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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
二十三章
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4話 やる気なサポラビ

 休暇なはずだったのだがサポラビからプレゼンされ、お試しではあるがサポラビ達の働き方改革が実行されることになった。サポラビ達の休暇の方は特に波乱もなく、穏やかに終わったが、お試しプレオープンの方は朝一から衝撃を受けることになった。休暇と違ってプレオープンは色々と波乱がありそうだ。




 朝食が終わり、続いてシャトー号の散策を再開する。


 まずはアトリウムに行ってみるか。


 シャトー号のシンボルともいえるアトリウム。高い吹き抜けになっておりセンターになんだかよく分からないがカッコいいオブジェがあり、階段がキラキラと輝いている。


「んー、確かに少し賑やかになった感覚はあるけど、それ以外はあまり変わらないね」


「ご主人様、サポラビちゃん達に許可を出したのはお店の管理だけでは?」


「……そうだった」


 フェリシアの鋭いツッコミに自分のミスを自覚する。サポラビにアトリウムを管理する許可を出していないのだから変わるはずがない。


 んー、そうなるとちょっと失敗したかな。パレードの許可を出しておけば良かったかもしれない。そうしたら今までと違ったパレードを見せてくれたはずだ。


 ……パレードはマリーナさん達とカミーユさんと一緒に見ればいいか。あとでサポラビに伝えておこう。


「お店となると……プロムナードに行ってみようか」


 あそこはお洒落度は段違いだが商店街みたいなものなので変化をしっかり確認できるはずだ。


 プロムナードに足を踏み入れると、今まで薄く感じていた生命感を強く感じる。やはり意志というのは大切なのだろう。


 ただ、それ以外は今のところそれほど違いを感じない。


 さすがに豪華客船では、セールとか大安売りの幟は似合わないから当たり前か。


 ふむ、ここは有料の飲食店が結構あるんだけど、目の前で料理をするスタイルの店ではサポラビがちゃんと待機しているな。


 前は呼ばないとこなかったから、そこは少し違っている。ただ、豪華客船のお客は僕達しかいないから、来もしないお客をずっとあの感じで待たせるのは悲し過ぎる。


 感情がないと思っていれば、日本でも偶にある機械の店員だと納得できたが、結構感情表現が豊かだと知った今となっては放置もできない。


 常に店に待機する必要はなく、僕達が利用しそうなタイミングで配置について、それ以外は休憩できないか相談してみよう。


 あとで相談する内容を頭の中にメモして散策の続きをする。


「イネス、フェリシア、活気が出た以外で何か違いが分かる?」


 いくつかお店を覗いてみたが、一目で分かるほどの違いは出ていない。昨日の今日だからまだそれほど準備が整っていないのかもしれない。


「ご主人様、大きくは変わっていませんでしたが、レジのところに店長おすすめコーナーと書かれた場所がありましたよ?」


「え? そうなの? ……店長おすすめコーナー?」


 豪華客船に入っているお店はブランド店なんだけど……まあ、いいか、少し見てみよう。


 あと、スタッフに任命はしたけど、店長に任命した覚えはないよ?


「……これ、もしかして僕達をターゲットにしてお勧めを考えていたりする?」


 コクンと頷くサポラビ。


 今回入ったお店は割とカジュアルな品を置いてあるのだが、そのおすすめコーナーには僕、イネス、フェリシアが好みそうな品が置かれている。


 今は僕達しかいないが、アレシアさん達と合流したら、おすすめコーナーの種類も増えそうな気がする。


 沢山のお客が来るキャッスル号だと、統計とかを考えておすすめコーナーを配置したりするのかもしれないな。


 ちょっと面白い。


 お昼はリムのお肉が良いというリクエストにより、肉料理が豊富なステーキハウスに決定。


「え? 焼き加減をもっと細かく注文できるの?」


 今までのステーキの焼き加減はレア、ミディアムレア、ミディアム、ミディアムウェル、ウェルダンくらいだった。


 これ以上があると考えてすらいなかったが、さらに調整できるのであれば試してみよう。


「えーっと、レアとミディアムレアの中間くらいの焼き加減ってできる?」


 コクンと頷くサポラビ。できるらしい。


 僕としてはレアはレアすぎてミディアムレアは少し焼き過ぎな感じがしていた。これが調整できるとなると、豪華客船お肉ライフが一層楽しくなるぞ。


 たぶんブルーとかブルーレアも注文したら答えてくれそう。


「あ、リムとペントは生に近いお肉が好きだったよね?」


『……リム、ぜんぶすき……』


『……シュー……』


 リムは全部好きだったか。好きというよりも嫌いな物がないと言った方が正解で、僕の観察の結果、リムとペントがレアを喜ぶのは間違いない。


「リムとペントにはブルーレアのステーキを出してあげて」


 コクンと頷くサポラビ。


 好奇心旺盛なイネスが初めて聞く焼き加減に興味を示したが、話を聞いてすぐに興味を無くした。イネスはミディアムが好みだもんね。


 虎系の獣人だから、レア系が好きそうなイメージなのに意外だよね。



 ステーキは大満足だった。


 焼き加減の調整が更に細かくできるようになったのはかなり嬉しい。リムとペントもブルーレアに大喜びで、僕の観察が間違っていなかったことも証明できたし大満足だ。  


 どうなることかと少し不安だったが、サポラビの意識解放は悪くないかも。


 さて、午後はエステに行って、プールでのんびりして鉄板焼きで〆だな。


 ゆったりとした視察だけど、細かいところはカミーユさんがしっかり確認してくれるから、僕の場合は大まかに判断できれば十分だ。


 任せられる人がいるって幸せだよね。


  


