16話 新たな船と小狡い企み
自分が思ってた以上にHな事がバレていた事に呆然としていると、イネスが話しかけて来た。
「大丈夫よ、ご主人様がとってもHでも、私もフェリシアも平気だから、気にしないでいいのよ。ねえ、フェリシア」
「ええ、ご主人様は私の村の恩人です。どんな方であろうと精一杯お仕えしますので、大丈夫ですよ」
やめて、慰めの言葉で僕の心をえぐらないで……
「イネス、ご主人様が動かなくなってしまいました、何か間違えたでしょうか?」
「ちょっと言葉の選択を間違えたわね」
「申し訳ありません、ご主人様」
『りむ、わたる、すき』
ショックを受けた心をリムの優しい言葉が癒してくれる。穢れてしまった心が浄化されたみたいだ、さすがホ-リースライム。
「ありがとう、僕もリムが大好きだよ」
『りむ、うれしい』
「それでご主人様、フェリーはどうするの?」
「ああ、そうだった、どうしようかな?」
「そうね、決まらないのなら保留にしたらどうかしら? 白金貨も全部下ろさないと買えないんだし、ジラソーレの方達との船旅なら、小さい船の方が嬉しいでしょ?」
たしかに、広いフェリーより、この船の方が一緒に居られる時間は長くなる。何処を見ても美人で巨乳なお姉さんがいる船内……最高だよね。
「イネス、お願いだから、僕の欲望を的確に刺激しないで」
「あら、ごめんなさい。それにしてもご主人様ってやっぱり異世界人なのね」
「えっ? 何で分かったの?」
「そうなんですか? ご主人様」
「ええ、そうなんだけど……一応隠してたのにイネスは何で分かったの?」
「隠してたの? 異世界人だと思ってはいたんだけど、確信したのはフェリーの話でよ。見た事も聞いた事も無い異世界の物を、懐かしい物が沢山って言ってたら分かるわよ」
「あーそういえばそうだよね。奴隷契約の時に異世界の食べ物とか言ったね、イネスもフェリシアも僕が異世界人だという事は内緒ね、これは命令だからね」
「「はい」」
「でも分かりやすかったから、隠す気が無いのかと思ってたわ」
「いや、隠してたんだけど……まあイネスとフェリシアには、話してもいいかなって思ってたからいいんだけど。異世界人ってバレると酷い目に遭うそうだから、他の人には細心の注意を払ってね」
「私も聞いたことがあります、貴重な知識を持っているので狙われるんですよね。ご主人様、美人だからって他の人に秘密を簡単に話したら駄目ですよ」
「分かってるし、気を付けるけど。フェリシア、何で美人限定なの?」
「ご主人様が次に話しそうなのが、カミーユさんとジラソーレの方達だからです」
「……はい、気を付けます」
これはもう、頼りになるカッコいいご主人様路線は完全に無いな……しかしあっさりバレたな、もっと注意しないと、王侯貴族になんかバレたりしたらやばそうだし。
……なんかこのまま話してると僕の印象がドンドン悪くなっていく気がするな。話を変えよう、なんでこんな話になったんだっけ……ああ、フェリーの話からか、ジラソーレとの船旅に何か良い船が無いか探してたんだよな。
「フェリーは今回は保留にするから、もう少し船を探してみるね。2人は自由にしてて」
「「はい」」
ふー、ひとまず話を終わらせられた。フェリーは保留として、別の船を見てみるか。
「ご主人様、紅茶のおかわりは要りませんか?」
「もらうよ、ありがとうフェリシア」
紅茶を飲みながらのんびり画面を見る。……なんだコレ……なんなんだコレ、カ、カッコいい。これカッコいいよ。どうすんの? こんなの見つけちゃってどうすんの僕。欲しい……この船欲しいよ。
値段は、4白金貨……高い、高いんだけど手持ちでも買える値段だ。4白金貨なら行商を頑張れば取り返せそうだけど……うーん、どうする? 買っちゃう?
