2話 創造神様との交渉
嫌な予感がしながらもクラレッタさんに説得されて教会に向かった。教会に到着し神像の前でお祈りすると、次の瞬間にはわずかな希望が打ち砕かれて神界に居た。創造神様から課されたミッションは引きこもりな地の龍の社会復帰。意味が分からない。
「報酬か、航君は何が欲しいのかな? 知っていると思うけど、下界に干渉できないから報酬は限られるよ」
創造神様が隣の光の神様を気にしながら言う。あれは、大丈夫僕はちゃんと分かっているから怒らないでねというアピールだろう。
無茶な事を言うと僕も光の神様から怒られそうだから注意しよう。
「少し考える時間をください」
「うん、僕ってとっても偉い創造神様だけど、待ってあげるよ」
「……ありがとうございます」
なぜこのタイミングでマウントを取られるのかが分からないが、問題は何を要求するかだ。
かなり苦労しそうだからそれなりの報酬は欲しい。
神様からのご褒美なのだから、やはりターゲットは女神様方。耳かきデートと違って一発勝負だし、かなり要求を吟味しなければいけない。
…………………………吟味しなければならないと思いつつも、結構くだらないことを思いついてしまった。
でも、僕的には有りだ。
女神様方に踊り子の服を着て踊ってもらう(撮影可)。
内容的にショボいけど相手が女神様の集団ってだけで価値が跳ねあがるし、撮影可なら一生の宝になる。
もう一つ思いついたが、こっちはメリットは大きいけど要求が通る可能性は低い。最初から諦める……ん?
……交渉のテクニックで最初に過大な要求をするテクニックがあったな。ドアなんちゃらかんちゃらというやつ。
「決まりました」
OK、地球のテクニックを神様達に見せつけてやろう。一発目は絶対無理なの、二発目はさっき思いついたの、三発目が本命だ。
「うん、で、要求は何かな?」
「船召喚の強化をお願いできますか? 軍船などが制限されていますし、それらが購入できるようになったり、船の召喚制限が撤廃されたりするととっても嬉しいです」
「うん、無理」
予想通りサックリ拒否された。
「そこをなんとか」
だから少し粘ってみる。
「無理」
やっぱりダメか。無理な理由すら説明してくれないところに、交渉の余地のなさを感じる。最初の要求が過大すぎたかもしれない。
「そもそも航君は船召喚をちゃんと使いこなしてないよね。制限の解除を求める前に、自分でできることをやるべきだよ。僕が与えたスキルは結構凄いんだよ?」
素で創造神様に注意されてしまった。
船召喚の凄さは身に染みているが、たしかに使いこなしているとは言えない。まあ今でも十分なチートなんだし、スキルの利用方法をもう少し追及してみろってことなんだろうな。
「……では、間違いなく地の龍の説得を手伝ってくれる、アレシアさん達やイネスとフェリシア、リム達スライムとペントに何かご褒美を頂けませんか?」
このお願いはメリットが大きい。
自分の為のお願いじゃないから、お願いした時点で神様からの好感度を少し稼げそうなところが特にナイスだと思う。従魔達は、悪いけどおまけ扱いだ。
そのうえ成功すればうちの女性陣からの好感度も爆上がりだ。でもまあ下界への干渉という部分がネックだから難しいだろう。
「うーん、光の神、どう思う?」
あれ? 従魔達の分まで図々しくお願いしているのに、即座に否定されなかった。ちょっと予想外だ。
「そうですね、彼女達も我々との関係が深くなっています。加護を与える、神器を与える等は無理ですが、航さんの船の聖域でなら神託と小さな能力の付与くらいなら可能ですね」
あれ? 女神様踊り子計画がなぜか頓挫しそうになっている気がする。
関係が深くって……あぁ、でもそうか僕は神様達に見守られているというか娯楽扱いで観察されているから、僕の周囲も視界に入るだろう。
うっかり神様から手紙も貰っちゃっているし、カーラさんなんか美食神様に美味しい物をお祈りで報告しちゃっているし……関係が深くないとは言えないよね。
「そうだよね、ある意味独立している航君の船の聖域なら不可能じゃない。でも本当に小さな能力しか与えられないよ。能力を与える神によって違うけど、少し頭が良くなったり少し運が良くなったりするくらいだね。どうする?」
正直に言おう、ショボい。少し運が良くなるのは魅かれるけど、予想される苦労を考えると釣り合っているとは思えない。
それなら女神様踊り子計画の方が僕的には高評価だ。
でも……みんな喜ぶだろうな。この世界では神様の実在を確認しているから、神様に対する畏敬の念は強い。そんな神様からの神託&小さな能力の付与。喜ばないわけがない。
特にクラレッタさんは大喜びするだろうなー。
僕が神様にお願いしたんだよと伝えたら、とてつもなく感謝してもらえそうだ。下手をしたら、いや、割と高い確率で抱きしめてもらえそうな気がする。
……神様という頂点の存在の踊り子生ライブ&画像OR高嶺の花な美女達の感謝&スキンシップの二択。
……くっ、悩む。大学を選んだ時よりも難しいぞ。
「……では、それに加えて城塞都市で売っている踊り子の衣装のような格好での、女神様方のダンスショーもお願いします」
決められないのなら両方お願いすれば良いじゃない。
「いいよ」
「ダメです」
創造神様からは許可をもらい、光の神様からは許可が下りなかった。これはどうなんだ?
