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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
二十四章
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4話 こういう時は財力よりも武力

 ヨーテボリに到着したが、港に上陸してそうそうに躓くことになった。港を管理する兵士さんから情報収集をするが、酷いという言葉が陳腐に思えるほどヨーテボリの現状は酷かった。慈善事業は無理にしてもなんとか対策をとドナテッラさんに相談し、海の魔物の解体というナイスアイデアをだしてもらう。これで少しはなんとかなるかな?




「無事じゃなかった……」


 ドロテアさんとイルマさんには再び和船の警護に残ってもらい、ようやく目的のヨーテボリの町に足を踏み入れた。


 町中のボロボロな様子に言葉を失い、情報収集の甘さを痛感する。


 商業ギルドと冒険者ギルドという大組織に何かあると考えていなかったので港の兵士さんに聞き忘れていた。まあ、国が何度も滅んだと聞いて、そこまで頭が回らなかったんだけど……。


 町の様子に不安を覚えながらもとりあえず商業ギルドに足を運んでみたのだが、見事に自分の見込みの甘さを確認することになる。


「これは……間違いなく略奪されている」


 マリーナさんが物騒なことを口にするが、目の前の光景を見ると否定できない。


 立派だった商業ギルドは見る影もなく、扉や窓、それだけではなく一部は石造りの壁にすら穴が開いている。


「商業ギルドに手を出すって、普通じゃありませんよね?」


 この世界、王侯貴族はもちろんとして商業ギルドと冒険者ギルドも敵に回してはいけない存在だと認識されている。


 ネットワークの広さゆえに、下手をしたら国を敵に回すよりも質が悪いと考えられているはずだ。その商業ギルドの建物がボロボロって略奪しまくりの戦国時代ですか?


 あ……この大陸、少し前までは戦国時代だった……秘かに心配していたメアさんの身が更に心配になってくる。


「まあ普通の状況ではないからこういうこともあるのでしょうけど……それでも商業ギルドが襲われるのは驚きね。戦争って本当に怖いわ」

 

 アレシアさんが僕の呟きに返事をしてくれるが、アレシアさんも驚いている様子だ。というか従魔組以外は全員驚いている。


 商業ギルドが襲われるということは、それだけ衝撃的なことなのだろう。


「これからどうしましょう? 港に戻って兵士さんから更に詳しく話を聞きますか?」


 情報収集が甘かったならもう一度情報収集をすればいい。


「自分達の目で見た方が早いわ。まずは冒険者ギルド、そこでダメだったら他のギルドか領主の城を訪ねてみましょう。みんなワタルの安全が第一優先、しっかり周囲を警戒するようにね」


 僕の身の安全を第一に考えるのであれば情報収集では? と思わなくもないが、一応戦争は終わっているし、アレシアさん達が居れば直接見た方が話が早いのだろう。


 アレシアさんの言葉に僕も頷き、冒険者ギルドを訪ねることにする。



「なんだか活気があるように感じるのは気のせいですかね?」


 町がボロボロなのは変わらないが、冒険者ギルドに近づくにつれて賑やかになっていくように感じる。


「気のせいじゃないわ。良かったわね、冒険者ギルドはおそらく無事よ」


「そうなんですか?」


「ええ、冒険者ギルドが無事じゃなかったら絶望だったけど、これならまだ何とかなるかもしれないわね」


「どういうことですか?」 


 僕の疑問にアレシアさん達が答えてくれる。


 緊急事態が起こった時、人が避難するように決められた場所がいくつかある。その中で一番なのは冒険者ギルド。


 所属の冒険者は言うまでもなく戦闘のプロ、職員にも戦闘経験者が多数存在しており物理的な安全がトップクラスなのは当然と言えば当然だ。


 ある程度戦闘に慣れたDランクやCランクですら一般人とはかけ離れた武力を保持している。パリスやアレシアさん達クラスが理解不能なだけで、熟練の冒険者は一般人からすれば総じてバケモノと言っていい。


