14話 パーティーの始まり
感想欄で船の食事の外部持ち出しについていくつかご指摘を頂きました。
その点をすっかり忘れていて確かにと思ったのですが、有料メニューを中心に集めたことと、外部で人々に無作為に振舞う訳ではなく、同じ船召喚の枠内での行為ということでお流しいただけましたらと思います。
ご指摘ありがとうございました。
無事に女王陛下とアダリーシア王女をお見送りし、アクアマリン王国に帰還した。そこでカミーユさんには獣人の町で仕事をしてもらい、マリーナさん達にはその護衛についてもらった。別れた僕達は創造神様を満足させるための行動に移ることにする。各船からお酒やご馳走を集め、ラウンジを改装、シャンパンタワーの建設、色々頑張った結果、今のところ創造神様はご機嫌だ。
「航君、アイスクリームを持ってきてくれたまえ。チョコとミントで頼むよ」
豪奢なクラブのキンキラな王様席で、偉そうにアイスクリームを要求する創造神様。本当に偉い神様だから問題はないのだが、なぜこの環境でいきなりアイスを要求するのかが分からない。
ただ、食べたかっただけ?
「はい、少々お待ちを」
アイスを集めたゴムボートを召喚し、手早くミントとチョコのアイスを盛りつける。
「お待たせいたしました」
「うん、ご苦労」
別にアイスを出すくらい構わないのだけど、周囲にサポラビを配置しているのだからそちらにお願いしてほしい。
「ん? 航君、ドアのところのサポラビが手を振っているよ?」
「ああ、申し訳ありません、お客様のようですね。この部屋は創造神様専用ですので、許可がない方は神々でも入れないようになっています。入室を許可なさいますか?」
「おお、良い心がけだね。ただ、僕は寛大だし、いちいち許可を求められるのも興醒めだから、入室は自由に許可するよ。でも、僕に感謝するように言っておいてね」
「は、伝えてまいります」
ラウンジの出入口に行くと、サポラビの前に光の神様が立っていた。
「すみません、お待たせいたしました」
「いえ、構いませんよ。こちらこそ創造神様をお任せしてしまい申し訳ありません」
「いえ、ですが、創造神様とお話しする時に、入室の許可についてお礼を言って頂けますと助かります」
「ふふ、航さんはとても頭が良いですね。創造神様を持ち上げて被害を軽減するのはベストな方法ですよ。他の神々もこのような手段を用いてくれれば平和なのですが、皆、真っ向から対決してしまうんですよね」
頬に手を当てて困り顔の光の神様も美しい。そして、神々に太鼓持ちの真似事は難しいだろう。
「神様は僕とは立場が違いますから。どうぞお入りください」
触りづらいところを軽く流し、光の神様を迎え入れる。また一緒にお風呂に入りたいな。今回も時間があれば温泉に誘ってみたい。時間があれば、だけど。
「ありがとうございます」
光の神様が僕とサポラビにお礼を言って中に入っていく。サポラビにまでお礼を言うところが好印象だよね。
「創造神様、入室許可をありがとうございます」
「うん、まあ感謝してくれていいよ。それで、なんの用?」
ちゃんとお礼を言う光の神様に得意満面で感謝を要求する創造神様。話す時くらいアイスを置いて話してほしい。
「いえ、航さんにご迷惑をおかけしてないかと様子を見に来ました」
光の神様、さっき自分で創造神様は持ち上げるのがベストだと自分で言っていましたよね? なぜそれができないのですか?
いや、僕のことを気にしてくださったのは凄く嬉しいんですよ?
「僕が航君に迷惑かける訳がないじゃないか。そんなことより見てよ。航君が用意してくれた部屋。輝いているよね」
創造神様は本当に機嫌が良いのか、光の神様の言葉をスルーして部屋の自慢をする。
「そうですね、少し派手に思えますが、航さんの真心が籠った素敵なお部屋ですね」
「うん、しかも、面白いイベントも用意してくれているんだよ。あのグラス、見てよ」
創造神様がシャンパンタワーを指す。
さっきイベントについて詳細を語り、創造神様は大喜びで受け入れてくれた。
「あら、綺麗ですね。どんなイベントなんですか?」
「ふふー、本番まで内緒だよ。今日の夜やるから、みんなを集めてね」
「分かりました」
創造神様が凄くイラつく顔をしたのだけど、光の神様は綺麗にスルーしたな。今回は創造神様の傍で太鼓を叩きまくると決意していた僕でもイラっとしたのに……。
「では、そろそろ失礼しますね。あ、航さん、そういえば女神達がスタッフ任命をお願いしたいと言っていましたよ」
「あ、そうでした。申し訳ありません創造神様、少し席を外しても構いませんか?」
少し太鼓を叩くのに夢中になり過ぎていた。女神様をお待たせしてしまうなんて痛恨のミスだ。
「ん? まあ、寛大な僕は許してあげるよ。でも、すぐ戻ってくれるように。あ、行く前にアイスのお代わりを用意しておいて。今度はストロベリーとバニラね」
「分かりました」
神様ならアイスを食べ過ぎてもお腹を壊さないよね?
