15話 ジラソーレとの船旅? と曝け出された自分の欲望
「女将さんこんにちは、ジラソーレの皆さんはお戻りですか?」
「ワタルさんこんにちは、ええ、お戻りですよ、ワタルさんがいらしたことお伝えいたしますね」
「お願いします」
おー、戻って来てるみたいだ、美人さん達に会えると思うだけでテンション上がる。
「うふふ、ご主人様、鼻の下が伸びてるわよ」
「……あはははは、あっ、来たみたいですよ。こんにちは、アレシアさん」
「ワタルさんこんにちは、ご無事で何よりでした、立ち話もなんですから部屋にどうぞ」
うん、相変わらずの美しさ、鼻の下が伸びるのもしょうがないと思う。
「ありがとうございます」
うおっ、食堂にいた男達から殺気が……そうだった、この宿、ジラソーレのメンバーが泊まってるからって満室になってるんだった。ファンが沢山いるんだよね。なんか出る時絡まれそうだな。
部屋に案内され皆と挨拶をかわす。
みんな笑顔で挨拶してくれるし、なんかこう嬉しくなっちゃうよね……いかん、あの従業員さんみたいに勘違いしてしまいそうだ。気を付けないと。
「そういえばあの後、あの従業員さんは?」
「……何度か宿まで押し掛けて来ているわ。この宿は私達が泊まるには相応しくないって言ってるそうよ。女将さんがあちらの宿のご主人に文句を言ったら来なくなったけど……街中でよく声を掛けて来るようになったわ」
……完全に、コジらせてるな。諦めは悪そうだったけど、行くとこまで行っちゃいそうで怖いな。
「そうですか、十分に気を付けてください。今日はお土産を持って来たんですよ。いくつかあるので気に入った物を選んでください」
「あら、綺麗ね、でも贈り物として、この方法はどうなのかしら?」
「あはははは、カミーユさんにも言われましたよ。でもいいんです、選んで気に入った物の方が身に着けて貰えますからね」
「カミーユさんにも贈ってるの? 女性に手当たりしだいに贈り物をするのはよくないわよ?」
「ちゃんと男の人にもお土産は買って来てますよ。グイドさん達にももう渡しましたしね」
女性陣に贈る物の方が力が入ってるのは内緒だけど。
「あら、意外とちゃんとしてるのね」
「……どう思われていたのか非常に気になる所ですが、そんなわけで選んでください」
下手に聞いたら、心が傷つきそうだし、気にしないでおこう。うん、美人が楽しそうにはしゃいでいるのを見れるだけで、このお土産を買って来た意味は十分だな。
「ワタルさん、ありがとう、いつも貰ってばかりで悪いわね」
「いえいえ、リムを連れて来てくれただけで、十分な貰い物をしていますからね。全然気にしないでください」
リムはジラソーレが連れて来てくれなかったら、会えなかったんだし、この位の贈り物、リムに比べたらなんて事無いよ。
「そう? まあ、そう言ってくれるのなら甘えさせてもらうわ」
ドンドン甘えて欲しいです。
あっドロテアさんとマリーナさんにリムが攫われた。毎回可愛がってもらってリムが羨ましい。
「それで、南の大陸の様子はどうだったの?」
「あまり観光も出来てませんし、前に話した事とあまり変わりませんね。内乱が起こりそうな確率が上がったぐらいです」
「そう、荒れそうなのね」
「まあそんな感じでしたね」
「それで、ワタルさんは、まだ胡椒貿易を続けるのかしら?」
「いえ、今度は仕入れた胡椒を売りながら、国外を見て回ろうかなって思っています」
「あら、いいわね、何処に行くつもりなの?」
「色々思案中ですが、パレルモの大聖堂が素晴らしいそうなので、行ってみようかなって考えてます」
「パレルモに行かれるのですか!!!」
「え、ええ、まだ決定はしてないのですが、考えてはいます」
「クラレッタ、声が大きいわよ。ごめんなさいね、クラレッタは昔からパレルモに行きたがっていたから」
「す、すいません」
「構いませんよ。でも皆さん位の実力者ならいつでも行けるのでは?」
「私達はこの大陸北西のブレシア王国出身なの。人と獣人が共存している国なんだけど、そこからパレルモに行くには、獣王国以外は大なり小なり人族至上主義の人間が面倒なのよ」
「あー、北の帝国がそんな事、言ってるんでしたっけ」
「ええ、ブレシア王国も帝国と接しているから小競り合いがよくあるわ。まあ隣の獣王国と帝国の争いが激しいから、ブレシア王国は小競り合い程度なんだけどね」
「ラティーナ王国からパレルモの間にも、人族至上主義の国があるんですか?」
「ええ、帝国に友好的な国があるのよ。ここからだと陸路でも通り道で、海路でも寄港した時に獣人が居ると冷遇されるし、海でも偶に臨検してきて獣人が乗ってると嫌がらせしてくるのよ」
「うわー、面倒なんですね」
人族至上主義ってファンタジーでは大体面倒な相手なんだよね。問答無用な感じがするし苦手だな。
「そう、面倒なの。その面倒な事を踏まえてのお願いなんだけど、私達も連れて行ってくれないかしら?」
「パレルモにですか?」
「ええ、お願い出来る?」
ジラソーレと船旅? 物凄いご褒美だよね? でも船の性能がバレるかも?
