10話 再びの胡椒貿易とイネスとフェリシアの新たな趣味
ダークエルフの前の村の近くの海岸で、木材を回収してダークエルフの島に戻って来た。島に着くと村長さんが住民を率いて丘から降りて来た。
「村長さんおはようございます、順調ですか?」
「ワタルさんおはようございます、ええ、今の所順調ですよ」
「そうですか、良かったです、木材は全部持って来れたと思いますから、回収お願いします」
「ありがとうございます、みんな聞いたか? これで木材は最後だ村に運ぶぞ」
村長の号令と同時に村人達が木材を運び始める。一緒に木材を運びながら丘に向かうと、全体を柵で囲み終わって家を建て始めていた。
「村長さん、もう家まで建て始めてるんですね」
「ええ、柵は昔使っていた物をそのまま組み上げたので早く済みました。ですが家となると専門家の指導が必要です。これから時間が掛かるでしょうな」
「そうですか、でも十分に早いペースだと思いますよ。何か必要な物はありませんか?」
「今の所、十分過ぎる程の物資を頂いてます。管理をしている者の話では、最低でも5ヶ月は生活出来るそうです。
草原に偵察に出た者の話では、角兎や野鳥等も狩れそうだと言っていましたから、それ以上の期間、生活出来ると思います」
「そうですか、僕達はこれから胡椒貿易に出ようと思っています。最低でも1ヶ月はこの島に来れませんが大丈夫そうですね」
「胡椒貿易に行かれるんですか。この島に来るまでに海の魔物を撃退する所を見てなければお止めしたんですが、ワタルさん達ならば大丈夫なのでしょうな。私共は十分にやっていけます。ワタルさん達もお気を付けて。無事のお戻りを願っております」
「はい、ありがとうございます、では、また」
フェリシアも村長と母親に挨拶して船に戻り出航する。
「まずはヨーテボリに行って、南の大陸の情報を調べて、出来れば商品の売買だね。そこから別の国を目指すね。治安の悪化が酷ければヨーテボリから直ぐに撤退だね。何か質問はある?」
「別の国まで行くなら全部でどの位の胡椒を買い付ける予定なのかしら?」
「うーん、スパイダーシルクが同じ値段で引き取って貰えるなら、35白金貨になるから。最低でも35白金貨分は胡椒を集めようか」
「まあ、その胡椒だけで700白金貨になるわ、豪華客船は目の前ね」
「あはははは、分かってるのに意地悪言わないでよ。胡椒を一度に卸せないし、白金貨を下ろすのも時間が掛かるから、まだまだ先だよ。それにいくら胡椒の産地でも2ヵ国で35白金貨分も買えるかな?」
「うーん、どうかしら? 昔大船団を組んで胡椒を持ち帰り、大金を稼いだ話を聞いたことが有るから、集まるんじゃないかしら?」
「そんな話があるんだ。確かに船団を組めば大量に運べるね。イネスとフェリシアに操船を覚えて貰って、もう2艘、船を買おうか? そうしたら更に胡椒を卸せるし」
「操船出来たら楽しそうね」
「ですがご主人様、あと2艘も魔導船を買ったら、確実に国から目を付けられますよ。このサイズの魔導船でも持っているのは一部の豪商か貴族なんですから」
「世間的には一介の商人であるご主人様が、3艘の魔導船を所有していたら国、貴族、大商人から勧誘、脅迫、冤罪、様々な方法でご主人様から船を奪おうとするでしょうね」
「あー、一気に胡椒を卸す量を3倍に、なんて上手くはいかないか。和船でさえ冤罪を掛けられて取り上げられそうになったし、国が出てきたら酷い事になるよね」
「うふふ、エンリコさんから聞いたわ、私達を買う前に男爵が後ろ盾の商人に冤罪で訴えられて、南方伯様ご臨席の裁判で無実を証明したのよね。私も見たかったわ」
「あの冤罪はくだらない方法で無実が証明出来たけど、商業ギルドマスターが南方伯様に話を通してくれなければ危なかったんだよね。
普通の場合、男爵様のごり押しで僕の有罪が決定。和船は没収、僕もどうなっていたのか、そう考えると男爵様以上の王侯貴族とやりあう可能性はご免被りたいね」
「ご主人様のスキルですと、船に乗ってさえいれば何とでもなるんですが。ゴムボートを更に大量購入して限界まで食料を買っておけば相当な期間耐えられます。
ですが、狭いと辛いですし囲まれ続けるといずれは限界が来ますよね。豪華客船を買って更に十分な資金があれば大抵の状況にも対応出来るようになりますが」
「うふふ、そうね、ご主人様の船購入画面で見ただけだけど、とっても大きくてとっても楽しそうな物が沢山あったわね。あの大きさを囲み続けるのは大変でしょうし、海の上なら進路を塞ぐ事さえ難しいわ。豪華客船があれば安心ね、頑張りましょうねご主人様」
