6話 異世界って素晴らしい
実は難民だった獣人達の大量申請が元々溜まっていた書類に追加され、地獄のような書類仕事に追われ、ようやく終わるというところで商業ギルドのマスターであるミランダさんから面倒事を追加される。でもまあ、書類仕事は終わったし、難しいことは未来の自分に任せて今はただ楽しむことに全力を尽くしたいと思う。
「それで、ようやく冷静になったら恥ずかしくなっちゃったのね。まあそれもしょうがないわね。レッツフィーバーとか言っていたもの」
「止めて。お願いだからしばらく放っておいて!」
「もう、しょうがないわね。覚悟が決まったらちゃんとみんなに謝るのよ。アレシア達はともかく、アンネマリーやレーアにまで迷惑かけちゃってるんだから」
「うう、分かってる。あとでちゃんと謝るから」
「了解。じゃあしばらく一人にしてあげるわ。フェリシア、リム、ペント、行くわよ」
「え? いいのですか」
「いいのいいの、行くわよ」
『……ふぃーばー……』
『シャ?』
イネスの言葉にもダメージを受けたけど、最後のリムのつぶやきが一番痛かった。
僕、リムが覚えちゃうくらいにフィーバーしちゃったの?
……していたな。ビックリするくらいフィーバーしちゃってた。全部覚えているもん。
まず書類仕事が終わった後、みんなが待機している部屋にハイテンションで駆けこんだ。
それで野郎ども出発だ!
とか、女性しかいないのにとち狂ったことを叫んで、そのまま獣人の村、いや、獣人の町の外に出る。
なんか獣人達から色々と話しかけられていたけど、それに対してもテンション高く返事をしながら……あの時の僕はパリピのようだった。ウェーイとか言っていた気がする。
獣人達の言葉、しっかり聞いていなかったから微妙だけど、たぶん僕の正体を知ってお礼を言ってくれていたんだと思う。
そんな獣人達に僕はパリピな返事を……。
それだけでも憤死しそうなのに、外に出てからもレンジャー号で爆走。しかも僕のリサイタル付き。
運転しながら独りよがりに気持ちよく歌いまくったね。あ、恥ずかしくて死にたくなってきた。
それで海にたどり着いてそのままルト号に乗り換えて爆走。
シャトー号に戻って出迎えてくれたアンネマリー王女を持ち上げてはしゃぎながらクルクル回り、その後はレーアさんや人魚さん達も巻き込んで騒ぎ大宴会を宣言する。
お酒が入ったらもう止まらない。素面で壊れたテンションだったところに燃料を追加したものだからフィーバーフィーバー言いながらしっかり燃え上がった。
食って飲んでアレシアさん達にウザがらみして、それに満足したらレースゲームだボーリングだと騒ぎ、さすがに疲れたがまだまだ眠りたくないものだからアレシアさんとイネスと一緒にカジノにくりだした。
暴走していたからだろう、賭け事は楽しむ程度で押さえていたのに金貨を大盤振る舞いしてしまっていた。
……あれ?
さっきイネスは僕が暴走していた姿に呆れていたけど、たしかカジノを提案したのはイネスだった気がする。
そうだ、思い出してきた。なんかイネスにめちゃくちゃ持ち上げられたんだよな。それで……あ、イネスに大量のお小遣いせしめられている。
普通ならそんな手に引っかかる訳がないのだけれど、本気で暴走していたから金貨をワシっと掴んであげちゃってる。
一瞬取り返そうかとも思ったが、あの後イネスはFXで有り金全部を溶かした人みたいな顔を晒していたから無理だな。
……これはお仕置き案件なのでは?
いや、お仕置きはすでにしちゃっているな。カジノで弾けてある程度騒ぎたい衝動が落ち着いて、それで性欲が浮上したんだ。
だからアレシアさん達とは別れて、イネスとフェリシアにたまりにたまった欲望を全部ぶつけた。
あんなことやこんなこと、え? そんなことまで? ということまでやりまくった。
幸い、心の隅で良心が生きていたらしく、基本的に無茶なプレイはイネスに集中していた。
おそらく獣人の町でイネスにお仕置きを決意していたからだろう。フェリシアに酷いことをしていたらさすがに心が痛むから助かったな。
あ、だからさっきイネスは僕に対して厳しかったんだな。うん、たしかにあれだけ無茶をされていたら復讐したくなる気持ちも理解できなくもない。
だって、普段は手を出さないマニアックなプレイを強要した記憶がバッチリ残っている。
……アレだな、金貨は慰謝料の先渡しということにしておこう。高額ではあるが、ちょっとやり過ぎたからね。あとで金貨のことを合わせてフィフティフィフティだと念押ししないとな。
……それにしても色々とやらかしているなー。もういっそのこと全部記憶に無かった方が幸せだったかも。
なんであのテンションでお酒まで飲んだのにしっかりと記憶が残っているの? ハイテンション過ぎて脳に記憶が焼き付けられでもした?
はぁ……思い出せば思い出すほど胸のあたりが締め付けられる。また僕の人生に黒歴史が生まれちゃったよ。
これを封印するのは時間がかかるだろうなー。でもその前に、みんなに謝らないといけない。
……無理だ。まだみんなと顔を合わせる勇気が出ない。
一年後くらいの再会を願いたいが、アレシアさん達とそんなに離れているのも寂しい。みんな視界に入るだけで幸せにしてくれる美女達だもんな。
とりあえず布団の中に籠って対策を考えよう。神様方にお願いすれば、記憶の消去とかできないかな?
