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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
二十一章
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9話 あえて目立つ

 久しぶりの南東の島、食事関連はあまり期待できなさそうなので、僕達は独自にバーベキューを楽しむことにした。懐かしのスープや唐揚げ、新メニューのホイル焼きとウッドプランクグリルに焼きおにぎり、バーベキューが楽しいのは真理だと思う。




「ん、マリーナ、この子どうする?」


 いやー、昨晩のバーベキュー、とてつもなく楽しかったな。リア充に成り上がった、それを確信できたイベントだった。


 ホイル焼きで一番豪華な中身を選ぶゲームをしたり、その逆をしたり、誰が一番焼きおにぎりを美しく焼けるかで競ったりとイベント盛りだくさん。


 二回目のウッドプランクグリルは僕も食べられた。ただ杉板の上で焼いただけなのに、ガラリと雰囲気が変わるその手法は、見た目にも楽しくバーベキューで流行るのも納得だった。


「ガァァ!」


「ん、暴れない」


「グァ……ギュー……グオン……」


 ダメだ、目の前にカーラさんの大きな盾に抑えつけられ、悲しそうに鳴いているサーベルタイガーが気になって現実逃避ができない。


 あれって、昔アレシアさん達が捕まえて南方都市に運んだサーベルタイガー的な魔物だよね? しかも亜種のレア物。


 信用があり実力者でないと入島許可がおりないこの島は、貴重な植物と強くレアな魔物が跋扈する秘境。


 そんな危険な島でも上位に位置していそうなサーベルタイガー、それが襲ってきてなぜかあっさりカーラさんに盾でよしよしされている。疑問でしかない。


「そうね、その子は今回の依頼じゃないから、仕留めなくていいわ。気絶だけにしておいて」


「分かった。おやすみ」


 マリーナさんの指示でカーラさんがサーベルタイガー的な魔物を気絶させる。なんか凄く重くて鈍い音がしたけど、たぶん気絶、問題ない。


「じゃあ先に進むわよ。ワタル、目的地はもうすぐだけど頑張れる?」


「ええ、体力的には問題ありません」


 精神的にはもう帰りたいけど……そんな思いを秘めて先行するマリーナさんを追いかける。


 なんでこんなことになったのか……ああ、そうだ、僕の迂闊な一言で全てが始まったんだ。


 前日のバーベキューが物凄く楽しかったし、一人で、と言ってもリムとペントと一緒だったけどテントで眠るのも地味に楽しかった。


 だから朝起きてからもテンションが高く、キャンプのお手軽朝食をクラレッタさんと楽しく作って食べた。


 ベーコンと目玉焼きとパンとスープ、追加にソーセージのご機嫌なキャンプ飯、上機嫌がゆえに僕らしからぬミスをしてしまったのだろう。


 会話中にリムを発見した場所の話になり、近くに綺麗な場所があると教えられ、つい魔が差して言ってしまった。


 そんな綺麗なところでお弁当を食べたら楽しそうですね。リムも喜ぶかもしれないし……と。


 お弁当という言葉にカーラさんが食いつかない訳もなく、危険な森のピクニックの開催が決定してしまう。


 危険は回避がマストな僕としては痛恨のミス。


 目的があったり安全だったりすれば別だが、危険な森でのピクニックって……まあ、リムの里帰りということで納得はしているんだけどね。でも、後悔はしている。


「あ、この辺りね」


「そうでしたね、たしかあのあたりの倒木の上でリムちゃんを見つけたはずです」


 マリーナさんが立ち止まったのは獣道の少し広がった空間。特に何か目立つ物がある訳でもないのだが、クラレッタさんも同意しているので間違ってはいないのだろう。


「ほら、リム、ここでリムはアレシア達と出会って僕のところに来たんだよ」


 頭の上でモチモチしていたリムを両手に乗せ、景色を見るように促す。


『……?……』


 帰ってきたのは、え? なに? という反応。薄々想像していたが、リムは特に興味がないらしい。


 僕はちょっと感動しているんだけどね。短い間とはいえここでリムが生活していたのだと思うと輝いて見えないこともない。


「……じゃあ行きましょうか」


 でも所詮は少し空間が広がった獣道でしかないので、感動も長くは続かない。


「しゅっぱつ」


 僕の言葉にカーラさんが強く賛同する。次の目的地でランチの予定だから楽しみなのだろう。



「へー、本当に綺麗な場所ですね」


 マリーナさん達に連れられて到着した場所は、小さな花畑と小さな泉があるなんとも綺麗で可愛らしい空間だった。お菓子の家とか似合いそう。


「ん? リム、どうしたの?」


『……りむ、ここすき、しってる……』


「……んー、もしかしてリムはこの場所を知っているの?」


『……うん……』


 頭の上を上機嫌にポヨポヨ飛び跳ねるリム。なるほど、先程の場所はリムが生活していた場所ではなかったのか。散歩か迷子の途中でアレシアさん達と出会った感じかな?


