな?」
「ミルクですか? 色々作りたい物があるので、試してみようかと。カッテージチーズに生クリームにバター、色々楽しめますからね」
「不勉強で聞いた事ない物ばかりです。ワタルさんが商売で扱っている物ですか?」
チーズを作ってる村なのに知らないの? 名前が違ってるのか?
「生クリームはミルクを数時間置いておくと表面に浮いてくる部分の事です。バターも生クリームから作りますね。カッテージチーズはフレッシュチーズの一つで、作りたてが美味しいチーズです」
牧場見学ではそんな説明だったよね? 間違ってないはず……
「そのような物があるんですか、よろしければお教え願えませんかな? この村も南方都市に近い分便利ではあるのですが特産もチーズしかなく、先が見えないのです」
「えっ、はあ、お教えするのは構いませんが、上手く行くかわかりませんよ?」
なんかいきなり重い話になった、牧場見学の知識で村興しの手伝いをするの? やばくない? 初対面の商人に教えを乞うほど行き詰ってるの?
「構いません、何かを変える切っ掛けが無いと、この村は変わりませんから。何でも試してみたいのです」
「はあ……分かりました。ですが生クリームはありますか? ミルクを暫く放置してないと出来ないんですが、僕も夜には南方都市に戻らないといけないので、時間があまり無いのですが」
「朝絞ったミルクで使い切れなかった物がありますので、それに出来ていれば大丈夫だと思います」
「分かりました、船に戻って荷物を積み込んで戻ってきますので、準備をしておいてください。必要な物は、ミルク、塩、レモン、ざる、大き目の鍋、水筒、清潔な目の細かい布です」
これって、村興しに巻き込まれてるよね。テンプレのイベント……なのか?
船に戻り買った荷物を送還する。
「ご主人様のお料理教室、第2弾ね、楽しみだわ」
「そんな大した物じゃないよ。上手くいくかも分からないのに教える事になるなんて、胃が痛い」
「ご主人様、確証が無いのであれば断った方が良かったのでは?」
「そうは言っても、いきなり重い話になって、村の先が見えないとか、変わらないと、とか言われて断るに断れなかったんだよ」
「うふふ、ヘタレね」
「ぐふっ」
「イネス、もう少し優しい言葉を使いなさい。私達のご主人様なんですよ」
「い、いえ、大丈夫です。2人とも、戻りますよ」
村長の所に戻ると、村人が集まっていた………プレッシャーが………
「ワタルさん準備が出来ました、よろしくお願いします」
「「「「「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」」」」」
うう、帰りたい………
「分かりました。まずは時間のかかるカッテージチーズを作ります」
「はい」
「まずは、ミルクを沸騰しない様に温めます。ゆっくりかき混ぜながら温めてください。温まったら、塩とレモン汁を加えて掻き混ぜて火から下ろします。冷めるまで暫く置いておきます、ここまではいいですか?」
「はい」
「ではこの間にバターを作ります。ミルクの上澄みから取った生クリームと塩を水筒に入れてひたすら上下に振ってください。中に固形物が出来てきますので限界まで振ってください」
「どの位で止めたらいいのかは、僕も知りませんが5~10分位は振り続けないといけないので、体力のある人か、交代で振るかしてください。では、やってみてください。
ああ、あと、生クリームは冷えていた方が固まりやすいらしいので、次から作る時は早朝とか気温が低い時がいいですね」
「はい」
皆ひたすら水筒を振ってる。意外ときついんだよなー、バターとカッテージチーズか……それだけで村興しは無理だよねーなんかメインも考えるか……
僕に出来そうなのはピザかな? ドライイーストとか無いし……クリスピーっぽいピザならいけるか? あっ、村で作ってるパン生地でやってみよう、チーズを作ってる村なら目玉になりそうだし。
「皆さん振っている水筒の手応えは変わって来ましたか? 変わって来ていたら水筒を開けて中の水分を捨てて固形物を取り出してください。それがバターです、あぶったパンに塗って食べてみてください」
疲れ切っていた村人も、味見は元気になるようだ。口々に美味しいとの声が聞こえてくる。
僕達にも持ってきてくれたので味見をする。うん、美味しいな、生クリームが濃厚だからか? コクがあって香りも素晴らしい。いくらでもパンが食べれそうだ。イネスとフェリシアも喜んでいるな。
「次はカッテージチーズですね、冷ましておいた鍋のミルクを、別の鍋の上にザルをしいてその上に目の詰まった布を敷き、ミルクを流し込みます。このまま半日ぐらいはおいておきます、固まったら完成です。
サラダに入れたりお菓子の材料にしたり、色々使えるので試してみてください。バターもカッテージチーズも好みで塩等調整してくださいね」
「はい」
「もう一つメインとなる料理を教えておきますね。これを改良して川沿いで売れば名物になるかもしれません。まずはパン生地とチーズ、トマト、ニンニク、バジル、玉葱、鷹の爪、オリーブオイルを準備してください」
みんなやる気があるな。内容を聞いたら直ぐに走って材料を集めに行った。
「準備ができたらまずはトマトソースを作ります。トマトを茹でて皮を剥き、ニンニク、バジル、玉葱をみじん切りにしておきます。
