17話 手強いような、そうでもないような……。
創造神様の嫌がらせが判明した。それは神様方に自分の化身の面倒をみさせて、その結果によって神様にとっての賃金に当たる結晶を減らしていくという悪辣なシステム。しかもその罠に僕も巻き込まれ、僕の成績が光の神様、美食神様、森の女神様に悪影響をだすペナルティになってしまった。なんとか交渉してデメリットオンリーなこの状況を覆したい。
「ご褒美が欲しいって……航君、これは罰なんだよ? 報酬を求めるのは違うんじゃないかな?」
その罰が最初から理不尽なんだけどね。
「自分で言うのはなんですが、僕は精いっぱい創造神様をおもてなししようと努力しました。そのことは創造神様も理解してくださり、先程手心を加えてくださるとおっしゃったじゃありませんか。それならご褒美をくださってもよいのではありませんか?」
良いとか悪いとかの問題ではない気がするが、こういうのは勢いが大切だ。幸い、創造神様は神様方に復讐できてかなりの上機嫌、受け入れてもらえる可能性は割とあると思う。
「えー……んー、まあいいか。それで、何が欲しいの? あくまでも罰だから、欲張った報酬なら受け入れないよ?」
意外と簡単に許可が貰えた。ゴネてみるものだ。こういうことがあるから、世の中にゴネ得なんて言葉が生まれたんだろうな。
でも、報酬なんて考えていなかったから、どうしたらいいか。
あ、三女神の皆様の報酬を削ってしまうのだから、僕と三女神様の両方にメリットがある提案をするべきだな。
「では、創造神様の化身を半分以上小さくしなかったら、他の神様方の休暇の延長はどうでしょう?」
そうなれば僕は創造神様が居ない空間で女神様方と遊ぶことができるし、他の神様方ものんびりできる。
まあ、僕の相手が創造神様の相手よりも苦痛でなければという前提が必要だが、さすがに創造神様よりはマシだと信じている。
ぶっちゃけると女神様方だけの休暇延長で構わないのだけど、さすがにそれは露骨すぎるので神様全体のお休みを要求した。
「え? 僕のお休みを削っておいて、僕以外の神々に休みを与えろって言うの?」
凄く嫌そうだ。
「そもそも、創造神様の罰で今日の神様方の休暇が潰れるのですから妥当な判断では?」
「僕の化身の面倒をみられるんだから、本来なら光栄なことなんだよ?」
それを自分で罰ゲームにしているのだから、創造神様も自分の評価を理解しているんだろうな。
「そんな偉大な創造神様の慈悲に縋ったお願いになります」
「んー、まあ、航君が頑張っていたのは確かだし、それくらいは認めてあげても良いけど…………でも、半分は駄目。せめて三分の二を残すくらいの忠誠は示してほしいな」
普段から褒められ慣れていないのだろう、偉大とか慈悲とか言うと分かりやすく顔が緩む創造神様。
機嫌が良かったり自分が優位に立っていたりする場合は本当に寛容なタイプなんだよね。一歩こじれると神々でも手が付けられないくらい面倒なタイプになるんだけども……。
「分かりました。では精いっぱいの忠誠を示させていただきます」
この辺で手を打っておこう。求めすぎると機嫌を損ねる。
「うん。じゃあ頑張ってね。僕はここから君達の頑張りを楽しませてもらうよ」
創造神様がパチンと指を弾くと、新たなミニ創造神様が現れる。僕は結晶とは何の関係もないから特別仕様なのだろう。
プカプカと飛んでくるミニ創造神様を膝を突く教会でのお祈りの姿勢で出迎え、両手をミニ創造神様に座って頂くために差し出す。
神様方からすれば屈辱的な行いかもしれないが、僕は今回創造神様の太鼓を叩きまくるつもりでいた。
その太鼓を叩く相手がミニ創造神様に変わっただけ。むしろ小さくなった分お得感すら感じる。
僕の掌の上に立ち、ムンっと偉そうに胸を張るミニ創造神様。光の神様のところのミニ創造神様と違って座らないようだ。
「しっかり可愛がってあげてね」
「了解しました。というか、いつの間にそんな準備をしたんですか?」
ミニ創造神様に気を取られていると、いつの間にか結界の向こう側が充実していた。
あの雰囲気を見たことがあるな。なんだったか……そうだ、キャンプでいうところのコクピットスタイル。自分の周囲にご馳走や飲み物を良い感じに配置している。
居心地が良さそうなあの場所でのんびり僕達の苦労を楽しむつもりなのだろう。
「ん? 僕は創造神だからね、この程度のことは簡単さ」
自慢げだが具体的なことは何一つ教えてくれない。創造神様は問題が無ければ自慢しまくるタイプだから、今回の事件の絡繰りに関りがありそうだな。
光の神様に……あ、駄目だ。光の神様もミニ創造神様に手をとられてこちらに構っていられない様子。
「たーー!」
どうしたものかと迷っていると、ミニ創造神様が僕の掌の上で足ダンを始めた。どうやら退屈させてしまったらしい。とりあえず、今はミニ創造神様に集中するか。
あと、その鳴き声には意味があるんですか? ただ音を出しているようにも見えるし地味に難しいな。
「ミニ創造神様、どこか気になる場所はございますか?」
声をかけると、ミニ創造神様が一点を指でさす。まだ朝の六時にもなっていないのだが、いきなりバーですか。そもそも、アルコールを嗜むんですね。
「光の神様、すみません。ミニ創造神様が移動されるとのことですので、僕はここから離れますね」
「はい、航さんも頑張ってくださいね。休暇の申請、ありがとうございます」
「あはは、どういたしまして。では、光の神様も頑張ってください」
休暇のこと、ちゃんと聞こえていたんだな。喜んでくれているようで、良かった。
ミニ創造神様の指示に従い、バーの中に入る。
「たー」
ミニ創造神様がメニューで指示したのはウイスキー。朝からいきなりキツイのを呑むようだ。
「おつまみはどうなさいますか?」
「たー」
「なるほど、ナッツ類とサラミにチーズですね。畏まりました」
指示された通り注文し、サポラビに運んできてもらう。テーブルに置くとすぐさまロックグラスに飛びつくミニ創造神様。
少し大きな人形程度の大きさのミニ創造神様が、自分の顔よりも大きなロックグラスを持ち上げ、ゴクゴクとウイスキーを喉に流し込んでいく。
意外と力持ちなうえ、あきらかに胃袋に入りきらない量の液体を飲み干すミニ創造神様が怖い。普通に考えたら妖怪の類だ。
「お代わりを? それとも別のお酒になさいますか?」
チンとロックグラスの縁を叩くミニ創造神様。どうやらお代わりでいいようだ。僕が注文している間に、ミニ創造神様はおつまみに大口を開けて食らいつく。
ミニ創造神様、どれくらい飲み食いできるんだろう?
