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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
十八章
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12話 希望

 どうにかこうにか試行錯誤し、ようやく地の龍と会うことができた。創造神様の言うとおり地の龍は優しく穏やかな性格で、それゆえに多大なストレスを創造神様に抱えていた。地の龍の社会復帰ミッションが、組織改革に変わった。……なんでだ?




「あー、地の龍にこういうことを言うのは申し訳ないのですが、創造神様は引退を認めないと思います」


 悩んだ末に地の龍に真実を告げる。


 カウンセリングの手法として正解なのかは分からない。なんか急ぎ過ぎている気がしないでもない。


 でも、カウンセリングなんかしたことがないから、自分の考えを正直に告げて落としどころを見つけるしか僕にはできない。


 だから涙目で僕を見つめないでください。


 巨大な地の龍の巨大な顔に相応しい大きな瞳、それが明らかに涙でにじんでいるのをみると心が締め付けられそうになる。


「……なぜですか?」


 それでも、悲しみに暮れながらも優しく聞き返すことができる地の龍、優し過ぎるよ。


 僕ならブチ切れている自信がある。


 ふぅ、心臓がドキドキする。できれば誰かに頼りたいのだけど、他のメンバーは意識を飛ばしているから無理だ。僕も現実逃避したいな。


「龍という特別な立場だからです。下界への干渉を制限した創造神様が、便利に使えるあなたを手放すと思いますか?」


 唯一の癒しであるリムのモチモチボディに勇気づけられながら会話を続ける。


「私以外にも龍は存在します。今まで私ばかり苦労していたのです、次はあの者達が頑張る番でしょう。私は……もう嫌なのです」


 穏やかで決して声を荒げた訳でもないのに、僕の心に伝わってくる悲しみと怒り。


 沢山仕事を押し付けられてきたんだ、休みを望むことも肩代わりした仕事の分の返済を求めるのも間違ってはいない。


 だからこそ、真実を告げるのがとても心苦しい。


「……こう言ってはなんですが、嫌だと訴えて……創造神様がそれを理解してくれると思いますか?」


 僕よりも圧倒的に付き合いが長い地の龍なら分かるよね?


「理解してくれるとは思いません。むしろ嬉々として絡みに来るでしょう」


 即答だったね。


 そう、僕に言われなくても地の龍も理解しているはずなんだ。創造神様に真っ当な判決は望めないと、それでも嫌になっちゃったんだよね。苦しかったんだよね。


 全部分かるとは言えないけれど、その理不尽に対する苦しみを少しは理解できる。


「ふふ。あなたは優しい人間なのですね。初めてです、私の為に泣いてくれた創造神の使いは……」


「え?」


 ……あっ、僕、泣いてる。


 あー、うん、しょうがないな。映画やドラマの悲恋や鬱展開でも泣いてしまうタイプなのに、それとは段違いに共感できる苦しみを目の当たりにすれば、そりゃあ泣くさ。だって悲しいもん。


 創造神様が見ている可能性が高くなければ、一緒に創造神様に対して罵詈雑言を飛ばしながら悪酔いするまでお酒を呑みたいくらい悲しい。


 まあ、今お酒を呑んだらとんでもないことを口走りそうだから実行しないけどね。創造神様は敵に回すには恐ろし過ぎる。


「……コホン。失礼しました。そういう訳で引退は無理、だからといって今までと同じでは辛すぎる。だから交渉しましょう、楽しくお仕事ができるように!」


 労働交渉。日本人が苦手な分野だけど、地の龍の為ならアメリカ人ばりに交渉することを誓おう。まあ気持ちだけだけれども。


 残念なことに僕には気持ちがあっても交渉テクニックがない。


 だから、事前の打ち合わせが非常に重要だ。


 交渉内容すら創造神様に把握されている可能性が高いんだ、条件を呑むかストの続行かの二択になるくらいに条件を詰めておきたい。


「交渉ですか?」


 キョトンとする地の龍。洒落にならないくらいに強そうな見た目なのに、なんだかちょっと可愛い。


「はい。創造神様と地の龍が直接やり取りをするから問題だと僕は考えています。ですから、間に信頼できる神様に入ってもらうのが一番だと思うんです」 


「……なるほど。創造神と直接会話しなくてもいいだけで、かなり楽になります。別に大地の管理が嫌いな訳ではありませんし、創造神の理不尽を受けないのであれば仕事をするのはやぶさかではありません」


 会話すら嫌なレベルか。まあ分からないでもない。僕も創造神様と会話する時は、面倒ごとに巻き込まれないかといつも冷や冷やしているもん。


 でも、仕事自体が嫌いではないのは良い情報だ。創造神様さえどうにかできれば、すべて解決だね。それが一番難しいけど。


「こんな簡単なことにも気づかず、逃げることばかり考えていました。ふふ、私は愚かですね」


 遠い目で自嘲する地の龍。悲しくなるので遠くを見るのを止めてください。


「いえ、愚かというよりも、ストレスで視野狭窄に陥っていたのだと思います。辞める以外考えられなかったんですよね?」


「……そうなのかもしれません。ですが、あなたのおかげで新たな道が見えました。感謝します」


「気にしないでください。それで地の龍には上司になってほしい神様はいますか?」


「信頼できる神となると、光の神様でしょうか?」


 地の龍も光の神様にはちゃんと様をつけるんだな。こんなところでも創造神様の業の深さを感じてしまう。創造神様、はっちゃけすぎだ。


「光の神様はたしかに信頼できるお方です。ですが、上司になってもらうのは止めておいた方が良いでしょう」


「なぜですか?」


 僕の言葉に地の龍が不思議そうな顔をしている。僕だって頼れるなら光の神様一択なんだけど、地の龍には都合が悪い。


「光の神様は創造神様と一緒にいることが多いです。創造神様が地の龍の仕事を思いついた時にすぐに光の神様に命令するでしょう。その度に光の神様にご迷惑をかけてしまうことになります。できれば創造神様と接点が少ない神様が良いと思います。龍神様とかどうですか?」


