18話 ミラーボール
王宮に突入し、艱難辛苦の果てに水の魔法生物の核があるであろう、半地下の水源にたどり着いた。もう少し奥まで砂が侵食していたら僕の大切な腰が爆発していただろう。まあ、腰に負担がかかった以外は王宮内は魔物が一匹も現れず地味に平和だったけど。
核を探すための小舟選びは、会議の結果、一番にアッド号が脱落した。理由はシンプルで、バギーでは全員が乗れないし不安定ということだ。
そして次にゴムボートが脱落。理由はエンジンが付いていないから。静かさならゴムボートなのだが、水の魔法生物相手だと船体が本体に接触するから音の大小の意味が薄い。それならエンジンがついていた方が便利ということだ。
色々と話し合った結果、最終的になんとか和船に決定した。操船が大好きなメンバーのガレット号推しで決定に時間がかかったから、かなり疲れた。
王宮内にある広めの水源とはいえ、室内でパワーボートは危険だろう。僕としてはすんなり和船で決定すると思っていたのだが、水の魔法生物に対抗するにはパワーが必要だという意見も無下にはできなかった。
……でも、室内でパワーボートはないよね?
まあ和船に決定したからなんの問題はない。
「あっ、先に魔法生物を刺激してコアの位置を確認しておいた方が、良くないですか?」
今更だけど、船に乗って探すよりも先に目星をつけておいた方が楽なはずだ。
「ワタルの言うことも一理あるけど、強く水の魔法生物刺激するのも悪手なのよね」
僕の質問にアレシアさんが答えてくれるが、ちょっと理解が追い付かない。何が悪手なんだろう?
「ここで魔法生物を大暴れさせたら、王宮が壊れちゃうでしょ? まあ、探索するだけで大暴れしそうだけど、回数は少ない方がいいわ」
首をひねっている僕にドロテアさんが説明してくれた。なるほど、広場での洪水みたいな攻撃が室内で起こるのは怖いな。
でも、水の魔法生物はテリトリーを大切にしているみたいだから、それほど無茶な……いや、自分の核を狙われたら大暴れするのは当然だな。
できるだけ王宮を崩壊させず、崩壊させるにしても今ではなくできるだけ先延ばしにしたいということか。
「理解しました。じゃあとりあえず和船を召喚しちゃいますね」
和船を召喚すると、魔法陣に水の魔法生物が襲い掛かる。魔法陣が消えしばらく暴れる水の魔法生物を放置、おとなしくなってから全員で和船に乗り込む。
……そういえば広場の時は二回目で洪水を起こしたよね。
ここでは光球とゴムボートを召喚して二回。和船で三回目だけど洪水が起こらない。水の魔法生物も自宅は散らかしたくないようだ。
ゴムボートを送還し和船のエンジンをかけると、その音か振動に反応して水の魔法生物が荒ぶる。
「だんだん激しくなってはいるけど、広場みたいな力技は今のところないようね」
アレシアさんの言うとおり和船を結界ごと包み込むくらい暴れているが、船周辺以外は荒れていないからまだまだ手加減をしているのだろう。
おっ、水面が激しくうねって和船が揺れはじめた。直接攻撃ではらちが明かないから、船体をどうにかしようと考えたのかもしれない。
「ワタル、発進! 急いで!」
「はい!」
アレシアさんの言葉に和船を急発進させる。大きく盛り上がる水面に船が大きくバウンドするが、スクリューはどうにか水をとらえて泉の奥に走り出す。
危なかった。洪水のような大規模攻撃でないなら落ち着くまで待てばいいと静観していたが、和船がある部分だけ盛り上がって数メートルほど運ばれてしまった。
あのままのんびりしていたら、水ごと運ばれて地面の上に捨てられていたな。基本的に防御無双な船召喚だけど、水自体が敵になると地味に油断できない。
懐中電灯の明かりを頼りになんとか船を走らせる。ヤバい、操船をフェリシアに任せておくべきだった。
和船の時はいつも僕が操船していたから何も考えずに舵の横に座ったけど、真っ暗で石の柱を避ける反射神経が必要な今回は、夜目が利いて反射神経に優れたフェリシアが適任だっただろう。
他にも夜目が利いて反射神経が優れているメンバーは居るが、あちらはテンションが上がると危険なので別枠だ。
内心で悲鳴をあげながら船を走らせるが、レースゲームのように障害物が現れるので交代する隙間がない。右へ左へ舵を切りながら奥に進む。
意外となんとかなっているのはレベルアップのおかげか、船長という役職のおかげか……というかこういう時にこそゾーンが発動してほしい。
「ワタル、右!」
突然飛んできたイルマさんの指示に、意味も分からずに従い舵を切る。
「ワタル、スピードを落として。出来るだけこの辺で旋回してちょうだい」
再びイルマさんの指示に従いスピードを緩める。スピードを落とした影響で魔法生物からの攻撃が増える。
うおっ、魔法生物が再び船体を水で持ち上げようとしてきたので、急発進で移動。やっぱり遅いと対応がしやすいのか、水の魔法生物からの攻撃が多彩になる。
「見つけた!」
神経を研ぎ澄ませながら操船していると、イルマさんの嬉しそうな声が聞こえる。どうやら核を見つけたようだ。
イルマさんが指す場所を見ると……水中になんだか凄く派手な物体が見えた。なんだあれ?
