12話 大量の胡椒と捌けない胡椒?
ヨーテボリの港にルト号で入港する。入港料1日3銀貨、高いよね、南方都市なら1ヶ月借りられるよ。
でも荷運びの為に何度も往復するって言ったら、1日3銀貨なので1日内の出入りは自由らしい。良かった毎回3銀貨とか洒落になんないよ。
商業ギルドに入るとメアさんが出迎えてくれた。
「ワタルさんおはようございます、取引は無事に成立しましたか?」
「はい、無事に終わりました」
「そうですか、良かったです。こちらも65白金貨分の胡椒が集まりました。商業ギルドには置いておくスペースが無いので港の倉庫に保管してあります。ご覧になりますか?」
「はい、よろしくお願いします」
ギルドに置き場所が無い? 港の倉庫? 分かってはいたんだけど、凄い量っぽい……
「では、ご案内いたしますね」
メアさんに案内されながら港の倉庫に到着する。
「こちら全てで65白金貨分の胡椒になります」
「おお、さすがに凄い量ですね」
大き目の倉庫に所狭しと積み上げられた胡椒。「はあ」勢いで買い物したら駄目だよね。大儲け出来るはずなんだけど、憂鬱になるのはなんでだろう。
「ワタルさん質問しても良いですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「これだけの量をどのように運ばれるのかが気になった物ですから」
「ああ、それはですね、私達は船団を組んでいまして。この港から私の船で大型船に積み替えですね。安かったので予定以上の量を買ってしまったので往復が大変そうです」
「まあ、そうだったのですか、船団で海を越えられるなんて凄いですね」
「あはははは、ありがとうございます」
すいません全部ウソなんです。尊敬の眼差しで見ないでください心が痛いです。
「すみません、この倉庫から運び出すのに時間が掛かりそうなんですが、大丈夫ですか?」
「そうですね、大量に購入して頂くお客様ですし。5日間はギルドの方で負担させて頂きます。それ以上になりますと、倉庫使用料をお支払い頂く事になりますが宜しいですか?」
「ありがとうございます。なんとか5日以内に運び出します」
「かしこまりました。それではもう一度ギルドに戻ってから、契約で宜しいですか?」
「はい」
ギルドに戻り65白金貨を支払う。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、あっ荷車をお貸し願えますか?」
「荷車ですか? 大丈夫です、何台ご利用になりますか?」
「3台お貸し願えれば有難いです」
3台の荷車を引きながら倉庫に入る。
「ふー本当に勢いで凄い量を買っちゃったね、でもこの倉庫は好都合だね。毎日何度か船まで胡椒を運んで、ルト号で数回出航して戻ってくれば、人目がある訳でもないので問題にはならないだろう」
「荷車で船まで胡椒を運ぶのと、船の出航は必要ですか?」
「うん、まったく行かないのは不味いね、何度か運んでいる姿を見せれば監視している訳でもないし自分が見てない間にも運んでいたんだと納得してくれるはず。
自分が見ていなくて、他の誰も運んでいるのを見てなければ、疑問に思う人が出て来る可能性があるね。まあ数回姿を見せれば問題無いよ」
「そうね、全部運ぶより数段楽になったんですもの、少しは頑張るわ」
「頼むね。さっそく船に何回か胡椒を運び入れようか」
「「はい」」
……………
それから5日間、毎日胡椒を送還し偶に船に運んで出航するを何度も繰り返した。息抜きにお酒と香辛料の詰め合わせと布、食料の買い出しをした。何度か絡まれてしまって、息抜きにならなかった気がするな。
「これで最後か、2人ともお疲れ様でした。ありがとうございます」
「ご主人様、私達は奴隷よ、お礼はいらないわ」
「イネスの言う通りです」
「そう? まあお礼を言いたい気分だったので、気にしないでね」
「うふふ、わかったわ」
「はい」
長かった……全部を船に運ぶよりは圧倒的に楽だったけど、それでも495艘ゴムボートを買う時点で疲れた。1艘ずつ買わないといけない時点で面倒この上ない。まとめ買い機能が欲しいよ。
「では、荷車を返却して、メアさんに挨拶して出航しようか」
「「はい」」
メアさんにお世話になったお礼を言って出航した。しかし毎日3銀貨の停泊料は痛いな、でも宿代はかからなかったから結果的には得してるんだよな。
「では、ダークエルフの島に向かうね」
「「はい」」
イネスとフェリシアは、荷運びの鬱憤を晴らすように魔物との逃走ゲームを楽しんでいる。リムも船が激しく動いている時は、フライングブリッジがお気に入りみたいで最近少し寂しい。
しかしどうやって胡椒を卸そう。前回の20艘と今回の495艘で515艘分の胡椒がある。これを全部卸して、白金貨を引き出せれば1854枚の白金貨になる、豪華客船が余裕で買えちゃう。
でもそんなに上手くはいかない、豪華客船が買えれば国と敵対しようが、何とかなる気はするけど、だからってわざわざ敵対する必要も無い。