 商業ギルドが財力で身を守るなら、冒険者ギルドは武力で身を守る。戦乱の状況下ではシンプルな武力に軍配が上がったという話のようだ。


 絶望と言うのは商業ギルドの財力が負けた上に冒険者ギルドの武力まで負けていたら、立て直しにかかる労力がとんでもないことになっていたとのこと。


 その冒険者ギルドが無事なのでアレシアさんはまだ希望があると判断したようだ。


 希望があるのなら良かった。


「でも、戦闘は行われたみたいね」


 アレシアさんの言葉通り到着した冒険者ギルドの建物もその周囲も荒れている。ただ、商業ギルドよりか被害は少なくみえる上にすでに応急処置済みな様子。


 人もかなり頻繁に出入りしているのでそれなりに賑やかだ。


「大丈夫みたいだから入りましょうか」


 マリーナさんが周囲を確認し、問題ないと頷いたので僕たちも冒険者ギルドに足を踏み入れる。


 なんだか雰囲気が冒険者ギルドっぽくない。


「とりあえず受付カウンターで話を聞いてみましょうか」


「そうね、ワタル、頑張って」


「……はい」


 そうなんだよね、まだ通訳は僕の仕事、頑張らないと。


「すみません、少し良いですか?」


「はい、構いませんよ。どうされました?」


 僕が話しかけたのは少し神経質そうな男性。そうなのだ、受付カウンターに男しか座っていない。


 これが戦乱の影響なのだとしたら、僕は戦争を恨む。冒険者ギルドの受付カウンターに美女が座っていないというのは解釈違いだ。 


「実は―――」


 自分達が北の大陸から来た商人であることと、この町の現状を知りたいと伝える。


「なるほど、大変な時期にいらっしゃいましたね。分かりました、できる限り説明させていただきます。まず―――」


 面倒な事を頼んだのだが、特に嫌な顔をせずに説明してくれる男性。男性と言うだけで解釈違いだと憤慨していたことが申し訳なくなる。


 そして衝撃の事実が判明する。


 実は目の前の男性、商業ギルドの職員だった。


 壊滅的な被害を受けたヨーテボリの町、建物の被害も相当なもので領主のお城ですらズタボロになっており、現在は冒険者ギルドが各種行政やギルドの拠点となっているのだそうだ。


 冒険者ギルドがいくら大きめの建物とはいえ行政や各ギルドが集まったらスペースが足りないだろうという質問をしたら、ここに派遣されている行政のトップは名前だけの役人で各ギルドも仕事がほとんど存在しないので少人数で十分に事足りると苦笑いで教えてくれた。


 ガチで世紀末だ。このまま悪い方向に事が進んでいったらファンタジーな世界ではなくポストアポカリプス的な世界になりかねない状況に思える。


「あのー、復興計画とかは?」


「我々も努力はしていますが、資源も資金も尽きてしまっていて……」


 うん、職員さんの表情でどうしようもないことは理解できた。ガチで洒落にならん。


「あ、あの、メアさんは無事なんでしょうか? 以前こちらにお邪魔した時、とてもお世話になったので……」


 この質問は勇気が必要だった。この世界に来て戦争以外は温い異世界ライフを送っていたから、知り合いの安否確認とか心臓がキュッとなる。


「メアですか……」


 職員さん、暗い顔をしないでください。


「生きてはいますが、商業ギルドが襲撃された時に怪我を負い教会で療養中です」


 マジか。いや、生きているのであれば幸いと考えるべきか?


