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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
二十二章
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16話 お賃金の悪用方法

 気分良く眠りにつき最悪の目覚めを迎えた二日目、朝の騒音は創造神様の仕業だった。創造神様は自分がブラック契約を結ばされた復讐の為に教会を占拠し、生物の純粋な思いや祈りの結晶とやらを見せびらかしはじめる。その結晶は神々にとって賃金のような物らしく、この後がどうなるのか不安だ。




「その……賃金というのはどういうことなのでしょうか?」


 無償で働けなんてことは言えないが、それでも神様が賃金を貰っていると思うと、なんか微妙な気持ちになる。


「具体的に言うと人の賃金とは違います。あの結晶は分割され、神々の力となるものです」


 力になる……そういえば漫画や小説だと、信仰を失うと消滅するなんてパターンがあるよな。


「もしかしてお賃金を貰えなければ神様方の存在が消滅してしまうなんてことは?」


 女神様達が消滅なんてことになるなら、どんな卑怯なことをしてでも創造神様に意見を翻してもらわなければならない。


「神は存在を確立していますから、別に消滅したりしませんよ。そんなに心配そうな顔をしないでください」


 どうやら僕は二次元に侵されてしまっていたようだ。


「では、あの結晶にどのような役割が?」


 結界の前で神々がガチキレしてそれを全力で創造神様が煽り倒しているから、簡単に扱っていいものではないように思う。


「そうですね、あの結晶を基に自身の神力を掛け合わせて、大きな力を発揮するような役割もありますね」


 なるほど、外付けのバッテリーに近い役割なのかも。


「あれ? ですがそんなに大切な物なのであれば、契約で縛っておくべきなのでは?」


「……神々が下界への干渉を控えた今、よほどのことがなければ結晶を使う必要もなく、自分の力だけでどうにかできるのです」


 気まずそうに教えてくれる光の神様。


 なんか聞いたらイケナイことを聞いている気が……でも、いままさにその結晶が人質にとられているのだから聞かない訳にもいかない。


「では、現在の利用方法は?」


「神は自分の空間を持っているのですが、結晶を利用して自分の空間を快適なものにしたり趣味に活用したりしています」


 本当に賃金扱いだった。


 生物の純粋な思いや祈りが趣味に活用されていることに思うところがないでもないが、神様としての仕事は自分の力で行っているようなので問題はない……のか?


 なんかとってもグレーゾーンな気がする。


 でも、神様が消滅したりするわけでもなく、趣味に活用する資金が消える程度なら僕は気が楽だな。


 あと、僕も趣味を妨害されるととても嫌な気持ちになるから、趣味を妨害されている神々がブチ切れているのも理解できる。


「ですが、一回分の賃金と考えるなら、悔しいですが失ってもそれほど痛くないのでは?」


 一ヶ月分のお給料。


 僕はバイト代くらいしかもらったことがないし、それを失ったらと思うと血の涙が出そうなくらい悔しく思うだろうが、それでもリカバリーができないほどではない。


 その出来事を一生忘れないとは思うけどね。


「結晶の分配は頻繁に行われることではありません。人の感覚と合わせるなら……十年分の賃金を失う程度だと考えてください」


 なるほど、殺意が芽生えるレベルだな。十年は駄目だ。たとえバイト代だとしても呑み込めない。


 株とかギャンブルとかで自業自得の負けでも呑み込めないレベルなのに、創造神様の嫌がらせで失うと考えたら、神様方の反応は優しいくらいだと思う。


「そうなると、これからどうなるんでしょう? 創造神様があの結晶を神々の前で全部消費するとかですかね?」


 空腹な人の前でご馳走を見せつけながら完食するような行いだが、創造神様なら笑顔でやってのけるだろう。


「その可能性もありますが、それでは嫌がらせが簡単に終わってしまいます。創造神様でしたらもっと時間のかかる嫌がらせを選択するでしょう。そうして今日一日を良い気分で過ごそうと考えるはずです」


 凄く納得できる予想だ。光の神様のこれまでの苦労がとても偲ばれる。


「ふはははは、これをどうするかというとね、こうするのさ!」


 煽り散らして満足したのか、創造神様が次の行動を開始した。笑顔で右手を振ると大きな祈りの結晶が沢山の占いの水晶くらいの球体に分裂する。


「あれは、普段私達が分配される結晶の大きさですね」


 光の神様も何が起こるのか注目しながら解説してくれる。


 そのまま賃金が分配されるとは欠片も思っていないようだ。


「さて、諸君は僕が屈辱的な契約を強いられた時、これで手間のかかるクソガキの面倒をみる手間が減る、なんてふざけたことを言っていたね。そんな君達にとっても可愛くて愛らしい存在の面倒をみる手間をプレゼントしてあげようじゃないか」


 神様方、気持ちは分かるけど創造神様を挑発したら駄目だよ。それにしても手間をプレゼントって何をするつもりなのか?


