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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第ニ十章
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21話 作戦成功?

 魔導砲奪取作戦、そのためにクレーン船を購入したり偵察をしたりと色々と頑張った。トントラード伯爵が予想外の宴会を開催しており、それに対する対策でお酒を差し入れするなんてこともした。時間がない中、クレーン船の操縦も玉掛けも訓練した。そのすべてが今結実する。




「ワタル! 連結完了!」


 クレーン船に乗り込み、すぐに行動に移ったマリーナさんから、クレーンと玉掛けワイヤーの接続完了が告げられる。


 クレーンの操縦者に任命された僕に流れ込んだ知識には、ここからくどいほどの安全確認の手順が組み込まれているのだが、さすがにこの状況で安全確認をしている暇はない。マリーナさんが離れたらすぐに行動だ。


 マリーナさんが離れたのを確認しクレーンを操作する。ウインチでワイヤーを巻き取り、ピンと張ったところでいよいよ魔導砲を吊り上げる。


 ……吊り上げる。 ……吊り上げる。


 え? マジ? なんか予想よりも魔導砲って重い? いや、いくら何でもあのサイズで五トン以上あるとは考えられない。


 五トンって五千キロだよ? いくら魔導船だとしても船の重心がおかしくなるだろう。


「ワタル! 下の土台が甲板に張り付けてある!」


 マリーナさんから悲鳴のような報告が届く。


 マジか、ビス止めがされていないのは確認していたが、別の方法で船に固定していたらしい。


 どうする?


 周囲を見渡すと周囲の船が動き出している。帆船は無理にしても数少ない魔導船やガレー船っぽい船はそれほど時間がかからずに集まってくるだろう。


 どれだけ船が集まってこようが負けることはないのだが、スタイリッシュな泥棒を想像していた自分としては、強引な突破は遠慮したい。


 奪取に失敗するのは論外として、とりあえずクレーンをフルパワーにする。


 これも力業な気がしないでもないが、五トンまでは許容内ということにしておこう。最終手段は下の台座を武力で切り離すつもりだ。


 クレーンが唸りを上げる。


「ワタル。船がミリミリいっているわ。もっと強くできる?」


 船がミリミリ? 独特な擬音だけど、魔導砲の接着面が徐々に剥がれているのかもしれない。


「すでにパワー全開です。いけそうですか?」


「分からないわ」


 そうだよね、こんな状況、判断できるわけがないよね。


 いざとなったら武力を用いることを念頭に置いて、魔導砲を見守る。クレーンはフルパワー、船召喚のチートな設備でなければワイヤーが既に弾け飛んでいただろう。


「うわっ!」


 いきなり船に火の塊がぶつかり、情けない声を上げてしまう。なにごとかと火が飛んできた方向を見ると、魔導船の船縁に兵士の姿が。


 そうか、これだけ騒げば兵士も出てくるよな。というか、兵士の姿だけでトントラード伯爵の姿が見えないのが問題だな。たぶん爆睡しているんだろう。


 指揮官の不在が響いているのか、兵士は直接こちらに攻撃をしてきて、すべてが結界に阻まれている。


 バキン! 攻撃とクレーンの騒音のなか、一際大きな音が響き渡る。


 おお、魔導砲が傾いている。接着面の一部が剥がれたようだ。本来クレーンで平衡を失うのは危険なんだが、今は問題ない。頑張れクレーン!


