10話 確認は大切
ウィリアムさんのお願いでゴブリンの集落を潰しに行ったら、奥に未発見の洞窟を発見。ダンジョン、古代遺跡、鉱石など、色々と夢を見て洞窟を探索したが、結果はキノコと温泉だった。でも、温泉はかなり質が良さそうなので、この地の名物の一つになるかもしれない。
しっかり温泉に浸かり、体に異常もなかったのでたっぷりゴムボートに温泉を補給して獣人の村に戻ってきた。
「……もうすっかり日が登ってしまいましたね。寝る前にウィリアムさんに報告に行ってから休憩にしますか?」
元から夜だったし、そこからゴブリンの殲滅に洞窟探検、最後にたっぷりと温泉を堪能したことですっかり夜が明けてしまった。
そこから獣人の村に戻ったので、獣人の村はすっかり活動時間で、既に男達は獣人の町建設に向かった後だろう。
「そうね、さすがに少し眠いから、急いで報告してしまいましょう」
マリーナさんも少し眠そうだな。徹夜での作業だったし、お風呂でホカホカになったから体が眠りを欲しているのだろう。僕もかなり眠い。
ただ、今回のアクアマリン王国の滞在期限が迫っているので、寝る前に報告を済ませてウィリアムさんとカミーユさんに対策を丸投げしておきたい。
あ、報告の時はカミーユさんにも同席してもらおう。問題は、ウィリアムさんがフィールドワークに出かけていないかだな。
ギルドに戻ると運よくウィリアムさんもカミーユさんも事務所に居たので、ウィリアムさんの部屋で依頼の報告をする。
「なるほど、ワタルさんも面白い物を発見しましたね」
僕達の報告にウィリアムさんが感心したように頷く。
「一応、あそこに村でも作れば観光地になるかもと考えているのですが、どう思います?」
「そうですね、温泉は王都の北の村に海水の温泉があるだけで、アクアマリン王国で普通の温泉はワタルさんが発見したものがはじめてになります。場所が洞窟だというのも面白いですね」
アクアマリン王国には温泉が、しかも海水温泉が存在しているらしい。そういえば僕、話に聞いたことはあったけど、海水の温泉には入ったことがなかったな。
今回の滞在中に訪問するのは難しそうだから、次の訪問あたりに訪ねることにしよう。
「利用するのが面倒にしか思えませんが、洞窟なのが面白いんですか?」
そういえば日本には洞窟温泉があって、結構人気だったな。僕は温泉を外にくみ出すのが難しいと判断したが、その場で活用するのもアリなのか。
「ええ、温泉に行くような人は裕福な方達が多いですからね。珍しい体験に飢えているのですよ。海水ではない温泉、しかも洞窟の中となるとかなり興味を引けるかと」
おお、ダークエルフの島でも温泉は人気のコンテンツになったが、アクアマリン王国は名前通り国だから人口もかなり多い。
もしかしたら日本のように大規模な温泉街が誕生するかもしれない。
「ただ、裕福な方々の需要を考えると、安全と設備の充実は絶対の課題です。洞窟の温泉を利用するのであれば、ドワーフを雇い洞窟の工事と補強、そして滞在するための宿を作らなければならないでしょう。費用がかなり掛かりますね」
費用の問題か。ウィリアムさんからするとそうなのだろうが、僕からするとそれを慈善事業費と認めてもらえるのかどうかが問題だな。
これまでの開発もちょっと微妙かな? なんて思っていたが、観光地の開発となると更に判断が厳しくなりそうだ。
出たとこ勝負で観光地開発は流石に怖いから、開発を始める前にきちんと商売の神様に判断を仰ぐことにしよう。
「洞窟の整備資金の用意ができるかどうかまだ分からないので、とりあえず調査を先に進めておいてください」
「ワタルさん、ウィリアムさん、キノコの調査も忘れてはいけませんよ。キノコの中には貴重な薬効を持つキノコも存在するんですから」
そういえば風が強い洞窟ではカミーユさんが言った感じの薬草を発見したな。でもあそこは特殊な場所だったし、なにより龍が塒にしていたという異質な状況だった。
キノコの方は温泉以外異質と言える部分はなかったし、そこまで凄いキノコはなさそうな気がする。
あと、あの頃は龍という言葉にロマンを感じたが、今は現実を知ってしまったのでロマンどころか哀愁を感じるようになってしまった。
「そうですね、食用のキノコであれば料理にも利用できますし、貴重なキノコが存在するのであれば工事の方法も考えなければなりません。調査にはキノコや植物の専門家も同行させるようにしましょう」
僕が龍について考えている間に、優秀な二人の間でドンドン計画が練られていく。
もう僕にできることはなさそうなので、お暇して仮眠を取ろう。起きたら外海に出て商売の神様に会いに行かないとな。
***
今回もマリーナさん達にはカミーユさんの護衛に残ってもらい、僕達はまた外海にやってきた。
今回はクリス号を召喚し乗り込む。
「こちらもやはり雰囲気が明るくなっていますね」
ロビーに到着しフェリシアが周囲を見渡しながら嬉しそうに言う。
フェリシアの言うとおりサポラビの意識を解放した影響で、クリス号の船内も明るくなっている。
「僕は教会に行ってくるから、みんなは自由にしていて良いよ。あ、リムとペントも連れて行ってあげてね」
頭上と首元にいたリムとペントをイネスとフェリシアに預け教会に向かおうとして引き止められた。
「ご主人様、私はカジノの視察に行かなければならないと思うの」
イネスが真剣な顔をして何を言うのかと思えば、凄くくだらないことだった。
「必要ないよ」
「ご主人様は必要ないかもしれないけれど、私には必要なの。プライドの問題なの!」
プライドって……シャトー号のカジノで半泣きにされたのだから、もうズタボロだよね?