「そうだよね、豪華客船を買って資金を貯めれば少し位無茶をしても平気になるし、それまでは時間が掛かっても慎重に行動しよう」
豪華客船を買っても、少し位の無茶をする自分が思い浮かばないけど……
「世間の目では、胡椒貿易に連続で挑戦する無謀な商人に見えてるのに、本人は慎重に行動してるつもりなのが不思議ね」
「あー、そう言えば、胡椒貿易も無謀な挑戦になるんだよね。なんとか目立たずに大量に胡椒を卸す方法を見つけたいね。船を買うのは止めておくにしても、2人とも操船を覚えてみる?」
「楽しそうね。覚えてみたいわ」
「私も覚えたいです」
「じゃあ、やってみようか、と言っても難しい事は無いんだけど、フライングブリッジで説明するね」
「「はい」」
「まずはエンジンを掛けて、そしてこの右下のレバーのこの位置が普通の何も動いていない状態の位置で、ここから前に1つ倒すと船は前に進み、更に倒すとスピードが上がり、一番奥まで倒すと、一番速く進みます。
そして反対側に倒すと船は後ろに進んで、ハンドルは左に回すと左に、右に回すと右に曲がります。あとは慣れかな、沈まない船なので色々と試してみてね」
「あら、意外と簡単なのね」
「私にも出来そうです」
「まあ基本だから、係留所や天候など覚える事はまだまだあるんだけど、まあ昼間は交代で操船してみるといいよ」
異世界だし免許も無いし、僕自身も船の事は全く分からないから、これ位しか教えられないよ。航海法とかこの世界にあるのかな?
「「はい」」
さっそくイネスが操船しだした、レバーをいきなり全開ですか、ハンドルを左右に切りながら感覚を確かめている、凄く楽しそうだ。
「楽しいわね、自分で操縦していると速度の違いもよく分かるし、楽しいわ」
暫く操縦していると、フェリシアも我慢できなくなったのか代わるように要求している。
「イネス、そろそろ交代してください、私も操縦してみたいです」
「あら、そうね、ごめんなさい、楽しみすぎちゃったわ。
ご主人様、とっても楽しかったわ、でも広くて何もない海じゃなくて、障害物が沢山ある所で操船してみたいわ」
「はは、機会があればっという事で……」
「うふふ、約束よ」
なんかイネスに操船させるの怖いな、早まったかも。障害物が沢山有る所に全開で突っ込んで行きそうだし。
その点、フェリシアは安心できる。1段階ずつスピードを確認しているし、ハンドルの切り方も穏やかだ。船に出来る事を一つ一つ確認している。
「ご主人様、楽しかったです。自分で操船すると、ただ船に乗っている時よりも、船が身近に感じられました」
フェリシアは最終的には、最高速まで試してたけど、スピードに快楽を覚えるタイプじゃないみたいだし、安心できるね。
「楽しかったなら良かったよ。2人とも気が向いたら練習すると良いよ」
「「はい」」
「うふふ、魔物が襲ってこないかしら、追っ駆けっこしたら楽しそうだわ」
「イネス、無茶な事言わないでください」
「でも、フェリシア、魔物や敵の船から逃げないといけない場面もあるかもしれないわ。訓練はしておいても良いと思うわ」
「……魔物はともかく、ルト号に付いて来れる敵の船など想像できませんが……ご主人様、どうなんでしょう?」
「うーん、何が起こるか分からないし、無茶をしないのなら良いけど。敵の船って……海賊とかっているの?」
「海賊は、よく使われている安全な航路に出没すると聞いた事があります。あとは横暴な国の軍船等も略奪してくる事があるそうですが、外海を通れば、ほぼ出会わないと思います」
「あー、外海は魔物が多くて危険だし、船も通らないから海賊なんかはいないんだ。でも安全な航路を通る場合は出会う可能性があるんだね。
人を乗せていて、その人にルト号の能力を出来るだけ見せたくない、なんて状況になった時に海賊に襲われたら、逃げなきゃいけないんだけど……そんな状況になるとは思えないな」
「でも、ご主人様、商業ギルドに頼まれたらそんな状況も有り得るわよ? 特にカミーユさんに頼まれたらご主人様、断れるの? 練習は必要よ」
「うーん、そう言われると、そんな気もする……まあ、練習しておいても損は無いしあまり無茶をしなければ良いですよ」
「やったー、ありがとうご主人様」
「分かりました」
うーん、イネスの喜びの大きさに不安感が……
「さっそく、練習するわね」
『……りむ…やる……』
「えっ? リム、何をするの?」
『……これ……』
ハンドルの上でポヨンポヨンしている……えっ? リムが操船するの?