「なにをしておる! 殺せ! いや、その前に魔導砲だ! あの紐を切れ!」


「どうした!」


「伯爵、敵の襲撃です! 魔導砲が狙われています!」


「なんだと! 絶対に守るのだ!」


 指揮官が出てきて意外と的確な指示を飛ばした。その背後からトントラード伯爵も現れ、檄を飛ばしはじめた。ちょっと体調が悪そうなのは、寝起きなのとお酒が残っているからだろう。


 その二人の指示に従い兵士が走り、ワイヤーに向かって剣を振るう。


 うん、あっさり弾かれた。そうだよね、あれは不壊の道具だから、剣で斬ろうがスキルを使おうが切断することはできない。


 玉掛けワイヤーを外したいなら、連結部分から外すしかない。まあワイヤーのテンションはマックスだから、それも人力では難しいんだけどね。


 あ、片面が剥がれて負荷がかかったのか、まだ持ちこたえていた部分が徐々に剥がれてはじめ……よし、魔導砲が持ち上がった!


「持っていかせるな!」


「「「「うおぉぉぉ!」」」」


「高いんだぞ!」


 指揮官が率先して魔導砲に飛びついた。それに奮起されたのか、兵士達も次々に魔導砲に取りつく。


 最後に、高いんだぞ! と伯爵らしからぬ言葉を発しながら伯爵も魔導砲に飛びついた。


 伯爵が焦るくらいだから、魔導砲ってめちゃくちゃ高いんだろうな。


 接着面が剥がれると、五トンを吊り上げるクレーンのパワーは伊達ではなく、飛びついたトントラード伯爵達もまとめて宙に吊り上げる。


 なんかこういうシーン、とある三代目の大泥棒のアニメで見たことがあるな。あっちは警察官が群がる正義の行動だけど、こちらは伯爵の我欲。見苦しさではこちらが上だ。


 ……さて、これからどうしよう。吊り上げられた魔導砲を見て思う。


 あとはクレーンを操作すれば魔導砲を奪取できるのだが、魔導砲に人がしがみついているから移動させると結界と魔導砲に挟まれてミンチになる可能性がある。


 ……人のミンチ塗れの魔導砲。ロマンが一瞬で色あせてしまうこと間違いなしだ。


 でも、船内に招き入れるのも嫌だ。マリーナさんやイネスが負けるとは思えないが、新品のクレーン船を血で汚したくもない。


 周囲を見ると魔導船はこちらに向かってきており、ガレー船っぽい船も動き出している。ゆっくり考えている時間はない。


 ……よし、そのまま出港しよう。


「イネス、出港!」


「え? この状況で?」


「うん、急いで!」


 イネスに指示を出しながら、クレーンを動かし魔導砲を船尾の方に移動させる。これで左右のバランスが崩れることはないだろう。前後のバランスは少し崩れるが、まあ、転覆はしないはずだ。


 船が走り出した衝撃で吊り上げた魔導砲が揺れ、何人かが海に落ちる。


 ヤバい! とっさに魔導砲だけではなく、それに捕まっている人間達にも乗船許可を出す。あぶない、少し遅かったら結界と魔導砲に挟まれてミンチだったぞ。


 クレーンを寝かせて、船体と魔導砲の距離をもう少し保とう。


 うん、これで揺れても大丈夫だな。おっと、忘れずに乗船許可も取り消しておこう。


 なんせこの世界はファンタジー、身体能力も人間離れしているから、こちらに飛び移ってくる可能性もある。


 …………実はこちらに飛んできて結界にぶつかることを少し期待していたのだが、残念なことに誰も飛び込んできてくれなかった。


 見たかったんだけどな……。


 まあいい、今は脱出を優先するべきだ。想像していたほどスタイリッシュにはできなかったが、一応魔導砲も奪取できたし問題ない。余計な荷物が付いているけど……。


 魔導船がこちらに向かってきていて、ガレー船も動き出しているが帆船は止まっている。動き出したことによってその隙間は大きくなり、イネスの操船で悠々とその隙間を抜けていく。


