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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
二十四章
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5話 派手に……

 ヨーテボリの町の商業ギルドを訪ねると壊滅していた。幸いなことに冒険者ギルドは無事だったので情報収集をすると、悲惨な状況が次々と浮き彫りになる。心配していたメアさんにいたっては命は無事だが教会に入院中。しかも医者不足。あまりの惨状にクラレッタさんに治療に向かってもらうことにする。戦乱後ということで色々と覚悟はしてきたが、それにしても大変すぎる。




「最初にですが私の手元には航海中に襲って来た大量の海の魔物があります。まずはそれらの解体を仕事としてお願いしようかと思っています。その代金は解体した魔物の素材の一部。食料利用できる魔物も多いので、それなりに助けになるかと思います」


 男性職員を落ち着かせてこちらの要求をストレートに告げる。


 駆け引きが必要なタイミングではないというか、今の状況は圧倒的に僕が有利なので駆け引きをすると限界ギリギリまで搾取できそうなのでしない。支援目的もあるのに苦しんでいる相手から搾取とか意味が分からないよね。


 死蔵しているだけの魔物達、全部寄付してもスペースが空くぶん得と言えなくもないから、それが解体されてある程度手元に戻ってくるのなら十分だろう。


 まあ、食料利用できるといっても美味しいかどうかは別だけどね、グラトニーシャークとか、間違いなく美味しくない。


 そういえばフカヒレの加工をしたな。色々とあって、というか豪華客船で普通にフカヒレが食べられるから放置状態だったけど、あれも料理しないとな。


 あ、美食神様とグラトニーシャークのフカヒレの料理研究とか楽しそうかも。


 おっと、今はそんな楽しいことを考えている場合じゃなかったな。


 それにしても、ビジネスだし僕がメインだからハリキッテ一人称を私にしてみたが地味に恥ずかしいな。社会人になったらほとんどの人が私を使うようだけど、みんな最初は恥ずかしかったりするのだろうか?


「ああ、それと、船のスペースを空ける必要があるので、値段の低い物は寄付にします。できるだけ活用してください。この条件で人を集められますか?」


 シーサーペントとか高級を越えた最高級な魔物を最初から出すつもりはない。最初はランクの低い魔物からの提供だから、戻ってきても邪魔というかそれをお金に変える能力が僕にはない。


 ドナテッラさんに任せてしまえばなんとかしてくれそうだが、ドナテッラさんにはこれから沢山働いてもらわないと困るので多少損したとしても手間のかかる仕事は避けるべきだろう。


「は、はい、今は仕事が必要な人材が沢山居ますのですぐに。解体の技術を持つ者もそれなりにいますので、その者達を指示役にすればかなりの数に対応できるかと」


 仕事の話に顔を輝かせる商業ギルドの男性。ただ、話している間に冷静になったのか、どれほどの量の仕事を提供してくれるのかと疑問視しているようだ。商人らしい冷静さだ。


 それでも期待が隠しきれていない様子なのは、それだけ追い込まれているということだろう。


 それにしても仕事の量か……ぶっちゃけると、そんなの知らないし分からない。だって解体なんてほとんど自分でやったことがないし、所持している魔物の量もボート何艘分とかおおまかにしか把握していない。


 そんな状況でどう仕事量を見積もれと?


 とはいえ何事も最初が肝心であることに変わりはない。このヨーテボリの復興に勢いが付くかどうか、そんな目には見えないが大切な判断が今の僕に求められているように思う。


 というか、なんで復興まで考えているのだろう?


 商売の神様のお願いは物資を運んでこの大陸の商売網のフォローだから復興まで考えなくてもいい。


 考えなくてもいいはずなんだけど、ヘタレな僕は目の前で苦しんでいる人を見ると見捨てるのが怖くて見捨てられない。


 なによりも、女性陣にカッコいいところを見せたいという欲望が僕を後押しする。


 うちの女性陣、みんな優しいから見捨てたら好感度が下がりそう、でも、逆に考えれば見捨てなければ好感度が上がる……はず、だよね?


 OK、僕はビビリでヘタレだけれども、女性に見栄を張るためならそれなりの苦労を負う覚悟はできる男だ。ここは初手で派手にぶち上げてやる。


 思った以上に人が集まったらシーサーペントクラスの高級魔物も大盤振る舞いしちゃうよ。


 まあ、足りなくなっても外海に出れば魔物が沢山居る。派手に騒いだり獲物の血をバラまいたりしたら僕達の体力と根気が続く限り魔物の補充ができるんだ。


 シーサーペントクラスの獲物を提供するタイミングはこちらで選べるだろう。そしてそのタイミングはドナテッラさんに丸投げだ。


 たぶん、ある程度活気が戻って商人に元気が出た頃かな?


「集められるだけ集めてください。まともに働ける人員は当然として、老人も子供も集められるだけ集めてください。仕事はいくらでもあります。まあ、私は仕事を投げるだけで、その仕事を管理するのはあなた達です。限界はそちらで決めてください」


 ふふ、今の僕、カッコ良くなかった?


