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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
二十二章
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6話 人魚の国の市場

 人魚の国のお城に入場し、ラッキースケベな神様は死んだが、無事に女王陛下主催の晩餐会を終えることができた。まあ、晩餐会と言っても魔法少女の話しかしていなかった気がするが、まあ、貿易品のアイデアを思いついたから、晩餐会も悪くなかった……はず。




「おはようございます、ご主人様」


 フェリシアの声で目が覚める。


 ……うん? なんか凄く違和感が……尾ビレ! ああ、そうか、海の中で寝たんだったな。


「フェリシア、おはよう。それで、イネスは?」


 フェリシアが無言で部屋の隅を指でさす。


 イネス、壁際で寝ているじゃん。昨晩の自信はなんだったんだ?


「そういえばリムとペントは?」


 フェリシアが人魚用の椅子を指でさす。はわわ、可愛い。


 ペントがトグロを巻いてその頂上にリムが寝ていて、そこにペントがそっと顔を寄せている。もう、可愛すぎるよ。なにより、二人が仲良くなったこの光景が尊い。まあ、仲良くなったのはずいぶん前なんだけどね。


 二人は可愛らしいから朝食までソッとしておこう。イネスは起こす。


「ううん……あら、ご主人様、朝からなの?」


 なにが朝からなの? だ、色っぽくて朝から悶々とさせないでほしい。


「イネス、周りをよく見て」


「周り? ……壁ね」


「そう、壁だね」


「……ご主人様、おはよう」


 イネスが無かったことにした。その面の皮の厚さが少し羨ましい。寝ぼけ眼のイネスを見かねたのか、フェリシアがイネスの面倒をみはじめる。凄く助かる。


 さて、朝食だが、たしか部屋に運んできてくれるんだったな、女王陛下は朝食も共にしたいのだがと謝られてしまったが、落ち着けないので朝食は別々の方が助かる。




 それぞれの部屋で朝食を済ませ、みんなと合流する。


「ワタル、今日はどうするの? 街に出る?」


 マリーナさんが今日の予定を尋ねてくる。


「街に出る前にちょっと打ち合わせをしておきたいんです。少し待ってください」


 活気がある人魚の街は僕も気になるので観光に出るのは確定だが、昨晩思いついたアイデアをカミーユさんと相談しておきたい。そう、トマトについてだ。



「なるほど、人魚の国に新しい味覚を、そしてそれを獣人の街の特産品にする、ですか……」


 カミーユさんが難しい顔をしている。


「ワタルさん、それはすぐにという訳ではありませんよね?」


「はい、今後、獣人の街がある程度整ってからと思っています。さすがに今の状況でいきなりヤレとは言いませんよ」


「申し訳ありません。偉い人の中には、自分の思いつきを直ぐに実現したがる方も多いので、少し警戒してしまいました」


 なるほど、難しい顔をしていると思ったが、警戒の表情だったのか。貴族とか無茶振りしそうなイメージがあるから、その警戒も分からなくはないが……。 


「カミーユさん、さすがにそこら辺のワガママ貴族と同一視されるのは嫌なんですが?」


 元々事なかれ主義な僕だけど、それでもテンプレなワガママ貴族と同一視されるのは拒否したい。


「すみません。でも、そんなワガママ貴族でさえ、思い付きで巨大な街を造ろうとはしないんですよ?」


 グウの音も出せない反論が飛んできた。でも、僕の場合は実現可能だから、ワガママではないと主張したい。


 まあ、自分で手に負えなくなってカミーユさん達に泣きついちゃったから、主張はしないけどね。


「それで、トマトの件はどう思いますか?」


「晩餐と朝食を頂きましたが、確かに単調に感じはしましたね。ただ、スープ状の物を固める料理は、かなりの可能性を感じます」


「トマト以外にも、前にワタルさんに教えていただいた鶏ガラスープも人魚の方達が喜ぶんじゃないですか?」


 鶏ガラスープのジュレか……なんかそんな料理を聞いたことがあるな。


 そして、料理の話題だからか、クラレッタさんが話し合いに参加してきた。豪華客船の料理本で勉強している姿をよく見るし、本当に料理が好きなんだよね。


 それにしても、鶏ガラか。海に住む人魚さんには目新しいかもしれないが、鶏ガラの顆粒出汁は流石に用意するのが難しい。


 僕が直接卸すでもないかぎり、仕入れは陸になる。でも、養鶏ができたら獣人達の食生活が豊かになるよね。


 問題は餌と水だけど、水は水路で対応するとして餌は……荒れ地で育ちそうな食物はいくつか思いつくが、鶏に食べさせるよりも獣人の食料の方が優先な気がする。


 まあ、それを言えばトマトも食料なんだけど、でも、鶏は欲しいよね。お肉と卵が確保できるのはかなり大きい。


 トウモロコシとか稗や粟なら食料にも鶏のエサにもなるけど、稗は確か水場に生えるんだったはずだし、トウモロコシも水が大量に必要だったはず。


「なるほど、鶏ガラスープは私も頂きましたが、美味しかったですね。スープを固形状に固める物も人魚の国から仕入れ、トマトスープや鶏ガラスープを人魚に販売する形にすれば……いえ、トマトは時間を掛ければなんとかなりますが鶏となると……」


「カミーユさん、粟という植物を知っていますか?」 


 粟なら暑くて乾燥した場所が適地なはずだから、存在していれば獣人の街付近で育てられる。問題は粟が存在するかどうかだが、言葉が通じれば存在してくれるはず。


「粟ですか? 粟はあまり好まれませんが貧しい方達の食料に……なるほど、粟は獣人の街に合う食物かもしれませんね。余裕ができれば鶏のエサに転用も可能です。これも今すぐ取り掛かれる話ではありませんが、今後の計画には十分組み込めるでしょう」


