表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
二十一章
487/575

4話 南東の島

 南方都市に到着し、意外と人間関係が薄くて挨拶に行く人が居ないということに地味にショックを受けていると、カミーユさんが商業ギルドのギルマスを連れて戻ってきた。どうやら余計な手間を省くために僕同席で打ち合わせがしたかったらしい。





「む、むう、王都の商業ギルドと南方伯様への交渉は問題ないが、国王陛下への報告と交渉までこちらに任せるのはどうかと思うぞ」


 カミーユさんが出した要望を見て唸っていたギルマスが交渉を始めた。


 なるほど、お偉いさんへの根回しをギルドマスターにぶん投げた訳ですね。ちょっと利権やら賄賂やら心配だけど、ギルマスの下で働いていたカミーユさんが大丈夫だと判断したのなら問題はないのだろう。


「あら? 私が直接交渉に出向けば、それだけ商業ギルドに回ってくる利益が減ることになりますが?」


「儂を相手にくだらぬことを言うでない。国の干渉を減らしたいから商業ギルドを間に挟むんじゃろう。儂が出向こうがお主が出向こうが、国相手に許せる利権の上限は決まっておろう」


「だからこそギルマスにお願いするのです。ここで頑張っておかないと、キャッスル号にはマウロさんも働いていますから、後が怖いですよ? それにキャッスル号はどうしても南方都市に停泊が必要という訳ではないのです。交渉は簡単ですよね?」


「む、たしかにあのジジイに弱みを見せるのは面倒じゃな」


 ジジイがジジイをジジイと言っている。


 まあ、それはどうでもいいとして、なんか会話なのに行間を読めと言われているような感じだな。


 ギルマスとマウロさんはちょっとしたライバル関係みたいだし、そこを突いて煽りを入れているようだ。


 まあ、カミーユさんが言った通り、キャッスル号は別にどこに停泊しても構わないから、国相手でも有利を引き出せるよね。


 それにしても国の利権をできるだけ削れってお願いだよね。


 ブレシア王国では国と……王太子殿下との関係は良かった気がするんだけど、ラティーナ王国では違うのかな?


「ワタルさん。この国では王家と共に四伯と呼ばれる方達が力をもっています。その内のお一人である南方伯様への利権も当然ですが、他の三伯も無視できません」


 疑問が顔に出ていたのかカミーユさんが説明してくれる。なるほど、ブレシア王国では王太子殿下と友好を築いていればよかったけど、ラティーナ王国は王家以外にも気を遣うべき相手が多いから、王家の利権を削りたいんだね。


「ん? でも、南方伯様の地元で商売するのに、他の三伯への利益供与が必要なんですか?」


 南方伯様が不愉快に思わないかな?


「そこら辺がこの国の難しいところでして、四伯は決して仲が良い訳ではないのですが、均衡が崩れる恐れがある場合は協力することが義務づけられているのです」


「なるほど」


 よく分からないけど、バランスを保って国の平和を維持する感じかな?


「まあ、王都との交渉は請け負う。じゃが、港の拡張は厳しいじゃろう。いくら利益があるとはいえ、南方伯様も簡単には頷かんぞ」


 港の拡張計画まで組み込まれていたのか。そりゃあギルマスも難しい顔をするはずだ。


「ブレシア王国では軍港を利用していましたから問題ありませんでしたが、南方都市は海上貿易の中心地です。キャッスル号の停泊時に送迎専用の区画がないと混乱しますよ」


 あ、キャッスル号を横付けする港を造れって訳じゃないんだ。送迎専用区画ならそれほど無理難題ではない感じかな?


「むう。この広い港が混乱するほど船が行き来するのか?」


「それはお客様がどれだけ南方都市を魅力的に思うかで変わりますが、最大五千程のお客様が目と鼻の先で滞在されることになります」


 うわ、ギルマスの腕の見せ所ですねって副音声が聞こえた。


 でも、豪華客船を利用できる人って基本的にお金持ちだから、お客としては美味し過ぎる獲物かもしれない。


「なるほど、気持ちよく散財してもらうためには、港の混乱は論外ということか。宿も増やすべきか?」


「キャッスル号の船室は快適ですから、南方都市で宿泊を選択するお客様は少ないと思われます。ですが、カリャリでもキャッスル号と商売したい方、乗船される方が前乗りされますので宿は増えましたね」


「南方都市にも一流と呼べる宿が揃っているぞ?」


「その辺りは豪華客船が停泊した時に招待しますので、ご確認ください」


 まあ、相手が一流でも施設では負けないよね。でも、船での長期生活に慣れず、陸に宿を取るパターンも考えられるから準備しておいても無駄にはならないと思われる。


「なるほど、で、その船はどれくらいの滞在を予定しておるんじゃ?」


「いくつかプランを用意しようと考えています。今のところ寄港地に五日、十日、十五日、滞在で試してみる予定です」


 滞在期間はみんな悩んだ。


 僕的には航海の期間もあるのだから一つの港で十五日は長すぎだろうと思ったのだが、交通網が発達していないこの世界だと、平気で旅に数ヶ月かけることもあるので十五日でも短いと判断する可能性もあるのだそうだ。


