3話 島発見と探索
商業ギルドに胡椒を依頼して5日が経った。毎日納品される胡椒を購入したゴムボートに載せて送還する、終わったら食料の買い出しだ。
食料の買い出し中にもよく絡まれた。たしかに治安が悪くなっているようだが、何方かと言うとイネス、フェリシア、両名の美貌にトラブルが集まっている気がする……僕1人で出歩いた方が絡まれない気もするな。
もし僕1人で絡まれたら、身ぐるみ剥がされて終了だからやらないけどね。
そのトラブルもイネス、フェリシアが危なげも無く対処してくれて、僕は見ているだけでトラブルは終わる。あれだよね、僕、空気だよね。
南方都市の皆にもお土産を買った、男どもにはこの大陸のお酒だ。美味しいか分からないが珍しいので喜んでくれるはずだ。
女性陣のお土産は頑張って選んだ。好印象を持ってもらって優しくしてもらうためだ。みんなの意見を聞きながら香辛料の詰め合わせと、この大陸にしかいない魔物素材の反物に決めた。
食事関連と衣服関連を押さえておけば何とかなると思ったからだ。イネスとフェリシアもこの生地の服を喜んでくれたので大丈夫だと思う。
焦ったのが色々買い過ぎて残高が5銀貨になってしまった事だ。真珠亭にもう1泊は宿代が足りないな。
「そろそろ出発しようか、みんな準備はできてる?」
「うふふふ、大丈夫よ」
「大丈夫です」
「じゃあ、行くよ。人目が無い所まで歩いて、そこからルト号を召喚して出発するね」
「「はい」」
街を出て人目の無い所まで歩き、船に乗り南方都市に向かって出航する。
「ふー、やっぱりルト号は落ち着くね」
「うふふ、そうねヨーテボリも珍しい物が食べられて楽しかったけど、あまり観光できなかったし、生活するのならルト号が良いわね」
「うん、南の大陸も後継者争いが落ち着けば観光も出来るようになるはずだし、他の国にも行くつもりだから、次の機会を待とう」
「ご主人様、暫くお風呂に入っていませんので、今日はお風呂に入りませんか?」
「良いね、宿では体を拭くだけだったし。お風呂に入ろうか。南の大陸からある程度離れたら今日はもう休むから。お風呂の準備をお願いね」
「「はい」」
準備に向かう2人を見送り操船しながらリムと遊ぶ。
「リム、今日はお風呂に入るよ。リムはお風呂好きだよね? 嬉しい?」
『……おふろ、すき……りむ、うれしい……』
「そう、楽しみだね」
しばらく走って船を止める。お風呂の時間だ、服を脱ぎイネスとフェリシアに洗ってもらう。お風呂に浸かり、熱くなったら外に出て体を冷ます。
久々のお風呂を長時間楽しむ。もちろんその間はプルンプルンに釘付けだ。唯一欲望の視線を抑えられる時は、プカリと浮かんでいるリムと遊んでいる時ぐらいだ。
「ふー久々のお風呂は気持ち良いね」
「あら、ご主人様が気持ち良かったのはお風呂だけかしら? フェリシアはどう思う?」
「そうですね、イネスが後ろから抱き着いた時、ご主人様はとろけそうになってましたね」
「うふふ、そうだったの。ご主人様はフェリシアのお胸に包まれてる時も凄く安らいでたわよ」
「もうそれぐらいで勘弁してください。長風呂でお腹が空きました、夕食にしましょう」
「うふふ」「はい」
夕食を食べながら今後の事を話し合う。
「今後の予定だけど、行きは初めてだったから、真っすぐ南の大陸を目指したけど、帰りはルートから外れてフェリシアが望む島を探しながら帰りましょう。
人が来る可能性を少しでも減らす為に、胡椒貿易のルートを大きく迂回して探すので、南方都市に到着が遅くなるけど、食料の状況を確認しながらギリギリまで探索するね」
「ご主人様、ありがとうございます、どうぞよろしくお願いいたします」
「私も構わないわ、新しい島も面白そうだしね」
「じゃあ、今回は、大きく西に迂回して島を探しながら南方都市に向かうね」
「「はい」」
西に大きく舵を切り出発する。島を探す以外は今までの毎日と変わりなく、操船して訓練してイチャイチャするの繰り返しで、偶に海の魔物を撃退して毎日が過ぎて行った。
