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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
二十一章
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18話 特に他に意味はない

 カミーユさんの癒し計画をパーフェクトに遂行し、無事に南方都市での交渉を終えることができた。僕はキャンプをしたり、ホットサンドメーカーを作ったり、オリハルコンの包丁を作ったりしていただけなんだけど……癒しは頑張ったからオールOKということにしておきたい。




「ワタルさん、ちょっとこの書類を確認していただけますか?」


「は、はい」


「あ、ここはこうしておけば、最初は大変ですが後で楽に―――」


「た、助かります」


「ワタルさん、このクリス号の商品を限定商品としてキャッスル号での販売を―――」


「え、ちょ……」


「ワタルさん、この料理、とても美味しいのですが、キャッスル号で再現の可能性を―――」


「う、うん……」


「次の目的地であるアクアマリン王国の港はワタルさんの影響力が―――」


「あわわ……」


 南東の島……少し不便だけど、みんなで和気あいあいと楽しんでいたあの頃が酷く懐かしい。


 最後にカミーユさんを含めて南東の島でキャンプという名のバカンスを楽しんだ。


 ちょっと不慣れなカミーユさんをフォローしながら頼りになる男を演出し、イネスもオリハルコンの剣をしっかり活用できてご満悦。


 南東の島の依頼もしっかり終わらせて、僕達は大満足で南方都市を出港した。


 次の目的地であるアクアマリン王国まではのんびりとした船旅の予定……だったのだけど、ここで一つ計算外な出来事が……カミーユさん、超絶好調。


 疲れているカミーユさんを思っての癒し計画だが、その癒しがカミーユさんに活力をもたらし企業戦士が生まれてしまう。


 24時間戦えそうなレベルの……。


「本番前に疲れてしまっては意味がないから、どうにかこうにか働く時間を午前中だけに制限したけど気が休まらないのはなんでだろう?」


 午後からは働きませんと断言したから、一般的な社会人からすると殺意を覚えるほどホワイトな環境なはずなんだけどね。


「カミーユがその午前中だけで凄まじい仕事を生み出すからじゃない?」


「ああ、なるほど、イネスの言うとおりかも。文句を言いたくなるけど、その仕事が基本的に僕達の利益を第一にしているから、説明されると逃れることができなくなるんだよね」


 時間を制限したら密度で対抗された感じか。カミーユさん、マジで優秀。


 まあ、その沢山の提案に紛れるようにキャッスル号にも美味しい仕事が分配されているのだけど、最終的には僕の利益になるように調整されているので否定ができない。


 というか、僕達がカミーユさんを癒したことで、それを恩に感じてくれたカミーユさんが働くことで恩を返そうと頑張ってくれている感じなんだよね。


 カミーユさんの善意が凄く伝わってくるから、迷惑だなんて口が裂けても言えない。……こういう場合も因果応報と言うのだろうか?


「そうですね、アクアマリン王国でのご主人様の書類仕事を、カミーユさんがキャッスル号として国と交渉してまとめる計画は、ご主人様にとって間違いなく助けになる計画ですね」 


 あまり仕事関連については口を挟まないフェリシアも同意するように会話に参加する。


 そう、そうなのだ。


 あの地獄のような書類仕事、その具体的な対策をカミーユさんが打ち出してくれた。


 これまでが個人事業のような形態だったのを、キャッスル号が会社兼後ろ盾となり繁雑な業務の代行を担ってくれるという素晴らしい提案。


 バカンスの時間に多少の仕事を持ち込まれることになろうともその誘惑に堪えられる訳もなく、犬のようにシッポを振って委任状や商売の神様との契約に関する書類、アクアマリン王国の人脈への紹介状等を用意した。


 まあ紹介状なんて書いたことすらなかったし、僕が見知っているお偉いさんのフルネームどころか名前すらあやふやで四苦八苦したうえに、結局思い出せず、思い出せなかった人は直接僕が紹介する形をとることになってしまったけど……。


