23話 私欲全開
ルッカでの用事を済ませてカリャリに移動し、物事が順調に進み仕事に余裕が出てきたところでサポラビ達の意識解放で意見が割れてしまう。そこで問題を先延ばしにしてうやむやにしにしようとカミーユさん達に専属サポラビ達のカスタムを提案したのだが、そこでまた時間がかかることになったうえで、マウロさんのサポラビ達にも多少の問題が起こった。
サポラビ達の衣装チェンジが失敗に終わりマウロさんがショックを受けているのを見守りつつ、僕は内心で納得していた。
キャラデザを提出された段階からこうなるんじゃないかと思っていたので、むしろ成功したほうが驚いたと思う。
だって提出されたキャラデザ。ゴスロリを通り越して甘ロリ、いやそこに更に甘味を追加した激甘ロリみたいなデザインだった。
いい歳をしたマウロさんが好むデザインとは到底思えない。
いや、趣味趣向は人それぞれだから孫がいるような年齢のお爺さんでも甘ロリ好きが居てもおかしくないのか?
……うーん、分からん。
ただ、マウロさんの専属サポラビは未知だが、商人気質のサポラビの方は性格的にその衣装を受け入れないことは予想していた。利益優先の商人と甘ロリファッション、あまり結びつくイメージが湧かないよね。
「マウロさん、そもそもなんでこんなデザインに? マウロさんの趣味とは思えないのですが?」
ショックを受けているマウロさんに質問する。
「曾孫が喜ぶと思ったんじゃ」
なんて?
詳しく話を聞いてみると、僕達が居ない間にマウロさんのお孫さんが曾孫を連れてキャッスル号に遊びに来たことがあったのだそうだ。
その曾孫さんは物心ついたばかりの年齢なのだそうだが、何が原因かマウロさんを怖がり一向に懐かなかったらしい。
そのことに地味にショックを受けていたマウロさんは、曾孫がサポラビに興味を持っていたことを思い出し、可愛らしいサポラビ達の中でも特に可愛らしいサポラビが曾お爺ちゃんのサポラビなんだよとアピールすれば尊敬を勝ち取れると考えたのだそうだ。
私欲全開ですね。
まあ、お仕事さえきっちりやってくれれば僕は問題ないのだけど、曾孫の為に甘ロリを通り越したようなデザインを生み出すマウロさんって地味に凄いな。
サポラビ達には拒否されたが、一部界隈では神と称えられるセンスを持っているのかもしれない。
それにしても曾孫か……そっか、この世界では基本的に結婚なんかも早いから、マウロさんくらいの年齢なら普通に曾孫が居るんだな。
厳しい世界だから子孫を残すことに積極的になるのは当然の理屈だよね。
ただ、冒険者は結婚が遅くなる傾向もあるらしい。
危険な職業なので子孫を残したくなるように思うが、死んで子供を一人残してしまう可能性や、移動や遠征に支障が出てしまうことを考え冒険者の結婚は遅い傾向があるらしい。
まあ、冒険者はある意味底辺の職業、もしくは趣味的な職業らしいし、仕方がないのだろう。
趣味的な冒険者以外の冒険者は、上澄みになるととんでもなく儲かるが、下積み時代は命がけなのに低賃金というブラックも真っ青な環境で生きている。
低賃金だと家族を作るのも難しい。しかも上澄みになると高レベルになるから寿命も延びて結婚に焦る必要もなくなり、気楽に猶予期間を楽しむ冒険者も多くなるらしい。
堅実な冒険者は中堅クラスに安全に稼げる方法を見つけ家族を作るらしいが、そもそも堅実なタイプはあまり冒険者にならないというジレンマ。
追い込まれるか趣味か、冒険者は色々と難儀な職業だ。ちなみに僕はアレシアさん達を七割趣味の冒険者だと予想している。旅とか自由とかに憧れて冒険者になった口だろう。アレシアさん達クラスの美貌があれば、冒険者にならずとも稼ぐ選択肢は沢山あったはずだ。
ちなみに、うちのイネスは、十割趣味の冒険者だと確信している。
「ワタル? お主ならこの可哀想な老人の気持ちを理解してくれるじゃろう?」
いつの間にかこの世界の結婚観から冒険者の悲喜こもごもに思考を飛ばしていたが、マウロさんの同情を誘うような質問に現実に戻された。
「マウロさん、哀れな老人っていってもマウロさんはかなりのお金持ちですし、レベルアップしまくりで老人に足を踏み入れたかな? 程度まで若返っているじゃないですか、同情なんてできませんよ」
苦労はあったのかもしれないが、マウロさんは圧倒的な成功者、しかもレベルアップの影響で、え? 本当に老人なの? と疑問に思うくらいに元気になっている。正直、チートが無ければ嫉妬の対象だと思う。
というか、哀れな老人とか言っているけど、結論として曾孫に好かれたいからサポラビを利用したいってことだよね。
「冷たいのー。なんとかならんか?」
いじけてみせるマウロさんだが、まったく可愛くない。そして関わり合いになりたくない。
「意識の解放をしたサポラビ達とであれば、ある程度交渉が可能なようですから、マウロさんの頑張り次第じゃないですか?」
まだそれほど詳しく理解していないが、大元の職務を逸脱しないならある程度の自由が認められているような雰囲気がある。
ただ、この世界のスキルって不親切なんだよね。船召喚のスタッフ任命のようにスキルを得たらある程度それに対する知識が得られたらいいのに、そういうフォローがいっさいないから手探りでわかる範囲を増やしていくしかない。
だからユニークスキルの使い方が分からないなんてこともザラだし、当たりハズレの差も激しい。
いや、本当にハズレかどうかも使いこなせないから判定できないというのが正解かな?