「その、治療の方は順調なのでしょうか?」


「なにぶんすべてが足りない状況な上に、けが人も病人もかなりの数で」


「もしかしてお医者さんと言うか治療魔術が使える人も少ないのですか?」


「少ないというか優秀な治療者は本国の方に移動になり、かろうじて治療経験がある者達でなんとか回している状況です」


 神官とか神様に仕える人達なのにヨーテボリを見捨てたということか? いや、大陸全土の大混乱、勝った国ですらギリギリならそちらに人材を取られるのは避けられないか。


 神官だって人だ。組織の命令には逆らえない。というか、たぶん、どこに行っても怪我人と病人で溢れているんだろうな。


「クラレッタ、リムと通訳のドナテッラさんを連れて治療に回って頂けますか? アレシア、クラレッタにも護衛をお願いします」


 僕もお見舞いに行きたいところだが、本気でギリギリというかギリギリを通り越している状況。一日動くのが遅れたらそれだけで死者が増えそうだ。


 こんなの僕のスタイルではないが、できる限り迅速に打てるだけの手を打つべきだろう。


 プレッシャーが酷い。帰りたい。


「分かりました。できる限り頑張ります」


 職員の話をドナテッラさんがみんなに通訳してくれていたようで、すぐに頷いてくれるクラレッタさん。


「そうね、クラレッタは戦えるけどドナテッラも一緒だし、カーラ、一緒に行ってあげて。あと教会に行く前に和船に行ってドロテアも連れて行きなさい。ワタル、それで構わない?」


「このさい和船の留守番は居なくてもいいのでは?」


 想像以上にヤバ気だから、留守番とか言っていられる状況ではない気がする。空にしておいても盗まれる心配は少ないのだからイルマさんにもこっちを手伝ってもらった方が良い気がする。


 そうすればイルマさんに教会に行ってもらい、ドナテッラさんに僕のフォローをお願いできる。


「あの状況で見張りが一人も居なくなると、騒ぎが洒落にならなくなる可能性が高いわ」


 あー、和船を巡っての争いが起きるのか。留守番が居ても襲ってくる人が居たのだから、空になったら盗もうとする人は増えるし争いも起きかねない。


「分かりました」


 アレだな、次からは別のところから上陸して和船は送還しよう。


 僕が治療者を派遣すると伝えると職員の男性は大喜びで立ち上がり、自ら案内しようと動き出した。


 いや、まだこっちの話は終わっていないので案内は別の人に任せてください。


 職員の男性を落ち着かせ、まだ話があると座らせる。落ち着かせている間にクラレッタさん達は別の職員を捕まえて教会に向かった。


「失礼しました。あまりの嬉しさに我を忘れてしまいました」


「いえ、構いませんよ」


 たぶんこの男性の近しい人も教会で治療中なんだろうな。喜び方が凄まじすぎる。でも、悪いけど今は僕を優先してほしい。少しの遅れが死者を増やしそうで本当に怖いんだ。


 ぶっちゃけ、昨日の間に行動しなかったことを結構後悔している。


 治療の方はクラレッタさんは超一流レベルだと思うし、リムは未熟ではあるが魔力も豊富だし指示されればちゃんとできる子だから大抵の場合なんとかなるはず。


「では、話を続けますね」


 さて、ここからが本番だ。ドナテッラさんが居ないのがかなり心細いが、できる限り早く話をまとめて仕事と食料をバラ撒こう。


 ドナテッラさんが言っていた。元になる土台があれば人はどうにかこうにか生き延びると。僕の役目は仕事をバラ撒いて仮組でもその土台の基礎を作ること。そうすれば後は現地の人がどうにかこうにか脆い土台を補強してくれるはずだ。たぶん。


読んでいただきありがとうございます。

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最早致し方無し。 日本人が地獄に来て、自分に力があって何もしないとか考えられん。 商売の神とかどうでもいいので、光の女神に慰めてもらおう。 もうそれしか思い付かん…。
ふと疑問に思ったこと、 以前の転生者は文明が壊れるくらい暴れた。 航は豪華客船を買った。 どちらも対価を払ってスキルを使用した。 方や魔力、方や稼いだ金。 与えられたスキルを使ったって点では何一つ変わ…
まーた、インフラ整備はじめてる……(神様にうまく使われてる感
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