 途中、何度かすれ違った船から攻撃が飛んできたが、魔導砲にしがみついているトントラード伯爵の叫びを含んだ命令でその攻撃も止まる。


 そんなつもりはなかったのだけど、結果的に向こうのトップを人質に捕った形になっちゃったな。


 振り返るとすれ違った魔導船がUターンしようとしている。一応、まだ追いかけてくるつもりのようだが、追いつくことは難しいだろう。


 ふむ、フェリシアもこちらを追いかけてきているけど、さすがに潜水艇で海上を走るクレーン船に追いつくのは無理か。


 まあ、逸れたらキャッスル号に戻るように取り決めてあるから、問題はないか。それよりも……。


「マリーナ、あれ、どうしたらいいと思います?」


 魔導砲に引っ付いているお荷物の対処が問題だ。


「んー、落とす?」


 マリーナさんが、さして悩まずに厳しい判断を下した。


「それって死にませんかね?」


「追いかけてきている魔導船が間に合えば大丈夫……だと思わなくもない」


 ついでに暗い海の中で無事に発見されるという運も必要になるな。海に落ちて素早く光球を浮かべる機転が利けば別だけど。

 

「魔導船に追いつかれても面倒ですし、魔導船を撒いてから陸地の近くで捨てましょうか。とりあえず外海に向かって進んで途中で陸に向かいます」


 さすがに殺すのは嫌だし、しっかり僕の魔導砲にしがみついているから、しばらく落ちることもないだろう。落ちたら……その時はその時だ。


 


 ***




「たのむ、許してくれ。私が悪かった、謝るから、謝るから許してくれ。すまなかった。本当にすまなかった」


 魔導船を撒き、陸地に近づいてトントラード伯爵に声をかけたのだが、返ってきた言葉は謝罪の言葉だった。たぶん、明るい場所で見たなら伯爵達全員がうつろな目をしているのが分かっただろう。


 ……うん、しょうがない。わざとではないけど、あんな目に遭ったら誰でもそうなる。


 方針を決めた後、僕達は方針通り外海に向かった。


 今まで、外海に出るのは当然のことで、感覚がマヒしていたことが原因だと思うが考えが足りていなかった。


 外海に出ると魔物が襲ってくる頻度が上がる。普段は全部結界で跳ね返すから無視していたのだが、今回は結界の外に魔導砲がぶら下がっているのを忘れていた。


 そこからは僕達も大変だった。


 ぶら下げられた餌に反応して襲い掛かってくる海の魔物達、放っておけば伯爵達は食われ魔導砲も壊されてしまう。


 だから僕は急いでイネスと操船を交代し、リムも動員して襲い掛かってくる魔物から魔導砲を守ることになった。


 その時には伯爵達のことを気にしている暇はなかったのだけど、落ち着いて考えれば相当怖かったのは理解できる。


 クレーンに吊られ揺れまくる真っ黒な海上、食われたら死ぬ、落ちても死ぬ、怖くない訳がない。


「あ、もう陸の近くですから、泳げば生き残れますよ。ほら、陸が見えるでしょ? 降りないのであればもう一度外海に行くことになりますね」


 バシャン、ボチャン、バチャン、誰もが躊躇わず海に飛び込み、陸地に向かって泳ぎ始めた。


 トントラード伯爵とか偉そうだったし、最後まで足掻きそうな性格だと思っていたのだけど、それを上回るほど怖かったらしい。


 魔導砲から人が消えたのを確認し、クレーンを操作して魔導砲を結界内に取り込む。


 スタイリッシュとはいかなかったが無事に魔導砲を確保できた。


 次は魔導砲を愛でたいところだけど、みんなも心配しているだろうしさすがに眠くなってきた。魔導砲の確認は後回しにしてキャッスル号に戻ることにしよう。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] いやがらせとしては最上クラスではw
[一言] ル◯ンと伯爵だけに余計に最後はプチッとなるイメージがこびりついて焦ってしまったわけですな
[一言] 半没させて船ごと掬って甲板に乗せるタイプの作業船を買って、載せた後に乗船拒否したら一発で片が付きそうとは思いましたが… 魔導砲のみを奪おうとしてたんですね そもそも固定式でない艦砲のイメー…
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