 貴族のフルネームとか、最初から覚える気すら無かったからしょうがないよね。会議とかも早く帰りたいと思っていたことしか思い出せなかったし……。


 向こうに到着してもまだまだ大変なのは憂鬱だけど、今回を乗り切れば次回からキャッスル号が主体となってくれると思えばやる気も出てくる。


「あ、ワタルさん、こちらでしたか」


「仕事なら明日に回してください。今日はもう自由時間です」


 突然現れたカミーユさんに警戒態勢をとる。やる気が満ちていようとも、自由時間は自由時間。


 僕の恵まれた環境を維持するためには、NOと言える強い心が必要なのです。


「うふふ、お仕事の話ではありませんよ。カフェでお茶でもと誘いにきたんです」


 普通の僕ならカミーユさんのような美女にお茶に誘われたら一瞬で飛びつくのだけど、僕は学習できる日本人。甘い罠には早々引っかからない。


 お茶会がいつの間にか会議に変わるんだ。もう何回も体験したから知ってる。


「あー、今日はもう何もせずにゆっくりしたい気分なので、お茶はまたの―――」


「そうなのですか? 今日はプールを体験したかったので、プールサイドのカフェでのんびりお茶をしたかったのですが残念です」


「……さあ、お茶にしましょう。カミーユさんはどんな水着を? よろしければ僕に水着をプレゼントさせていただけませんか?」


 プールと聞いたら話は別だ。それがたとえ仕事に繋がる道であろうとも、カミーユさんの水着姿が見られるのであればおつりがくる。


「あら? よろしいのですか?」


「はい。今日の僕の時間は全てカミーユさんの為にあります。何なりと申し付けください」


 バリバリ働くよ。お財布の紐もゆるゆるだよ。




 ***




 滅茶苦茶仕事の話をした。


 でも……カミーユさんが自分から布地少なめの水着を選んでくれたから……仕事の時間中、とても幸せだった。




 ***




 落ち着かない船旅を終えてようやくアクアマリン王国の近くまで来た。さて、ルト号に乗り換えるか。


 なんというかカミーユさんに振り回された航海だった。


 でも、カミーユさんと凄く仲良くなれたし、カミーユさんが小悪魔的な性格があるところも知れた。


 正直、美女に翻弄される毎日というのは悪くないと思えた。


 まあ、これまでもイネスとかカーラさんとかリムに地味に振り回されてはいたのだけど、カミーユさんは大人な感じがとても素敵だった。


 小悪魔なカミーユさんはイルマさんに近い匂いがしてゾクゾクする。


 ……駄目だ。長い航海で変な性癖が目覚めそうになっている気がする。


「ご主人様、出発しないの?」


「……イネス、なんかね、ついにアクアマリン王国に到着すると思ったらね、なんだか震えるんだ」


 ルト号に乗り換え、もうすぐ到着すると思ったら体が震えだした。楽しかった航海やちょっとエッチなカミーユさんを思い出してみても震えが治まらない。


「ああ……ご主人様、今度は大丈夫よ、カミーユが居るでしょ」


「ん? どういうこと?」


 イネスの目がとても優しくなった。


 …………あ、これってもしかしてトラウマ? 前回の仕事が辛すぎたから体が拒否しているってこと?


 なるほど、とても納得だ。


 あの時、奇行に走るほど僕はおかしくなっていた。異世界に落ちてきて最初は苦労したけど、船召喚が力を発揮するにしたがってぬるま湯のような優しさに包まれていた。


 そんな優しさに包まれていた僕が、いきなり熱湯に叩き込まれたのだから体が反応してしまうのも当然だ。ガチで辛かったもん。


 でも、理由が分かればどうにかなる……はず?


 深呼吸をしながら目を閉じ、今後は仕事をカミーユさんやキャッスル号に丸投げできることを強く思い浮かべる。


 深刻なトラウマを抱えていた訳ではなかったようで、それだけで体の震えが徐々に収まっていくのが感じられる。


 これはアレだな、テストの前にお腹が痛くなるレベルのトラウマというか条件反射だな。理由が分かれば対処できる程度だし、それほど問題はないだろう。


 まあ、慈善事業費とはいえ大金を出して善行に近い行為を行っているのに、軽度とはいえ精神に傷を負わされているのは凄く理不尽に思うけど、獣人が集まり過ぎて洒落になっていない状態だったから理解を示すべきだろう。


 ……たぶん。


 心の底では納得していないが、僕も二十を超える大人だからそれくらいは呑み込む。


 カミーユさん達に丸投げできることが決まっていなかったら、トラウマを理由に逃げ出していたと思うけど……。


「じゃあ出発します」


 落ち着いたので合図を出して船を走らせる。 


 アクアマリン王国の僕達が作っている港が見えてきた。先程とは違う意味で体が震えそうだ。


「すごいことになってる」


 マリーナさんの呟きが事態を端的に表していると思う。


 そう、凄いことになっている。


 遠目だからか、建築現場で人が蟻のようにわらわらと蠢いているように見える。


 たぶん前回僕がサインしまくったから、これでもかと仕事を用意して港の建設に投入したんだろうな。


 追加資金を用意することも伝えておいたし、ウィリアムさんに更なる裁量権も与えておいた。集まった人材をフル活用しているのだろう。


「……カミーユさん、港の視察はどうします?」


 なんか近寄りたくない雰囲気な気がする。ぶっちゃけると、大量の筋肉ムキムキの獣人の男達が汗水たらして頑張っている光景が目に浮かぶ。


 頑張っている人を貶めるような考えは良くないと理解しているが、理解しているからと言ってそういう場所に男として近づきたいかどうかは話が別だ。


 とても暑苦しそう。


「無論確認します。直接停泊できるかは分かりませんが、キャッスル号と関りが深くなるのは間違いない港ですから」


 ですよね。


「……了解です」


 淡い期待はカミーユさんの仕事に対する情熱の前では儚く吹き飛ばされ、諦めて港に向かうことが決まる。


 近づくと港の建設が順調なのが伝わってくる。前回は資材を運ぶ船を停泊させるだけでギリギリだった係留場が大きく広がり、スペースにかなり余裕があるのが分かる。


 ルト号を停泊させておく余裕もありそうだけど、まあ、視察が終わったら一度出港してコッソリ上陸する方が無難だろう。船の召喚枠は空けておく方が便利なのは間違いない。


 係留場にルト号を泊め、上陸の準備をする。


 一応濃いめのサングラスを持っていくか。


 濃いめのサングラスを用意するのは港の日差しが強いから目を保護するためであって、特に他に意味はない。視界の暴力を恐れて、それを薄めるためだなんとことも決してない。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  ワタルの立像建立で頑張ってるんじゃ?(笑) [一言]  ワタルが頼られる場面は基本的に輸送と料理くらいしかないから、無人島での演出成功は気のせい。
[良い点] ある意味イルマ以来のちゃんと魅力を理解したうえでワタルと仲良くしてくれる人ですねカミーユさん しかも苦手な書類関係みてくれるとか有能では?
[一言] あの書類をカミーユさんに任せるのは・・・ なんとでも処理してくれそうだけど 実物見る前だと鬼畜の所業になりそう 裁量権持たせた専属を誰か置いていくのがいいかも? 現地の誰か知ってる有能な人…
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