7話 通り越している気がする
地獄のような書類仕事から解放され、僕はテンションが上がり過ぎてエセイタリア男に変身し、少ない語彙でアレシアさん達を賛美しまくり、ついでにイルマさんとクラレッタさんにはセクハラまで繰り返した。日本でなら社会的に抹殺されかねない悪行兼生き恥だが、なんとか無事に生きることを許された。初めて異世界の優しさを感じたかもしれない。
「さて、あとはアレシアさん達だけど、どうしたものか」
アレシアさん達に土下座して数日、アレシアさん達以外には贖罪を済ませた。
アンネマリー王女には魔法少女物の新作を提供し、レーアさんと護衛の人魚さん達には高級酒か高級化粧品で手を打ってもらった。
イネスには僕から金貨を巻き上げていたのでそれでフィフティフィフティだと説明したが、ちょっとプレイが過激すぎだったと詰め寄られ、お小遣いの追加で妥協。
フェリシアには謝罪の必要がないと言われたが、フェリシアにも迷惑を掛けたので次のダークエルフの島への商品の納入を厚くすることで納得してもらった。
リムとペントは、ひたすら一緒に遊ぶことを贖罪とした。
イネス以外はみんな僕の謝罪だけで十分だと物品はなかなか受け取ってもらえなかったけど、それで僕の気持ちが楽になると説得してなんとか受け取ってもらった。
アンネマリー王女もレーアさんも他の人魚さん達も最終的には喜んでくれたから、少しホッとした。
でも、こう言ってはなんだけど、イネス以外みんな良い人すぎて逆に辛くなるってこともあるよね。こんないい人達に僕は迷惑を掛けて……と罪悪感が酷い。
イネスくらいストレートだと、ある意味心が痛まないから楽だ。
あとはジラソーレのメンバーに贖罪をすれば終わりなんだけど、みんな豪華客船での生活が長いからお酒や化粧品じゃあ弱いんだよね。
今はとりあえず女王陛下の依頼を果たしながらダークエルフの島に戻っているから、たどり着く前までにはなんとかケリを付けたい。
その後は豪華客船の航路の関係をカミーユさんに相談しにいかないといけないから、地味に予定が詰まっているんだよな。
さて、本気でどうしたものか。
カーラさんは美味しい食事、クラレッタさんは……神様関連は今は無理だからぬいぐるみ関連でどうにか償いたいところだが、クラレッタさんにはセクハラしちゃっているし、ぬいぐるみでお茶を濁すのは申し訳なく感じる。
ホント、どうしたものか。
僕の強みと言えば船召喚だし、船召喚でなんとか償えそうなアイテムが手に入らないか探してみるか。
……………………うん?
あれ? これ、凄く気になる。
え? ヨットが飛ぶの? どうして? ホバークラフトじゃないんだよね? 水中翼? 水中に翼があるの? 時速五十キロオーバー? ヨットなのに?
あれ? 僕の中のヨットのイメージって優雅な感じなんだけど違うの?
詳しく確認してみると、どうやら僕のヨットに対するイメージはかなり昔の物で、今のヨットは飛ぶらしい。
うわー、これ、アレシアさん達喜びそうだなー。
ふむふむ、いろんなタイプのヨットがあるんだな。その中でアレシアさん達が喜ぶのは間違いなくレース用だよね。
集団で協力してヨットを操るタイプもあるけど、あの人達は競うのが好きだから個人用のヨットかな? この、モス級とかいうやつ。
あ、でも、かなり操船が難しそうだし失敗して結界の外に投げ出されたら危険だな。
それに船の召喚枠があるから最大でも四艘しか召喚できない……いや、海神の神器で安全を確保しているダークエルフの島周辺なら問題はないか。
ジラソーレの中でこのヨットに興味を持ちそうなのは、アレシアさん、ドロテアさん、マリーナさんかな?
イルマさんは飛ぶヨットというところに興味を持ちそうだし、それが償いになるかな?
うん、この四人にはこれで挑戦してみよう。
あとはカーラさんとクラレッタさん、やっぱりこの二人が残ったか。
食べ物関係の船か。
でも、フェリーと豪華客船でメジャーなのは食べられるし、いろんな国の船を見ればいいのかな? あっ、タイの船とかどうだろう? タイ料理、結構好きだし。
ん?
船のページを確認していると、気になる船が。
屋形船かー。
僕的には凄く気になる。畳敷きの宴会場で、のんびり船に揺られながらご馳走を食べてお酒を飲む。外で花火が上がっていたり桜が咲いていたりしたら最高だ。
でも、料理としてはどうなんだろう? 日本の料理はフェリーや豪華客船の日本料理店である程度なんとかなるんだよなー。
あれ? でも、屋形船ごとに表示されている料理が違う。基本の天ぷら、懐石、船盛と共通点が多いけど、それ以外にも船ごとに独自の売りがあるみたいだ。
お鍋いいな。うわ、各種日本酒や焼酎と取り揃えている屋形船もあるのか。面白い。
ふわっ、え? マジで。屋形船でもんじゃ焼きが食べられるの? ホントに?
……本当だ。マジか、この屋形船を買えばもんじゃ焼きが食べ放題。いや、船のシステムとして販売形式だから一品ごとにお金が掛かるが、逆に言えばお金を払えばもんじゃが食べ放題ということになる。
なんて魅力的な……まてよ? 僕、もんじゃ焼きを食べるために船を買おうとしている?
それってどうなんだ? なにかが激しく間違っている気がする。
そもそも、セクハラのお詫びの為にヨットを買おうとするのもどうなんだ? 慰謝料を通り越してないか?
