17話 癒し完了
お疲れのカミーユさん癒し計画は順調に進み、エステにお買い物にお洒落な食事、イルミネイトショーなど盛りだくさんでおもてなしをした。それには真面目なカミーユさんもニッコリで、クリス号の視察ということは忘れないまでもしっかり楽しんでくれている様子だ。企画してよかった。
カミーユ視点
「そろそろ夕食と考えているのですが、カミーユさんは大丈夫ですか?」
サポラビちゃん達の可愛らしいショーを見た後、少し体を動かそうということでパットゴルフをした。
激しい運動ではないのだが、遅めの昼食を軽く済ませていたので十分にお腹は空いている。
「はい、大丈夫です」
この船のちゃんとした食事はどうなのでしょう。お昼の軽食から考えても不味いということはないので、かなり期待してしまう。
ワタルさん達に案内されて到着したのは、あら、あの文字は見たことがあるわね。
期待していたので少し残念だわ。キャッスル号にも和食はあるし、美味しくはあるのだけど私は他の料理の方が好きだ。天ぷらはかなり好きなのだけど……。
少し調子に乗っていたのかもしれません。
「……ワタルさん、同じ和食なのにどうしてこれほど質が違うのでしょう? いえ、別にキャッスル号の和食が駄目だという訳ではないのですが、別の国の料理にすら思えます」
派手さはキャッスル号の和食の方が上なのだけど、味はこちらの方が上なのは間違いないわ。
「えーっと、たぶんなのですが……」
なるほど、和食というジャンルの中で一流のシェフが監修したのがこのお店ということですか。
なんちゃって和食とは違うとか、よく分からないことも説明されましたが、料理人の質が重要なのは理解できます。
あと、ターゲットが違うというのも分かりました。いえ、船自体のコンセプトの違いは理解していたのだけど、それが食事にも影響を及ぼすことには少し驚きよね。
王侯貴族や富裕層が見栄で料理にお金を掛けることは多いのだけど、味よりもどれだけ希少な物を集めたかが重要視されるわ。ワタルさんの船は異常ね。
まあ、キャッスル号は家族向けで楽しさや派手さに力を入れていて、こちらの船は大人向けだと理解しておけば間違いはないでしょう。
そう考えると、船の雰囲気を考えるならキャッスル号はあちらの和食の方が向いているのよね。
私の口にはこちらの和食の方が合ったので少し残念だけど、船の規模と施設の充実具合で考えるとキャッスル号の方が稼ぎやすいので贅沢は言えないわ。
……あん肝のパテという料理、とても美味しかった。船を離れる時、お土産として持ち帰れないかワタルさんに交渉してみましょう。
「ご馳走様でした。ワタルさん、とても美味しかったです」
デザートまでしっかり堪能してしまったわ。チョコレートのスフレケーキは最高。こちらも持ち帰り候補ね。
「喜んでいただけたなら良かったです」
私の上機嫌を察したのか、ワタルさんが笑顔になる。こういう他人の喜びを素直に共感してくれるところはポイントが高いわ。
商売の世界に居ると笑顔の裏を警戒するから、ワタルさんのような存在は結構貴重なの。
マウロさんやドナテッラも大切な仲間ではあるのだけど、しっかり自分の利益を追求するタイプだからなかなか油断できないのよ。
ベラさんやフローラも意外としたたかだし、癒しはサポラビちゃんと孤児院の子供達が主体になってしまう。
地元であれば友人達に愚痴をこぼせるのだけど、キャッスル号で働いているとなかなか会いに行くことが難しい。
……そうね、ワタルさんが働き過ぎを心配しているみたいだし、南方都市に戻ったら少し休暇を貰って友人に会いに行きましょう。
ギルマスに紹介された鍛冶師に仕事を頼んでいるそうなので、それくらいの余裕はあるはず。
「カミーユさん、これからどうします? 部屋で休んでも良いですし、ゆっくりお酒を呑むことも可能です」
「そうですね、お酒も気になりますが、酔うとせっかくのお部屋の居心地を確認できないですし、少し疲れもあるので今日は部屋に戻ります。お酒は明日お願いしても良いですか?」
「分かりました。では、今日はもうお開きにしましょう」
ワタルさんがそういうタイプではないということを理解していても、簡単にお開きになることに少し拍子抜けする。
相手に気を遣う風でありながらも商売相手だとここからが長いのが普通だから、自分の魅力を疑いそうになるわね。
あの手この手で私を求めてくる男達を心底嫌悪しているのだけど、これはこれで微妙だわ。
ワタルさんが私に好意を持っているのは認識しているのだけど……まあ、ワタルさんは女性に囲まれているから、がっつく必要はないのもあるのよね。
だからといって納得できないというのが女心の複雑なところ、飲む機会を用意してくれるようだし、私の魅力を分からせるのもありかしら?