オリーブオイルと鷹の爪、ニンニクをフライパンに入れて火を通します。バジルと玉葱のみじん切りを投入して更に炒めます。次にトマトを潰しながら混ぜて塩で味を調えたら完成です。
値段が上がりますが白ワインや胡椒を入れると更に美味しくなりますね、分かりましたか?」
「はい」
「次は、パン生地を薄く延ばして、先ほど作ったトマトソースを塗って、チーズを満遍なく振りかけます。ちぎった干し肉を散らして、パン窯で焼けば完成です。焼くのはお願い出来ますか?」
「はい」
一人の男性が生地をもってパン窯に走って行った。暫くして焼けたピザを持って戻って来た。さっそく切り分けて味見をすると、色々不満はあるがまあまあ美味しいピザが出来ていた。村の皆には大好評で取り合いが発生している。
「この食べ物はピザといいます。今回は簡単な物を作りましたが、トマトの輪切りやお芋、野菜、肉、魚、具材は幾らでもあります。美味しいピザを作れば、村に人が立ち寄るようになるかもしれませんので頑張ってください」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」
なんとかなるか? しょせん素人料理だから不安でいっぱいだ。なんでミルクを買いに来てこんな事になるんだろう。
もしかして主人公のトラブル体質って奴かも。異世界に来て主人公体質が身に着いてきたのか? ……違うな、料理しかしてないし。
「ワタルさんありがとうございます、美味しい料理でした。川沿いで船に売れれば人が来そうです。南方都市に伝わればチーズの消費も増えますし、村も活気づきそうです。
たいしたお礼は出来ませんが、これからチーズなど限界はありますが、無料で卸させて頂きますので必要になりましたら、何時でもお越しください」
「いえいえ、無料だと来にくくなるので、お安くしてもらうだけで十分です。数日後には国外に出ますので、次に来るのは数か月後だと思います。どうなってるのか楽しみにしてますので頑張ってください。
ああ、あと、カッテージチーズはトマトとオリーブオイルで混ぜて塩で味付けすると美味しいですよ。では、失礼します」
お見送りの人達に手を振り南方都市に戻る。港に船を泊めて服屋に甚平を取りに行く。
「すみません、服は出来てますか?」
「あっ、はい、出来ていますよ。昼間はジラソーレの皆様をご紹介下さり、ありがとうございます」
「いえ、偶々同じ服が必要だっただけですので、成り行きなので気にしないでください」
店に連れて来ただけで、こんなにお礼を言われるのが凄いな。海猫の宿屋みたいにお客が増えるのか? あり得るな。
「それでも、本当にありがとうございます。こちらが、ご注文の品になります。ご確認ください」
「おー、注文通りですね。十分です、ありがとうございます」
「いえ、珍しい注文で職人も喜んでいました。また何かありましたらよろしくお願い致します」
「はい、こちらこそ、その時はよろしくお願いします」
甚平を受け取りルト号に戻り、さっそく着替えてみる。
「何だか変わった服ですが、よくお似合いですご主人様」
うん、自分で言うのもなんだけど、結構似合ってると思う。灰色の甚平が違和感なくマッチしている。古き良き日本人体形だからか? 足が短いからなんて事は……
イネスとフェリシアはなんかあんまり似合ってない……真っ白な肌と褐色な肌、盛り上がる巨乳、そしてスラっと長い脚。違和感がある。ズボンを少し短くしたのも駄目だったな。でもジャグジーに入る為の服なんだし良いか。
「この服、室内で着る分には凄く楽でいいわね」
「イネスの言う通りです。着やすいですし、水でぬれた後でも脱ぎやすそうです。でも今更ですが、何でお風呂にこの服が必要なんでしょうか?」
「そういえばそうね、ご主人様、どうしてなの?」
「うーん、それは、ジラソーレが居る時用の服で、明日は必要ないよ。後は明日のお楽しみだよ」
「ふふ、分かったわ」
「分かりました」
良かった、深く突っ込まれたら、ボロが出そうだからな……
「ふー、それにしても予想外に大変な1日になったね。疲れたし今日はもうゆっくりしようか」
「「はい」」
「ご主人様、ピザ、美味しかったわ、また作ってね」
「私も好きです」
『りむもぴざ』
「イネスとフェリシアも作り方を覚えたでしょ? 今度は2人の手作りピザが食べたいな。リムはその時一緒にピザ食べようね」
「わかったわ」
「頑張ります」
『たべる』
みんなピザを気に入ったみたいだ。僕的には不満が少しあったんだけど皆が喜んでくれたのなら良いか。
「明日は新しい船の確認だから、起きたら外海に出るよ」
「いよいよ、新しい船が見れるのね。ワクワクするわ」
「ご主人様が凄く興奮してましたから、楽しみです」
「ええ、新しい船は2人の予想を超えますよ。期待してても大丈夫です」
「凄い自信だわ。こんなご主人様初めて見るわね……」
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
なんだろう、僕が自信満々なのが珍し過ぎて2人とも不安な顔してる……そんなに僕が自信を持つと変なの?
軽く夕食を取りシャワーを浴びてイチャイチャして眠る。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。