でもこれって船なのか? エンジン付いてないし、普通なら牽引して運ばないといけないんだけど。水面に浮いていれば船の括りに入るのか、でも島とも書いてある……
昼間はルト号で進んで、夜はこの船で……いや、この船は昼間も素晴らしい。……休日や休憩の時に楽しむか。
この船でイネスとフェリシアと過ごせれば、あっリムも。頭がエロ方向に暴走しているな。リムを忘れるなんて。冷静に考えよう。
……ルト号だけでもパレルモまで問題は無いと思う。むしろ狭い船内で、イネス、フェリシア、ジラソーレと一緒ならそれが良い気がする。
でも……この船にはサンデッキに、4~5人がゆったり入れそうなジャグジーが付いている。例えば、皆に水着を買って貰っておけば、一緒にジャグジーに入れるチャンスがあるかもしれない。
確実にイネスとフェリシアとは一緒にジャグジーに入れる。その上、ジラソーレとジャグジーに入れる可能性があるのなら……買うべきだろう。
4白金貨は大金だが、ジャグジーだけでなく、豪華な船で美人達とゴージャスな船旅……
「決めた、買う。絶対に買う!!」
「ご主人様、どうしたんですか? 何かありましたか?」
『わたる?』
「え?」
……イネスとフェリシア、リムが心配そうに僕を見ている。あーテンションが上がってしまって、立ち上がって大声出してたみたいだ……恥ずかしい。
「いや、なんでもないよ。凄く良い船を見つけちゃって、興奮し過ぎたみたい。騒がせてごめんね」
「いえ、問題が無いのなら大丈夫です」
『わたる』
「ああ、リムも驚かせちゃったか。ごめんね、なんでもないよ」
『へいき?』
「うん、平気だよ」
ありゃ、安心できないのか飛び付いて来て頭の上に陣取った。
「一緒に居てくれるの?」
『いっしょ』
「そっか、ありがとうね、リム」
うん、リムは可愛い、驚かせないようにしないと。
「でも、ご主人様がそんなに興奮する船って何なの? 買うって言ってたし豪華客船やフェリーじゃないんでしょ?」
「ええ、この船なん……」
「どうしたの? ご主人様」
「ワガママだけど、この船は買う事を決めたんで。どうせなら、画面で見せるより買った船を直接見て驚いて欲しいなっと」
「うふふ、ご主人様が買いたい物を買うのにワガママなんて事はないわ。でもよっぽど自信があるのね」
「うん、この船は凄いよ。明日には見せるから楽しみにしててね」
「うふふ、分かったわ。とっても楽しみにしているわね」
「ご主人様、私も楽しみです」
『りむもたのしみ』
「まかせて」
イネスもフェリシアもワクワクした目をして、楽しそうだ。リムも頭の上でポヨンポヨン跳ねている。普通ならハードルが上がってビビっちゃうんだけど、今回の船なら大丈夫だ。画面で見ただけで度肝を抜かれたんだから。
「それはそれとして、作って欲しい物と買いたい物が出来たから、買い物とドニーノさんの所に行きたいんだけどいい?」
「「はい」」
リバーシとジェンガをドニーノさんに作って貰って、後は水着を買おう。まあ、明日は水着無しでジャグジーだけどね。ワクワクする。あれ? 水着ってあるのか?
「あー、2人とも、水着って何処で売ってるのか知ってる?」
「水着ですか? 私は水着自体が分かりません。イネスは知ってますか?」
「私も知らないわ。どんな物なの?」
「水の中で着る為の服なんだけど、知らないかな?」
「私は分かりません」
「そもそも、水に入る為の服なんて必要なの?」
ああ、そうか、魔物が居るこの世界、水で泳ぐ娯楽なんて無いよね……どうしよう? 水着がないなんて……水着を教えると、進化してブラジャーが開発されそうな気がする……それだけは阻止しないと。
「あの、ご主人様?」
「ちょっと待って、考えさせてね」
えーっとブラの形をしてなくて、胸が隠せれば、問題無いんだから。露出が減るけど湯着を作って貰おう。露出が減る分一緒に入れる可能性が上がる。
甚平みたいな奴で良いよね。これならブラジャーが開発される事も無いだろうし。服屋に行って相談しよう。
「分かりました、服屋で相談したいので、イネスとフェリシアが服を買って来たお店に案内してください。あっ、先にドニーノさんの所に寄って行きます」
「「はい」」
あっ、小屋船を作って貰おうと思ってたんだけど、新しい船を買うならいらないかな? ルト号だとジラソーレを含めると全員で寝る場所が無いから、作ろうと思ったんだし。
……あーでもパレルモでは最低2日間は野営があるんだし、小屋船も作って貰っておこう。あっても無駄にはならなそうだし。
「ちょっと待って、小屋船。ロープを外してっと。これも持って行くね」
小屋の部分を取り外し、イネスと、フェリシアに手伝ってもらいながらドニーノさんの所に向かう。
船を買うのは、夜にして、思いっきり楽しむ為に下準備はきちんとしておこう。内心でワクワクを抑えながら歩く。
「ドニーノさんこんにちは」
「おう、ワタルか、土産の酒美味かったぞ、もっとないか?」
「もう飲んだんですか? ありますけど、注文したい物が有るので、完成したら持って来ますね」
「おお、ご褒美付きの仕事なら大歓迎だ、どんなもん作るんだ?」
「あれと同じのを、全部板張りで綺麗な奴を作って欲しいんです」
「なんだあのボロッチイのは? ゴミか?」
