18話 結果オーライ
南東の島から南方都市に戻り、仕事で残っていたカミーユさんに不在の間の報告を受けたが、なんやかんや難し気な説明に納得させられて王様の接待と言う面倒事を引き受けることが決定した。説明は納得できている気がしないでもないから良いのだけれど、大人の世界は面倒だと実感した。まあ、別の意味での大人の世界は大好きなんだけどね。
ルッカの港が見えてきた。
カミーユさんが働いている間、僕は南東の島に出かけたり男飯のレシピを考えたりと、王様関連の面倒事を心の隅っこに押し詰めて穏やかな時間を過ごした。
面倒事から目を逸らすと将来の自分が困ることになると分かっているのだが、悲しいことに目を逸らさなくても僕にできることは少ないので、今を大切にすることの方が重要だからだ。
その時が来ても、まあ、僕の周りには優秀な人材がそろっているし、いざとなったら船召喚でなんとかなるよね。
そんなのんきなことを考えながら過ごしていると、すぐに面倒事がやってきた。
二回目の南東の島でのキャンプ、まずはお試しということで簡単な男飯を提供し、それがマリーナさん達に中々の好感触だったことでホクホクして帰ってきた僕に、カミーユさんが困った顔で告げた内容。
それは、ブレシア王国のお偉方に交渉に向かうラティーナ王国の外交使節団の同行の話だった。
さすがにいきなり王様が出向いて、やあ、来ちゃった! なんてことができる身分ではないことは理解できるが、だからといってなぜ僕達と同行という形になるのかは分からないが、カミーユさん曰く、なにかしらの外交的な意味があるらしい。
最初は僕達の魔導船で連れて行ってくれないか? 的な打診を受けたそうなのだが、それは僕が嫌がることを理解しているカミーユさんが拒否し、それならば国の魔導船で同行という形を提案されたそうだ。
外交官の同行、気を遣うしカミーユさんが断わってくれたのはナイス判断だけど、ラティーナ王国の魔導船が同行するとなると気軽に船召喚が使えなくなるので豪華客船やフェリーが使えなくなる。
それを理解しているカミーユさんが、それを踏まえた上で申し訳なさそうに提案してきたので、必要なことなのだろうと僕も承諾した。
だが、この判断が思わぬ幸運を僕にもたらすことになる。
まず、僕達に同行を要求した外交使節団のメンバーだが……やたらと美女が多かった。
これにより同行を断わったことを一瞬後悔したが、イネスがそのメンバーの目的が僕だと見抜き、それを聞いた僕は冷や汗をかいた。
カミーユさんどころかサポラビにも転がされる僕が、国の外交を任される美女達に転がされない訳もなく、ハニートラップは僕にとってかなりクリティカルになる。近づかないことが最良の選択だったこと。
そして……うちの女性陣との距離が絶妙に近づいたこと。
フェリーや豪華客船に比べたら確かに狭いが、ルト号は高級クルーザー、居住性が抜群であることは間違いない。
そこに、僕とリムとペントとふうちゃんを除いて美女が六人も……最高だよね。
最近は長い移動には大型船を使うことにしていた。この移動方法は他人に気を遣わなくて済むし、好きに動けて設備も充実しているから最高であることは間違いない。
が、しかし、イネスとフェリシア以外の美女達との距離が空いてしまうのも間違いない。
ルト号での長旅……距離が近い分、確かに女性陣に気を遣う必要はあったが、ゴムボートは使えるので食事や甘味は問題ない。
そうなるともうあれだ、ラッキースケベ的なイベントが盛り沢山で、お得でしかない。
特に普段なかなか一緒に行動できないカミーユさんのラッキースケベはレアイベントでもあり、オープンではなくムッツリを目指すべく修行中の僕でもスケベ心を表に出さないようにするのが精いっぱいなくらいだった。
そんな素敵な船旅もルッカが見えたことで終わりに近づいている。
ルト号での長期の船旅、人数が増えればもっと密度が上がるし今度はアレシアさん達も一緒に……という新たな野望を胸に抱きながら……。
***
「「「ワタル! お帰りなさい!」」」
ルッカの港に到着し、侯爵城に同行しないかと誘いをかけてくる外交使節団の魔の手をなんとか振り切り、ルト号でのんびりしているとルッカに残っていたアレシアさん達がルト号に飛び込んできた。
しばらく離れていたが、その美貌に陰りはなく……うん? なんか……いや、でも、凄く美しいのは間違いないのだけれど、微妙に陰があるような……でも、これはこれでアリか……むむ、だが、やはりアレシアさんは太陽のように輝く雰囲気が似あうような……。
「ただいま戻りました。アレシア達も無事なようでなによりです」
一瞬でくだらないことを考えつつも、アレシアさん達に言葉を返す。
「それがね……全然無事なんかじゃないのよ」
「え? うわ、近い」
近いのは嬉しいのだけれど、アレシアさんの真顔が少し怖い。
「えーっと……もしかしてご家族に何かありました?」
一応、戦争というか反乱の後始末と警戒のためにアレシアさん達はルッカに残ったが、それなりに状況は落ち着いてアレシアさん達が居れば問題ないはずだったのだが……。
「うふふ、家族は問題ないわ。ただ、私達はもうワタルから離れられない体にされてしまっていたということよ」
久々のイルマさんの色気、最高です。でも、言葉の意味が理解できない。離れられない体……素晴らしくHな響きで僕的に興奮度マックスなのだけど、なぜそんなことに?
