8話 楽しいバーベキュー
南東の島でバーベキューの準備を完了し、始める前の筏風呂に入ることにした。筏風呂は魔術師を雇ったことで昔自分が考えた頃よりも洗練されていて、熱めのお湯と限りなく近い大自然を堪能できるようになっていた。
「ふぅー、サッパリしましたね」
冷たい飲み物を一気して感想をのべる。お風呂上がりの一気は、飲み物の最高に美味しい飲み方、トップスリーに入ると思う。
女性陣も同感なようで、明るい賛同が返ってくる。
バーベキューの為にテントの外に出ると、潮風が吹き抜けお風呂上がりの火照った体に心地いい涼を運んでくれる。
でも、潮風なのがちょっと残念でもある。たぶんバーベキューが終わる頃にはまた体がベタつくことになるだろう。
これは海と近すぎる弊害と言えるかもしれない。
でも、リムとペントともゆっくりコミュニケーションが取れたし、お風呂上がりの女性陣も素敵だし、便利すぎて少し距離が離れてしまう豪華客船よりも親密度が上がるメリットもあると思う。
お風呂上がりのマリーナさん、カーラさん、クラレッタさんは久しぶりに見られたしね。
さて、メインイベントのバーベキューの始まりだ。ん?
「あそこが食堂兼飲み屋のようですね。ずいぶんと賑やかです」
テントの外に出たことで気がつく賑やかに騒ぐ声。クラレッタさんも気がついたようで同じ方向を見ている。
結構距離があるのに普通に騒がしいから、あのテント筏の中は相当激しく騒いでいるようだ。
日も落ちて暗くなったし、探索の疲れを癒すどんちゃん騒ぎと言ったところか。女の人の楽しそうな声も聞こえるし、僕が一人だったらなんとかして混ざろうとしていただろう。
まあ、今の僕はある意味ハーレム状態だから羨ましくはないけどね。
五人の女性陣の内二人はお金で買い、残りの三人はまったく男女の関係ではないという事実は気にしないことにする。
「ワタル。準備を始めましょうか」
「あ、はい。僕は唐揚げの準備をしますので、クラレッタはスープの味を見てください。他は火の準備を頼みます」
余計なことを考えて暗くなりそうなところで、クラレッタさんがタイミングよく話しかけてくれる。
わざわざ自分の考えで暗くなることもないので、気持ちを切り替え仕上げの準備をしよう。
さて、唐揚げだけど、昔と比べると調味料も調理器具も違う。
屋形船で卓上コンロに油の温度を計れる温度計、油切り網も手に入れたので、火加減の問題もバッチリだ。
しかも有名メーカーの唐揚げ粉までゲットしているので、僕の勝ちは揺るがない。秘儀二度揚げもバッチリだ。
カチッとコンロに火をつけ、油を熱する間に唐揚げ粉をビニール袋に入れ、続いて下味をつけた鳥肉を投入。ガサガサと振って粉をまんべんなくお肉にまぶす。
「ご主人様、火おこしは終わったわよ」
イネスから炭火の準備が完了した報告を受ける。ホイル焼きは焼くのに少し時間がかかるから、先に焼き始めるか。
おっと、ウッドプランクグリルも一緒に焼かないと。
「イネス、フェリシア、先にホイルを並べて焼き始めて。あ、杉板二枚分くらいのスペースは残しておいてね」
「「了解」」
「え? 杉の輪切りに直接具材を乗せるんですか?」
イネスとフェリシアに指示を出し、ウッドプランクグリルの用意をしているとクラレッタさんが驚きつつ声をかけてきた。
キャンプ飯の雑誌を見せようかと思ったが、僕の好感度を上げるために自分で説明する。
「なるほど、杉の香りが食材に、水とワイン、浸した液体の違いも興味深いです」
クラレッタさんの尊敬の目が心地いい。キャンプ飯の雑誌はクラレッタさんの目が届かないところに封印することにしよう。
杉板の上に鳥肉、サーモン、タマネギ、色々と具材を乗せ、ドームになるようにアルミホイルで包んで焼き網の上に乗せる。
焼き台の上が銀一色だな。視覚で考えると、ホイル焼きのみだとパンチが弱い。次の機会にはもう少し考えよう。
おっと、そろそろ唐揚げを完成させないと。
油の温度を確認し、ビニール袋から鶏肉を取り出し油に投入ジュワー、パチパチと心地良い音が広がる。
あ、カーラさんが近寄ってきて鍋を凝視している。ちゃんと注意しないと二度揚げ前に唐揚げが減りそうだ。
***
「では、久しぶりの南東の島に乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
バーベキューの準備が終わり、満開の星空の元、乾杯の音頭をする。
「ぷはー」
キンキンに冷えたビールをゴクゴクと喉に流し込み、大きく息を吐きだす。最高の瞬間だ。
さて、まずは唐揚げから行くか。
カーラさんのウルウルとしたおねだりにも負けず、しっかりと二度揚げに成功した唐揚げ。
「おいしー!」
僕が食べる前にすでにカーラさんが口に唐揚げを詰め込み、満面の笑みを浮かべている。
美味しさは保証されたが、自分の舌で確認することが大切。
唐揚げに噛みつくとカリッとした歯ごたえ、続いて野生の鳥の少し固めながら弾力のある歯ごたえ、噛みしめると濃い鳥の味と、それに負けない醤油とニンニク、ショウガの風味。
まさしく幸せの味。