少し物騒なことを考えながら、ワタルさん達にエスコートされて部屋に戻る。
ソファーに深く座りサポラビちゃんに紅茶をお願いする。私には立派過ぎる気もするけど、家具も一流で居心地のいい部屋。
疲れているのは確かだけど直ぐに寝てしまうのはもったいないわね。シャワーを浴びてルームサービスで少し呑むことにしましょう。
***
なんか凄く良かった。
カミーユさんを癒す目的で招待してから三日間、その間、僕達はできる限りおもてなしをしたのだけど、その気持ちが伝わったのか招待前と比べてかなり仲が深まった。
というか一緒にお酒飲んで騒いで凄く楽しかった。
あと、カミーユさんの色気にクラクラきた。カミーユさん、お酒を呑むと凄く色っぽくなる。
距離が近くてめちゃくちゃドキドキして、思わず告白しそうになった。まあ、間近でカミーユさんの顔面を見て、あまりのレベルの違いで正気に戻ったけど。
顔面偏差値が違い過ぎると、夢を見ることすら難しい。
でもまあカミーユさんもしっかり癒されたようで、顔色も格段に良くなり気力も充実している様子なので、今回の作戦は大成功だろう。
その三日間でレベル上げも行ったので体力も増えたし、次のアクアマリン王国でのお仕事もたぶん大丈夫なはずだ。
その上、招待が終わってからカミーユさんは南方都市の友人に会いに行き、そこでも楽しい時間を過ごしたようで更に輝きを増した。
「おい、お前、聞いてんのか? 舐めてんじゃねえぞ!」
あ、いかん、考え事をしていたのが、ガラの悪い鍛冶師に見抜かれてしまったようだ。
「すみません、武器には疎くて。手入れに関してはイネスとフェリシアに頼みますので彼女達に教えてあげてください」
「チッ、自分の身を守る物を他人任せにすんなよクソが」
ストレートに暴言を吐かれたが、正論なのでグウの音もでない。
でも、言い訳をさせてもらえるなら、包丁の手入れすらしたことがないのに、オリハルコンの短剣を僕がどうこうできるとは思えない。
「でも、包丁については水洗いと拭き取りだけでしたよね?」
それくらいなら僕にもできるが、包丁から短剣に変わっただけで手入れに関する注意が増えることに少し納得がいかない。
「バカか? 据え物を切るのと、生物を切るのが同じはずがねえだろ」
それもそうなのか? まあ、僕の場合は短剣を使うことなんてないから、手入れの機会も少ない。大切にはするが、整備はイネスとフェリシアに任せる方針でいこう。
「そもそも、オリハルコンの短剣を手に入れて、なんで包丁の時よりも反応が薄いんだよ。お前、頭くるってるよ。死ねよ」
包丁の方が断然嬉しかったからだと告げたら、ガチギレされるだろうな。
「ねえ、ご主人様、試し切りに行きたいわ」
キレている鍛冶師を無視してイネスが話しかけてくる。心臓がとても強い。
あと、オリハルコンの剣を手にして上機嫌なのか、笑顔が驚くほど輝いている。
「試し切りって言われても……どうするの?」
海の魔物は基本的に遠距離で始末している。わざわざ接近して戦うつもりなの?
「最後にもう一度だけ南東の島の依頼を受けましょうよ」
あー、マリーナさん達と同行して剣の使い心地を確かめたいのか。
「でも、アクアマリン王国に出発する予定なんだけど?」
さすがにイネスの試し切りの為に出発を延期するのは違うと思う。
「別に数日遅くなっても変わらないでしょ。それに今回はカミーユも仕事が終わっているから、一緒にキャンプができるわよ? ねえ、カミーユ、あなたは南東の島に興味ないの? マリーナ達も構わないわよね?」
あ、イネスが女性陣を巻き込んだ。
「え? ああ、そうですね……南東の島には行ったことがないので興味はありますが……」
急に話を振られたカミーユさんが困惑しながらも興味を示す。
「私は別に構わないわよ」
「ホットサンド食べる」
「私もあの島は好きですから問題ありません」
マリーナさん、カーラさん、クラレッタさんも問題はないようだ。最後の一人であるフェリシアに顔を向けると、ニコリと微笑まれた。問題ないらしい。
「あー、分かりました。ではみんなで南東の島の依頼を熟してからアクアマリン王国に出発しましょうか」
ぶっちゃけ、仲良くなったカミーユさんとキャンプという楽し気なイベントは僕としても心くすぐられる。イネスって自分の要求を通すのがとても上手だよね。
「お、クソ共、俺の店で好き勝手話してんじゃねえよ。用がないなら消えろ、クソが」
女性陣の返事が来る前にガラの悪い鍛冶師にキレられた。とりあえず依頼を受けに行くか。
僕達は信用があるし、自前の和船もあるのだから間違いなく依頼は受けることができるだろう。
***
カミーユさんを含めた南東の島でのキャンプ、とても楽しかったです。
読んでいただきありがとうございます。