6話 ジラソーレの皆にお土産とクラレッタさんの……
ジラソーレの定宿に着いた、居るかな?
「すみませーん」
「いらっしゃいませ、お泊りですか?」
「すみません、お客じゃないんですよ。ジラソーレの皆さんはいらっしゃいますか?」
「誠に申し訳ありませんが、ジラソーレの皆様方にお会いしたい方達が、大変多くいらっしゃいまして。お知り合いか、お約束がなければお取次ぎしない様に決まっているのです。何かお約束はございますか?」
おうふ、まさかこんな難関があろうとは、皆物凄い美人だから色々あったんだろうな。
「あの、何度かご一緒させて頂いているので、ワタルと伝えれば会ってもらえると思うのですが、伝言もお願い出来ませんか?」
「かしこまりました、お伝えは致しますが、お記憶になかった場合はお引き取りください」
「はい、分かりました」
「なんだかあの男の人、ご主人様の言う事信じてないように見えました。言葉遣いは丁寧でしたけど見下す感じがして不愉快です、失礼な方ですね」
「仕方がないよ、ジラソーレの皆さんは物凄い美人で人気もあるから。色んな事があって、宿の人も警戒してるんだよ」
「そんなにお綺麗な方達なんですか?」
「うん、奴隷商館のランクなら、2人と同じ最高ランク間違いなしだね」
「ご主人様、知り合いを、奴隷商館のランクで表現するのはどうかと思います」
「はは、情けないけど、美人を表現する方法がそれしか思いつかなかったんだよ」
「うふふ、それでそんなに嬉しそうなのね」
「あれ? わかりますか?」
「ええ、鼻の下が伸びてるわ」
いかんな、欲望がダダ漏れみたいだ注意しないと。
「まあ、相手にされる訳ないんだけど、せっかく繋がった縁が切れない様にお土産を持って来たんだよ」
おっ宿の人が戻って来た、後ろにはアレシアさんがいるな、来てくれて良かった。そんな人知らないとか言われたら、泣いてたな。
「ワタルさんお久しぶりです。無事に戻ってこられたんですね、安心しました。皆いますのでお部屋にご案内しますね」
宿の人に、何でこんな奴が……といった感じの視線に見送られながら奥に進む。部屋に入ると皆さんが無事戻って来た事を喜んでくれた。
「リムちゃんもお元気そうですね。それでワタルさん、後ろのお2人をご紹介願えますか?」
「ああ、すいません、イネスとフェリシアです。僕の奴隷で護衛をして貰っています」
「イネス、フェリシア、こちらの方達がジラソーレの皆さんで、アレシアさん、ドロテアさん、マリーナさん、カーラさん、イルマさん、クラレッタさんです」
「「よろしくお願いします」」
「アレシアです、こちらこそよろしくお願いします。それにしてもワタルさん、こんなに美人で腕が立つ奴隷をよく買う事が出来ましたね。このクラスになるとお金があるだけでは買えないでしょう?」
「ええ、様々な方が条件に合わなくて無理だったそうなんですが、お話だけでもしてみたいと挑戦してみたんです。そうしたら、何とか僕が叶えられそうな条件だったので、交渉成立しちゃいました。商館のオーナーの方も目を丸くして驚いてましたね」
「うふふふふ、お話だけでもなんてワタルさんも男の子なのね」
「違いますよイルマさん、僕はもう立派な男です。子はいりませんよ」
うはっ、イネスとフェリシアで美人に耐性が付いたはずなのに、イルマさんの妖艶な雰囲気はまた別物だな、恐ろしい魅力だ。
「あらそうなの? お風呂上がりの熱い視線が忘れられないわ」
「あふ、いえそれこそ男だからなんですよ」
「ふふ、イルマもその辺にして、それでワタルさん今日はどうしました?」
「ああ、そうでしたね、すっかり忘れていました。南の大陸でお土産を買ったので配っているんですよ。ジラソーレの皆さんに喜んでもらえるか分かりませんがどうぞ」
皆に香辛料の詰め合わせと、布を渡す。
「まあ、こんなに、本当にいいの? 香辛料なんて高かったでしょう?」
「あはははは、アレシアさん僕は香辛料が安い所に買いに行ったんですよ、気にしないでください」
「そうだったわね、でも香辛料のお蔭で野営の楽しみが増えるわ、ありがとうワタルさん」
「ワタルさん、これからも島の依頼を受けてもらえるの?」
「それが色々やらないといけないので、しばらく島の依頼は受ける事が出来ないんですよ」
あれ? カーラさんがシュンとしちゃった、なにこれ、可愛すぎるんですけど。
「えっと、あの? どうしたんですか? カーラさん?」
「ふふふ、ごめんなさいね、カーラはワタルさんのテント筏がお気に入りだったから。私も残念よ、リムちゃんを抱っこさせてもらえるかしら?」
リムもOKだそうなのでドロテアさんにリムを預ける。あっマリーナさんもリムを撫でに、リムは人気者だね、うらやましい。はっ今この部屋には物凄い美人が8人もいるんだ、深呼吸しないと。
「お気に入りですか? グイドさん達もテント筏を改良して、居心地はあまり変わらないのでは?」
「グイドさん達のテント筏もずいぶん快適になったわ。でもグイドさん達は料理が出来ないから。ワタルさんの料理を、クラレッタが覚えてくれたので宿では食べられるんだけど。
疲れてテント筏に戻って美味しい料理があるのと無いのとではずいぶん違いますから。まあ、ワタルさんが来る前はずっと野営だったんだから、お風呂も、ゆっくり休めるテント筏もあるのに不満を覚えるなんて贅沢なのかしらね」
ああ、そういえばカーラさんは何時も美味しそうにご飯を食べてくれたな。毎回おかわりしてくれたし、シュンとしているカーラさんを見ると何かしないといけない気がする。
(ご主人様、私達もご主人様の料理、食べてみたいわ)
(なんで小声なの? それに、作った事なかったっけ?)
