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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
十九章
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12話 仲良くなったんですね……

 ダークエルフの島の雑貨屋の卸作業は、ダークエルフ達の熱意を通り越した何かに恐怖を覚えたが、なんとか無事に終了した…と思う。雑貨屋の混乱を思い浮かべると、無事という言葉の意味が分からなくなりそうだが、とにかく無事に終わったのだと思う。たぶん。




「それで、ワタル殿、一仕事終わった後なのに申し訳ないのですが、温泉の村の雑貨屋の商品もお願いできませんか? 無論、運ぶのは私達で行います」


 村長の家に移動して代金を金銀で支払ってもらい、ようやく終わったと思っていたが、まだ終わっていなかった。そうだった、商品を待ち望んでいるのはここだけじゃないんだよね。


 うーん、ここで商品を渡すのは楽だけど、氷冷式冷蔵庫を改良したとしてもさすがにアイスは温泉の村まで運べないよな。


 温泉上がりのビールも、牛乳も、コーヒー牛乳も、フルーツ牛乳も、炭酸飲料も素晴らしい。でも、温泉上がりのホカホカにアイスもとっても素晴らしい文化だと僕は思う。


 せっかくの温泉地なんだから、アイスは絶対に必要だよね。


「村長さん。温泉の村に改良した氷冷式冷蔵庫はあるんですか? 後、氷の魔術が使える人員もです」


「? はい。向こうでも冷たい飲み物は人気なので冷蔵庫も人員も確保しています」


「では、明日にはなりますが、僕達が向かいます」


 温泉にはまだ余裕があるが今回の航海で半分以上は使ったし、ついでに補給しておくのも悪くない。なら自分で行くべきだろう。


「いえ、そこまでワタル殿にご迷惑をお掛けする訳には」


「温泉を補給するついでですから大丈夫ですよ」


 アレシアさん達も温泉は大好きだから絶対に文句は言わない。むしろ、温泉の補給チャンスを逃す方が文句を言われる可能性がある。


「それで村長さん。話は変わりますが、島の皆さんが一丸となって商品の研究を進めているらしいですね」


 村長がちょっと申し訳なさそうにしているので、話題を変える。


「はい。恥ずかしい話ですが、ワタル殿から卸していただいた商品に皆が魅了されてしまいました。申し訳ありません」


「いえ、謝る必要はないですよ。僕も定期的に商品を卸すことはできないので、島の皆さんの研究は大歓迎です」


 本気で大歓迎だ。商品が切れるたびにあんな騒ぎを見るくらいなら、船の商品の価値が下がることになっても、しっかりと商品開発をお願いしたい。


 でないと、落ち落ち島を離れられない。


「助かります」


「それで、余計なお世話かも知れませんが、料理のレシピや、お酒、お菓子、化粧品の作成に役に立ちそうな知識を調べてお渡ししようと思っているのですが、いかがですか?」


 まだ調べてはいないが、アレシアさん達にも協力してもらえば、それほど時間はかからないだろう。最初は難しそうな知識は後回しで、簡単そうなのから放出していくつもりだしね。


「それは……大変にありがたいことなのですが、さすがにお受けできません。森に隠れ住んでいた田舎者でも、ワタル殿の知識の価値くらいは理解できます」


 知識の価値? んー、まあ、氷冷式冷蔵庫でもカミーユさんが驚いていたし、豪華客船の図書室の知識は洒落にならない価値があるだろう。


 たぶん、図書室の知識を売るだけで、人生を何百回、何千回繰り返しても贅沢できるくらい稼げると思う。


 でも、すでに人生を何十回も繰り返せそうなくらい稼いでいるから、稼ぎの面ではそれほどガツガツしなくてもいいんだよね。


 稼いでも船を買うくらいしか使い道がないし、船を買ったら買ったで、慈善事業をしなければいけない資金が増えるし……。


 ここが地球だったら、豪邸を建てたり別荘を買ったりブランド物を買い漁ったり、座銀でシースーしたり、高級車を乗り回したり、世界一周をしたり、やってみたいことは沢山あるんだけどね。


 こっちの世界は……自分の船から離れて豪遊すると、いろんな意味で命が危ないのが辛い。


 おっと、妄想に耽っている場合じゃないな。村長さんを説得して、知識を受け取ってもらわないと。


 今大切なのは、お金よりも精神的な安全なんですよ。割とマジで。


「村長さん。この島に知識を広めるのは、僕にもメリットがあることなんです」


「どういうことですか?」


「えーっと、実験というか、そんな感じです」


「実験ですか?」


 いかん、実験って言葉の印象が悪かったのか、村長さんを少し警戒させてしまったようだ。


「別に危険な知識をばら撒くつもりはないので安心してください。この島は外との繋がりがほとんどないので安全に知識を広められて、しかも外に流出しないという好条件な場所なんです。ダークエルフの皆さんに試してもらって、商売に適した知識なら外にって感じですね」