 これ以上光の神様に苦労は掛けたくない。創造神様なら光の神様で遊ぶために、くだらない仕事を地の龍にさせようとしてもおかしくない、というか、確実にさせようとする。


 その点、龍神様なら龍の神様だし、挨拶くらいしかしたことがないけど、なんかすごく強そうで守ってくれそうに見えた。


「龍神様はちょっと……悪いお方ではないのですが、思考が単純なお方ですので創造神には太刀打ちできないかと」


 あぁ、脳筋な神様なのか。それは創造神様と相性が悪いな。創造神様、屁理屈が得意なタイプだもん。


「うーん、ではどなたがいいのでしょう?」


 女神様方に苦労を掛けたくないから、男の神様が候補なのだけど、正直、女神様以外の印象が薄くて候補が浮かばない。


 僕がある程度知っているのは魔神様、戦神様、商売の神様くらいで、娯楽神様も知ってはいるけど、性別があやふやだ。


 魔神様は神経質っぽくて、創造神様との関りが増えたら発狂しそうだ。


 戦神様は戦争一直線だな。たぶんすぐにブチ切れて戦いが始まる。


 商売の神様は、なんとなくとても忙しそうだし、とても苦労していそうな気がする。上司になれば守ってくれそうだけど、簡単には上司になってくれないだろうなー。


 娯楽神様は、性別が男だとしても論外。苦労が増す未来しか見えない。


「そうですね、創造神を特に嫌っている神々にお願いするのはどうでしょう?」


 僕が悩んでいると地の龍も意見を出してきた。良い傾向だ。


「創造神様は嫌がっている相手に嬉々として突撃していくタイプですよね」


 火種を投入するスタイルは危険です。


「そうでしたね。そうなると、創造神が苦手としている神様にお願いするのが一番ですか」


 そんな存在が居れば一番なのだけど、そんな都合の良い神様がいるのかが問題だ。


「そんな神様が居ますか?」


「闇の神様は……駄目ですね。たしか創造神との関係を断ち切っていました。えー……」


 地の龍が頭を悩ませているが、なかなか都合がいい神様は居ないようだ。とりあえず闇の神様のくだりは聞こえなかったことにする。


「敵対的な神様だと創造神様は喜びそうですから、中立、もしくは仲の良い神様の方が良いかもしれません」


「あはは。創造神と仲が良い神様なんて存在しませんよ。あっ、そうでした、あの方なら力になって頂けるかもしれません!」


 僕はツッコまない。ツッコまないぞ。


 これ、創造神様、神界でキレてない?


「どなたですか?」


「畑神様です」


 はたけがみ? ……あぁ畑かな?


「畑の神様なんですか?」


 豊穣神様にはご挨拶した覚えがあるけど、畑神様には会った覚えがない。というか、畑オンリーな神様ってこと? 


 一神教ではなく様々な神様が居るのは知っているけど、この世界の神様の種類も豊富だな。会ったことがないだけで、この世界にもトイレの神様とか居るのかもしれない。


「はい。私も大地の管理を司る龍として、お目にかかる機会が多かったのですが、素朴で真面目なとても素晴らしい神様なのですよ」


 地の龍が本当に嬉しそうに畑神様について語る。土に関係する者同士、相性が良いのかもしれない。それは素晴らしいことだけど、不安もある。


「あの、素朴で真面目な神様で創造神様に対抗できますか?」


 それができなければ、目的が果たせない。


「心配ありません。畑神様は怒る姿など見たことも聞いたこともありませんが、駄目なことは駄目と判断される方ですし、一度だけ創造神を諭す姿を見たことがあります」


 諭す?


「創造神様に諭すくらいで効果があるんですか?」


 鼻で笑って聞き流しそうだが?


「畑神様は理解するまで懇々とお話をされる方ですから、創造神は苦手だと思います。私が見た時もかなりの時間をお話しされていて、最後には創造神は涙目だったように思います。なんでこんなに素晴らしい思い出を忘れていたのでしょう?」


 創造神様の涙目を素晴らしい思い出扱いしちゃうのか。たぶん、穏やかで優しい性格はある程度維持されているけど、ストレスで少し性格が歪んじゃったんだろう。罪深い。


 それにしても懇々と諭すか。


 手ぬるいように思えるけど、怒れば喜ぶ、キレたら反撃する、逃げたら追いかける、創造神様はそういう性格っぽいし、それに対抗するにはベストな気もする。


 理解するまで優しく懇々と諭し続ける教師VSガキ大将系問題児か。勝てそう、というか、最低でも引き分けには持ち込めそうな戦いだな。


 OK、希望が見えてきた。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何だか会社の嫌な上司を思い出して涙が出そうでした 「諭す」神の結末が楽しみです 豪華客船で飛行船は登場予定は無いのでしょうか?
[一言] 確かに諭されるの一番弱そうな創造神…というか龍とワタルの創造神への共通認識がひどすぎるけど全く間違っちゃいないという
[良い点] 地の龍と畑なら相性も良さそう!
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