 粟が存在したのは朗報だな。それにしても、やっぱり今すぐは無理か。まあ、畑どころか住居すら仮の状態だから、そこが落ち着くまでは難しいだろう。


 でも、いくつか獣人の街を維持していけるアイデアが思いついたのは大きい。目先を変えるのって大切だね。


「では、余裕ができてからで構いませんので、せき……いえ、その方向で話を進めてください」


「分かりました」


 あやうく責任者と相談してとか言いそうになった。言ったら絶対に責任者は僕だってツッコミを入れられたな。


 うーん、トヨウミ商会は責任者というよりも、行政のフォロー役のつもりだし、ウィリアムさん達は建築家だ。


 僕はできるだけ責任も仕事も負いたくないから、そろそろ獣人の代表くらい決めてもらうか。


 あの人数だし、さすがにまとめ役くらい居るだろう。


 さて、難しい話も終わったし、そろそろ人魚の街の観光と洒落込むか。




 ***




 護衛の兵士が二名ついた。高貴なお方達も一緒に来ようとしていたらしいが、さすがにお仕事とのことでかなり安心した。


 護衛の兵士は、別に僕達に危険があるとかではなく、案内や人魚に囲まれた時に対処してくれるためらしい。まるでアイドルみたいだね。


「ワタル様、まずはどちらに向かわれますか?」


 人魚の国の観光スポットは知らないが、カミーユさんを案内するとすれば一択だろう。


「市場へお願いします」


 護衛の人魚さん達が頷き、先導するように泳ぎだす。本当に人魚は優雅に泳ぐよね。惜しむらくは護衛の人魚が男性なことだ。


 ……凛々しい系の美女兵士人魚さんに優雅に先導されたかった。


 くだらないことを考えながらも、戸惑うカミーユさんを促してついていく。


「街の中を泳いで移動するなんて不思議な感覚ですね。まあ、お城の中で泳いだり、水の中で寝たりしているので今更ですが……」


 カミーユさんも寝る場所に水中を選択したのか。分かっていたことだけど、好奇心が強いよね。


「カミーユ、あんたちゃんとベッドの上で起きられた?」


「? はい、少し浮かんでいましたが、ベッドの上でしたね?」


「……そう」


 なにを聞かれているのか疑問に思いつつも、イネスの質問に素直に答えるカミーユさん。残念そうな顔をするイネス。寝相が悪い仲間がみつからなくて悲しそうだ。


 でもそうか……カミーユさんは寝相が良いタイプなんだね。何に役に立つことかは分からないが、しっかり覚えておこうと思う。


 お、市場が見えてきた。 


「……ふわー」


 水中であることを生かした独特な市場にカミーユさんから可愛らしい声が漏れる。


 僕達はお祝いのお祭りで知っていたが、お店や屋台が水中に浮かんで連なっている光景には驚くのも当然だ。


 その姿を僕達は先達者として優しく見守る。まあ、カーラさんは食べ物屋台に、クラレッタさんは食材のお店に意識が引っ張られているのが丸分かりだけど。


 それにしても、生きている魚が普通に籠に入れられて売られている光景は違和感があるよね。水圧とか……。


 前方のお店なんか、魚に紐っぽい海藻を結び付けて泳がせながら売っているぞ。


 そんな未知の光景に興味津々な様子のカミーユさんは、僕達を引き連れ一軒一軒念入りに商品を確認し始める。


 貿易品や仲良くなったアダリーシア王女へのアドバイスの為にも、こういった市場調査は重要だと真剣に吟味しているのだろう。


 こういう姿を見ると、カミーユさんをスカウトした自分をものすごく褒めたくなる。


 商売で難しいところはカミーユさんに任せておけば、最低でも悪くなることはないと自信をもって丸投げできるところが特に素晴らしいと思う。


 行きかう人魚を観察しながら市場の中を泳ぐ。


 僕達も神器のお陰でスムーズに泳げていると思うのだが、やはり人魚と比べるとどこかぎこちなさがある。


 まあそんな中でもシーサーペントであるペントは人魚にも負けない泳ぎを見せていて、リムは……なんか弾丸みたいな速度で爆走……いや、爆泳している。


 あのぷにぷにで丸っこいフォルムなのに、なんであんな速度が出るのかが不思議だ。水の抵抗をレベルでねじ伏せているのだろうか? 周囲の人魚さん達ですらビックリしている。


 お、海老だ。天ぷらにすると丁度良さげなクルマエビサイズ、あ、屋形船で天ぷら祭りをするのも楽しそうだな。


 買った屋形船はもんじゃ焼きが売りだけど、天ぷらの設備も揃っていた。そこに人魚の国で手に入れた新鮮そのものの魚介を投入すれば……買いだな。


 天ぷら種になりそうな魚介は買えるだけ買いしめよう。


 エビ天、イカ天、とり天、白身魚はキスが好きだがハゼも捨てがたい。野菜はカボチャやレンコン、タマネギ、ああ、紅ショウガもあったな。お腹が空いてきた。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何百年か後にプリンセストヨウミって映画が出来そう。 昔繁栄したトヨウミ帝国の首都だった設定で仲間由紀恵が主演打な。
[良い点] 人魚側は海産物やサンゴ 海のなかでしか取れない鉱物とか売れるね
[気になる点] 逆に 人魚の国は何を売るつもりなんだろう? 物に依ってはそれに手を加えて「人魚の国の何々」と特産品として売れるのでは? 難破船から集めた金貨とかじゃ駄目だけど。
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