なんとか豪華客船を手に入れた上で、あんまり注目を浴びない程度で済ます方法は無いかな? うーん分からん。
「ご主人様、何をお悩みなのですか?」
「あー、なんとか穏便に大量の胡椒を捌く方法はないかなって」
「うふふ、時間を掛けるのが1番だって、言ってなかったかしら?」
「うん、でも、515艘もの胡椒を捌くと26回も胡椒貿易を成功させた事になるよね。それって時間が掛かる上に目立つよねって思ったんです」
「……それはそうですね。26回も成功したなら必ず成功する方法を知っているか、凄い魔導船かで注目を集めますね。南の大陸と安定した貿易が出来るのなら王侯貴族が黙ってませんね」
「あら、そういえばそうね。フェリシアの言う通りだわ。それに26回以前に5回位の成功でも大注目ね」
「うーん、白金貨の元はあるのに換金できないのが辛いね。目立つのを躊躇わなければ何とでもなるんだけど。目立つ煩わしさも嫌なんだ。偉い人との付き合いなんて、庶民には緊張するだけで良い事なんて無いんだから」
「ご主人様のスキルがあれば王様にだってなれそうなのに、根っからの庶民なのね」
「もう庶民と言えるレベルの収入じゃないですよ、ご主人様も自覚しないといけません」
「はあ、ある程度はしょうがないし。命の危機や冤罪、面倒な命令さえなければ王侯貴族との付き合いも頑張るんですがねー」
「間違いなく全部降りかかって来るわね」
「面倒な命令は絶対にありますね。まあ一番有りそうなのが、王命で魔導船のお召し上げですか」
「スキルの船なんだから使えないし、スキルってバレたらもう面倒事しか浮かばないよ」
「そうね、一生飼い殺しにしようとするわね」
「豪華客船に引き籠りでも良いんだけど。わざわざ自分から、自由に出歩ける気楽な生活を捨てる必要も無いから悩むよね」
「そうね、でも全部を商業ギルドで卸そうとするから目立つんじゃないのかしら? ラティーナ王国だけでしか胡椒が売れない訳じゃないんだし。他の国で、商人に直接売っていけばそんなに目立たないで捌けるんじゃない?」
「えっ?」
「別に胡椒貿易で買って来た胡椒だって言わなくても良いし、時間をおいて仕入れた胡椒を売っている感じで、捌けば問題にはならないと思うわ」
「「なるほど」」
「商業ギルドで捌く事しか考えてなかった。他にも国はあるんだし、行ったついでに胡椒を捌けば時間は掛かるけど何とかなるよね、イネス、天才だね」
「ええ、イネス凄いですよ」
「うふふ、ただご主人様とフェリシアが商業ギルドの事だけ考えてたからよ」
「盲点でした」
「今回の胡椒貿易は胡椒が安かったので、無理して一杯積んできたって言って、30艘卸す位しか思いつかなかった自分が恥ずかしいです」
「私も木材を曳いた時みたいに、ロープでまとめて曳いて来たって言い訳しか思いつかなかったです」
「イネスの御蔭で方針も決まったし。商業ギルドに胡椒を20艘卸して、残りを他国の行商に使うと言って、カミーユさんに情報を貰いましょう」
「「はい」」
普段と変わらない船旅を続ける。イネスとフェリシアの操船技術がドンドン上達しているのが少し恐ろしいが、10日でダークエルフの島に到着した。
「村長さん、お出迎えありがとうございます。村の方は順調ですか?」
「ワタルさんご無事で何よりです、村の方は問題無く順調ですよ」
話を聞きながら丘の上の村に着くと、もう数軒の家が出来ている。
「村長さん、もう家がいくつか建ってるんですね」
「ええ、と言っても外側を作っただけです。内装は各自がコツコツ作業している所ですね」
「そうなんですか、それにしても早いですよ。段々と村になって来ましたね」
「ええ、村人も張り切っています。もう森にも何度か探索に出ています」
「森はどうでしたか? 危険な魔物などは?」
「今の所スライムとゴブリン、オークが確認されていますが、対処が可能な範囲内です。必要な薬草や森の恵みも確認出来ました」
オークか、そう言えば見たことがないな。思えば僕は角兎とゴブリンしか倒したことがないんだよな。航海中のパワーレベリングでレベルだけは上がっているけど、オークに会ったら怯える自信はある。
「森で色々手に入るんですね、いずれは森に住居を移されるのですか?」
「どうなんでしょう? この村も気に入っておりますので、ですがいずれは森にも村を作り、川を使って行き来するのも良さそうですな」
「そうですね、川があると便利ですし森から木材も運べますね」
「ええ、すでにいくつか間伐して川で運びました。今は乾燥させてます」
村長と雑談をしていると、村人が呼びに来たので村長と別れセシリアさんに会いに行く。挨拶をしてフェリシアを残して村を散策していると、いきなり怒鳴りつけられた。
「お前がワタルだな命が惜しければフェリシアを解放しろ」
何だろうこの青年は、なんか腰にロープを結び付けている上に、なんかすでにボロボロだし、どうしたらいいんだろう?