「あはははは、一応小屋なんですが、お金が無かったので廃材で作ってもらったんですよ。お金が出来たので今度は綺麗なのを2つほど作ってもらおうと思いまして」
「ふーん、単純な構造だな、板張りなら扉の部分はどうするんだ?」
「ああ、引き戸でお願いします」
「ふむ、簡単な仕事だな、たいして手間もかからんし作ってやるぞ」
「それと船大工さんに頼む物じゃないんですが、この、8×8のマス目の板を、溝を彫って作って欲しいんです。それに64個の丸い板、マス目より少し小さめで、表と裏を白と黒で塗り分けてください。
それと、綺麗にヤスリ掛けした54本のこの位の木材が欲しいんです。ほぼ同じ大きさで、ヤスリ掛けで微妙に大きさが異なる物がいいですね、大きさの違いは気づかない位の物が良いです」
「たしかに船大工の仕事じゃねえな。まあ少し手間だが全部で3日もあれば出来るだろうよ。だがこれはなんに使うんだ?」
「玩具ですよ。完成品を引き取りに来る時に、お酒とルールを書いたメモを持って来ますので、お願いしますね」
「玩具か? まあ分かった、全部で61銀貨でやってやる。酒は忘れるなよ?」
「はい、61銀貨です、3日後にちゃんとお酒も持って来ますよ。では、失礼します」
「おう」
楽しい船旅の為の準備が一つ済んだ。次は重要な湯着だ。この出来しだいで、ジラソーレとジャグジーにご一緒出来るかが決まる。少しでも露出を多く、でも納得してもらえる、ギリギリの所を見極めるんだ。
「次は服屋だね」
「はい、案内しますね」
「うん」
イネスと、フェリシアに案内されて服屋に入る。結構きわどい服もおいてるな……あれは、僕が大好きなスケスケの夜着、この店で買ったのか。
「いらっしゃいませ。どのような服をお探しですか?」
「こんにちは。ざっと見渡した限り、欲しい感じの服が見あたらないんですが、こうして欲しいとお願いすれば対応してもらえますか?」
「はい、職人を抱えていますので可能ですが、オーダーメイドになりますと、値段が上がってしまいますが構いませんか?」
んー、ここまで来て躊躇う理由は無いよね。頑張って稼げば良いんだ。
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました。ご注文をお伺いします」
「まず、生地なんですが、直接肌に触れるので、肌触りが良く、水に強い生地はありますか?」
「うーん、水に強いとなりますと、こちらのクモの糸で作った布が良いですね。丈夫ですし濡れても直ぐに乾きます」
「クモの糸? スパイダーシルクですか?」
「いえ、別種の魔物としてのランクも低いクモから取れた糸ですので、スパイダーシルクに比べるとかなり落ちてしまいます」
ふー良かった。躊躇わないとか言ってたけど甚平に金貨は出せないよね。
「そうですか。見せて貰えますか?」
「はい」
うーん、クモの糸の布か、手触りはかなり良い。布の厚さが薄すぎる気がするな。このまま作ったら薄っすら透けて見えそうだ。着てもらえなかったら意味が無い。
「手触りは良いんですが、布が薄すぎます。もう少し厚手の物はありませんか?」
「ございます。お持ち致しますので少々お待ちください」
「はい」
「お待たせいたしました。先ほどの生地のほぼ倍の厚さの生地です」
うん、これなら問題無いな。
「これでお願いします。作って欲しい形は……」
物凄く苦労した。僕も甚平の形をハッキリ覚えていた訳では無いので、体に布を当てながら何とか甚平の作り方を説明した。
「変わった服ですね。工程は複雑ではないので、時間は掛からないと思います。代金は1着5銀貨になりますがよろしいですか?」
「はい、お願いします。男物の僕の服は多少ゆったり目にお願いします。ズボンも膝に掛かる位で。この2人のは採寸した寸法通りでお願いします」
「かしこまりました。明日の夕方頃には仕上がると思います」
「分かりました。お願いします」
うーん、5銀貨か、魔物の素材で、オーダーメイドなら高過ぎるって事も無いんだけど、ジラソーレに勧めるのはどうなんだろう? 僕がお金を出すって言っても、受け取っては貰えないだろうし……出たとこ勝負だね。
「ふー、終わったー。夕食を食べて帰ろうか? あのイネスが紹介してくれた、海産物が美味しいお店に行きたいな」
「うふふ、久しぶりね、私も行きたいわ、ご主人様」
「私もです」
『りむもいく』
「リムも行きたいんだ、全員賛成なら、行きましょうか」
「「はい」」
しかし、テイムスキルが上がってから、リムが会話に混ざる様になったな。もっと頑張ってテイムスキルを上げよう。
夕食を食べて船に戻る、あそこの魚介の網焼きは美味しいよね、牡蠣小屋の雰囲気で大満足だ。ルト号に戻りゆっくりと紅茶を飲む。
ふー、よーし新しい船を買おう。貯金船から4白金貨を取り出し購入画面を出す。コイン投入口へ4白金貨を投入……この白金貨ってどうなるんだろう? 神様に質問できる機会があれば聞いてみよう。
よし、購入っと。ふふ、明日が楽しみだな。新しい船を手に入れると本当にワクワクするよね。シャワーを浴びてイチャイチャして寝よう、お休みなさい。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。