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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
二十四章
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2話 問題は先送りするスタイル

 商売の神様の依頼に応えるために物資を揃えて南の大陸に出港、ドナテッラさんとのラッキーなイベントは起こらなかったが無事に南の大陸のヨーテボリに到着した。到着したのだが、全員が初歩的なミスに気が付かず、現在少しピンチです。


 さて、どうしたものか。船員が少ないという兵士さんの言葉に僕自身も納得してしまったから凄く困る。


 そして僕以外の女性陣も凄く困っている。


 こういう言い訳とか交渉は得意ではないのだけど、まだ会話が可能かどうかも分からないドナテッラさんとイルマさんに交渉を丸投げする訳にはいかない。


 そういえば女性陣で驚きに差があったが、もしかしたら驚きが小さかったメンバーは兵士さんの言葉をちゃんと理解できていないのかも。理解できたメンバーが驚いたから、一緒に驚いたみたいな?


 一応ドナテッラさんとイルマさん以外もある程度南の大陸の言葉を勉強してはいるが、さすがに二人ほど習得は進んでいないから、この推測は的を射ている気がする。


「どうした、隠し事はためにならんぞ。隠している船員を早く呼び出せ」


 ……隠していないから困っているのですが? いや、サポラビが船員だと考えるなら、隠したことになるのかもしれない。ソフィアとロレンツォ、その他サポラビの送還は誤りだったか?


 ん? なんか兵士さんが僕をにらみながらも酷く緊張している様子だ。


 ……ああ、船員を隠していた場合、隠さねばならない理由があり、それは犯罪行為の可能性が高い。そしてそんな危険な船に兵士さんは一人……僕なら緊張どころか走って逃げる状況だな。


「えーっと、そう言われましても、この船は魔導船なので船員はこれだけで間違いないですよ?」


 ぶっちゃけ一応スタッフ任命をしてはいるが、僕は名ばかりの船長で、女性陣は稽古の為に警備スタッフに任命されている。


 ドナテッラさんも、魔物退治の練習の為に警備スタッフなんだよね。つまり、この船にはなんちゃって船長の僕と警備スタッフ、そして従魔のリム達しかいない。


 兵士さんは想像もつかないだろうな。目の前で船員だと名乗っている僕達でさえほぼほぼ素人のなんちゃって船員だなんて。


「き、北の大陸にはこのような巨大な魔導船が残っているのか?」


 兵士さんがめちゃくちゃ驚いている。いや、北の大陸でもフェリークラスの魔導船は見たことないけどね。


 古代の遺品として色々と凄い物が残ってはいるが、フェリークラスの巨大船が残るほど甘い状況ではなかったようだ。


 まあ、僕が知っている限りではの話だが、兵士さんの反応からするに南の大陸でも巨大船の類は全滅しているようだ。


「はい、珍しいことには変わり有りませんが、いくつか発見されている船の一つですね」


 いくつか発見されている巨大船の全部が船召喚産なんだけど、嘘は言っていない。


「……だが、それでも異常だ。普通の魔導船でも何人もの船員が必要なのに、この巨大船がこんな少人数で運用できるなんて無理がある。やはり何か隠しているとしか思えん!」


 兵士さん、ビビっているくせにしぶとい。職務に熱心なタイプなのは好感が持てるが、その熱心な職務に巻き込まれる立場となると話は別だ。面倒臭い。


 そもそも考えてみれば普通の魔導船にどれくらいのスタッフが必要かなんて僕は知らない。


 でも、逆に言えば船員さんの常識も推測でしかないから、この船はこの人数で運用できるって言い張れば押し通せる気もする。


 あ、でもあの兵士さん、職務熱心で融通が利かないタイプの人だった。押し通したとしても自分が納得するまで調べそうだよな。この巨大で荷物満載状態のストロングホールド号を……何時間、いや、何日かかっても、その間ずっと待機?


 嫌すぎる。


 そもそも、南の大陸のフォローをしにきた僕がなんでフォローされる側から困らされないといけないのだろう? 向こうが僕がフォローに来たと知らないからだと理解しているが、それでも心情的に納得がいかない。


 もう帰ろうかな?


 あ、ダメだ。商売の神様との約束を破るのは怖いし、そもそも神様関連の仕事だと察している女性陣が投げ出させてくれない。


 畜生、なにかしらの苦労があることは覚悟していたが、南の大陸に入港する時点で苦労するとか先が思いやられる。


 気が済むまで知らべさせるのが駄目なら、こちらで兵士さんが納得できる理由を用意してあげる必要がある。


 …………ああ、なるほど面倒ごとになると嫌だと送還したのが間違いだったのか。


 いや、その判断は間違っていなかったと思うけど、初歩的なミスがその判断をミスに変えてしまったって感じかな。船員の人数とかまったく頭になかったもん。


 はぁ、面倒事の種になりかねないが、それでも現状の問題を解決することはできる。後で起こる問題は後の自分に任せよう。その頃にはイルマさんとドナテッラさんの力も借りることができるはずだ。


 よし、決めた。


「そういうことですか、誤解させてしまったようで申し訳ありません。連れてきますので少々お待ちください」


「わ、分かればいいのだ。だが、バレたからと言って乱暴な手段に出ることは勧めんぞ。私の無事が確認されぬ限り、この港にお前達が入港できることはないからな!」


 僕が観念したと思ったのか、兵士さんが自分の身の安全を図りだす。心配しなくても犯罪者なんて隠していないよ。


「大丈夫ですよ、誤解は見れば解けます」


 兵士さんを出迎えたフロアから奥に入り、サポラビを召喚する。今回は申し訳ないが意識を縛った状態でだ。念のためソフィアとロレンツォは召喚しないでおく。


 意識が縛られたソフィアとロレンツォを見たらドナテッラさんが発狂してしまうかもしれないからね。本来は意識が縛られた状態がデフォルトなのだが、二匹を可愛がるドナテッラさんに理屈は通用しない気がする。