「ふと思ったんだけど、リムは魔法を使えるよね? どんな魔法が使えるのかな?」
『……? ……』
「分からない? うーんまだ小さいので無理なのかな?」
「どうかしましたか?」
「ああ、フェリシア、リムは魔法のスキルが有るから、どんな魔法が使えるのか聞いてみたんだけど、まだよく分かってないみたいで、もう少し大きくなったらまた聞いてみるよ」
「そういえばリムちゃんはホーリースライムでしたね。聖属性魔法と回復魔法が使えるようになれば、更に安心ですね」
「ええ、まあ、リムは今のままでも可愛いから、良いんだけどね。それで何かあったの?」
「ふふ、リムちゃんにメロメロですね。昼食の準備がと……ご主人様、あれは島じゃないですか?」
「ん? 島? どこ?」
「この指の先の方です。薄らと島影が見えます」
「ああ、見えたよ。島に向かうからイネスにも伝えてね」
「はい」
島に到着したが……
「うーん、ここは駄目だよね。小さいし、地面が岩だ。ここに村を作るのは無理だよね」
「そうね、私もそう思うわ。ほらフェリシア、ガッカリしないの、少なくとも陸地が見つかったのだから、あとは人が住める島を見つければいいだけでしょ。何も無いより希望が持てるんだから元気出しなさい」
「そうですね、陸地があったんですもの、探せば良い島が見つかりますよね。頑張ります」
それからもポツンポツンと小さな島が見つかった。人が住める島ではないが、見つかる頻度が増えている。
「うーん、ここら辺には小さな島が散らばってるみたいだし、近くに大きな島があってもおかしくないと思うんだけど。見つからないね」
「なんで小さな島の近くに大きな島があってもおかしくないんですか?」
「うーんあまり詳しいわけじゃないんだけど、たしか海底で大規模な異変、海底地震とか海底火山の噴火とかで海底が隆起して島が出来るんだったかな。もしくは大きな大陸が沈んで高い部分だけ残って島になる事もあるそうです。
まあとにかくそんな痕跡が周りにあるんだから、一番大規模に異変があった場所に大きな島があると思うよ、諦めずに周辺を探そう」
「「はい」」
この海域に留まって周辺を船で探索する事3日目、ついに大きな島を発見した。
「おーい、みんなー大きい島を発見したよ。緑色だから森もあるみたい」
おー2人が凄い勢いでフライングブリッジに上がって来る。
「どこですか? ご主人様」
「どこ、どこなの?」
「そっちじゃないよ。2人の右後ろ方向を見て」
「あ、本当におっきな島ね」
「あれだけの大きさがあれば、私の村が何十倍にも大きくなっても大丈夫そうです」
「2人とも落ち着いて、遠目に見てもあの大きさだから住むには十分だけど、まだ人が住んでいないか、強すぎる魔物がいないか、調べる事はいっぱいあるから。まずは島に近づいて、島の周りを一周して、人工物や魔物の確認かな。2人もしっかり確認してね」
「「はい」」
興奮しているフェリシアをなだめて、島の周りを観察しながら回る。リムも興味津々で島を観察している、可愛い。ゆっくり進んだので途中で日が暮れてしまったな。探索は明日にして夕食を取る事にしよう。
「ご主人様、今の所、人が住んでいる痕跡は無かったですよね?」
「うん、今の所見つかってないよ」
「この島は理想的です。山があり森があり草原があり川もありました」
「フェリシア、気持ちは分かるけど少し落ち着きなさい。一族を連れて来るつもりなら、なおさら冷静に異変の一つも見逃してはいけないのよ」
「ああ、そうですね、イネスありがとうございます。少し落ち着きますね」
「あはは、フェリシアをなだめるイネスって、いつもと逆だよね」
「そうよ、フェリシアは私のなだめ役なんだから自分を見失っては駄目よ」
「そんな役目を引き受けた覚えはありません」
「はは、まあ夕食も済んだし、シャワーを浴びて早く寝よう。明日は島の探索だから、頑張ろうね」
「「はい」」
目が覚めるとまだ薄暗い、早く寝すぎたかな?