ボロボロでもなんかカッコいいダークエルフが羨ましい。とりあえずリムを抱き寄せ、イネスの後ろに隠れる。船召喚した方がいいのかな?
「イネス、船召喚した方がいいかな?」
「必要ないわ、後ろに隠れていてね。出て来ちゃ駄目よ」
言われた通りに後ろに引っ込んでいると青年の罵声が聞こえてくる。
「女の後ろに隠れやがって、やはりおまえがフェリシアの主だなんて認めない」
あー何となく話が見えたな、フェリシアに恋してるか、もしかしてフェリシアと両想いだったのか?
うわー鬱な展開だ、そうだったら愛し合う2人を引き裂いた悪者ポジションだよね。僕は何も悪い事してないんだけど、テンプレだとこのパターンは、僕が悪者で成敗されるの? 困る。
あっ、騒ぎに気付いてフェリシアとセシリアさんが走って来た。
「ご主人様、ご無事ですか? 何が起こったのですか?」
「まあ、ロマーノ、あなた謹慎中でしょ、出てきたら駄目じゃない」
「村の皆は騙されているんです。謹慎なんかしていたらこの村は滅びてしまう。さあフェリシアこっちに来るんだ、そんな男の側に居てはいけない」
「ロマーノは何を言っているんですか? ご主人様は私達の恩人です。無礼は許しませんよ」
「くっ、フェリシアも騙されているのか、俺が必ず救い出してみせる」
あれ? 話の流れが思ってたのと違うかな?
「ねえフェリシア、あの青年とどんな関係なの?」
「ロマーノですか? 村では齢が近かったので、幼い頃はよく遊んでいましたね」
うん? 愛し合う2人を引き裂いた悪人パターンは逃れたのか? そうなるとあの青年は独り善がりの思い込み?
なんかこの前も似たような事があったな……あの従業員君は元気かな?
「あの、ご主人様? どうかなされましたか?」
「ん? 何でもないよ。それよりこの状況はどうしたらいいの?」
「はあ、私も状況がよく分からないのです。父がもう直ぐ来ると思いますので、それまでは様子見でしょうか?」
「フェリシア、そんな男と話してはいけない。セシリアさんも娘を救いたくはないのですか?」
おうふ、これは間違いなく従業員君と同類だな。この青年が移住反対者で恥ずかしいので話したくない人なんだろう。
青年以外この場にいる全員が困惑している。あっ、そういえばロープでグルグル巻きにされてたのってこの人だな、うん、隠したくなるよね。
喚く青年、困惑する周囲……あっ、村長さんと何人かのダークエルフが走って来た。
「ロマーノ、何をしているんだ、謹慎を申し付けたはずだぞ」
「村長は騙されているんです。娘さんを守ろうとしている僕を閉じ込め、そんな男の味方をするなんて間違っている。正気に戻ってください」
「ロマーノ、何を言っているの? 誰も騙されてなんかいないわ」
「くっ、私の母まで騙すなんて、許さないぞ」
なんかいたたまれないな、みんな恥ずかしそうにしてるし、怒る気力も無い感じだ。
「くっ、こうなれば、ワタル、私と決闘しろ。私が勝ったらフェリシアと村の皆を解放するんだ」
「あー、僕は戦えないのでお断りします」
「聞きましたか、村長、この男は決闘からも逃げ出す情けない男ですよ。フェリシアを守れない男がフェリシアの側に居る資格は無い、そうでしょう村長」
「いや、そもそも戦えないのでフェリシアに護衛してもらってるので、そんな事言われましても」
「言い訳は必要ない、戦えぬのならフェリシアを解放して出ていけ」
駄目だ、話が通じない、どうしたらいいの?
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




