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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
十九章
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17話 観光

 なんやかんやと心臓に悪いことがありながらも、無事に人魚の国に入国。前回の訪問時とは違い、明るい街と沢山の民衆に歓迎され、親子の再会にも立ち会った。地味に魔法少女を布教しようとするアンネマリー王女にはハラハラするが、今のところ問題はないだろう。




「ワタル。遊びに行くわよ!」


 久しぶりということで空気がある部屋ではなく海中の部屋で一泊し朝食を満喫した後に、アレシアさんが宣言した。


 あのキラキラした瞳、止めるのは無理だろう。


「僕も観光には同意しますが、その前に今日の予定を確認させてください」


 アレシアさんに断りを入れて、壁際に控えている人魚なメイドさん……女官さんに予定を確認する。


「アレシア、夜に晩餐会がある以外は自由にしていていいそうです。あと、できれば護衛と案内を付けたいとのことです」


 夜の晩餐会は確定なようだ。アンネマリー王女も報告等のお仕事があるそうなので、十分に観光できそうだ。


「護衛と案内ね。うーん、護衛は私達の役目だし、案内は欲しい気もするけど、ワクワク感が薄れるわね」


 あ、アレシアさん、僕の護衛だということは忘れていなかったんだね。


 そして案内か。


 僕は基本的に冒険を好まないから、旅行先の下調べは万全にするタイプだ。金銭の余裕があれば、日本でもガイドをお願いしただろう。まあ、金欠大学生にガイドを頼む余裕はなかったけどね。でも、アレシアさんは……。


「今回は案内はいらないわ。近づいたら駄目な場所だけ聞いて出発しましょう。ワタル、いいわよね?」


「了解です」


 という訳で女官さんに近づかない方が良い場所を教えてもらい観光に出発する。


「来た時にも思いましたが、明るいだけで随分と印象が変わりますね。ね、べにちゃん」


 城を出るとドロテアさんが、リムと同じくピルピル尻尾を生やしたべにちゃんと楽しそうに戯れている。こういう穏やかで平凡な日常って素敵だよね。海の中だけど。


「とりあえず賑やかな方に向かうわね」


 アレシアさんが先陣を切ったので、僕にイネスとフェリシア、リムとペントと共に後を追いかける。その後に僕を囲むようにドロテアさん達がついてくる。


 道を歩くのと違って三次元で移動できるから、目的地に向かうだけで楽しいな。


 それにしても、ダークエルフの島の人魚の村と比べると、街並みが少し地味だな。お城の近くだからか割と立派な家が多いのだけど、色味も一定で華やかさがない。


 ん? よく見るとチラホラと小さな珊瑚が植え付けてあるようだ。なるほど、少し前まで光が差さなかったし、厳しい環境で珊瑚が全滅していたのか。


 今は復興の途中ということで、これから珊瑚を増やしたり育てたりしていくのかもしれない。


 そうなった時にまた人魚の国にくれば、新たな感動に出会えそうだ。


 先の楽しみができてしばらく気持ちよく泳いでいると、アレシアさんが聞きつけたであろう賑やかな場所に近づいて来た。


 どうやら市場のようで、前に来た時のお祭りのように海中に沢山のお店が浮いていて、そこを人魚達が飛ぶように泳いでいるのでテーマパークのような活気がある。


「あら、前と比べると圧倒的に商品の種類が増えているようね。何か面白い物はあるかしら?」


 イルマさんがマッドな一面を覗かせる。変な物が売っていないことを心底願いたい。


 変な緊張感を持ちながらも、ワクワクしながら市の中に入る。


「……生きているんですね」


「美味しそう?」


 とある店の前でクラレッタさんがつぶやき、カーラさんもその姿から確信が持てずに首を傾げている。


 こういうのをカルチャーショックって言うんだろうな。


 売られている魚が、大きめの檻の中で普通に泳いでいる。


 でも、考えてみれば当然なのかもしれない。日本でも生け簀を用意して生きた魚を売りにする店がある。


 それをするにはそれなりの経費と維持費がかかるのだが、海中だと維持費は餌代くらいだ。生きている限り魚は簡単に悪くならないのだから、冷凍設備がないこの世界なら生かしておいた方が効率が良いはずだ。


「何種類か泳いでいますが、どの魚が美味しいんですか?」


 店の前に立って? いる人魚のおじさんに興味本位で質問してみる。


「うん? ここいらじゃあ一般的な魚なんだが、兄ちゃん知らないのか?」


 どうやら当然のことを聞いてしまったようだ。ニンジンやキャベツを見て、これ何って質問した感じだろうか?


「え、ええ、まあ、こういうのに疎いもので……」


「そうかい。良いところの坊ちゃんなんだ……いや、そういえば昨日……」


「深く考えずにお願いします」


「ん? ああ、まあお忍びを暴き立てるほど無粋じゃねえから安心しな。それで、ここで売っている魚は白身の魚が中心だな。どれも高級魚って訳じゃないが味は確かだぜ。サービスで何匹か持っていきな」