そうだよね。気軽に船を買おうとしているけど、何百万とか何千万の単位でお金を使おうとしていることになる。
クラレッタさんのお詫びにしても、ぬいぐるみなら某有名テーマパークの豪華客船ならぬいぐるみもたくさん売っているよねとか思っていたけど、セクハラの対価に豪華客船を買うとか狂っているとしか思えない。
うん、さすがに豪華客船はやり過ぎだ。クラレッタさんにはやっぱり神様関連だね。
創造神様が危険だけれど、そこを何とかやり過ごして光の神様におねだりすることにしよう。
で、後はヨットと屋形船か……常識的に考えれば買う選択はないのだけれど……正直飛ぶヨットにも興味があるし、もんじゃ焼きも食べたい。
普通のもんじゃとか明太チーズとかたくさん種類があったし、ヤキソバやガーリックバターライスなんてのもあった。ガーリックバターライスは鉄板焼きでも食べられるけど、こっちのも気になる。
どうする? もんじゃの為に屋形船を買っちゃう?
所持金は問題ない。
船を買うことで増える慈善事業費は、獣人の街の建設が盛り上がりまくっているから消費は可能。
もんじゃ……食べたい。
よし、買おう。
欲望にあっさりと敗北し買うことを決定。あ、でも、屋形船だと外が見やすいし船体も低い。魔物に囲まれたら景色が悪くなるな。
今晩にでもさっそくもんじゃだと思っていたが、せっかくなら景色も含めて屋形船ともんじゃを楽しみたい。
残念だけどダークエルフの島まで待つか。それまでにクラレッタさんの為の品も用意しないとな。
気が重いけど、教会にお祈りに行くか。
***
「まさかお祈りしても呼ばれないとは……」
創造神様、ガチギレしてる?
お祈りに行ったら神界に呼ばれて不満をぶつけられると覚悟していたが、まさかの無視。創造神様の怒り、洒落にならないかもしれない。本気で怖くなってきた。
でも、僕、悪くないよね? まあ、その理屈が通用しないのが創造神様なんだけど……。
『航さん、航さん』
あ、光の神様の声だ。呼ばれなかったけど神託は貰えるらしい。相変わらず綺麗なお声だけど、姿を見ることができないのが残念だ。
「光の神様、お久しぶりです。神界に呼ばれなかったのですが、それほど創造神様の御機嫌が悪いのですか?」
『いえ、創造神様は機嫌を悪くする暇もないので心配いりません』
「へ? どういうことですか?」
なんか思っていたのと違うらしい。詳しく聞いてみるか。
光の神様の説明をまとめると、凄く単純な話だった。
世界との契約により創造神様に沢山仕事の時間ができた。これはチャンスだと神々は創造神様に仕事を投げつける。
無論、自分の仕事を押し付けるのではなく、創造神様の力が必要なちゃんとした仕事だけど、創造神様の態度と関係が悪く塩漬けになっていた仕事だ。
簡単に言うと、やらなくても世界は回るけど、やった方が効率が良くなる類の仕事だ。
今までは創造神様がアレだから提案すらされていなかったのだが、今の創造神様は真っ当な理由があれば拒否することができない。
世界の為になるうえに、創造神様に対する復讐にもなると知れば、今まで虐げられていた神々が黙っている訳もなく、普段は創造神様と接触を断っている神々すらもスキップで現れ仕事を増やしまくっているらしい。
……自業自得だけど、つい先日まで同じような環境に居た僕としては同情を禁じ得ない。
なにより、創造神様の爆発が怖い。
大人しくてヘタレな僕だって間違いをおかしてしまった。創造神様が僕と同じようになったら……下手をすれば星が壊れるのでは?
「あの、光の神様。創造神様にも休暇を確保してあげてくださいね。事前に言っていただければ、豪華客船でおもてなしもしますから」
『航さんはお優しいですね。分かりました。時期を見計らって休暇の提案をしておきましょう』
いや、自己防衛の為で、別に優しさからの発言ではないんだけどね。でも、光の神様が喜んでくれているようなので口をつぐんでおこう。
『それで航さん、何か御用ですか?』
あ、そうだった。本来の目的を忘れていた。とりあえずお願いしてみよう。
『なるほど、以前も言いましたが我々神は下界への干渉を禁じています』
うん。うっかりお手紙を貰って大騒ぎになったから覚えている。でも、僕にもちゃんと考えがある。
「はい、それは理解しています。ですがこの教会でなら物に祝福的なものを賜るのは可能ではないかと考えました。無論、その対価として光の神様のお役に立てるように頑張るつもりです」
極小とはいえ加護をもらうことはできたのだから、物にちょっとだけ光の神様の祝福的なものがいただくことは可能だというのが僕の予想だ。
『……不可能ではありませんね。ですが、自分の失態の尻拭いを神に頼むのはどうかと思いますよ?』
「え? ……あー、もしかしなくても、僕の恥ずかしい過去を知っていたりします?」
『無論です。娯楽神がとても喜んで吹聴していました』
そうだよね。僕、割と神々に注目されている人間だもんね。あれだけ派手に騒いだら確認ぐらいするよね。恥ずかしくて死にそうです。
『ふぅ、まあ、航さんには今後も協力を願うことがあるでしょう。下界に効果を及ぼすような祝福はできませんが祝福を授けましょう』
「あ、ありがとうございます。できればこれにお願いします」
悶死しそうになっている僕を憐れんでくれたのか、光の神様がOKしてくれる。
祝福を授かる物はちゃんと準備してある。光の神様の祝福だしダイアモンド一択だ。控えめなクラレッタさんに合わせてシンプルなデザインのネックレスにしたからきっと喜んでくれるだろう。
これでとりあえず全員にお詫びがいきわたる。あとは喜んでもらえるか、それだけが問題だ。
読んでくださってありがとうございます。