 チラッと女性陣の姿を確認する。


 ……そうだった、今の僕はこっちの大陸の言葉で話しているんだった。カッコつけたのに、それがまったく伝わっていないよ……畜生……。


「そうおっしゃられましても……」


 男性職員が困惑している。


 まあそれも当然か。ほら話を真に受けて人を大量に集めて、それが嘘だったら普通の状況でもブチ切れ案件だ。今の冗談が通用しなさそうな状況でそんなことをしたら暴動案件だもんね。


 大助かりな仕事内容なはずだけど、頭から鵜呑みにできないだろう。


「ああ、ではまず港に護衛ができる冒険者と、それなりの解体要員を集めてください。私が船から素材を運んできますので、その状況を見て人数を増やすかどうかの決断をそちらでしてください」


 カッコつけたのが不発だったので急激にテンションが下がり、無難な答えに落ち着く。


 そうだよね派手にやってカッコつけようと思ったけど、無理をして背伸びをしても痛いだけだ。身の丈に合った活動をしてコツコツ好感度を稼ぐのが僕向きだよね……。


「それならば可能です」


「ではすぐに行動してください。僕達は船に戻り魔物を運んできます」


「今すぐにですか?」


「はい、今すぐにです。私は今から動きますから時間はあまりありませんよ」


 この町の状況だと、一日遅れたら餓死者が増える気がする。忙しいのは好みではないが、今は早さを優先して頑張る時だろう。あと、現在のビジネスモードが肌に合わな過ぎて辛い。一刻も早く状況を安定させて僕は船に引きこもるんだ。



「なるほど、さすがワタルね! 分かったわ、急いで戻りましょう」


 男性職員に別れを告げ、船に向かいながらアレシアさん達に状況を説明すると、めちゃくちゃ褒められた。


 やはり人の為になる行動は女性陣の受けが抜群なようだ。


 まあ一緒にペントも褒めてくれたのだけど、たぶんペントは状況を理解していないと思う。


「イルマ、問題はありませんでしたか?」


 和船に戻るとイルマさんは難しそうな本を読みながらのんびりしていた。特に問題は起こっていないようだ。でも、念のために確認だけはしておく。


「ええ、ドロテアが抜けてから少し人が集まってきたけど、魔術で牽制したら近寄ってこなくなったわ」


 ……どの程度の魔術をぶちかましたのかが少し気になる。イルマさんなら無茶をしないだろうが、牽制の為に強力な魔術をぶちかまさないとも限らない。


 まあ、そうしたらそうしたで騒ぎになるだろうし、たぶん大丈夫だろう。イルマさんを恐れて港に人が集まらない、なんてことにはならないはずだ。ならないよね?


 港のあちこちに人がいたはずだが、その人達の姿が消えていることに若干の不安を感じる。


「ええっと、ありがとうございます。状況がある程度分かりましたので、一度船に戻ります。アレシア、その間にイルマに事情説明をお願いします」


「分かったわ」 


 事情説明をアレシアさんに任せて和船を出港、見えている距離なのですぐにストロングホールド号に到着する。まだアレシアさんの事情説明は終わっていないが船に乗り込み甲板に移動する。


 そこに在るのは巨大な筏。南方都市の南東の島で使っていたテント筏よりも数倍大きい巨大な筏だ。


 これを用意したのはカミーユさんとドナテッラさんとマウロさん。


 彼女達は僕の船召喚の制限も知っているので、大量の物資を運ぶのに船召喚の枠を潰すのは不合理だとこの巨大筏を四枚も用意してくれた。


 有能な人の先見性は凄いと思う。


 まあ、最初に運ぶのは物資ではなくなく、魔物になっちゃったけどね。


 港から見えない位置の海面にその筏を降ろし、近くに魔物を入れたゴムボートを召喚する。移し替えに多少の時間がかかりそうだが、人集めにもそれなりの時間が必要だろうから丁度いいだろう。


「カーラを教会に行かせたのは失敗だったかしら?」


 魔物の移し替えの作業をしているとアレシアさんがポツリと呟いた。そのつぶやきに全員が同意する様に頷く。


 そうなんだよね、僕達だけだと巨大筏を海に降ろすだけで割と苦労した。まあ数人で巨大な筏を持ち上げることが可能なのも凄いんだけど、カーラさんなら一人で持ち上げられるんだよね。


 魔物の移し替えも僕達よりも断然早いし、適材適所で考えるなら人員配置に失敗している。ただ、あの時はこうなることが決まっていなかったからしょうがない。


 クラレッタさんとドナテッラさん、そしてリムの身の安全を確保するのは大切なことだ。その為なら多少の苦労は納得できる。まあ、次の機会にはカーラさんの再配置は確定だけどね。


「うーん、状況は理解したわ。臨検の時に無かった魔物が大量に運ばれてくることにあの兵士がどう反応するかだけど……まあ、大丈夫ね。真面目で融通が利かないけど、町に差し伸べられた救いの手を杓子定規に振り払うほど馬鹿じゃないわ」


 アレシアさんの説明が終わりイルマさんが考えたのは港の兵士さんの反応だった。そういえば魔物は腐るから全部ゴムボート収納だった。すっかり忘れていたな。


 でもイルマさんの言うとおり大丈夫だろう。真面目ではあるが身の安全の為にハッタリをぶちかます度胸もある人だ。その程度の不思議くらい呑み込んでくれるはず。


 それにしても今日はあと何回くらい積み替えすることになるんだろう? 途中でカーラさんを呼びに行くことも選択肢に入れておくべきかもしれないな。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
パワー役のカーラはいるよね…飯で動いてくれるし そういえばフカヒレ作ってそのままでしたね
生きがよいサメはアンモニウムが出てないので普通においしい 時間が経つとアンモニウムが出てきてクサくなる魔物のサメは知らんがw 餓死するよりマシなんだから多少食えるならバンバン提供しちゃえ
たぶん、ワタルの今の扱いはドラクエIVのトルネコみたいに 勇者や聖女のパーティーの補佐担当
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