魔法生物の攻撃でチラッとしか見えなかったけど、懐中電灯の光に照らされてミラーボールが見えた気がする。見間違いか?
「あれは魔道具ね。今では到底再現できない高度なものよ。錬金術で水の魔法生物を造り出したのかと思っていたけど、錬金術と魔道具との融合は考えていなかったわ」
錬金術と魔道具の融合? よく分からないが貴重な物、いわゆるロストテクノロジーと言うやつらしい。
僕からでは見えないが、たぶんイルマさんはマッド寄りの研究者の目になっているんだろうな。
でも派手過ぎじゃないかな? ミラーボールだよアレ、僕としては少しくらい隠す努力をしてほしかったと思う。
盗んでくれと言わんばかり……いや、この貯水池に入るまでは警戒が厳重だったから、隠す必要はなかったのかな?
「光の反射率が違う? 希少金属を役割毎に使い分けているのかしら? 球体だし核の中心はやっぱり魔石?」
イルマさんの目から見ると、ミラーボールであることにそれなりの理由はあるようだ。
「イルマ、考察はいいからどうすればいいのか教えて。壊せばいいの?」
アレシアさんがイルマさんを正気に戻して質問する。僕も操船が大変だから同意見だ。
「壊せば止まるのは間違いないわ。でも、稼働状態の古代の技術、しかも魔法生物の核なんてこれ以外に現存しているのかも疑問ね。二度と手に入らない物だから、なんとか壊さないで回収できないかしら?」
イルマさんが無茶な事を言い始めた。
巨大な魔物をゴリゴリボキボキと砕いて殺し、綺麗サッパリ溶かして消化してしまうバケモノの体内にあるミラーボールをゲットしろと?
潜水艇……ホワイトドルフィン号はペントに休憩場所としておいてきたからエッグ号しかないけど、可能だろうか?
壊されたり溶かされたりはしない。でも、水中を機敏には動けないから、潜航途中でペイっとはじき出される気がする。
さすがに難しいだろう。
「イルマ、稼働状態かもしれないけれど、今も襲われているし確実に壊れているわよね?」
ドロテアさんの冷静なツッコミが入った。
イルマさんのお願いだから真剣に考えていたけど、根本が間違っていた。あのミラーボールって、この国が滅んだ原因っぽいよね?
稼働状態かもしれないけど、そんな危険な物を確保するのは駄目だ。研究すれば技術は進むかもしれないけど、第二第三のバケモノが生み出される未来しか見えない。
「……壊すわ」
アレシアさんも僕と同じような未来を想像したのか、キッパリと決断した。イルマさんが貴重な物なのと悲鳴を上げているが、今回ばかりは全面的にアレシアさんに賛成だな。
マッドの研究は危険だ。
アレシアさんが一斉攻撃の指示を出す。綺麗に壊せば研究も可能な気がするが、念入りに破壊するつもりらしい。
イルマさんにも全力で攻撃するように命令しているのが鬼だ。
水中に攻撃が届くのかとも思うが、アレシアさん達クラスなら数メートルの水の抵抗はなんとでもなるのだろう。
アレシアさんの指示で、僕以外の全力攻撃が放たれる。シレっとリムも参加しているのが驚きだ。主は僕なはずなんだけどね。
轟音と共に結界の外が水蒸気で塞がれる。
「ウソ、無傷?」
え? 無傷なの?
「攻撃が届く瞬間、核の前に防壁が張られた。おそらく魔力障壁」
アレシアさんの声に驚いているとマリーナさんが理由を説明してくれた。魔力障壁って言っていたが、たぶん結界のようなものだろう。
防御機能も備えているなんて、古代の技術って凄い。
まあ、そんなすごい物を造ってしまったから、水の魔法生物が暴走したら対処できなかったんだろうな。
高度な技術に溺れて破滅を招く。よく聞く話だ。
「来るわよ。投げ出されないようにしっかり船体に掴まって!」
アレシアさんの叫ぶような指示が飛ぶ。
そうだよね。そんなバケモノの核に直接攻撃をぶち込んだんだもの。水の魔法生物もテリトリーがどうのとか考えずに全力で反撃するよね。
水面が広場の時のように甲高い音を立てながら振動し、次の瞬間、和船が打ち上げられたかの如く空に持ち上げられた。
連続で轟音が響く。
船体にしがみついて周囲がよく見えないが、もしかして水ごと王宮の天井を突き破ってる?
次の瞬間、室内にいたはずなのに綺麗な青空が視界に飛び込んでくる。
どうやら王宮のすべての天井を突破して、天高く打ち上げられてしまったようだ。
押し付けられるように感じていたGが途切れ、浮遊感に変わる。
そうだよね、打ち上げられたら次は落下だよね。
どうしてだろう? 今回の冒険はやたらと高いところから落ちている気がする。
お祓いに行くべき……いや、この世界なら創造神様にお願い……駄目だな。悪くなる未来しか見えない……。
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