ああ、だからこそ回復させたいということか。
ここで断ることもできるけど、確実にスネる。でも、そんなにホイホイとお小遣いをあげるのも違うよね。
「うーん、じゃあ僕とも賭けをしようか」
「ご主人様と賭け?」
「そう、僕はここで金貨一枚を賭ける。賭けるのはイネスのカジノでの負けにだね。イネスはこの金貨一枚を種銭にしてカジノで勝負して、金貨一枚以下だった場合は、その金額に応じて……そうだね、銀貨十枚毎に一つ言うことを聞いてもらう。どうかな?」
イネスは奴隷なので命令権は僕にあるのだが、こういうチャンスがないと普段は命令しにくいんだよね。嫌われたくないから。
「……金貨一枚失ったら十回命令を聞くということね。私が勝った場合はどうなるの?」
「その種銭とイネスの勝ち分がイネスの物になるだけだよ」
さすがにそれ以上は甘やかしすぎだ。というか、一回の命令権に日本円で十万って、最初からかなり甘やかしているよね。
でも、銀貨五枚や十枚ではなく金貨一枚にしたのには理由がある。イネスは所持金が多いほど強気になり、負ける可能性がかなり上がるのだ。
このささいな罠には、ギャンブルの自信があるイネスは絶対に気が付けないだろう。
「乗ったわ!」
イネスは金貨を受け取り、スキップでカジノの方向に消えていった。
たぶん、Hな命令を下されるくらいだとイネスは考えているのだろうが、僕はカジノ禁止期間とか、キャッスル号に行った時にベラさんの元で修行とかを命令するつもりだ。
ま、まあ、余ったら、無駄にするのももったいないし、普段なかなかできないHな命令をしないこともないけどね。だって無駄にするのもったいないし。
「えーっと、フェリシアはどうする? 賭ける?」
フェリシアは何の文句もないから、全部Hな命令になるけどね。フェリシアは控えめだから、命令したいことが沢山あります。
「私はご主人様から頂いたお小遣いがだいぶ余っていますから大丈夫です」
くっ……まあフェリシアはあげたお小遣いをほとんど自分の為に使わないもんね。基本的にダークエルフの島のお土産にお金を使うことがほとんどだ。
残念だけど仕方がない。本当に残念だけど。
「そっか、じゃあリムとペントをお願いしてもいい?」
「はい、お任せください」
リムとペントをフェリシアにお願いし、僕は教会に向かう。
創造神様の神像の前に膝を突き祈りを捧げる。
「……ん? いつもならすぐに神界に呼び出されるんだけど……」
「航さん、聞こえますか?」
「光の神様? 創造神様はお忙しいのですか?」
神様通信で光の神様に繋がるのは結構珍しいから少し驚いた。
「ふふ、航さんから預かったミニ創造神様がとても良い仕事をしてくれて、創造神様も頑張ってお仕事をしてくれていますよ。それで申し訳ないですが、今は神界に呼ぶことができません。呼んだら確実に創造神様に絡まれますからね」
光の神様、とても楽しそうな声をしているな。たぶん美しい光の神様の姿もまぶしいくらいに光り輝いているのだろう。
それにしてもあのミニ創造神様、まだ生き延びたままなんだな。
「なるほど、僕も創造神様に絡まれるのは困るのでこのままで大丈夫です。あの、商売の神様にお伺いしたことがあるのですが、繋いでいただけませんか?」
「商売の神ですか。分かりました、少々お待ちください」
光の神様の気配が遠のいた。要望の神様を呼び出してくれているのだろう。
このタイミングで音楽が流れ始めたら完全に電話なのだが、さすがにそこまでの機能は備わっていないらしい。
「航さん、お待たせしました。今商売の神と代わりますね」
少し待つと光の神様との通信というか神託が再びつながる。
「ありがとうございます」
「商売の神だ。先日は世話になったな。おかげで報酬の減額をそれなりの範囲で収めることができた」
代わると同時にお礼を言われてしまった。
商売の神様もミニ創造神様には苦戦していたらしい。創造神様と相性が悪そうだもんね。
「いえ、お役に立てたのであれば僕も嬉しいです」
僕がメインで救いたかったのは光の神様、美食神様、森の女神様、それと他の女神様方だけなので、男性の神様に感謝されると少し申し訳なくなる。
「うむ、して、何用だ?」
さらりと話が変わったな。まあ、商売の神様と話すのは緊張するから、その方が助かる。
「はい、実は現在慈善事業として獣人の町を造っています」
「うむ。孤児院はともかく町を造ろうとするとは私も驚いたぞ」
商売の神様を驚かせたのは、結構凄いことなんじゃないか?
それに、僕の慈善事業についての感触は良さそうだし、相談も上手に進められそうだね。
読んでいただきありがとうございます。