 それなら先程の場所でのリムのリアクションも当然だ。


 興奮するリムを花畑に降ろすと、ポヨンポヨンモッチモッチと遊び始める。うん、リムとお花畑、素晴らしい光景だ。写真撮らなきゃ。


 リムのはしゃぐ姿に釣られたのか、ペントもスルスルと僕から離れてリムと合流する。


 こちらも可愛い。


 写真をとったらしばらく自由にさせてあげよう。



「ワタル」


「カーラ、どうかしましたか?」


 写真を撮りまくっているとカーラさんに声をかけられた。


「ごはん」


 カーラさんの指の先ではすっかりピクニックランチの準備が整っていた。結構長く写真を撮りまくっていたらしい。


「お待たせしてすみません。では昼食にしましょうか」


 そそくさとピクニックシートに座り昼食の開始を告げる。サンドイッチにおにぎり、唐揚げ、ソーセージに卵焼き、パンもご飯も和も洋も無節操に取り入れた大きなランチボックス。どれも美味しそうだ。


 まあ時間がなかったので、具材は出来合いの物なんだけどね。




「ふう、食べなれた味ですけど、こういう場所で食べると一味違いますね」


 あと、偶に匂いに釣られたのか魔物が襲い掛かってきたから、スリルの面でも一味違った。


「そうですね、前は冒険の時には携帯食料が普通でしたが、荷物になっても美味しいご飯を持っていくべきだったと後悔します」


「うん!」


 クラレッタさんが微笑みながら同意してくれる。クラレッタさんは料理も食べるのも好きだもんね。そして食べるのが大好きなカーラさんも当然力強く同意する。


「少しのんびりし過ぎた。そろそろ獲物を探しに行かないと今日中に戻れない」


 そんなまったりしたタイミングでマリーナさんがとんでもないことを呟く。野宿は嫌だよ?


「そうでした。急ぎましょう」


「うん」


「イネス、フェリシア、ワタルをお願い」


 マリーナさん達三人が素早く森の奥に消えていった。


 人数が減ってきすこし寂しいが、まあ、イネスとフェリシアが一緒なら身の危険はほぼないから大丈夫だろう。


 僕達、海の魔物相手にコツコツというかガツガツレベルを上げているから、凶暴なはずのこの島の魔物ですら相手にならないくらい強くなっているようなんだよね。


 無論、素人に毛が生えた程度の僕だとアクシデントが起こりえるが、そこはまあ船召喚で籠ればいいのだから安全は確実だ。


 そういう訳で、僕達はマリーナさん達が戻ってくるまで、のんびりさせてもらおう。



 花畑で微笑むフェリシア……なんというか、花畑なら普通のエルフの方が似合いそうだけど、ダークエルフのフェリシアも悪くない……というか、ちょっとしたギャップがあって凄く良い。


 僕的にはダークエルフは草原が似合うってイメージだったから、良い発見だ。


 イネスは、まあ普通だ。


 美女なのでお花畑が似合わないこともないが、虎系の獣人だからか雰囲気がちょっと違う。ギャップうんぬんではなく僕の中のイメージがイネスとお花畑が結びつかないのだろう。


 さて、少し休憩したら僕もリムとペントとキャッハウフフとお花畑で戯れよう。




 ***




 南東の島の森に足を踏み入れた翌朝、僕達は南方都市へ戻ろうとしている。


 和船の先頭に大きくて立派な角を生やした金色の巨大な鹿を見せびらかすように載せて。


 亜種のサーベルタイガーの魔物の時の再現、おそらく港は大騒ぎになるだろう。


 僕だってそれくらい分かっている。現に一度は断った。今更だけどそれでも目立つ必要はないと言って。


 でもこれ、商業ギルドのマスターとカミーユさんの指示なんだよね。


 僕が運んでいる巨大な鹿は当然魔物で、黄金色の毛皮を持ち貴重な薬効がある角を所持する貴重な魔物。


 剥製にしても毛皮をとっても角を薬にしてもお肉を食べても最高という、お宝でしかない魔物。


 まあ相当強い魔物で、鹿なのにサーベルタイガーの亜種よりも圧倒的に強く、そのうえ逃げ足も速いという厄介な魔物。


 今回も以前とは比べ物にならないほどにマリーナさん達がレベルアップしていたからこそ果たせた依頼らしい。


 大騒ぎになると分かっているのにそんな貴重な魔物を見せびらかしながら入港する理由は、南方伯様対策らしい。


 目立つから噂になり貴重な魔物なので噂は南方伯様に届く。


 様々な利用法がある貴重な魔物に加え、南方都市で大注目というマニア心をくすぐる展開は、南方伯様の欲望を誘う。


 商業ギルドのギルドマスターの話では、確実に注文が入るのだそうだ。


 でも、ギルドマスターはすでに別の注文を受けている。架空とは言わないが、ギルドマスターの一存でどうにでもなる注文を……だからこそ南方伯様とギルドマスターの交渉が生まれる。


 その交渉の中に豪華客船の定期航路の話もぶち込み、有利な立場を築くという作戦らしい。


 まあ国の利益になる豪華客船を入港拒否する可能性は低いから、僕としてはそこまで協力しなくてもと思ったのだが、この話にはカミーユさんも乗り気になったので協力することにした。


 カミーユさん曰く、貴族の権限が大きいほど後々に交渉や干渉が酷くなるとのこと、僕もその意見には納得でしかない。


 ちょっと前にそれが原因で内乱が起こっちゃったもんね。


 まあ難しいことはカミーユさん達にお任せして、僕はホットサンドメーカーを作ってくれる鍛冶屋を探そう。


 まあ、その鍛冶屋もカミーユさんかギルドマスターに紹介してもらうつもりなんだけどね。


 次はキャンプでホットサンドパーティーだ。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここにきてリムの生まれ故郷に行くの目茶苦茶エモいなぁ… 初期の頃だから駆け足で進んだところを掘り返す感じでいいですね!
[一言] また船大工に作ってもらえばと思ったけど あの人らの専門は造船だからさすがに無理か
[気になる点] ホットサンドメーカーか… 耳を潰して密閉するタイプかただ潰して焼くタイプかに分かれるよね。 ワタルはどっち派なんだろ?
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