その隣でドロテアさんも困った様子で頷いているので、イルマさんが色気で僕をからかっているという訳でもないようだ。
「もう無理なのよ。離れる前にワタルが沢山物資を持たせてくれたけど、それだけじゃあ満足できないの。広いお風呂、快適なお部屋、美味しい料理とデザート、楽し過ぎる娯楽……私達は……弱くなってしまったの……」
ああそういうことか。一度上げた生活ランクを下げるのは難しいと聞くが、アレシアさん達はファンタジー能力で地球の中世よりかは生活環境がマシとはいえ、そこから地球でも上位に近い生活環境にチェンジしたんだ。
そりゃあ不満を覚えるだろう。
これまでも似たようなことがあったが、今回は離れている期間がこれまでと比べても段違いに長かったから、アレシアさん達のダメージも大きかったのだろう。
……あれ? 結果オーライ?
今までもアレシアさん達は僕と親しく接してくれたけど、生活環境への依存度が増したことを自覚したことで僕への敬意と言うか好意のようなものも増したように見える。
それって財産狙いの性悪とどう違うんだと思う人もいるかもしれないが、ぶっちゃけアレシアさん達は簡単に大金を稼げる人達なので少し違う。
目的はお金ではなく環境。
少しの違いだが大きな違いでもある。
どんなにお金を稼げても船での環境は得られないからね。
お金をゲットしたからさようなら、なんてことにもならないし、僕はアレシアさん達に心理的優位に立ったということだ。
僕が無茶を言えばアレシアさん達が僕から断腸の思いで離れるだけという、くさびと言うにはあまりにも脆弱な優位だが、逆に言えば誠実に対応さえしていればとてつもなく強固なくさびにもなる。
酷く下種な思考だと理解しているが、まあ、これはしょうがない。
アレシアさん達は冒険者界隈でアイドル並みに人気があるトップクラスの冒険者。
地球で言えば人気俳優とか人気ミュージシャンレベルの人達だ。そんな人達を凡人の僕が繋ぎとめようと思ったらチートな船召喚を利用するしかない。
誠意が大切なんて真っ当な意見が脳裏をよぎるが、それは奴隷と言う制度に全力でお世話になっている時点で今更だ。
凡人の僕は全力でチートに頼り、全力で幸せな未来に向かって進むべき。
というわけで……。
「それは大変でしたね。では、今から外海に出てしばらくのんびりしましょうか。あ、カミーユさんはどうします?」
幸いなことに外交使節団は侯爵城に向かったし、ほぼ縁はキレたと考えていい。問題はカミーユさんだ。
僕的にバカンスに同行してもらえると美女が増えて幸せなのだけど、カミーユさん、めちゃくちゃお仕事に燃えているんだよね。
「私はルッカに残ります。キャッスル号に戻る前にルッカで色々と手配をしておきたいですし、外交使節団との打ち合わせもあります」
やはりか。
でも、そうなると少し心配なんだよね。
南方都市でも心配ではあったのだけど、あそこはカミーユさんの地元だし、商業ギルドのギルドマスターも味方だったからある程度安心できた。
ただ、ルッカだと、キャッスル号に近いしカミーユさんを知る人も多い。ルッカ侯爵がある程度後ろ盾になってくれると思うが貴族だから……
「そういうことでしたら私とカーラがカミーユの護衛に残りましょう。マリーナはアレシア達が不在の間の報告をお願いします」
僕の心配を理解したのかクラレッタさんがカーラさんと共にカミーユさんの護衛に残ってくれることになった。
カーラさんが、え? 私も! という顔をしているので少し申し訳ないが、おそらくアレシアさん達に便乗して食べまくるつもりだったのだろうし、クラレッタさんの提案に甘えさせてもらおう。
カーラさんはあれだ、ルト号での航海時に食べまくっていたから少し休憩が必要だ。
「分かりました。クラレッタ、カーラ、カミーユさんをよろしくお願いします」
ルト号では距離が近いから、カーラさんにめちゃくちゃおねだりされたもんな。それはそれでとても幸せだったのだけど、偶には体を労わらないとね。
ルト号は安全の為にこのままカミーユさん達に利用してもらうとして、どこかで和船を召喚して早く外海に向かおう。
感情がある程度表に出やすいアレシアさんだけではなく、普段は控えめで冷静なドロテアさんと、普段から色気と余裕がたっぷりのイルマさん、あと、何気にドロテアさんの肩に乗っているべにちゃんからも期待と欲望が伝わってくる。
この期待と欲望をたっぷり満たして、僕の好感度を急上昇だ!
読んでいただきありがとうございます。