9話 屋形船召喚
ダークエルフの島に帰還し、依頼を達成したのでアンネマリー王女から報酬の神器を頂いた。それによりペントは体を小さくすることができるようになり、ほとんどの時間を共に過ごせるようになった。それに安心した僕は、本格的にジラソーレにお詫びをすることにする。
「きゃっ、あ、だめ、おちちゃう」
落ちそうなのは僕の方です。恋に。
ヨットを召喚し、その知識を得た好奇心が強い女性陣が様子見なんかする訳もなく、素早くヨットを抱えて海にくりだした。
小型とはいえ、ヨットはそのように持ち運ぶ物ではないというツッコミは無粋なのだろう。この世界の女性は高レベルであれば小型ヨットくらい軽々と持ち上げる。常識だ。
「ほら、アレシア、落ちたのだから交代よ」
「ドロテア、ちょっと待って。もう少しでコツが掴めそうなのよ」
「ダメよ。私だってもう少しで乗れそうなんだもの」
ただ、高レベルの冒険者でヨットに関する知識を得ていたとしても、さすがに飛ぶヨットの操船は思うようにいかないらしく頻繁に落水している。
正直に言おう。素晴らしい光景だ。
今までに何度も女性陣の際どい姿を見たことがあるから、今更女性陣の水着姿を見てもちょっと激しく興奮する程度だと思っていた。
だが、目の前の光景は僕の予想を上回り、贖罪の為に沈黙しているはずの僕の熱いパッションを激しく刺激してくる。
白い砂浜、透き通るような綺麗な海、サンサンと降り注ぐ太陽、そんな素晴らしいシチュエーションの元、健康的でスタイル抜群な水も滴る美女達が激しく戯れる光景はまぶし過ぎる。
だって、あの人達、ヨットに夢中で凄く無防備なんだもん。
凄いよ、僕がそんな恰好しちゃ駄目って言いそうになるくらい過激なポーズを無意識に……ああ、マリーナさん、そんなに胸を反らしたらこぼれちゃう、あ、駄目、イルマさんそんなに開いたら……ちょ、クラレッタさん……幸せです。
とりあえず撮影許可を……いや、なんか目的が変わってしまいそうだけど、これは贖罪なんだからそんな頼みごとをしては駄目だ。そうか、この光景を映像に残せないのもある種の罰なんだな。
とりあえず、全力で脳にこの光景を焼き付けよう。
特殊なヨットではあるが、知識を得て身体能力が抜群な女性陣は、しばらく練習すると平気で乗りこなすようになった。
やはりレベルアップの恩恵は計り知れないようだ。まあ、僕のようにそれを使いこなせないとあまり意味はないのだけどね。
で、乗りこなせるようになると、当然のごとく競争が始まる。
驚いたのは普段スピードにあまり興味を示さないメンバーもレースに乗り気なことだ。
今までの船と違い、身体能力を活用する部分が結構楽しいらしい。
現在レースではマリーナさんが頭一つ抜け出している。
理由は風を読む力。斥候の技術がここで生きているらしい。
ヨットは基本的に風を帆に受けて進む。普段から偵察の時に臭いや音の関係で風の流れを意識するマリーナさんは、その風の捕らえ方が抜群に上手い。ついでにマリーナさんはふうちゃんも従魔にしている。風のプロフェッショナルと言っても過言ではない。
僕ならすぐに諦めるのだが、Aランクの冒険者にまで上り詰めたジラソーレの面々、特にその中のスピード狂達は負けず嫌いを盛大に発揮し、プロフェッショナルなマリーナさんに勝つために果敢に挑んでいる。
まだヨットを提供して数時間しか経っていないのに、既に彼女達はヨットに夢中になり、ダークエルフの島一周レースの開催まで計画している。もう、ライバル意識がバチバチで視線に火花が散っている気がするくらいだ。
「ねえフェリシア、お詫びのつもりでヨットを提供したのだけど、これってちゃんとお詫びになっているのかな? 火種になってない?」
もうアレだよ、スポコンみたいになってる。
「火種なんてとんでもありません。ヨットはとても良い船です」
あー、そうだね。フェリシアもスピード狂の一員だもんね。質問する相手を間違えた。
「そ、そっか、それなら良かったよ。あ、次はフェリシアの番じゃないの? 行ってきなよ」
「あ、そうですね。ありがとうございますご主人様、では、行ってきます」
フェリシアのペカペカの笑顔か、珍しいけど可愛らしかったな。
「……リム、ペント、今日のお昼ご飯は特別な品だよ。美味しいから楽しみにしていてね」
なんかもう僕の手に余る事態になっているから、放置を決定してリムとペントと戯れることにした。
「そろそろお昼にしますから、戻ってきてくださーい」
海で遊び続ける女性陣に大声で呼びかける。信じられないことに朝から昼まで女性陣は楽しく遊び続けた。水の中で動くのってかなり疲れるし、ヨットの操船もかなり体力が要るはずなんだけどね……。
夢中になって戻ってこないようならヨットの送還も考えていたが、さすがにそこまで子供ではなかったようでみんなスッキリした笑顔で戻ってきてくれた。
「ふふ、訓練や魔物討伐で体を動かしてはいたけど、遊びで思いっきり体を動かすのは違った気持ちよさがあるわね。ワタル、楽しかったわ、ありがとう」
アレシアさんのお礼を皮切りに、ジラソーレの面々から笑顔でお礼を言われる。僕の贖罪、かなり成功しているのではないだろうか?