 物陰にサポラビ達を召喚し、後についてくるようにお願いしてフロアに戻る。命令ではなくお願い、これが大事。なんか命令とか偉そうにしていたら復讐されそうな気がするよね、サポラビの成り立ち的に。


「ななな、なんだそれは!」


 サポラビを見て兵士さんの動揺が酷くなった。可愛らしいと評判のサポラビも、こんなシチュエーションでは効果を発揮しないらしい。


「これが船員の役割を果たす魔道具人形のサポラビです。すみません、船員とのことでしたから、生きている人間を集めたんですよ。誤解させてしまい申し訳ありません」


「は? 魔導人形? そんなものがあるのか? だが、目の前の人形? は動いている……こんなの知らない、どうすれば……」


 サポラビを見てブツブツ言いだした兵士さんが、最後には遠い目をして空を見上げた。ここ、船内だから天井しかないよ? 気持ちは分かるけど……。


「お疑いのようですし、サポラビが仕事ができるところをお見せしますね」


 混乱する兵士さんの混乱を助長するために更にサポラビに仕事をさせる。これで納得してくれるだろう。




 ***




「お疲れ様でした」


「……うむ、問題がないことは確認した。巨大船は港近くに停泊し、小舟で出入りするんだったな。問題がないことを証明する書類を出すから、後で港の管理室に来るように」


「分かりました。明日にでも伺います」


 僕は自分でも分かる若干死んだ目で兵士さん達を見送る。サポラビを見せた後、兵士さんは納得してくれたが、船内の臨検がスルーされることもなく、真面目な兵士さんは僕達の犯罪履歴を調べた後、サポラビ達の働きを確認しながら荷物検査に取り掛かった。


 応援も呼ばずに一人で……さすがに途中からそれでは無理だと判断して、小舟に待機していた兵士さんを合流させたが、それでも二人でだ。


 広いフェリーの貨物室や全ての部屋に荷物がパンパン。さすがに一つ一つ全部は調べられなかったが、結構こまめに抜き取り検査をしまくり、全ての検査が終わる頃には夜が明けて昼になっていた。


 臨検した兵士さん二人と、それに付き合った僕達も疲労困憊だ。


「ふう、みなさんもお疲れ様でした。今日はもう疲れましたので、行動は明日からにしましょう」


 僕の言葉に女性陣も同意してくれる。荷物検査に付き合うのってものすごく退屈である意味苦行だったからね。


 まあ、兵士さん達に付き合ったおかげで、イルマさんとドナテッラさんの会話能力に問題がないことも分かったから、まったくの無駄でもなかった。次からは二人に交渉をお願いして僕は傍で気配を消していれば大丈夫だろう。


 そう思うと少し気楽にはなった。




 臨検の翌朝、体をしっかり休めて精神の疲労も取れたのでいよいよ南の大陸に上陸する。


 移動に使うのは船に備え付けられた小舟として兵士さんにも見せた和船、これで怪しまれずに和船を運用できる。


 こういう細かい部分まで怪しまれないようにしっかり準備していたのに、船員の数という初歩的なミスに全員が気が付かなかったのが悲しい。


 あと、確認してみたが、アレシアさんとカーラさんは兵士さんの言葉をあまり理解できていなかったらしい。


 船員の人数の時も、みんながいきなり驚いたことに驚いたのだそうだ。でも、アレシアさんとカーラさんが普通というか、一般レベルでも優秀な方だと思う。語学なんてそんなに簡単に身につかないよね。


「遠目に見たよりもかなり酷いわね」


 和船で港に近づくと、景色がハッキリ見えるようになる。そしてアレシアさんの言葉通り、遠目で確認したよりもヨーテボリの街並みの被害は大きく見える。


 ある程度修復されている箇所もあるが、手つかずで放置されている部分も多いようだ。


 商売の神様の言葉から推測するに、戦争が落ち着いて少しは時間が経っているはずだ。


 それなのにこの状況……カリャリの軍港やトントラード伯爵に襲撃された村なども直ぐに復興が始まったが、こちらは大陸規模の戦乱の後、至る所で人材や物資が不足して、なかなか修復にまで手が回らないのかもしれない。 


 思ったよりも被害は大きそうだ。手に入るだけの物資運んできたし、船召喚の能力をフル活用したから凄まじい量の物資なんだけど……それでも焼け石に水、なんてことにならないかな?


 上陸するのが怖くなってきた。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
復興なんてそう簡単にできんよ。 人と金が集まるところならともかく、現代でも数年以上かかるのはざら。 実際、昨年元旦の能登の地震の復興状況なんて、輪島は更地レベル。少し離れた和倉温泉なんて未だにtaoy…
そういや神託で援助物資持ってきたんだからお前らが要らんと言うならよそに行くと まず言うべきだったな この世界じゃ神の実在が知られてるし、神の使いでもなきゃ無償で莫大な食料を 与える奴なんているわけない
臨検の兵士さん、融通効かなくてめんどくさい人だったけどこれが普通なんだよなぁ どこぞの人族至上主義の国の時は露骨に賄賂要求してきたし しかしワタルはいつも行き当たりばったりやな 事前に商売の神様に神託…
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