2話 うーん、言われてみれば?
コボルト達に未練たらたらなアレシアさんを気絶させ、地の龍達に見送られて島から出港した。シャトー号に乗り変え、落ち込むアレシアさん達を元気づけようと創造神様のところに報酬の話をしに行くと、不機嫌全開の創造神様に拒否された。正直、意味が分からない。
「あの、創造神様。いやだと言われましても、ちゃんと結果を出したのですから報酬がいただけないのは困ります」
お仕事には対価が必要。対価がないのはお仕事ではなくボランティアだ。
「そもそも、航君は根本から間違っているんだよ」
「えーっと……何を間違えているんですか?」
サッパリ心当たりがない。僕、頑張った。
「ふぅ。いいかい航君。例えばお使いを頼まれてお店に行って、お金を払わずに強盗して目的の物を確保して帰ってきたら、それはお使いを成功させたことになるかな?」
「なるわけありませんね」
下手をすればお使いを頼んだ人が強盗を示唆したと疑われかねない。それはそれとして、バカな子供に懇切丁寧に説明してあげている雰囲気を出す創造神様にちょっとイラっとする。
「そういうことだよ」
「どういうことですか? 僕は悪いことなんてしていませんよ?」
その話が僕になんの関係があるのだろう?
「しているよ。航君は創造神である僕の幸せな日常を殺したの。雇い主に不利益を与えて結果を出したなんてよく言えるよね」
あー……言われてみれば?
というか。いつの間にか創造神様が敵側のポジションに移行していたが、考えてみれば依頼主は創造神様だよな。
地の龍の悲しみに共感していたから、そこら辺があやふやになっていた気がする。
「で、でも、創造神様が最初に逃亡しなければこんなことにはならなかったのでは?」
そこで諦めていれば傷は浅くて済んだ。というか、ほぼ無傷だったはずだ。
「あのねえ、僕の依頼は地脈の管理と、便利に活用できる手駒の復帰なの! 最初の案だと地脈の管理だけじゃん。地の龍が便利に活用できないし、それに加えて口うるさい畑神まで付いてくる。五十点、いや、畑神のマイナスの分、五点だよ。それで結果を出したなんてよく言えるね!」
うーん。畑神様のマイナスが素晴らしく大きいのと、創造神様が外道なことは置いておくことにして……色々マイナスがあるにしても最終的に地脈の管理が五点の価値しかないのは創造神様的に有りなのか?
まあ、創造神様の視点から見ると僕が結果を出せていないという理屈も、人情やら同情やら真っ当な感性やらその他諸々を排除すれば納得できないこともない気がしないでもない。
うん。僕は創造神様からすると裏切り者だね。
便利なパシリを復活させようと命令したら、パシリが自由になって自分が強制労働になったのだから、僕が創造神様の立場だったらキレる。
……これは地味に不味い状況だったりする?
「そういうことでしたら、我々が航さんに報酬を支払いましょう」
冷や汗を掻いていると、光の神様が笑顔で話しに割って入ってくれた。
「なに、光の神、邪魔をする気?」
邪魔って、創造神様はそんなに僕に嫌味を言いたかったの?
「いえ、元々報酬を与えるのは私達でしたし、恩恵を受けたのも私達です。そしてなにより、航さんを追い詰めて今の状況を打破しようと考えていましたね、そうはいきません」
え? 報酬云々は置いておいて、創造神様がなんらかの悪巧みをしていたの?
していたらしい。
驚いて創造神様の顔を見ると、図星を突かれた悔しさがにじみ出ている。
創造神様、怖い。
「航君への依頼は失敗! 下界への身勝手な干渉は、創造神たる僕が許さないよ!」
身勝手の権化が身勝手なことを言っている。
「いえ、航さんの行動は神界に大きな利益を及ぼしました。神として奉じられた利益には報いなければなりません。これは身勝手ではなく正当な対価です」
おお、光の神様カッコいい。なんか弁護士とかになったら無敗の女神とか呼ばれそうだ。
「僕が不利益を被っているでしょ」
「それは創造神様個人の不利益ですよね? 神界には有益なので問題はありません」
「むきー。神界の利益もなにも、その神界を作ったのは僕なんだから、僕が不利益を得たら駄目でしょ!」
なんかバカ息子とそれを叱る母みたいになっている。
……さすがに内心でも光の神様を創造神様の母親に例えるのは申し訳ないな。バカな弟を叱る姉ということにしておこう。
それにしても創造神様のご機嫌をかなり損ねちゃったなー。
創造神様のようなタイプはできれば関わらずに距離を置くのが正解なのだが、関わってしまったならそれに対抗できる力がない限り、機嫌を損ねないのが正解。
とはいえ今は何をやっても逆効果になるだけだろう。僕がお願いして創造神様の休みを増やしたとしても、それが当然、もっと休みを増やせと言われるのが目に見えている。
ここはしばらく様子を見て、創造神様のストレスが限界に近付いたくらいに光の神様と交渉して創造神様に恩を売ろう。
早すぎてもストレスで爆発してもいけないから、タイミングが難しそうだな。
ふむ、創造神様を介さずに光の神様とやり取りができる何かが必要だ。
「航さん。航さん!」
「へ? あ、光の神様どうされました?」
「あ、光の神様、じゃありませんよ。話を聞いていなかったのですね」
「すみません」
自己保身に夢中になっていました。
「あっ、決着がついたんですね」
いつのまにか創造神様が涙目で机に向かっている。
今までだと創造神様がゴネまくって光の神様が苦労するだけだったのに、凄い進歩だ。世界との契約って強制力が強いんだな。
「はい。安心してください、報酬は私達が支払うということで決着がつきました」
創造神様が関わっていないだけで、凄く安心だ。
「ありがとうございます」
「報酬は早い方がいいでしょう。そうですね、今晩、シャトー号の時計で二十時頃に教会で祈りを捧げてください。個別に対応するので、一人ずつ順番にお願いします」
早くしないと創造神様がまたゴネる可能性があるからですね。
「分かりました。事前に何か準備する必要はありますか?」
「そうですね、それほど肩ひじを張る必要はありませんが、身を清めて飲酒は控えておいてください」
「了解しました」
いくらなんでも神様の神託を授かるのに飲酒はしないと思うが、念のために注意はしておこう。
うっかりいつもの癖でお酒を、なんてことは有り得そうだ。
***
「というわけで、今晩シャトー号時間二十時、神様方から報酬として神託と小さな加護的なものが貰えます。飲酒不可、身を清めておいてください」
創造神様との話し合いが終わりアレシアさん達のところに戻ってきたのだが、全員が出発時と変わらずコボルトロスで沈んでいた。
こういう場合にはショック療法が効果的だと思い、手を叩いて注目を集めた後に爆弾を放り込んでみた。
沈黙があたりに広がる。
あれ? 僕的には大きな爆弾を放り込んだつもりなんだけど、無視ですか?