「ちゅ、おはようございます、ご主人様」
完全に装備を整えたフェリシアがキスして来た、後ろでイネスが苦笑いしている。
「んちゅ、おはようございますご主人様」
「おはようございます。フェリシア、準備が早すぎだよ。まだ島を一周すらしてないんだから」
「申し訳ありません、どうにも落ち着かなくて」
「まあ、しょうがないね、朝食にしよう」
「「はい」」
リムも起きて来て全員で朝食を食べる。日が昇って来たのでさっそく出発する。昼少し前に島を一周できた。
「これで島を一周したよね。ちょうどお昼だから、ご飯を食べながら気づいた事を話し合おうか。
まずこの島に人工物は見当たらなかったよね。海岸や草原に一つも建物が無いという事は人はいないと考えても良いね。まあ森や山を確認しないと完全にとは言い切れないけど」
「私もそう思います。あと草原には小型の動物、魔物を確認しました」
「そうね、今の所理想的に思えるわね。島の北東部には山があってその周りを森が囲んでいる。それ以外の場所は草原になってたわね」
「その山から海にかけて大きな川が流れているし、人と強い魔物さえいなければここに決めても良いんじゃないかしら」
「ええ、次は川を和船で山まで遡ろうか、それで川沿いに人の痕跡が無ければ人はいないと結論づけても良いと思う。その後は森と山の探索します。では、出発しましょうか」
「「はい」」
川に向かい和船に乗り換えて川を遡る。草原の様子はのんびりしているな、あっ、角兎がいる。狩りで肉類は大丈夫そうだね。
特に難所も無く草原を越えて森に入る。所々倒木もあるが船召喚と船送還でかわしながら奥へと進んでいく。
森の中にはスライムとゴブリンもいる。ゴブリンは面倒な相手だが魔石も補給できる、悪い事ばかりではないと考えよう。
川を遡り続けると流れが急になり和船では遡れなくなった。もうすぐ暗くなるしこの辺で野営かな。
「そろそろ野営の準備をしよう」
久しぶりに小屋船を召喚する。これだけでは狭いな、食料を使って空になったゴムボートも2艘召喚して、三角形になる様に船を並べ、真ん中で焚火をして夕食の準備をする。
「うふふ、ご主人様はこんな変わった船も持っていたのね。小さなお部屋ね」
「ですね、あの結界が張られるのであれば、野営でも絶対的に安全な場所が出来ます。凄いですね」
「ええ、1人でも安心して休めるし、意外と居心地が良いんで、お気にいりなんです。あっ、リムあまり遠くに行っちゃ駄目だよ。ごめん、フェリシア、リムにも結界を頼むね」
「大丈夫ですよ、リムちゃんにも船を離れた時から結界を張ってます」
「ありがとうございます。どうもリムは久しぶりの森が楽しいみたいですね」
「うふふ、本当ねポヨンポヨンしてるわ」
「それで森まで遡ったけど、どうだった?」
「ゴブリンがいましたね。私の村の人達ならある程度は迎撃出来ますが、大きな集落があると不味いと思います」
「そうね、それ以外の魔物はスライムぐらいしか見てないけれど、広い森ですもの、まだまだ何があるか分からないわね」
「ええ、ですがそれは故郷の村も同じですから、慎重に探索範囲を広げていけば何とかなると思うんです
最初は遡る時に見えた、海と川に近い丘に集落を作れば何かあればすぐに分かりますし、船を用意しておけば避難も出来ますしね」
「なるほどね、いきなり森に住むのではなく安全な場所に村を作ってからにするのね。ダークエルフだから森に住むとばかり思っていたわ」
「私達は森を好みますが、森の恐ろしさも知っています。無理はしませんよ」
「そうすると、明日、山まで探索して大丈夫そうなら移住してもよさそうだね」
「そうですね、人がいなければ、かなり理想的な島なので移住したいです」
「いい島だと僕も思うよ。ここまで人の気配が無いのに、山に人がいるのも考えづらいし、川沿いに人がいない時点で大丈夫だよ。上手く行きそうだし、そろそろご飯にしようか」
「「はい」」
「うふふ、リムちゃんご飯にはとても敏感ね、戻って来たわ」
『……ごはん……?』
「あはははは、そうだよリム、ご飯だよ楽しみだね」
『……りむ、ごはん、すき……』
「そうだね沢山食べようね」
食事を終えて体を拭いて小屋船で眠りにつく。狭いけど密着具合が最高です。でも両サイドから甘い吐息と、とても柔らかい物が……眠れない。
朝か、あまり眠れなかったけど、幸せだった。日課の朝のキスをしてから、朝食の準備をする。
朝食を終えて、川沿いに山を登る、険しいがそれほど高くない山なので昼前には頂上に到達した。
「うーん、山には誰もいないし、上から森を眺めても大規模な集落は見つからないね」
「そうね、森にSランクの魔物でも潜んでない限り大丈夫そうね」
「はい、私もそう思います。ご主人様、この島にダークエルフの移住をお願い出来ますか?」
「うん、大丈夫だよ。出来る限り手伝うね」
「ご主人様、ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」
「ええ、頑張ります。そうと決まれば南方都市に戻りますか」
「「はい」」
その晩フェリシアが話しかけて来た。
「ご主人様、ダークエルフの安住の地を見つけてくださってありがとうございます。これより私はご主人様にすべてを捧げて、ご奉仕致しますのでどうぞよろしくお願いします」
「ええと、うん、とても嬉しいけど、でもまだ移住が完了したわけじゃないし、しっかり移住が完了してから心置きなくお願いしたいかな」
うわー何言ってるの自分、なんで襲い掛からなかった。フェリシアもOK出してたでしょ、何でカッコつけた、もう後悔しかないな、はー、しょうがないか言っちゃったんだもん移住頑張って次こそ……
「あっはい、そうでしたね、ありがとうございます」
「うふふ、良かったの? せっかくフェリシアが言ってくれたのに」
「言わないで、もう後悔してるから。こうなれば少しでも早く移住を完了させるしかないんだよ」
「うふふ、そうね、でも私も忘れたら嫌よ、豪華客船を手に入れたら一番良い部屋で楽しみましょうね」
「はい、それはもう全力で邁進いたします」
悶々として眠れない夜になってしまった。絶対にイネスとフェリシアと楽しい事するんだ。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




