2話 街と冒険者ギルド
「道だー」
2時間ほど歩き、5回の角兎との戦闘に勝利し、なんとか道にたどり着いた。
「これ道だよね? 舗装されてないけど車輪の跡っぽいのとかあるし、魔物もいるしスキルも魔法もある。ファンタジーでよくある中世ヨーロッパみたいな世界っぽいな。どんな世界か興味はあるが、まずはどっちに進むか決めないとな」
……この道のどちらに進めばいいのか。右か左か……両方とも人里が近ければいいんだけど……悩んでいてもしょうがない、人や馬の足跡は右に多く向かってる気がするし右に行こう。
喉の渇きもキツイけど、倒した角兎6羽も地味に重い。持ちきれないので長い蔓で縛って運ぶ。暗くなり始め、焦りと喉の渇きに苦しみながら、歩く事数時間。ついに城壁らしき物が見えた。
大きな城壁に囲まれた立派な都市に見える。安堵と共におそらく入場待ちをしている列に並ぶ。道々で考えてきたのは、異世界人だとバレずに都市の中に入る方法だ。門を眺めてみれば身分証らしき物を見せる人がほとんどで、まれに硬貨らしき物を渡す人がいる。
身分証も硬貨も持っておらず、あるのは6羽の角兎のみ。周りを見渡せば服装も浮いている。白Tにジーンズなんて誰もいない……なんだか色々駄目すぎて辛い……。
盗賊に襲われた、もしくは記憶喪失のテンプレで行けるかなっと、考えていたがどうしたものか。浮いた服装で記憶喪失……怪し過ぎるな。盗賊に襲われて荷物を盗られた……珍しいかもしれないジーンズが盗られてない事に怪しまれそう……。
村から出てきたが魔物に襲われて、荷物を放り出して逃げだした……これが一番ましな気がする。
魔物かー、ゴブリンか狼らへんがオーソドックスだけど、ゴブリンっているんだろうか?
情報収集の為に、前に並んでいる行商人に声をかけてみる。
「あのーすみません、商人さんですよね?」
「そうだよ、なんだいあんちゃんなんか用かい?」
意外と気さくに返事してくれた、よく考えたら異世界初会話だ……初会話がおっさん。そういえば魔物に襲われている馬車を助ける。みたいなテンプレ一切なかったな。助ける実力ないけど……おっと商人さんとの会話だ情報収集しないと。
「実は村から出てくる途中で魔物に襲われまして。荷物を放り投げながら逃げ出したのでなんとか助かったんですが、今は先ほど狩った角兎6羽しか持ってないんです。これで中に入る事ってできますか?」
「そいつは大変だったな、ゴブリンにでも襲われたのか?」
ゴブリン……やっぱりいるんだね……。
「はい、それで身一つで初めて都市にたどり着きまして。勝手が分からないので教えていただければと」
「大変だったな、身分証がないなら、鑑定の水晶にさわって犯罪者じゃないって分かれば5銅貨で中に入れるぞ。3日間だけの仮の身分証でな。その間に冒険者ギルドに登録するといいと思うぞ、5銅貨はおそらくその角兎1羽渡せば、入れてくれるだろうよ」
「ありがとうございます」
「これから大変だろうが頑張りなよあんちゃん」
「はい」
なんとかなりそうだな、後10人ほどで門に入れるだろう、角兎持っててよかった。
「次」
自分の番だ、凄くドキドキする。
「身分証は?」
「あのー、来る途中に魔物に襲われまして、荷物を全部失ってしまいました」
「そうか、大変だったな。規則だからこの鑑定の水晶に触れなさい」
水晶に触れると青く光った、大丈夫だよね?
「……よし、犯罪者ではないな。5銅貨、払えるか?」
「荷物を失ったので硬貨はありません。この角兎で大丈夫だと聞いたのですが、入れますか?」
「うむ、血抜きもされているし、角は折れているが傷も少ない。5銅貨の価値はあるだろう。入ってよろしい、西方都市へようこそ」
「ありがとうございます、あの、冒険者ギルドで登録したいのですが場所をお教え願えますか?」
「うむ、このまま大通りを真っすぐ進み、左側にある大きな建物がそうだ。剣と盾のマークだな」
「ありがとうございます」
西方都市って言うのか、この国の西側の都市なんだろうな。この国はなんて名前なんだろうな?
なんとかなったか、小心者の自分には辛いミッションだった……でも、まだ冒険者登録があるんだよな。
にぎやかな大通りを歩く。色々な店や様々な人種、あれネコミミだよね? 好奇心が刺激されるが見て回る余裕はない。さっさと冒険者登録して休める場所を探さないとな。
ここが冒険者ギルドか、登録の際にスキルはバレるんだろうか? ユニークスキルが2つもあるって、バレたら悪目立ちしそうで怖いが、どうしようもないので出たとこ勝負だな。
中に入ると5人の綺麗なギルド職員のお姉さんと、一人のいかつい顔のおっさんがカウンターに座っている。当然のごとくおっさんの前には人がおらず、お姉さんのカウンターには行列ができている。
うーん、余裕があったら並んででも綺麗なお姉さんに受付してもらいたいが、今日はもう限界が近い。
いかつい顔のおっさんが実はギルドマスターだった、なんてテンプレがありそうだけど正直どうでもいい。さっさと終わらせて休みたいのでおっさんのカウンターにいく。
「すみません、ここで冒険者登録できますか?」
「ああ、できるぞ」
「よろしくお願いします」
「鑑定の水晶に触れろ、登録料は1銀貨だ」
1銀貨って角兎5羽でなんとかなる? 門番さんは角兎1羽で5銅貨以上の価値はあるって言ってたよね。最低でも25銅貨分、10銅貨で1銀貨だったらなんとかなるんだけど……いけるかな?