神託ですよ? 加護的なものも追加されているんですよ?
「ここここうしてはいられません! 身を清め、あっ、その前に教会のお掃除、いえ、飲酒? 違います。えーっと、えーっと」
クラレッタさんが突然立ち上がり、テンパって大騒ぎを始めた。良かった、爆弾は不発じゃなくて時限式だったらしい。
慌てるクラレッタさんも可愛らしいが、クラレッタさんの豊かな母性も大パニックで非常に眼福だ。
騒ぐクラレッタさんに釣られて、アレシアさん達も慌てだす。大混乱だが、沈んでいるよりも数倍マシだろう。
「ねえ、ご主人様、私達も貰えるの?」
「ん? ああ、貰えるよ」
「あの、私達は奴隷なのに神様から加護を頂いてもいいのでしょうか?」
イネスの質問に答えると、今度はフェリシアが不安そうに質問してくる。
「ぶっちゃけ、神様は奴隷とか気にしないと思うよ。それに僕達だけじゃなくリムやペント、ふうちゃん、べにちゃんにも加護的なものが貰えるらしいから気にしなくていいよ」
「え? 従魔とはいえ、魔物に神様が加護を与えることなんてあるの? というか、今回のことって、そんなに大事なの?」
イネスが驚くのも無理はない。
「まあ、大事って程じゃないけれど、それなりに影響は大きいみたいだよ」
外から見ると、引きこもりな地の龍の社会復帰だけだもんね。でも、神界的にはそれだけでは済まない。
だから、光の神様とお祈りの時間を決めた後、ひと騒動起きた。
誰が加護的なものを与えるかということで神々が集まったのだが、久しぶりに下界に干渉できる機会な上に、創造神様を煽って一泡吹かせるという最高の楽しみを提供したということで、それに関わった神々のほぼすべてが加護的なものを与えたがったのだ。
でも、神様のルール上、報酬とはいえ下界に過干渉はできない。
加護は与えられないから加護的なものになるし、これでは報酬が少なすぎるのではと神々が言いだし、そんな中で娯楽神様が、じゃあ航君たちの従魔にも加護的なものを上げたら? と提案、可決された。
それでも加護的なものを授ける枠が四枠増えただけで、創造神様に一泡吹かせる計画に参加した神々の数からすれば焼け石に水。
結局、僕が神界に滞在している間に誰が加護的なものを授けるかは決まらず、時間切れでシャトー号に戻ってきた。
つまり、僕もどの神様が誰に加護的なものを与えるかを知らないということだ。
フェリシア、クラレッタさん、カーラさんは関係がある神様が居るから分かりやすいけど、リムに加護的なものを与える神様とか想像もつかない。
あっ、なんか僕も不安になってきたな。
「ワタル。お祈りの時の服装はどうすればいいのかしら?」
「え? いや、そこまでは聞いていないので知りません。でもまあ、ある程度ちゃんとしていればいいのでは?」
さすがにTシャツに短パンとかだと微妙だが、ちょっとお高めのレストランに行けるくらいの服装であれば神様も文句は言わないだろう。
「そういう訳にもいかないでしょ。クラレッタ!」
そういう訳にもいかないらしい。
「クラレッタは教会に掃除に向かったわ。追いましょう」
アレシアさんとドロテアさん、それを追いかけてマリーナさんとイルマさんも走り去っていく。
慌てすぎな気がしないでもないが、元気になってなによりだ。
「ん? カーラ、どうかしましたか?」
袖をくいッと引かれて振り向くとカーラさんが居た。どうやら他のメンバーについていかなかったらしい。
あと、なぜか頭の上にリム、両肩にふうちゃんとべにちゃんを乗せている。
「ご飯は食べていい?」
あっ、今から食事に行くつもりなんですね。僕も小腹が空いたし、ご一緒してお茶にしよう。
神様からの加護的なものか、どうなるのかな?
読んでくださってありがとうございます。