 あっさり僕達が人間だとバレたようだ。とりあえず騒ぎにならずに安心した。


「いえ、調理する場所がありませんから。教えてくださりありがとうございました」


 僕の言葉に、まあ、城で料理なんてできねえよなと笑われた。おっしゃるとおりでございます。


 ゴムボートに保存しておく方法もあるが、わざわざ魚を締めて確保するのも面倒だ。


 お礼を言って次の店を覗きに行く。



「……盲点だったわね」  


 いくつかの店を覗いた後、アレシアさんが深刻な顔で呟く。


「たしかに盲点だったわ」


「試してみる? 私なら耐性があるよ?」


「ダメよ、そこまでして食べる必要はないわ」


 ドロテアさんが同意し、マリーナさんが実験に名乗り出るが、アレシアさんが否定する。


 そう、人魚の国で売っている物の大半が、自分達が食べられるものか判断ができなかったのだ。


 人魚に変化している状態なら平気だろうけど、人間状態で食べられない物を買い集めるのも微妙ということで、ちょっと悩んでいる。


 海藻とか日本人以外消化できない民族も多いと聞くし、未知の海藻に挑戦するのは怖いよね。


 まあ、イルマさんは全種類買い集めていたけど、あれは食べるのではなく実験の為だろう。


「でも、人魚に変化すれば食べられるよ?」


 カーラさんが諦めることなく提案する。純粋に色々な物を食べてみたいのだろう。シンプルな思考だからこそ、思いの強さが伝わってくる。あと、リム達なら普通に食べられそうでもある。


「人魚に変化したとして、誰が料理をするの?」


 ドロテアさんの鋭いツッコミ。誰も海藻の上手な料理のしかたなんて知らないよね。


 ……カーラさん、なんでそんなに期待した視線を僕に向けるのですか? なんとかしてってこと?


「……ワタル。お願いなんとかして」


 瞳ウルウルで直接言われてしまった。


 くそ、僕だって海藻料理なんて和え物とみそ汁に入れるくらいしか作れないぞ。ひじきの煮物だって荷が重い。しかも、ワカメや昆布ならともかく、未知の海藻をなんとかって……。


「……できるかどうかは分かりませんが、頑張ってはみます」


 うう、カーラさんの純粋なお願いには、なぜか逆らえない。僕が汚れてしまっているからだろうか?


 とりあえず買うだけ買っておいて、人魚さん達から情報収集&美食神様に相談で挑戦してみるか。


 こうなったらやけくそだ。魚も各種購入しておこう。さっきのおじさんのところにも行かないとな。



「なるほど、考えてみれば当然だけど、重い物は下で売っているんだね」


 食料品を買い集めたあと、見て回っていなかった路上の店を覗くと、どれも重量がある商品が中心だった。わざわざ重い物を無理して浮かせる必要はないよね。


「でも、海の中の国なのに金属が豊富なのも不思議ですよね」


 フェリシアが首を傾げながら聞いてくる。ここは学があるところを見せる場面だな。


「海にも鉱脈があるから、金属が豊富でも不思議じゃないよ」


 地球でも海底資源は重要視されていた。


 この世界でも海は陸よりも広いし、海中で自由に行動できる人魚と魔法で金属が抽出できる強みを考えると、危険はともかくとして資源の量は膨大だろう。


「なるほど、鉱脈は地上にしかないと思っていましたが、海にもあるんですね。でも、水の中なのになんで錆びないのでしょうか?」


 フェリシアから質問が追加される。そして、その答えを僕は知らない。


「えーっと、なんでだろう? 魔法とか魔術でどうにかこうにか?」


 学を見せるのを失敗してしまった。なんだよどうにかこうにかって、自分で言っていて恥ずかしいんですけど。


「たしかに錆びない魔法金属もあるけど、大半はコーティングしているからよ」


 僕が内心で悶えていると、イネスが正解を教えてくれた。


「なによその顔」


「いや、なんでイネスがそんなことを知っているのかと思って」


「そうです。別に驚いた訳ではありません。ちょっと疑問が顔に出てしまっただけです」


「……ご主人様とフェリシアが私のことをどう思っているのかは後で確認するとして、私はアクアマリン王国出身なのよ。港で冒険者になった私が錆び対策を知らない方が不思議でしょ」


「あっ、そうだったね」


 潮風でも金属は錆びるし、そのへんの対策を知っているのも当然かもしれない。いかんな、イネスからの視線が痛い。


 とりあえず、後でお小遣いマシマシにして機嫌を取ることにしよう。


「ワタル、金属は特に目新しいのはなかったわ。気になるのは巨大な貝殻なんだけど、なんに使うのかがいまいちわからないわね」


 さすがに市のような場所で、僕達が目新しく思う金属は存在しないか。大抵の種類の金属は公爵城の財宝で確保しているもんね。


 巨大な貝殻……ああ、シャコ貝みたいなやつか。


 たしかにあれってなんに使えばいいのかよく分からないな。インテリアとしてなら面白いかもしれないが、僕にそれを使いこなすセンスはない。


「貝殻の用途は僕も分かりません。一通り見て回りましたし、別の場所に移動しますか?」


 アレシアさんが頷いたので、市場を出て移動することにする。


 なかなか面白い場所だったけど、知識が足りなかったから見逃しが結構ありそうだ。初回の衝撃は堪能できたけど、生活環境の違いが顕著だから素直にガイドを頼んだ方が良かったかな?


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 布教活動しそうな王女が野放しになってるのが とても嫌な予感しかしない
[一言] 次辺りお城でまたイベントかな? 毎週楽しみにしております〜!待ち遠しい!
[良い点] 何ってそりゃた貝殻ビキニ……いやシャコ貝だと無理か [気になる点] 初期の頃にクラレッタさんが昆布の素晴らしさを理解してくれた描写があった気がするけどここでは興味を示さないのかな?
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