「あの、都市にたどり着くまでに荷物を全部失いまして、角兎5羽しか持ってないのですが、これでなんとかなりますか?」
「足りんな、だが登録料の1銀貨は貸し出す事もできるぞ。返済期限は1ヶ月で、返せなかったら下水道の掃除など人がやりたがらん仕事を返済終了まで強制するがな」
1銀貨って銅貨何枚なんだ? 10銅貨で1銀貨じゃなかったので、おそらく100銅貨で1銀貨だと思う。でも、1000銅貨とかだったらどうしよう……怪しまれないように聞けるか?
「あの、1銀貨を稼ぐのに角兎を何羽狩れば稼げますか?」
「ボロボロにせんかぎり1羽で最低5銅貨だからな、20羽も持ってくれば1銀貨にはなるだろう」
「ちなみに角兎がよく狩れる場所ってありますか?」
「西方都市の南門から出て、南西方向にある森の手前の草原が繁殖地だな。ただし森にあまり近づき過ぎるなよ、ゴブリンが出るからな」
銅貨100枚で1銀貨か……1ヶ月で角兎20羽なら大丈夫っぽいな。別に生活費がかかるにしても、なんとかなりそうだ。
「銀貨1枚貸してください、それで登録お願いします」
「わかった、その水晶に触れろ」
……触れた水晶が光ると、下の台からカードが出てきた。
「ほらよ……これがFランクの冒険者カードだ。カードのスキルや魔力など、隠したい部分があれば隠蔽って思いながらなぞると隠せるぞ。冒険者は手の内を隠す奴は大勢いるからな。信頼できる仲間にだけ見せたり、誇示したいスキルなんかは表示している奴もいるぞ」
「分かりました、ありがとうございます」
忘れないうちに隠しておこう。
名前 豊海 航 とようみ わたる
年齢 20
種族 人間
職業 船長
レベル 2
体力 120
魔力 10
力 14
知力 24
器用 20
運 15
スキル 言語理解 (ユニーク)
船召喚レベル1 (ユニーク)
おっ、レベルが上がってる。何の合図もなかったけど聞き逃したのか? ステータスは体力が20上がって、後は運以外全部2上がってる。平均して上がっていくのかな? 運が上がらないのが残念だ。
とりあえず隠すかな……名字とかどうなんだろう? 一応隠しておくか、後はスキル隠せば問題ないよね。
名前 わたる
年齢 20
種族 人間
職業 船長
レベル 2
体力 120
魔力 10
力 14
知力 24
器用 20
運 15
だいぶスッキリしたな。身分証も手に入ったし、なんかほっとした。
「あと字は読めるか? 読めるならこの冊子をよく読め。冒険者としての基本ルールが書いてある。以上だ」
「はい、あと角兎を換金したいのですが、ここでできますか?」
「奥の買い取りカウンターに持っていけ」
「はい」
登録はこれで無事に済んだんだよな。スキルとか聞かれなかったから、都合はよかったけど冊子渡されて、読んでおけって普通なのか?
なんか手抜きされた気がする……まあ理解できなければまた聞きにくればいいか。
「すみません、買い取りお願いします」
「あいよ、角兎5羽、血抜きはきちんとされてるね。首の傷がちょっと粗い……1羽7銅貨だね、全部で35銅貨で買い取るがどうする?」
「それでお願いします」
「まいどありー」
「あっ、安い宿屋を教えてもらえませんか?」
「ん? 個室でなくていいなら、隣のギルド経営の宿屋がお勧めだぞ。大部屋で雑魚寝だが1泊10銅貨だ」
「ありがとうございます、行ってみます」
大部屋で雑魚寝か……1銀貨の借金がある間はしょうがないな……頑張って稼いでせめて個室に泊まれるようになろう。
ここかな?
「すみません。泊まりたいのですが、大丈夫ですか?」
「1泊10銅貨だよ、食事は別で5銅貨だがどうする?」
「今日は宿泊だけでお願いします。これ10銅貨です」
「2階の大部屋の空いてる場所ですきに寝な。井戸は裏手にあるから勝手に使っていいよ」
「はい、先に井戸使わせてもらいますね」
やった、井戸が使える。喉がカラカラだったけど、どうしたらいいのかよく分からなかったんだよね。顔洗って、たらふく水飲んで今日はもう寝よう。沢山考えなきゃいけない事あるけどもう無理だ……おやすみなさい。
借金1銀貨 手持ち 25銅貨
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。