「えっとね、リムには難しいかなって僕は思うんだけど」
『……やる……』
しょうがない、リムがやりたいと言うのなら叶えてあげるのが僕の役目だ。
「リムはハンドルを動かす役目ね、僕がレバーを動かすね」
『……うん……』
「えっ、ご主人様? どうしたんですか?」
「リムも操船したいって言ってるんだ、叶えてあげるのが僕の役目だよね」
「そんなに力強く言いきられても……リムちゃん、本当に操船するんですか?」
「フェリシア、諦めなさい。幸い沈む事はないんだから。私達だけ楽しむのはリムちゃんが可哀想でしょ」
「まあ、そうなんですが……いいんでしょうか?」
うん、フェリシア、とっても不安そうだ、ごめんね。でもリムが望むのなら僕は大抵のことはやっちゃう覚悟です。
「おお、リムは上手だね、今度はあっちに行ってみようか? そう、リムは凄いね、もう少しスピードを上げてみようね」
「ちゃんと操船出来ていますね。どうやってハンドルを回しているんでしょう?」
「そうね、不思議だわ」
いつもの日課に新たな項目が加わった。サロンで寝っ転がっていると急にスピードを出す船、左右に振られる体、刺激的過ぎます。
今までも魔物の襲撃は暇つぶしにはなっていたんだけど、操船を覚えてからはイネスは魔物の襲撃を待ちわびている。フェリシアも操船は楽しいのかイネスに付き合っている。
イネスが言うには、逃げる魔物を追いかけるのは面白くないそうだ。直ぐに潜って逃げられてしまうと不満顔で、追いかけてくる魔物はとても楽しいらしい。
最近では諦められないように全力で逃げるのではなく、距離をギリギリまで魔物に近づけて触れられたら負けなゲームをしている。負けた方が次の魔物の襲撃までの見張り役だそうだ。
一度、夜の海での逃走劇がやりたいと言って来たので、許可したら一晩中楽しそうな笑いが響いて来た。
フェリシアとたっぷりイチャイチャして眠ったが、イネスが居ないのも寂しいので禁止令を出した。楽しかったらしく何度も撤回を求められた……偶にならと許可を出してしまった、僕は弱い。
「ご主人様、そろそろ魔物が疲れたみたいだから戦うわよ、準備してね」
「分かった、リム、行くよ」
さんざん走り回らされて最後には魔法で討伐される。海の魔物が哀れに思えるのは僕だけなんだろうか? 僕だけらしい、2人は楽しそうに魔法を撃ち込んでいる。倒した魔物から魔石を回収して倉庫船にしまう。
「うふふ、グラトニーシャークは諦めないから素敵よね」
「そうですね、かなり楽しめます。ですが稀にしか出会えないシーサーペントには劣りますね」
「うふふ、そうね、特にブレスが素敵だわ、ドキドキしちゃうもの」
「ええ、ギリギリでかわした時の爽快感、ブレスに当たった時の悔しさ、病み付きになってしまいますね。また襲ってきて欲しいですね」
「そうね、どこかにシーサーペントの巣とかないかしら?」
「見つけられたら楽しそうですね、四方八方から襲い掛かって来るシーサーペント、飛び交うブレス、腕を上げておかないと一瞬で負けてしまいそうですが」
「そうね、スピードを制限して逃げれば練習になるかしら?」
「良いかもしれませんね、ハンドル操作と状況判断の練習にはなりますね」
「そうね、試してみましょう、うふふ、早く襲ってこないかしら」
「待ち遠しいですね」
こんな事になるなんて、イネスはともかくフェリシアまで夢中になるとは。なんだろう、まるで、このアクセサリーいいよね、でもこっちの方がいいかな? みたいなノリで魔物の品評をしている。
フェリシアはちゃんと役目を熟してくれるし、ハッチャけるのは僕が許可を出した時だけなんだけど。許可がある時はイネスと変わんない位にハッチャけるよね。
シーサーペントの巣? あの人達見つけたら確実に突っ込むつもりで話してるよね? むしろ探そうとするんじゃなかろうか、操船を禁止する? あれだけ楽しそうなのに禁止したら反動が怖いな。
ストレスとかも関係してそうだし、休日をあげた方が良い気がする。僕は護衛がいないと出歩けないけど、1日位なら平気で船内で籠ってられるから、南方都市に帰ったら休日をあげよう。
穏やかで何もないのんびりした時間と、突然始まる激しい逃走劇を交互に繰り返しながらヨーテボリに着いた。今回も政情が不安定な可能性が高いので和船で離れた位置から上陸した。
「今回は10日で着いたね、自動操縦で15日も短縮出来たし、かなりいい能力だよね」
「そうね私達のゲームが無かったらもう少し早く着いたでしょうし、凄い力ね」
「そうですね、余分な時間が掛かっていますから。ご主人様のお力は素晴らしいです」
「イネス、分かってるなら、少しは控えてね。ねえ、イネス、こっちを向いてよ」
「ふぅ、まあ、操船が上達しているから良いんだけど……。街の中の治安が酷かったら直ぐに撤退しますので、護衛の方はよろしく頼みますね」
「「はい」」
「あっそうだ、リムは頭の上じゃなくて鞄の中に隠れていてね」
『……うん……』
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