ダークエルフの時は、情報の洩れる危険が少なかったから良いんだけど、今回はどうだろう? 少し時間を貰ってしっかり考えよう。
「うーん、全然問題ないって言いたい所なんですが。前にも言ったように、船に秘密があるんですよ。考える時間を貰っても構いませんか?」
「ああ、胡椒貿易を成功できる秘密ね。分かったわ、無理を言ってるのもこっちなんだし、気にしないでね」
暫く雑談を続けて宿を後にする。クラレッタさん頼みたそうにしてたのに、我慢してたな。その場で連れて行きますって言いたくなったよ、どうしようかな?
「色々考えないといけないので船に戻りますか」
「「はい」」
サロンのソファーに座ってリムをもっちもっちしながら考える。ジラソーレとの船旅のメリットとデメリットかー。
メリットは、間違いなくあの巨乳美人パーティーの、ジラソーレと一緒の船旅だよね。実際こちらからお金を払ってでも一緒に行ってもらいたいぐらいだよ。
デメリットはスキルがバレるかも? って事か。食糧庫船も出し辛いし、船の臨検とか面倒事があるなら、岸沿いは通りたくない。魔物が出るなら乗船拒否の能力もバレるし……どうしよう?
「ご主人様はジラソーレのメンバーを連れて行く事にお悩みなんでしょうか?」
「フェリシアったら違うわよ。ご主人様があの方達のお願いを断れる訳ないじゃない。連れて行きたいんだけど、秘密も守りたいって思って悩んでるのよ」
完全に見透かされているな。でもあんな美人に頼まれたら断れないよ。しょうがない事だよね?
でもそうだな、結局は能力がバレても良いのか、悪いのか、だよね。ジラソーレのメンバーは良い人達だし、美人だ、秘密を守ってくれるように頼めば大丈夫なんじゃないかな?
それに美人で巨乳だし、一緒の船旅なんて最高だし。
創造神様も言ってたよね。僕達みたいな人間は、目立たなく生きようとしても、結局欲望に負けて能力を使うんだって。
この場合は欲望に負けてもしょうがないレベルのはずだ。自分のドストライクの美人パーティーとの旅行のチャンスは逃せないよ。
「うん、決めたよ。ジラソーレの皆さんとパレルモに行くね。イネスとフェリシアは構わないかな?」
「うふふ、いいわよ」
「私も構いませんが、スキルの事はどうされるのですか?」
「秘密を守ってもらう事を条件にするから、特に隠さないよ。信頼して乗せるのだから、隠し事は却って信頼を損なうよね」
「素晴らしいお考えですね、ご主人様」
「まさか一緒の船旅を心から満喫するために、面倒な隠し事はやめておこう。とかじゃないわよね?」
「あはははは………まさか、そんな事ないよ」
「ご主人様?」
「それより、明日はジラソーレとお話して予定を決めましょう」
「「はい」」
せっかくの船旅だからね、能力フル活用して楽しい船旅にするんだ。
「でも、ご主人様」
「ん? なに?」
「ジラソーレの方達ばかりに構って、私達を放っておいたらダメよ?」
「あたりまえです。僕はイネスにも、フェリシアにも、ジラソーレの皆さんにも、全力でご奉仕します」
「うふふ、フェリシア、ご主人様が本性を現したわよ」
「そうですね」
「えっ? あっ、違うよ? ただ、ただ楽しい船旅の為に頑張る気持ちを表明しただけだよ」
「うふふ、ご主人様、あまり内容が変わってないわよ?」
「大丈夫です、ご主人様。フェリシアはどのようなご主人様でも、精一杯お仕え致します」
「ええ? うん、ありがとう?」
まずいな、欲望に負けてもしょうがないとか考えてたら、欲望が駄々漏れしていたみたいだ。せめて表面上は取り繕わなきゃ、ただの変態になってしまう。
夕食まで時間が有るので楽しい船旅計画でも考よう、下手に会話してるとボロがでそうだ。
「もう少し考え事を続けるから、お茶をお願い」
「「はい」」
「あっ、リムありがとうね、おかげで考えがまとまったよ」
腕の中でプルプルしているリムに果物をあげて放す。
『りむ、えらい? これ、すき』
「リムはとっても偉いよー、果物ももう一つあげるね」
喜んでポヨンポヨンしているリム、はあ……和む……
お茶を貰い、考え事を続ける。船の中で楽しめる事かー、お菓子でも作るかな? テンプレだとプリンだけど材料は手に入るか?