権力で考えると創造神様が上で、精神的力関係は光の神様が上。普段は光の神様の味方だけど、今回ばかりは創造神様に頑張ってほしい。
「じゃあダメだね」
創造神様があっさりと意見を翻した。だよね、創造神様が自分の為にならともかく僕の為に光の神様と敵対するなんてありえないもんね。
だからといって諦める選択肢は僕にはない。
「創造神様はいいって言いましたよね。一番偉い創造神様の意見が通らないんですか? 創造神様ってもしかしてそれほど偉くないのですか?」
「おっと航君、異世界人とはいえ人の身で調子にのりすぎなんじゃないかな? 創造神を疑うなんて神罰ものだよ?」
冷ッとした空気が周囲に満ちる。
ヤバい。ちょっと煽れば光の神様に対抗してくれるかと思ったのに、矛先がこっちに向いてしまった。普通に怖い。
ここは素直に謝り、僕の正直な気持ちを伝えよう。
「申し訳ありません創造神様。でも、僕は踊り子の衣装を着た光の神様や美食神様、森の女神様、他の女神様方の踊る美しい光景が見たいのです。お願いします」
深々と頭を下げる。
「航君ってこういう時だけハッキリ話すよね。そういうキリッとした態度は別のタイミングで発揮する方が良いと思うよ? でもまあ生意気な女神達が恥ずかしそうに踊るのは面白そうなんだよね。光の神、踊ってあげるように」
僕の真摯な願いが創造神様に届き、状況が変わった。
「嫌です」
でも光の神様は変わらなかった。
キッパリと否定する光の神様。水着は普通に着てくれるのに、なんで布面積が多い踊り子の服はダメなんだろう? 踊るのが嫌なのか?
「航君、嫌だって」
「創造神様、もう少し頑張ってください」
「でもねー、光の神も本気で嫌がっているんだよね。そもそもなんでそんなに嫌なの?」
創造神様が切り込んでくれた。さすが創造神様、頼りになる。
「報酬のおまけ扱いで女神達に踊りをさせることがバレたら恨まれます。神託と付与を諦めるのであれば、責任を持って女神達を説得しましょう」
あー、女神様方のプライドの問題なのか。女性を怒らせると怖い、それが女神様ならなおさら怖いだろう。
「航君、そういうことだから、どっちか選んでね」
両方は無理だったか。そうなるとまた頭を悩ませなければいけない。どちらを選べば僕は幸せになれるんだ?
「決まりました。神託&付与でお願いします」
女神様方の踊り子姿は死ぬほど見たかったが、僕はアレシアさん達の好感度を上げることを選択した。
「ようやくかい。普通、創造神をこんなに待たせたりしないよ?」
創造神様が呆れている。
でも、しょうがないんです。だって決められなかったんだもん。
美貌や性格、お胸様、様々な項目で比較したが、どちらもトップクラスなので決着がつかない。
だから僕は身近な生活に選択肢を落とし込むことで、決断の後押しをすることにした。
まず女神様方は頑張れば会いに行けるアイドルで、アレシアさん達は同じ大学のミスコン上位者達と定義する。
続いて、会える頻度は、女神様方は定期ライブの三日間。アレシアさん達は授業やサークルが同じな上に行きつけの食事処が同じ以上の親密度。
悩みに悩んだが整理して考えると答えはすぐに出た。アレシアさん達の好感度を上げる一択だろう。
ふふ、僕も現実が見えるようになってきた。
「……航君、なんで悦に入っているの? まあいいや、じゃあ地の龍のことはお願いね。報酬は成功報酬だよ」
「え? あっ、ちょっとまってくださ……」
目の前に創造神様の神像が見える。戻されてしまったらしい。成功報酬とか聞いてないよ、失敗したら駄目ってこと?
せめて失敗しても神託くらいはお願いしたかった。
「ワタル、急に立ち上がって叫んだりしてどうしたの?」
「え、ああいえアレシア、別になんでもありません」
「ワタル。神様に呼ばれたのですね!」
成功報酬ということで創造神様とのことを誤魔化そうかと思ったが、クラレッタさんが鼻息荒く問い詰めてきた。
よく分からないが、めちゃくちゃ期待されているのは分かる。
……全員の協力が必要だし、もうバレているのなら先にぶっちゃけるか。みんなで頑張ったのに駄目だったら、報酬が貰えなくても納得してくれるだろう。
「クラレッタ、落ち着いてください。今からみんなに伝えることがあります。創造神様から僕達にミッションが下されました」
僕の言葉に全員がキョトンとした顔をしている。
「えーっと、ご主人様、僕達にってどういうこと? ご主人様が神託を賜ったんじゃないの?」
イネスがナイスな質問をしてくれる。
「厳密には僕に神託が下ったのだけど、全員の協力が必要だから僕が創造神様にお願いしたんだ。みんなにも報酬をくださいって。まあ成功報酬になっちゃったんだけどね」
ドヤっと胸を張る僕。好感度爆上がりですか? 抱きしめてくれても構いませんよ?
「あわあわあわ、どどどどうしますアレシア、そそそ創造神様ががががが……」
クラレッタさんが壊れた再生プレーヤーのようになっている。あわあわあわって口で言う人を初めて見た。かなり混乱しているようなので、スキンシップは難しいようだ。
「そして報酬は、どの神様か分かりませんが神託がもらえます。あと、ほんのちょっとだけ能力的なものを付与してくれるそうです。でも、頭が少し良くなったり運が少し良くなったりするくらいらしいです」
再びドヤっと告げると、今度は女性陣全員が『はわわ』とあたふたしはじめた。冷静なのは僕とリム達くらいだね。
みんな、喜んでくれているようでなによりだ。落ち着いたら僕のお手柄を褒めてくれるよね。抱きしめてもらえないのは困るよ。
読んでくださってありがとうございます。