この調子で畳み掛ければ、無罪は無理にしても情状酌量の余地は得られるかもしれない。とか考えている時点でダメなんだろうな。真剣に謝罪に向き合おう。水着姿がまぶしくて目を逸らせないけど。
体を軽くふいて薄手のパーカーを羽織っただけの水着姿って、逆にエロい気がする。
「ワタル。お昼も特別だって聞いた。なに? お昼なに? 美味しい?」
不純なことを考えていたので、いきなりのカーラさんのドアップに驚く。
あれ? たしかに今日のお昼は特別な物を用意したけど、サプライズのつもりだったから誰にも言ってないよね?
「えーっと、どこかで言いましたっけ? 内緒にしていたはずなんですが」
「? ……ワタル、リムとペントに言ってたよ?」
キョトンと首を傾げるカーラさん。とても可愛い。えーっと、でも僕、リムとペントに話したっけ?
あっ、そういえばちょっと前にリムとペントにそんなこと言ったな。でも、その時僕以外の人間は誰も近くに居なかったはず。
どこにいたかは定かではないが、カーラさんも確か海の方に……ピコピコと可愛らしく動くカーラさんのクマミミを見て確信する。理屈は分からないけど、聞こえていたんだな。
深く考えるのは止めよう。ワクワクしているカーラさんは可愛らしいからすべてOKだ。
「そうでしたか。えーっと、はい、たしかに特別な物を用意しました。楽しみにしていてくださいね」
「うん!」
「ではさっそく召喚します。船召喚!」
カーラさんの期待に応え、ヨットを送還した後に屋形船を召喚する。
それを見たアレシアさん達、イネス、フェリシアも驚きの声を上げてくれる。ナイスなリアクションに僕の気分も上々だ。
イルマさんが、これはドラマで見た国の古い時代の建物に似ているわね、と考察しているが、こちらはそっとしておこう。その情報、どこで手に入れたの? 時代劇? と思わなくもないが深く踏み込むのは怖い。
「今日のお昼はあそこで食べます。移動しますよ」
騒ぐ女性陣に声をかけて屋形船に移動する。
屋形船の中は畳敷きで、そこに鉄板を兼ね備えたローテーブルが並んでいる。
他の屋形船でテーブルタイプの船もあったのだが、屋形船と言ったら畳だろうという僕の思い込みでこっちにした。
アレシアさん達もフェリーで畳に慣れているし、雰囲気的にも畳の方が喜ぶと思ったから後悔はしていない。なにより、冒険者だから畳だろうがなんだろうがアレシアさん達は気にしないもんね。
「鉄板焼きなの?」
あっ、カーラさんの表情がちょっとガッカリしている。鉄板焼きは豪華客船で食べたことがあるもんね。カーラさんも喜んで食べていたが、未知の料理を期待していた分ガッカリしてしまったのだろう。
「鉄板焼きは鉄板焼きですが、今まで食べたことがない料理ですから期待してもらって大丈夫ですよ」
「ホント?」
「本当です」
僕が自信満々に頷いたのでカーラさんも納得してくれたようだ。
……あれ? そういえばもんじゃ焼きってジャンルで言えばB級グルメになるよね?
豪華客船で舌が肥えた女性陣を満足させられるのか?
……まあ、大丈夫か。だってもんじゃ美味しいもん。あと作るの楽しい。だから問題ないはずだ。
「では、まず説明しますから集まってください」
さすがに何の説明もなくもんじゃ焼きは作れないから、説明のために皆を集める。
ぶっちゃけみんなを屋形船のスタッフに任命すれば説明の必要はないのだが、それだと仕事になって楽しさが薄れそうだから止めておくことにした。
「今日の料理は自分で作りながら楽しむ料理です。名前をもんじゃ焼きと言います。作り方がちょっと独特なのでまずは作り方を見せます」
女性陣が納得してくれたようなので、鉄板に火を入れる。
さて、まずはメニューだが、最初は基本のもんじゃが良いか。それを食べてからオプションに手を付けた方が楽しいもんね。
オーダーを……そうだな、飲み物も注文するし、お手本を見せると言ってもフォローが必要になるかもしれないから、サポラビも召喚しておくか。二体でいいな。
サポラビと屋形船ってミスマッチな気がしないでもないが、そこはもう諦めるしかない。
……そうおもってサポラビを召喚したら、サポラビがハッピとねじり鉢巻きで召喚されてきました。
いや、雰囲気に合わせようとしてくれたのかもしれないけど、サポラビの時点で……ねえ?
「あら、可愛いわね」
「そうね、豪華客船やフェリーのと違って面白いわ」
好印象! あ、元々サポラビは可愛がられているから当然か。サポラビの復讐を恐れているのは僕だけだもんね。ちょっとうらやましい。
さて、サポラビから注目を取り返すためにもそろそろ始めるか。
なんどももんじゃ焼きを食べに行っているし、昨晩はしっかりイメトレもした。華麗なコテさばきで女性陣を魅了してみせよう。
読んでくださってありがとうございます。