砂糖と卵はあるし、ミルクは有るのか? あとバニラエッセンスも、まあバニラエッセンスが無くても出来ない事はないか、ミルクが手に入れば作ろうかな。
他には何かあるかな? まるでデートの計画を立ててるみたいだな。でもなんとしても楽しんでもらってもっと仲良くなりたいよね。
何か無いかなー? そうだ、ドニーノさんに頼んでリバーシとジェンガを作ってもらおう、テンプレだけど楽しんでくれるはずだ。
後は……うーん思いつかないな、なんか無いかな? 新しい船とか? 船購入画面でも見てみるか。うーん豪華客船は当然無理だし、フェリーか、そう言えば豪華客船は見たけどフェリーは詳しく見てないな……
こっ、これは……フェリーってこんななんだ、乗った事ないから知らなかったよ。もうこれで十分な気がする。イネスにフェリーで交渉しておけば良かった、フェリー欲しい。
「ご主人様? どうしたの? その動き変よ?」
物欲と後悔に悶えていると、イネスに突っ込まれた。
「ああ、イネスにフェリシア、船の購入画面を見ていたら欲しい船を見つけてしまったので、困ってるんだ」
「どうして困るのかしら? どんな船なの?」
「これだよ」
「あら? 大きな船ね、フェリー? このレストランが美味しそうな物が沢山あって気になるわね」
「私はこの、展望浴場が気になります。広いお風呂が気持ちよさそうですね、ご主人様」
「ええ、他にもカップ麺にアイス、お酒の自販機にジュースの自販機、売店にミニシアター、DVDのレンタル、ゲームコーナー、僕が欲しい物が沢山ある船なんだ」
「うふふ、分からない物が沢山あるわね、楽しいのかしら?」
「ご主人様が女性以外に、こんなに執着を見せるのは初めてですね」
「ええ、とっても楽しい物と、懐かしい食べ物が満載です。……フェリシア、僕ってそんなに分かりやすい?」
「はい」
「そ、そうなんだ」
「豪華客船と、どう違うのかしら?」
「イネスは流さないでよ」
「うふふ、そうね、とっても分かりやすいわね。それで、どう違うのかしら?」
「そ、そう……あってるかは、分からないけど、フェリーは旅行や、移動に気軽に乗れる船で、普通に楽しめる物が置いてある感じで。
豪華客船は、お金持ちの為の贅を凝らした作りの船で、最高の料理と最高の娯楽を楽しむ為の船ってイメージかな」
「あら、一般向けと、お金持ち向けの違いかしら?」
「そうなのかな? まあ一般人としては欲を刺激される物が、フェリーには沢山あるんだよね」
「どっちも楽しそうで困るわね。でも欲しいなら買っちゃえば良いじゃない、高いのかしら?」
「ええ、今の資金は27金貨41銀貨50銅貨 ギルド口座76白金貨50金貨 貯金船30白金貨と胡椒船が495艘、白金貨を全部使えば買える所が悩ましいんだよね。買えなければ諦められるんだけど……」
「凄く高いわね、でも豪華客船で楽しむ前に、普通の船で楽しむのも良いわね。逆だと感動が薄くなりそうだわ、フェリシアはどう?」
「そうですね、イネスの言う通り豪華な物から先だと勿体なく感じますね」
「そうは言っても、豪華客船を買わないとイネスと出来ないんだよ。更に時間が掛かるのは嫌なの」
「うふふ、ご主人様、今日は素直に欲望を言うわね。大好きな物を諦めようと悩むぐらい私が欲しいのね、嬉しいわ、んちゅ」
「そうですね、私も移住完了までまだ時間が掛かりそうですし、ご主人様も我慢なさってるんですね」
「……すいません、恥ずかしい事を言いました。忘れてください」
「いやよ」
「正直で良かったと思いますよ、ご主人様」
いかん、今日は全力で駄目な自分を曝け出してる。せめてちょっとHなご主人様位でいたかったのに、既にとってもHなご主人様って思われてたなんて……
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