 外というか、カミーユさんにながすだけだけどね。


 別に無理して外に流す必要はないのだけれど、料理のレシピを広めるのは美食神様が喜ぶだろうし、他の知識も危険な内容でなければ刺激になって創造神様方も喜ぶ。


 創造神様が喜べば機嫌も少しは良くなって、僕が創造神様に理不尽を押し付けられる可能性も下がる。


 これぞ三方良しというやつだな。ん? 僕、神々、ダークエルフの島、世間が得をする訳だし四方良しかもしれない。ますます良いことだ。


「そういうことでしたら、ありがたくお受けさせていただきます」


 僕にメリットがあるというのが良かったのか固かった先程とは違い、すんなりと頷いてくれた。


 さて、村長さんはこれで良いとして、後やっておくことは……アンネマリー王女に帰還の挨拶と里帰りのことを伝えに行くんだったな。


 フェリシアは久しぶりの両親との再会だし、ここに残ってもらって挨拶は僕達だけで行くか。




 ***



 人魚に変身する神器を使い、久しぶりに海に潜る。


 海神の神器と人魚達の活躍である程度安全になった綺麗な海を泳ぐのは、運動がそれほど好きではない僕でも気持ちが良い。


 ピルピルなお魚シッポを生やしたリムがとってもキュートだし、本来のホームである海で泳ぐペントもかっこいい。


 村長さんの家から出て、煩わしいほどに絡まれたチビっ子達に完全スルーされた悲しみも浄化されてきた気がする。


 スイスイと泳いでいると、僕達に気がついた人魚達も集まってきて先導するように人魚の村まで案内してくれる。


 異世界に落ちてきて色々とファンタジーな経験を積み重ねてきたけど、人魚に変身して人魚の里に向かうのは、ファンタジーというよりも童話っぽくて結構楽しい。


 ホッコリしながら海中を進むと人魚の村が見えてくる。


 カラフルな珊瑚を今も少しずつ集めているようで、前に訪問した時よりも村全体がカラフルになっている。


 珊瑚を育てながら家を飾っていくと聞いていたけど、思っていた以上に村の完成は早いのかもしれない。


 案内されたのはアンネマリー王女お気に入りの小さな家ではなく、役場として使用している大きな建物だ。


 あとで挨拶に行くと言ったから、全員で入りやすい役場で待っていてくれたのかもしれない。


「お待ちしておりました」


「あっ、レーアさん。お久しぶりです」


「ふふ。お久しぶりです」


 役場の前に到着するとレーアさんが迎えに出てきてくれて、役場の中に案内してくれる。


「ワタル様、お待ちしておりました」


「アンネマリー王女、先程は挨拶できずにすみませんでした」


「あはは、あれはしょうがないですよ」


 元気に大きな声で笑うアンネマリー王女……あれ? アンネマリー王女ってこんな感じだったっけ? 


 前はもっと健気で一生懸命な……いや、今でも健気で一生懸命な雰囲気がないこともないのだけれど元気溌剌とした雰囲気も……あれ?


「……ワタル様、どうかされましたか?」


 アンネマリー王女が不思議そうに首を傾げる。


「いえ、なんと言えば良いのか、アンネマリー王女、何か雰囲気が変わりましたか?」


「……そうですか? 自分では変わったつもりはありませんが?」


 僕の言葉に再び首を傾げるアンネマリー王女。僕の思い違いだったかな?


「ふふ。姫様は変わられましたよ」


 僕とアンネマリー王女が首を傾げていると、中に入ってきたレーアさんが笑いながら教えてくれる。お茶を持ってきてくれたようだ。


 後、やっぱり変わっているよね。子供の成長は早いってことか。レーアさんが出してくれたお茶を口に含む。


 固形なのに口に含んだら溶けて液体になるこの感触。お茶として違和感はあるけど楽しくて好きだ。


「レーア。私、変わったんですか?」


「はい。お変わりになられました。アルミロ様達とお友達になられて、姫様はとても元気になられました」


 ……パードゥン?


 え? どういうこと? アンネマリー王女、あのチビっ子達と仲良くなっちゃったの?


 いやいやいや。ダメだろ。


 あの子達、悪い子とまでは言えないかもしれないが、確実に良い子ではないと断言できるタイプの子達だよ。


「アルミロ君達と遊ぶのは楽しいですが、変わったのは気がつきませんでした。でも、元気なのは良いことですよね?」


「はい。とっても良いことです」


 アンネマリー王女とレーアさんがにこやかに会話する光景は微笑ましいが、それほど良いことではないと思う。


 いや、悪ガキって感じで、本当に悪い子ではないのは知っている。さっき無視されたけど。


 もし自分に子供が居て、アルミロ達と馬鹿なことしながら遊んでいたら、微笑ましく見守って、ちゃんと勉強もしなきゃダメだぞと注意するくらいな包容力があるパパになりたい。


 でも、王女のご学友として正解かと言えば……不正解だよね。


 アーデルハイト女王様からアンネマリー王女を預かった自分としては、ダークエルフの島のチビッコ達の影響は排除したい。


 どうする? あの子達と仲良くなるのはちょっと、と注意する?


 えへへ。私元気になったんですか、と喜んでいるアンネマリー王女に?


 無理だ。


 王女として正解ではない気がするが、子供としては間違っていない。元気なのは良いことだ。


 ……というか、島のチビッコ達の影響を受けたかもしれないアンネマリー王女を連れて、人魚の国に里帰りするのか。


 僕、アーデルハイト女王様に怒られないかな?


 うーん。気楽な里帰りに同行して、人魚の国のお手伝いをするつもりだったんだけど、少し不安になってきた。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ワルガキはワタルが許してるからセーフなだけに見えるから 悪友としても微妙な気がするなあ
[一言] 得てして大人たちは気にするけど、こういう悪ガキ達との交流が王家の子供には必要なのかもね。
[気になる点] >僕、アーデルハイト上王様に怒られないかな?  ◇ ◇ ◇  女王は『じょおう』と訓む。『じょうおう』と勘違いしてるとこんな打ち間違えする。
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