(うふふ、他に人が居るのに、奴隷がご主人様にご飯を作ってって言うの変でしょ? それにご主人様の料理は食べた事無いわ)
変でも小声で要求する所がイネスらしいね。でも作った事無かったんだ……ああ、美人の手料理ってだけですべてに満足していたな。自分で料理を作ろうなんて少しも思わなかった。あっ、そうだったカーラさんを何とか元気にしないと。
「カーラさん、あの島には当分行けそうにないんですけど、新しい料理をお作りしましょうか? 料理を作ろうかと思うのですが」
「本当? でも唐揚げも食べたい」
「もちろん唐揚げも作りますよ。それに新しい料理は海の幸を使ったとっても美味しい料理ですよ」
「たべる」
シュンとしていたクマミミがピコピコしている。この人は本当に可愛い人だな。見た目は巨乳で高身長の物凄い美女なのに、話して見ると可愛いと感じるのが不思議だ。
「ワタルさんの新しい料理ですか、私にも教えてもらえますか?」
「ええ、構いませんよ」
クラレッタさんは料理が好きだよな、一緒に料理するのはとても楽しいんだけど、それ以外に興味が向いてないのが悲しいです。
「では、何時にしましょうか? 僕はこれから5日間は準備だけなので時間は合わせられますが、何時頃が都合がいいですか?」
「明日食べたい」
「明日までお休みですから、明日の夕食でどうでしょうか?」
「分かりました、場所はどうしましょう?」
「ああそうですね、この宿なら私が偶に料理をさせてもらっているので、厨房が借りられるのですが、夕食だと忙しい時間帯になってしまいますね」
「そうですか、なら少し早めに昼食を作るのはどうでしょう? 魚介類は新鮮な方が美味しいですから」
「朝の忙しい時間が終わってから厨房を使わせてもらって、お昼で忙しくなる前に作り終えれば大丈夫ですか?」
「それなら迷惑は掛からないと思います」
「では、明日の朝10時頃にこの宿に来ますね、ちなみに全員分を作ればいいですか?」
部屋の中を見渡すと皆頷いていたので全員分作ろう。僕とリムを合わせると10人前で、多めに作らないと足りないだろうから15人前位作るか、結構大変だな。
「では、失礼しますね、リム行くよ」
ドロテアさんとマリーナさんにムニムニされているリムを抱き上げて宿を出る。
「ご主人様、あの宿の従業員の男性が、ご主人様を睨んでましたけど大丈夫でしょうか?」
「うーん、たぶんジラソーレの皆さんのお部屋に入った事が、気に食わないだけだと思うから大丈夫かな、たぶん……」
もし自分の立場なら、あんな美人達の部屋に入った男を見ると殺意を覚えるな……ここは命が軽い異世界……大丈夫かな……
「ふふ、大丈夫よ何かあったら私達が守るから。それよりもご主人様って料理が出来たのね。なんで私達にも作ってくれなかったの?」
「ああ、それは、イネスとフェリシアの料理で十分満足していたから、自分で料理しようなんて全く思わなかった」
「うふふ、褒められちゃったわね」
「ですがご主人様、クラレッタさんも料理をされるのに、ご主人様の料理に興味がある様でした。私達は普通の料理しかしてませんでしたが、本当にご不満は無かったのでしょうか?」
「イネスとフェリシアが作ってくれるだけで、十分に満足できるんだけど」
「そうなんですか?」
正直、不味くて食べられないようなご飯でもない限り、イネスやフェリシアがニコニコとご飯が出来ましたよ、と作って持ってきてくれる料理に不満を覚えるなんて無理だ。
僕の中では、美人の手料理なんて神から与えられた神聖な物より素晴らしいと思う、完全に満足しているのにわざわざ自分で料理なんてしないよね?