 ***




 シャトー号の視察は無事に終了した。


 エステもサービスや技術の向上が見られ、プールは普段と変わらないがプールサイドのお店から差し入れなんかも届くようになり、鉄板焼きではサポラビのパフォーマンスが際立っていた。


「僕はサポラビ達に意識があるのは悪くないと思ったのだけど、みんなはどう思う?」


「気を利かせてサポラビ達が色々とサービスしてくれるし、私も悪くないと思うわ」


 そうなんだよね。僕の影響なのか分からないけど、サポラビのサービスが結構日本的で凄く配慮してくれる。


 海外のサービス業は余計なことをしないで自分の職分を守るイメージなんだけど、僕としては細々と配慮してくれるこちらの方が嬉しい。


「今のサポラビちゃん達の方が可愛らしいです」


『……さぽらびたのしい……』


「シュー」


 仲間達もおおむね好感触。これなら前向きに検討しても大丈夫か。


 目の前のソファーに座っている三羽のサポラビに視線を向ける。この三羽のサポラビは休暇初日にプレゼンをしに来た三羽で、今は僕達が出す結論を固唾を呑んで待ち構えている。


「とりあえず、第一関門は突破しました。僕達としては、今後も君達には意識を解放した状態で働いてもらいたいと思います」


「「「プー!」」」


 万歳をして喜びの声を上げるサポラビ達。苦手意識があるのに可愛いと思わせられるサポラビが恐ろしい。


「でも、まだ第一関門だからね」


 どういうこと? と、僕を見るサポラビ達。


「僕が許可を出したとしても、キャッスル号では今の状態で働けません。次はカミーユさんの査定が待っています。そこを突破できれば、キャッスル号で意識を解放したまま沢山のお客様をおもてなしすることができるようになるでしょう。どの船に勤めるかの相談もできるようになると思います」


 船もサポラビ達も僕がオーナーなのだから、カミーユさんの査定が必要なことに疑問を覚えないこともないが、お客様をおもてなしするのであれば厳しい評価が必要だ。


「「「プー!」」」


 気合が入ったのか、目に炎をともして立ち上がるサポラビ達。まあ、立ち上がるというよりはソファーから滑り落ちるという表現の方が正しい気がするけどね。


「やるきなんだね?」


 シンクロしてコクリと頷くサポラビ達。


「じゃあ、カミーユさんをおもてなしするまで色々と考えると良い。君達の成功を祈っているよ」


 気合満々でヒョコヒョコと部屋を出ていくサポラビ達。去り際に一礼することを忘れないあたり、礼儀の面では合格を勝ち取れそうだ。


「じゃあご主人様、サポラビ達は私達の生活空間では意思がある状況なのよね?」


 イネスがちょっと微妙な顔をして質問してくる。イネスもフェリシアほどではないがサポラビ達を気に入っていたはずだが、どうしたのだろう?


「その予定だけど、なんか問題があった?」


「船の散策中、カジノも見に行ったでしょ?」


 プレイすることはなかったが、確かに確認には行った。蝶ネクタイをしたディーラーっぽい衣装を着たサポラビ達がカジノを賑やかにしていた。


「ご主人様は気が付かなかったかもしれないけど、あの時、サポラビ達が私を見る目は獲物を見る目だったわ」


 ああ、イネスはサポラビ達にも鴨葱と認識されているのか。


 普通のカジノと違って利益を追求している訳ではないのだが、サポラビ達にはディーラーとして利益を追求する気持ちが芽生えているのかもしれない。


「とりあえず、借金は駄目だからね。悔しかったら行かないか、勝つことだよ。フェリシアもイネスにお金を貸したりしないようにね」


「はい」


「ちょっと、ご主人様もフェリシアも私が負ける前提で話しているでしょ。どうしてよ!」


「どうしてよって言われても……ねえ?」


 フェリシアと顔を見合わせて頷きあう。そりゃあイネスも常に負けている訳ではない。


 偶にというか、割と勝つことも多い。そんな日はニコニコで丸分かりだから僕達も把握している。


 ただ、結局負けるんだよね。


 勝ちに浮かれて儲けたお金と元々のお小遣いをすべて一緒に溶かしてしまう。そんな日はどんよりしているので当然僕もフェリシアも把握している。


「なによ! いいわ、なら私が負けないってところを見せてあげるわ」


 イネスがプンスコしながら部屋を出て行った。


「……怒っているというよりも、単にカジノに行きたかっただけだよね?」


「そうですね。部屋を出る時は戦闘モードになっていました。おそらくサポラビちゃん達に自分は強いのだと証明するつもりなのでしょう」


 強敵に挑む高揚感みたいなものか? 僕には理解できないが、イネスも虎だということだろう。




 ……夜になり戻ってきたイネスは泣きそうな顔をしていた。 

  


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
兎に鴨葱扱いされる虎(笑)
相変わらずのイネス…
彼らも休暇や自意識の発露は嬉しいとして休息や睡眠は要らないんだろうか まぁ普通の豪華客船だって船員用の部屋は有るだろうから必要ならそれを使えば良いのか ほぼ確実に使ってないし
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