***
現在、ミニ創造神様はサポラビからエステを受けている。
僕が面倒をみているミニ創造神様だが、神様方が面倒をみているミニ創造神様と違い、元々がどんな存在か分からないが……エステの必要があるのかが酷く疑問ではある。
でも、凄く楽だ。
ミニ創造神様はとても生意気だが、本人と違い小さいのであまりムカつかない。
そして欲望に忠実なので、欲しがるものを全部与えて、楽しそうなことを提案していれば機嫌よく過ごしてくれている。
罰というよりも、友人から預けられたペットの面倒をみている感覚だ。
ただ、やはり神様方とミニ創造神様は相性が悪いのか、かなり小さくなっているミニ創造神様を見かけることもある。
意外と苦労している様子だ。
「たー!」
あ、ミニ創造神様がお呼びだ。
「お待たせいたしました。ご満足いただけましたか?」
「たー」
重々しく頷くミニ創造神様。これはなかなか良かったぞ、褒めてやろうって感じだな。少し分かるようになってきたが特に嬉しくはない。
「ありがとうございます。次はどうされますか? ゆっくりされた後なので、映画や劇などを楽しむのもお勧めでございます」
エステでさっぱりした後に運動は流石に違うよね。
「たー」
「なるほど、映画ですね。私のお勧めで構いませんでしょうか?」
「たー」
「は、ありがとうございます。では、こちらにお乗りください」
ミニ創造神様に踏みつけられる感覚が嫌だったのでタオルを用意したら、ミニ創造神様はふかふかのタオルに寝そべって移動するスタイルに変わった。
ミニではあるが人形としては地味に大きなサイズなので、横になられるとちょっと運び辛い。言わないけどね。
ミニ創造神様を映画館に案内しど真ん中に座らせるが、座席の高さが合わなかったので急遽サポラビを召喚。座席に座ったサポラビのそのふわふわな頭の上で鑑賞していただくことにした。
もちろん炭酸飲料とポップコーンも用意した。ミニ創造神様が望めばサポラビが食べさせる手はずになっている。
さて、映画だが……恋愛とか文学とか悲劇とかミステリーとか、そういうのを喜ぶタイプではないことは分かっている。
ミニ創造神様にお勧めのジャンルは一択、アクションコメディだ。
あ、新作が入荷している。相変わらず謎のシステムだよね、助かるけど。
え? あの漫画が実写化されたの?
しかも、邦画なのに豪華客船の再生リストに入るってことは、かなり人気になったってこと?
でも、主演のドスケベなスイーパーを演じる人は凄い役者さんだから、海外で人気になるのも分からなくはない。日本で何が起こっているのかちょっと気になるけど、これならミニ創造神様も気に入ってくれるだろう。
さすがに、もっこりはしないと思うけどね。
くだらないことを考えながら映画を再生する。
僕も気になるのだが……せっかくの面白そうな映画だ、気兼ねせず集中して観たいから後でゆっくり鑑賞することにしよう。
映画が始まり、既にミニ創造神様はスクリーンに夢中な様子。これなら少し離れても大丈夫そうだな。
今のうちにトイレを済ませて、どこかで小腹を埋めてくるか。あまりのんびりしていられないから、カフェでサンドイッチだな。
「あ、光の神様、美食神様、森の女神様、おそろいで……お疲れのようですね」
カフェに入ると、疲れ切った三女神の方々がテーブルでうなだれていた。
特に美食神様と森の女神様の疲労が目に見えて伝わってくる。
「あはは、ちょっと大変で光の神に助けを求めてしまったのよ」
「ふふ、私もです」
なるほど、創造神様の扱いのスペシャリストである光の神様を頼るのは懸命な判断だ。でも、美食神様の『あはは』なんて乾いた笑い、初めて聞いたな。
そして、女神様方に疲労をもたらせた元凶は。現在、カフェのサンドイッチを貪り食っている。三人居ると、なんか凶悪生物にみえるな。
もしかして僕のところのミニ創造神様のほうが可愛い。駄目だ、若干飼い主な気持ちになりかけている。
読んでいただきありがとうございます。