「それに僕は料理が上手なわけじゃなくて、ただちょっと変わった調理法を知ってるだけなんだ。教えた料理もクラレッタさんの方が上手に作れると思うよ」
「そうなんですか、でも新しい料理が覚えられるのなら嬉しいです」
『……わたる……ごはん……すき……』
突然の告白に衝撃を受ける、そういえばリムは何度か島に連れて行ってたから、僕が作ったご飯を食べたことがあったね。美味しそうに食べてくれて嬉しかったな。
「ありがとう、リム、明日は沢山ご飯作るから、一緒に食べようね」
『……いっしょ………たべる……』
リム可愛い、鼻血がでそうです。
係留所に向かい運ばれている荷物を船に積み込み、中でゴムボートに載せて送還する。
「せっかく船まで来たし、シャワーを浴びて宿に戻ろうか」
「「はい」」
お風呂も大好きだけど狭いシャワー室で一緒にお湯を浴びるのも大好きです。
宿に戻りイチャイチャしてから眠りにつく。
朝、何時もの日課を済ませ、身支度を整え朝食を食べる。
さっそく市場に出かけ、昼食の為の魚介類を選ぶ、白身魚と青魚なら大抵のものはフライに合うよね、網焼きで食べた牡蠣も買わないと。
カキフライそれだけでメインを張れる。大ぶりのエビ発見、エビフライは外せないよね。鶏肉、卵、ジャガイモ、必要な物を買い足していく。
魚のフライ、牡蠣フライ、エビフライ、鳥の唐揚げにポテト、揚げ物ばっかりだけど野菜スープも付ければ問題無いよね?
ミックスフライ定食、たぶん満足してくれるんだと思うんだけど、調味料が無いのが痛いな。ソースが欲しい、マヨネーズの作り方は分かるからタルタルソースを作りたいけど食中毒が怖い、この世界の卵でマヨネーズは勇気がいるな。
あっ、でもクラレッタさんが神官だよね、浄化とかで悪い菌をなくしてくれないか聞いてみよう。
リムも使えるはずなんだけどまだ魔法すら使ったことが無いからね、クラレッタさん次第だけどマヨネーズが作れれば、今日のお食事会は大成功になるだろうな。一応マヨネーズの材料も買っておこう。
そういえば僕以外にもこの世界に来ている人がいたはずなんだけど、食文化が発展してないな。なんでだろう?
買い物も終わり、約束の時間までまだあるので宿に戻って食材を送還してお茶を飲む。
「ご主人様、沢山の種類の食材をお買いになられましたが、全部お使いになられるのですか?」
「うん、大人数だし、沢山の種類を作っても問題無さそうだから贅沢にいくよ。楽しみにしててね」
「うふふ、ご主人様とっても楽しみよ」
「私もです」
『……りむ……たのしみ……』
あれ? 期待値上げすぎたかな? イネスもフェリシアも、楽しみにしてるみたいだし、リムも頭の上で嬉しそうにポヨンポヨンしてる。うう、急にプレッシャーが……ガッカリされたら泣く自信があるな。
「そろそろ行こうか」
「「はい」」
食材を持ちリムを頭の上に乗せてジラソーレの定宿に向かう。今から行けば10時少し前に着くね。
宿に着くと昨日の男性従業員が露骨に嫌そうな顔をして話しかけて来た。何もそこまで露骨に不愉快な気分を表現しなくても空気は読めるよ、なんか悔しいから無視するけど。
「いらっしゃいませ、お泊りですか」
「いえ、ジラソーレの皆さんと約束がありまして、ワタルが来たとお伝え願えますか?」
「かしこまりました……チッ」
うおい、露骨に嫌そうにしながら、更に舌打ち? その上ノッタリノッタリ歩いて行くよ、いいの? それでいいの? 君の後ろでクラレッタさんが見てるよ?
あっ、固まった……ブフッ、いかん笑い声が漏れてしまった。落ち着け、今からが面白いんだ。
「ワタルさんは私達のお客様です、その方にこの宿の方はあんな最低な応対をするのですか? これでは安心してこの宿に泊まる事が出来ません。今後どうするのか話し合ってきます、ワタルさん行きましょう」
あれ? 面白くなるはずなのになんでこんなに怖いの?
クラレッタさんのガチな怒りにビビる。チョットお説教コースかなって、その怒られてる従業員君を従業員君から見える位置でニヤニヤ笑って煽る予定が、ガチ過ぎる怒りに僕まで逃げ出したくなる。
従業員君は真っ青になってるな、分かるよ今のクラレッタさん最高に怖いよね。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。