帝国のレーザービームのユニークスキルを活用していた人とか、どういう理屈でレーザービームを使いこなせるようになったのかとても気になる。
この世界だとレーザーと言われても意味が分からないはずだよ。
ん? 僕の言葉を聞いた商人気質のサポラビが紙を取り出してなにやら書き始めた。その紙をどこから取り出した? なんてことは無駄だからツッコまない。この船、注文すれば料理とかお酒が出てくるし今更だ。
なにやら書き込んでいた商人気質のサポラビが、その紙をマウロさんに手渡す。そこはかとなく満足気に見えるのは気のせいだろうか?
「何々、本業外の労働に対する報酬? つまり、儂の曾孫の相手をすることに報酬が発生するということか? じゃが乗船したお客をもてなすのは本業そのものじゃろう?」
なるほど、マウロさんの元々のサポラビは分からないが商人気質の方のサポラビは報酬次第では要望に応えるという訳か。
だがマウロさんの言うとおり、お客様へのサポートは文字通りサポラビの仕事の範囲内だ。
サポラビがマウロさんがまだ読んでいないであろう部分をテシテシと叩く。
「むっ、ようするにここに書かれている料金を支払えば、儂が曾孫から尊敬されるように働きかけるということか? なるほど、それならば別途報酬を支払う価値が生まれる。じゃが、料金設定が少し強気じゃないかの?」
サポラビの要求がマウロさんの商人魂を刺激したのか、いきなり商談が始まってしまった。
「とりあえず会議終了、解散ということで……」
僕は小声で宣言をして、アレシアさんを連れて部屋から逃げ出した。おのおののサポラビを愛でるカミーユさんとドナテッラさん、交渉に夢中なマウロさんを残して。
***
さて、そろそろ南の大陸への出港の時間だな。
今回はダークエルフの島に寄らないことにしたので、南の大陸に直行だ。
時間がありそうだし、フェリシアに島に寄ろうか? って聞いたんだけど、今回の仕事を最優先にするべきだと断わられた。
神様関連の仕事なので私情を優先させる訳にはいかないと考えたのだろう。真面目なフェリシアらしい気配りだと思う。
そういえば今回の船旅はドナテッラさんと初めての長期の船旅ってことになるのかな?
たしかドナテッラさんとの船旅はパワーレベリングとカリャリへの移動くらいだったはずだから、純粋な船旅はたぶん初めてだと思う。
今回の旅を純粋な船旅と言っていいならだけどね。ドナテッラさん参加の船旅、色々とイベントを用意して楽しむことにしよう。水着系のイベントは必須だな。
そしてサポラビの意識解放問題については無事に解決、と言う訳ではないが無事に棚上げに成功した。
僕が想像していた以上に意識を解放したサポラビ達は有能で個性があり、そして自由度も高かった。
それが検証をお任せしたカミーユさん、ドナテッラさん、マウロさんの商人魂に火をつけて、南の大陸への出港準備が終わるまでの時間稼ぎに成功したのだ。
おそらく旅をしている間にも検証が進み、帰ってくる頃には完璧なプランが完成していることだろう。
そして今の段階で分かったこともある。
優秀な人達に優秀なサポートが付くと、もはやチートだ。
いやー凄かった。
ただでさえ優秀なカミーユさん、ドナテッラさん、マウロさんがサポラビの検証として色々な指示を出す。
僕の元では発揮できなかった優秀さを発揮したサポラビがその指示に完璧に応える。
カミーユさん達が更に難しい指示を出して、それにサポラビ達が応える。その繰り返しで、傍から見ていても効率という言葉を体現したように準備が進んでいった。
まあ、それでも荷物の運搬やキャッスル号の外の問題に対処するのは難しいから、それなりに時間がかかったんだけど、さすがに船外はサポラビのサポート範囲外だから仕方がない。
それでも輸送計画や問題の対処方法の提案なんかでかなり貢献していたみたいだけど。
もとは角兎の魂なはずなんだけど、なんであんなに優秀なんだろう? 機会があったら創造神様に聞くことにしよう。
あの凶暴で僕を見れば襲うことしか考えなかったあの角兎が、これだけ優秀なのには少し違和感がある。
お、みんながデッキに出てきた。ちょうどいいし声をかけて出港するか。
「みなさん、そろそろ出港します。ルト号で外海に出て、そこから乗り換えて南の大陸に直行です。忘れ物はありませんか?」
全員から問題ないと返事が返ってくる。では行くか。
「では出港します!」
見送りに出てきてくれていたカミーユさん達に手を振りながらルト号を走らせる。
南の大陸か……面倒ごとに巻き込まれませんように……。
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