この風味を消し去るのはもったいないが、それでも飲んでしまうビール。無限ループが完成してしまう。
ふふふ、女性陣も僕の渾身の唐揚げに魅了されたのか、唐揚げの山がドンドン小さくなる。
さて、次はスープを味わうか。
……うん、普通に美味しい。顆粒の鶏ガラにワカメとニンニク、不味いわけがないけど、感動するほどでもないホッとする味。でも、こういう野外の席ではちょうどいい味でもある。
「あ、クラレッタが用意してくれたおにぎりもありますよ。普通に食べても良いですけど、焼きおにぎりも試してください。醤油ダレと味噌ダレがありますのでお好きなように試してください」
最初は醤油ダレにしよう。いや、せっかくクラレッタさんが握ってくれたおにぎりだし、最初はそのまま頂くことにしよう。というか、焼きながら普通のおにぎりも食べよう。
僕の行動を見た女性陣もさっそく焼きおにぎりを育て始める。カーラさんは当然二個で……最初から四個だと! さすがカーラさん、自分の胃袋を微塵も疑っていない。
まあいいか、おにぎりも沢山ある。さて、そろそろ僕的に気になっていたウッドプランクグリルの味を確認しよう。
まずはオーソドックスに水に浸けておいた方からだ。
「ワタル、私にも味見させてください」
「もちろんです」
杉板のアルミホイルに手を伸ばすと、クラレッタさんが興味津々な様子で近寄ってきた。アレだな、こういうことの積み重ねが料理男子がモテる秘訣なのかもしれない。
今後も料理を頑張ろうと思う。
決意と共にアルミホイルを剥がすと、食材の香りと共に杉の香りが広がる。
ナイフとフォークで鳥肉やサーモン、トマトなどを切り分けてクラレッタさんに渡す。
「香りが良いですね。まるで燻製のようです。味は……ワタル、これは唐揚げに使ったお肉と同じですよね?」
「え? ああ、はい、そうですよ」
「調理法が違うとはいえ、まるで別のお肉のようです。優しい木の香りを纏い、味付けはシンプルに塩と香草、それなのにお肉は柔らかくそれでいて濃い旨味。ただ杉の木の上に乗せて蒸し焼きにするだけなのにまるで別物です。お野菜は……」
「ワタル、私にも!」
「ワタル、私も食べてみたいわ」
「ご主人様、ちょうだい」
「ご主人様、私にもお願いします」
『……たべる……』
おうふ、クラレッタさんのコメントに触発されたのか、次々に料理が要求される。凄いな、ウッドプランクグリル。控えめなフェリシアまで興味津々な様子だ。
全員に提供すると僕が食べる分がなくなってしまった。まあ、もう一度ウッドプランクグリルすればいいか。
ささっと杉板に具材を乗せて、もう一度焼き網の上に乗せる。
よし、じゃあ僕は白ワインに浸けた方のを試してみるか。アルミホイルを剥がすと杉の香りと共にワインの香りも広がる。
ギンッと視線が僕に集まる。
……白ワインの方も食べるのは二回目になりそうだ。
白ワインの方も切り分けて女性陣に提供し、二回目の仕込み。まあ、かなり評判が良くて女性陣もリムもペントもふうちゃんもニコニコなので僕としても満足だ。
さて、焼きおにぎりをひっくり返してタレを塗る。焼きおにぎりとウッドプランクグリルが完成するまではホイル焼きをつまみにビールを楽しむことにしよう。
「……イネス、フェリシア、これってどれがどの具材か分かる?」
「……そういえば中身を考えずに適当に並べたわね」
「申し訳ありません、ご主人様。印をつけるのを忘れていました」
「……まあいいよ。こういうのもクジみたいで楽しいもんね」
そういえば僕がホイル焼きを初めて知った料理漫画でも、ホイル焼きをクジみたいにして楽しんでいたな。
僕の方は狙ってではなく単なるミスだけど、料理上手なあのおじさんリスペクトということにして楽しむことにしよう。
焼き台の上からホイル焼きを一つ選択し、ちょっとワクワクしながらアルミホイルを破く。
お、これは僕が作った奴じゃないな。じゃがいも、キノコ、チーズのホイル焼きか。
できれば魚かお肉を最初に攻めたかったが、これはこれで悪くない。
フォークを突き刺すと、ジャガイモとキノコに溶けたチーズが絡みつき、頬張ると熱々トロトロで口の中に旨味と白ワインの香りが広がる。
うん、これは料理酒の代わりに白ワインを使っているのか。僕が作ったホイル焼きは全部料理酒だったけど、白ワインも悪くないな。
「私のはサーモンね。美味しそうだわ」
「豚肉とタマネギ!」
「これは白身魚ですか? ふふ、何の魚か食べるまで分からないのも楽しいですね」
「鳥ですね」
「あ、これ私が作った奴だわ。ご主人様、食べる?」
「……イネス、ニンジンしか入っていないように見えるけど?」
「失礼ね。ちゃんとバターも入れているわよ」
にんじんとバター……それはそれで美味しいけど、たぶんイネス的にはハズレなんだろうな。自分で作ったハズレを自分で引く、自業自得と言うやつだ。
「自分で引いたのは自分で食べようね、イネス」
「えー」
不満気なイネス。それを見て笑う僕達。くだらないことだけど、こんな単純なことで笑えるのも幸せなことだと思う。
バーベキュー、楽しい。
読んでくださってありがとうございます。