 だからこその複数プラン。お客さんを実験台にして情報を集める悪辣な考えだ。


 それにしてもカミーユさんとギルマスの会話が止まらない。でも、二人ともなんだか楽しそうでもある。


 これなら南方都市への定期航路も上手くいくだろう。たぶん。




 ***




「アレシア、ドロテア、イルマは居ませんが、この状況はなんだか懐かしいですね」


 カミーユさんとギルマスの熾烈な交渉の翌日、僕達は和船で南東の島に向かっている。


 わざわざ許可を貰って南東の島に行くのはどうかと思っていたのだが、そんなタイミングでギルマスがルト号にやってきたのでついでにお願いしたら、サックリと依頼を押し付けられた。


 僕が居た頃から難所を越えられる小型の魔導船は増えておらず、前に悪目立ちしたような亜種のサーベルタイガーを丸のまま運ぶ、なんてことができずに依頼が溜まっているのだそうだ。


 まあ暇していたし、三人が居なくても前よりも圧倒的にレベルが上がり、イネスとフェリシア、リムとふうちゃんの協力があればなんの問題もないとのこと。


 それでも、最初はテント筏をグイドさん達に提供して泊まる場所がないと依頼は渋ったのだけど、ギルマスになんか自信満々な顔で太鼓判をおされたので引き受けることにした。


 南東の島、どうなっているんだろう。僕の和船がなかったら筏は運べなかったはずなんだけど……。


「あの島で出汁の味わいを学んだのでしたね。たしかに懐かしいです」


「唐揚げ、美味しかった」


 僕のつぶやきに答えてくれたのはクラレッタさんとカーラさん。二人とも感想が食べ物についてなのはどうかと思うが、それだけ喜んでくれていたのなら僕も嬉しい。


「そういえばご主人様、ガレット号なら難所を越えられるんじゃない?」


「うーん、たしかにガレット号なら楽勝だけど、荷物を運べないから無意味に新しい船を公開するのは駄目かな」


 あと、スピード狂が今のメンバーの中にも幾人か存在するから、心臓を傷めつける行為はできるだけ避けたい。


 だってあれだよ、激しい海流、岩礁という複雑な障害物、そんなところにガレット号とスピード狂を解き放ったら大騒ぎ確定だもん。


 不壊の効果が逆効果になり、ガンガンチャレンジしちゃうのが目に見えている。


「ああ、さすがに三艘のガレット号で乗り付けるのは目立つわね」


 目立つどころの話ではないよね。人が少ない南東の島とは言え、数日経ったら南方都市で噂になるくらい目立つと思う。


 そんな風に昔を懐かしみつつ難所を越え、そして唖然とした。


「ワタル。目的地間違えた?」


 カーラさんが純粋な目で僕に問いかける。


「いえ、さすがに場所を間違えたはずはないんですが……」


 いくら時間が空いたとはいえ、何度も通ったこの場所を間違えるはずがない。目の前の光景が幻覚でないのなら、ポツンポツンと数枚のテント筏が浮かんでいたこの場所が発展したのだろう。小さな村と言えなくもないほどに。


「お、もしかしてワタルか?」


「あ、グイドさん、お久しぶりです」


 呆然としている僕に船を寄せて声をかけてきたのは、当初お世話になったグイドさん。


「おう、久しぶり。驚いているようだな」


 なんかしてやったりの顔をしているグイドさん。僕達が驚いているのが嬉しいのだろう。


「驚きますよ。えーっと、グイドさん達の船では筏を運べませんでしたよね?」


 島で木を伐っていると魔物が寄ってきて危なかったはずだし、この規模まで発展させるのは難しいはずだ。


 というか、こんな秘境をこれだけ発展させる必要があるのかが疑問でしかない。


 テントとはいえ大きな建物が十、小さいのを入れると三十近く立っているように見える。


「ああ運べねえけどな、知恵を絞ればなんとかなるもんだ。まあ、知恵と言えるほどでもないがな」


「どういうことですか?」



 グイドさんの話はとても単純だった。


 大きくて大量に運べないのであれば、小さく少量を運べば良いじゃない。ということらしい。


 南東の島にたどり着ける四艘、それぞれお客を運んだうえでの限界値を探り、その寸法と重量で筏の部品を用意する。


 それを南東の島に往復するたびに運び、パズルのようにパーツを追加していく。それを繰り返したのだそうだ。


 まさしく塵も積もればってやつだな。


 しかもそれを造っているのは、僕が紹介した船大工の棟梁ドニーノさんのところのお弟子さん達らしく、工賃も安いのだとか。


「でも、こんなに規模を大きくして、嵐は大丈夫なんですか」


 それがテント筏の最大の問題だったはずだ。


「ああ、何度か嵐には遭ったし、その度に解体して陸にあげるのも手間でいくつかの筏が損壊したが、テントさえ避難させちまえば、他の部品が小さいし代用が利くように造ってあるから組み合わせればなんとでもなるんだよ」


 壊れることも織り込み済みなのか。パズルの場合はハマる場所が決まっているが、どこにでもハメられるように造ってあれば、たしかに復旧は楽になる。


 壊さないのではなく壊れても良い筏。ある意味逆転の発想だな。


 普通に驚いた。


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 創意工夫が素晴らしい。
[良い点] 毎週楽しみに読ませていただいています。 リムの生まれた島に里帰りイベントですね。懐かしい人達が元気で過ごしているのを見て安心しました。 [気になる点] 懐かしい人達との邂逅でホッコリしま…
[良い点] 500話くらいで元の島に遊びに来るの良くていいですね〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