「ほいっとな」


 創造神様の気の抜けた言葉と共に結晶がモコモコと動き出した。


「……うわー」


 何が起こるのかと思ったら、結晶の一つ一つが小さな創造神様に変身した。ミニキャラというのは大抵が可愛らしいものであるはずなのだが……。


 創造神様は全体的に造形が良いから可愛くないとは言えないが、何しろ創造神様のイメージがアレだから、神様方の中にはGの名を冠する黒いあいつを見た時のような悲鳴を上げている神様も居る。


「君達の役目はとても簡単だ。そのミニ創造神様を日付が変わるまで大切に面倒をみること。そのミニ創造神様が不機嫌になり怒ってしまったり、悲しくなって泣いたりしてしまうと、君達に分け与えられる結晶はドンドン小さくなっていく。あとは分かるよね?」 


 うわー、さすが創造神様、凄く嫌なことを考えるな。お賃金が欲しければ、自分の分身を大切に可愛がれと……光の神様のここまで嫌そうな顔を初めて見る。


 そんな光の神様の表情を気にもせず、プカプカとミニ創造神様が飛んでくる。


 光の神様は何かを感じたのか、飛んできたミニ創造神様を両手を揃えて迎え入れる。引き攣ってはいるが、ちゃんと笑顔なのが凄い。


 そうすると、ミニ創造神様が光の神様の両手の上に偉そうに座り込む。


 あのミニ創造神様が光の神様の賃金の化身ということか。飛び去って行ったミニ創造神様はそれぞれの神様の元に向かったんだろうな。


 ミニ創造神様の行方を目で追っていると、とある神様の前でプンスコと怒っているミニ創造神様が見えた。


 たー! たー! と声を出しているが、ちゃんとした言葉は話せないようだ。


 その神様はなぜミニ創造神様が怒っているのか分からず困惑した顔をしている。あ、怒っているミニ創造神様の姿が少し縮んだ。


 話せないならうるさく指示を出されなくて良いかと思ったが、話せないからどうして怒っているのかが分からないのか。


 細心の注意を払って観察しなければならないぶん、話せるよりも面倒な気がする。


「創造神様の化身を丁寧に迎え入れるのです!」


 光の神様が大きな声で注意を促す。なるほど、光の神様が両手の上にミニ創造神様を迎え入れたのが正解だったってことか。


 たったそれだけのことで十年分の賃金の一部が減るとか、創造神様って本気で理不尽だな。


 あれ?


「うん、光の神が正解。僕の化身なのだから、当然大切に扱うべきだよね。ん? 航君、不思議そうな顔をしているね。もしかして、自分にペナルティが無いことを疑問に思っているのかな?」


「いえ、この場に来ていない神様方の分はどうなるのかな? と思いまして、僕のペナルティまでは頭が回っていませんでした」


 でもたしかにそうだよね。結晶がどうなろうと、僕には関係ないと思う。そもそも、僕の分に割り当てられる結晶すら存在しない。


「ああ、そういうことか。無論来ていない神達にもペナルティはあるよ。ただ、神界では僕の行動が更に縛られちゃうからね。来ていない神々はここにいる神々の結晶の平均の三分の二が割り当てになるように設定している。まあ、僕の化身に敬意を払いさえすればいいのだから、それなりの結晶が分配されることになるはずだよ」


 来ていないだけで問答無用で減額されるのか。でも、創造神様の化身とやらの面倒を見なくて済むのであれば、あながち不幸とも言えない気がする。


 ついでに来ていない神様方を利用して連帯責任を押し付けているのも恐ろしい。


 賃金など要らんからミニ創造神様をぶち殺す。そんなことをしそうな神様方も、来ていない神様方の賃金が減るとなると手を出しにくくなる。それも狙っているのだろう。


「ふざけるな!」


 話を聞いていた男の神様が怒鳴り声を上げる。あ、その声に驚いたのか、ミニ創造神様が大声で泣き始めた。


 本物の創造神様がそれくらいで泣くはずないから、ミニ創造神様の設定はだいぶシビアなようだ。


 ブチ切れた神様が、必死でミニ創造神様の御機嫌を取り始める姿が憐れみを誘う。


「それで、航君のペナルティだけどね、君に一番効果があるのは光の神、美食神、森の女神だから、特別製の僕の化身の面倒をみて、その減った分を三等分にして三女神の結晶を小さくすることにしたよ」


 げ、地味に嫌なペナルティだ。僕のミスを三人の女神様におっかぶせるってことだよね。


「あの、創造神様、別のペナルティにしていただくわけにはいけませんか? 僕のミスと女神様方は関係ないですよね?」


「無理。色々考えたんだけど、僕が航君に直接ペナルティを課すのが難しくなっちゃっているんだよね。船召喚に手を加えることも航君に直接手出しをすることもできなくなっているし。そんな縛りを結ばせた航君や光の神達が悪いと思って諦めてね」


 あの縛りにそんなデメリットがあるとは。


「光の神様、申し訳ありません」


「構いませんよ。というよりも、航さんに悪いところなど一つもありません。全部創造神様が悪いのですから、気にしないでください」


 全部創造神様が悪いというのには同意見だけど、女神様方に迷惑をおかけするのは本当に心苦しい。あと、もう一つ納得がいかないことがある。


「創造神様、神様方は頑張れば残った結晶が貰えるのですよね? 僕が頑張って創造神様の化身を大切にした場合、残った分の何かしらの報酬はないのですか?」


「え?」


「ですから、残った分のご褒美が欲しいです。僕だけマイナスしかないのは、さすがに理不尽だと思います」


 創造神様が理不尽なのは理解しているが、どうにかゴネて何かしらのメリットを引き出したい。失うだけなのは辛すぎる。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
創造神本体を接待できる航が全力でミニ創造神を接待するのか? 本体嫉妬しそう
自分可愛さ故に神をも恐れぬ小市民よ
もらえるものはきっちりもらおうとするあたり流石ワタル
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