……さすがにそれは人として駄目だよね。それに今の創造神様に弱みを見せたらとんでもないことになるから却下だ。
あれだけ騒ぐと隠ぺいのしようもないし、素直に謝るのが一番か。なら、謝る勇気が出るまで引き籠ることにしよう。心の傷は時間が癒してくれるはずだ。
***
「まことに申し訳ありませんでした」
二日しか心を癒す時間は得られなかったので、諦めて全力で謝罪することにした。土下座しようかとも思ったが、僕の立場でそれをやると洒落にならないらしいから深々と頭を下げることで誠意を示す。
ぶっちゃけイネスとフェリシアは僕の奴隷だし、アレシアさん達は僕が壊れた原因を知っているから時間を置いても問題がなかったのだけど、人魚達はそうはいかなかった。
ある程度事情を説明してあるにしても、久しぶりに戻ってきた恩人が奇行に走り騒ぎまくった上で部屋に閉じこもってしまったのだ。そりゃあ不安になるよね。
特にアンネマリー王女を混乱させてしまい、半泣きにさせてしまったらしい。そんなことを聞くと、真っ当とは言えない大人だが逃げてばかりいる訳にもいかず、正面から謝罪をすることにした。
「ワタル様、頭をお上げください。ワタル様が大変だったことは聞いていますし、ちょっと驚きましたが大丈夫です。気にしていません。そ、それに抱っこや頭をナデナデされたのは別に嫌ではなかったですよ?」
「そ、そう言ってくれると助かるよ。本当にごめんね」
許可無しでお姫様を抱っことか、場合によっては逮捕案件どころか物理的に首が飛びかねない案件だから許しを貰えたのは心底ありがたいです。あとで新作の魔法少女物を奉納したいと思います。
とりあえずアンネマリー王女を含む人魚さん達の許しは得た。人魚さん達には奇行を行いはしたがそれほど迷惑はかけていないから、正気に戻った姿を見せれば問題はないだろう。
さて、残るは本題。僕の方を見てニヤニヤしていたり恥ずかしそうにしたりしている、ジラソーレのメンバーへの対応だ。
僕はもしかしたらここで恥ずか死ぬかもしれない。
「えーっと、みなさん、この前はすみませんでした。仕事が終わったのが嬉しくて色々と正気ではなかったので、忘れて頂けると本当に嬉しいです」
「あら、あんなに情熱的だったのに、全部なかったことにしてしまうの?」
「うっ」
イルマさんの追及に言葉が詰まる。やっぱりそのまま何もなかったことにはできないか。
情熱的か……なんで僕、あんなに気が大きくなっちゃったんだろう。
やっぱりお酒か。普段はお酒を飲んでもそこまで乱れないのだが、たぶん解放感で脳内麻薬的なものを分泌していたんだろうな。
結果、僕はアレシアさん達を賛美しまくるイタリア男に変身してしまった。
更に最悪なことに気分がイタリア男に変身しようとも僕のスペックもボキャブラリーも進化したりしない。
つまり、雰囲気イタリアンな純日本人の痛い女性賛美がががが……死にたい。
「いやー。ワタルがあんなに積極的なの初めてだったわよね。私の髪やプロポーションも褒めてくれたし、悪い気はしなかったわよ?」
そう、アレシアさんに対しては恥ずかしいが謝るほどのことはしていない。
「そうね、情熱的ではあったけれど、嫌ではなかったわね」
「まあ、語彙は少なかったけど、本気の思いが伝わりはした」
「私は可愛いって沢山言われた。嬉しかったよ?」
ドロテアさん、マリーナさん、カーラさんに対しても賛美しまくって恥ずかしいのは変わらないが悶死するほどのことは言っていない。
「あら、私は犯罪的な色っぽさだと言われたわね。他にもその魅力は男を狂わせるとか色々と言われたわ」
「私はその……主に胸の大きさを褒められました」
「申し訳ございませんでしたー!」
即座に土下座した。立場とかそんなのどうでもいいよね。だって普通にセクハラだもん。土下座くらい普通普通。
あー、やっぱりか。ちゃんと記憶に残っていたから覚えているが、信じたくなかった。
アレシアさん達への賛美はまだ分かる。日常で普通に思っていたことだもん。
イルマさんとクラレッタさんに対する言動も日常で思っていたことではあるが、でも自分の性格上言えるはずがないと信じたかった。
特にクラレッタさんに対する暴言、僕の記憶が確かなら『クラレッタさんのお胸様は世界の宝です。男の夢と希望が詰まっています』的なことを熱弁している。
その後に自分がどれだけその豊かな母性の隙間に挟まりたいかなんてことも熱弁しちゃったりしている。
そんなのヘタレな僕が言葉にできるなんて思えないよね? でも、やっちゃってるんだよね。
あはは、殺してください。
「うふふ、ワタルが正気じゃなかったことは分かっているから安心していいわ。でもそうね、ワタルが申し訳ないと思っているのなら、なにかしら私達が喜ぶことをしてくれたらいいわ。ね、みんな」
「そうね、冒険者の酒場ならワタルの態度は上品なくらいだから別に気にすることはないと思うけど、ワタルがそれで楽になるのであればいいんじゃない?」
イルマさんの慈悲深い言葉にアレシアさんが答える。
え? そんなにあっさり許されるの?
マジか。このセクハラ野郎とゴミムシのような目で見られることもセクハラ裁判が開廷されることもない?
……異世界って素晴らしい。とりあえず、許されるようなので罪悪感を減らすために、みんなが喜ぶことに邁進しようと思います。
読んでくださってありがとうございます。