***
「じゃあいくよー」
超ご機嫌な創造神様がシャンパンのマグナムボトルを持って椅子の上に立つ。
それに対してパチパチパチとおざなりな拍手がラウンジに広がる。
そう、シャンパンタワーイベントの開催だ。
光の神様が頑張って神々を集めたが、おそらく参加者の三分の一も集まっていない。
これが創造神様の人望というか神望なのだろう。でも、創造神様専用のラウンジはそれほど大きくないので沢山の神々が集まっているように見える。
ぶっちゃけると、ここに集まってくれている神々は穏健派で、創造神様にガチで敵対的な神々は、創造神様のイベントなど虫唾が走ると躊躇わずに拒否していた。
でも、その方が安心できる。
だって、穏健派だからお願いしなくても拍手くらいしてくれる慈悲があるもん。
ただ、知り合いの神様がほとんど来ていないのが微妙な心持になる。美食神様と森の女神様は来てくれているんだけどね。
「「「おーー」」」
創造神様がシャンパンを傾けると、頂上のグラスからシャンパンが溢れ下のグラスに伝わっていく。
ライトアップしているからかなり美しい光景で、観客の神々から声が漏れる。
その声に創造神様も笑顔になる。
「あ、航君、なくなっちゃったよ」
「あ、すみませんすぐに持っていきます」
そうなんだよね、シャンパンタワー。僕のイメージでは一本で最後まで注ぎ切れるイメージだったのだけど、動画を見たら何本もシャンパンを開けていた。
ホストクラブとかでシャンパンタワーをやっている映像を見たことがあるが、あれ、何本のシャンパンと、どれくらいの料金が掛かっていたのかな? 想像するだけで懐が寒くなりそうだ。
まあ、今の僕なら余裕だけどね。お金だけはあるから……お金だけは……。
「では、創造神たる僕自ら、君達神々にグラスを下賜してあげる。みんな、感謝して受け取るように」
シャンパンタワーの頂上のグラスをクイッと空にした創造神様が、偉そうに神々に告げる。
一応、拍手で応える穏健派の神々。本当に助かる。
神々が行儀よく創造神様の前に並び、創造神様からグラスを受け取り飲み干していく。
創造神様も神々も迫力があるから、なんか荘厳な儀式をしているように見える。実際には創造神様の自己満足なイベントなんだけどね。
「んー、良い気分ではあるけど、今日はそろそろお開きにしようかな。航君、部屋に案内して」
騒げるだけ騒いだ創造神様が突然の終了宣言。
夜通し付き合う覚悟をしていたけど、業界用語でいうテッペンを越える前に終わることになった。
ブラックなお仕事で疲れているのかもしれない。明日は昼過ぎまで寝ていてもらっても全然構わないな。
「分かりました。一番いい部屋にご案内します」
「ん」
当然だと頷く創造神様をシャトー号で一番豪華な部屋に案内する。
「創造神様、おやすみなさいませ」
「ん、おやすみー。楽しかったよー」
気軽な感じで部屋に入っていく創造神様。深々と頭を下げて扉が閉まるまで待つ。
扉の締まる音を聞き、少し離れた場所に移動して大きく息を吐く。なんとか初日は無事に乗り切った。このままの調子でいけば、無事に終わりそうだ。
背筋を伸ばし固まった体を解しながら歩く。まだ楽しんでいる神々の様子を見てから僕も休ませてもらおうかな。
できれば、良い夢が見られそうだから、寝る前に光の神様、美食神様、森の女神様の誰かに会いたい。
……ふむ、光の神様の行動は読みづらい。森の女神様は植物がある静かな場所に居らっしゃることが多いが、観賞植物などにも興味を持って移動されるから、こちらも読みづらい。
よし、美食神様に会いに行こう。
今日の美食神様は鉄板焼き屋にスタッフ任命しているから分かりやすい。まあ、鉄板焼きが目的というよりかは、臨時で鉄板焼き屋に追加したもんじゃ焼きに興味津々だからだけどね。
「美食神様、もんじゃ焼きはどうですか?」
お店に到着すると、美食神様が楽しそうに料理をしていた。
「ああ、航。お疲れだったわね。もんじゃ焼きはなかなか面白いけど、これは作る楽しみも料理の内ね」
たしかにもんじゃ焼きは作るのも楽しいよね。
「では、美食神様の好みに合いませんでしたか?」
「そんなことないわ。作って楽しみ食べる者達のことを考え、粉の配合や食材を考えるのも凄く楽しいわ。カーラがお祈りで、もんじゃ楽しいし美味しいって言っていたけど、そのとおりね」
カーラさんのお祈りと言う名の食レポはまだ続いていたのか。まあ、カーラさんも美食神様も楽しそうだし良いよね。
「それなら良かったです。あ、色々と料理道具を購入したので、今度余裕がある時に見てくださいね」
本来なら今から料理道具を持参したいところなのだが、明日も太鼓を叩きまくらないといけないから断腸の思いで休むことにする。
「あら、それは楽しみね。何を購入したのかしら?」
「それは見てからのお楽しみですね」
オリハルコンの包丁は言葉だけで伝えるには躊躇う。
実物があれば呆れながらもオリハルコンの魅力でなんとかなるが、言葉だけだと呆れしか浮かばないからね。
アンコウの奉納も今回は延期だな。幸い、ゴムボートに収納しているから鮮度は保てる。
「うふふ、そういうことなら期待しておくわね」
「はい、ご期待ください」
少なくとも感情を動かすことはできると思います。
美食神様と別れ、自分の部屋に戻る。今日はいい夢が見られそうだ。
***
「ふはははは、僕を最低な目に遭わせた愚か者どもよ、パーティーの始まりだ! 僕に逆らったことを後悔するがいい!」
神々の招待二日目、僕の寝覚めは最悪の物となった。
読んでいただきありがとうございます。